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第五章
この世界のヒロイン2
ヘンリエッタが夢見るような目になって言う。
「お義母さまが私のために全部、全部お膳立てしてくれたの。コックス子爵家に引き取られたのも、私がヒロインの『ヘンリエッタ』だったから……!」
レインは何も言うことができなかった。語り続けるヘンリエッタの言葉が荒唐無稽すぎて、意味を推し量ることすら難しい。
「私も一目見てユリウス様を好きになったわ。あなたはもうユリウスと結ばれるだけよってお義母さまも言ってた。……でも、どうしてあんたがここにいるの? 奴隷落ちして、ゲーム開始前に退場した……お義母さまが排除してくれた、悪役令嬢、『レイン・アンダーサン』が」
何を言われているのかよくわからない。悪役令嬢?ヘンリエッタの義理の母?繰り返した単語が脳裏をぐるぐると回って混乱する。
けれど、ヘンリエッタの様子が、発言が、常軌を逸していることはわかった。とっさにあとずさったレインの腕を、ヘンリエッタの手が捕まえる。耳元で、ヘンリエッタが囁くように言った。
「――……派手なのは肩書だけね、悪役令嬢って、そんなもの? ふふ、もっと手強いものだと思ってたわ」
――はっと見やったヘンリエッタの目はらんらんと輝いていた。青い目が興奮で潤み、その中にレインを映している様子は正気を失っていると言っても過言ではない。
ヘンリエッタの手がレインの腕をぐい、と引く。すぐ横には階段。落とされる、と思って、レインはもがいた。
「は、はなして……ッ!」
レインが、落とされまい、と身をよじった時だった。
「きゃあああああ!!」
突然、ヘンリエッタが悲鳴のような大声を上げた。
狂気的なまなざしが、レインを追いかけて、レインの一呼吸をも見落とさぬようにとでもいうように見つめている。その突然のヘンリエッタの悲鳴にレインが何を反応するより早く、ヘンリエッタが床を蹴った。
ズダダダダン!!と大きな音がして、ヘンリエッタが階段を転がり落ちていく。
まばらだった人の気配が集まってきて、めいめいの目が落ちて気絶したヘンリエッタと、階段の上にいるレインを見つめている。
「レイン様が、ヘンリエッタさんを突き落とした……?」
誰かが口にしたその言葉が、さざ波のように広がっていく。
「まさか嫉妬?」
「婚約者のオリバー様、最近ヘンリエッタさんと仲が良かったものね」
「女の嫉妬ってこええ……」
足元がぐらぐらする。頭がぐわん、ぐわん、と鳴って、今にもその場に頽れてしまいそうだ。
ふらつく足、それを受け止めてくれる人は今はいなくて、教員たちが倒れたヘンリエッタを救護室へ運んで行ったあと、レインを保護して教員室に運ぶまで、レインはその場から一歩も動くことも、何かを声にして発することもできやしなかった。
「お義母さまが私のために全部、全部お膳立てしてくれたの。コックス子爵家に引き取られたのも、私がヒロインの『ヘンリエッタ』だったから……!」
レインは何も言うことができなかった。語り続けるヘンリエッタの言葉が荒唐無稽すぎて、意味を推し量ることすら難しい。
「私も一目見てユリウス様を好きになったわ。あなたはもうユリウスと結ばれるだけよってお義母さまも言ってた。……でも、どうしてあんたがここにいるの? 奴隷落ちして、ゲーム開始前に退場した……お義母さまが排除してくれた、悪役令嬢、『レイン・アンダーサン』が」
何を言われているのかよくわからない。悪役令嬢?ヘンリエッタの義理の母?繰り返した単語が脳裏をぐるぐると回って混乱する。
けれど、ヘンリエッタの様子が、発言が、常軌を逸していることはわかった。とっさにあとずさったレインの腕を、ヘンリエッタの手が捕まえる。耳元で、ヘンリエッタが囁くように言った。
「――……派手なのは肩書だけね、悪役令嬢って、そんなもの? ふふ、もっと手強いものだと思ってたわ」
――はっと見やったヘンリエッタの目はらんらんと輝いていた。青い目が興奮で潤み、その中にレインを映している様子は正気を失っていると言っても過言ではない。
ヘンリエッタの手がレインの腕をぐい、と引く。すぐ横には階段。落とされる、と思って、レインはもがいた。
「は、はなして……ッ!」
レインが、落とされまい、と身をよじった時だった。
「きゃあああああ!!」
突然、ヘンリエッタが悲鳴のような大声を上げた。
狂気的なまなざしが、レインを追いかけて、レインの一呼吸をも見落とさぬようにとでもいうように見つめている。その突然のヘンリエッタの悲鳴にレインが何を反応するより早く、ヘンリエッタが床を蹴った。
ズダダダダン!!と大きな音がして、ヘンリエッタが階段を転がり落ちていく。
まばらだった人の気配が集まってきて、めいめいの目が落ちて気絶したヘンリエッタと、階段の上にいるレインを見つめている。
「レイン様が、ヘンリエッタさんを突き落とした……?」
誰かが口にしたその言葉が、さざ波のように広がっていく。
「まさか嫉妬?」
「婚約者のオリバー様、最近ヘンリエッタさんと仲が良かったものね」
「女の嫉妬ってこええ……」
足元がぐらぐらする。頭がぐわん、ぐわん、と鳴って、今にもその場に頽れてしまいそうだ。
ふらつく足、それを受け止めてくれる人は今はいなくて、教員たちが倒れたヘンリエッタを救護室へ運んで行ったあと、レインを保護して教員室に運ぶまで、レインはその場から一歩も動くことも、何かを声にして発することもできやしなかった。
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