元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

高遠すばる

文字の大きさ
40 / 67
第六章

あなたこそ私の陽光


 星が瞬き、満天の空を流れている。
 ほとんど振動のない、快適な帰りの馬車で、レインは優しく自分の頭を撫で続けているユリウスを振り仰いだ。

「私は、本当に王女なのですか」
 レインの言葉に、ユリウスが頷く。その白いおもては静かだった。まるで、感情を押し込めているみたいに。

「ああ、そうだ。レイン。お前はこの国の、先代女王の遺児。この国の、正統な後継者だ」

「そうです、か……」
 予想はしていたことだった。あの卒業パーティーの騒動で、何度も繰り返されていたことだ。自分が王女なのだと察しない方が難しかった。

「私の名前……本当の名前は、イリスレイン、というのですね」
「そうだ」
「先代女王陛下と王配殿下については、学んだので存じております。病を得られて崩御した先代女王陛下と、同時期に落馬事故で亡くなられた王配殿下……」
「……」
「でも、本当はきっと、違うのでしょう……? 私は誘拐されたと聞きました。それと、先代女王陛下と王配殿下の死が別の出来事だとは思えません」

 レインの言葉に、ユリウスはぐう、と奥歯を噛んだように見えた。
 飲み込んで、しかし口にしようとして、またやめて。しばらく口を開けたり閉じたりを繰り返したあと、しばしの沈黙があり――ややあって、ユリウスは言葉を発した。

「……そうだ」
「先代女王陛下と、王配殿下の最期についてお聞きしても……?」
「……王配殿下は、誘拐事件の時に負った傷がもとで……居合わせ、君を追いかけようとして攻撃された私をかばって、亡くなられた」

 ユリウスはここでレインを見やった。レインの赤い目と、ユリウスの琥珀色の目、視線が交わる。ユリウスの目は、己の行動を悔いているようだった。

「先代女王陛下は、イリスレインと王配殿下、大切な人をふたり、同時に失ってから心労で伏せられて……」
「儚くなった……と……」
「……」

 レインは胸を押さえた。

「私は、親不孝な子供だったでしょう。父も母も、苦しめた末に死なせてしまうだなんて……」
「――違う!」

 ユリウスは立ちあがった。はずみで馬車が揺れる。

「……ッ」

 ユリウスの両の腕がレインを抱きしめる。服越しの腕は冷たく、震えていた。

「お兄様……」
「違う、レイン。君は何も悪くない。咎を受けるべきは、君を攫った暴漢と、その手引きをした侍女――……そして、無謀にも、暴漢に立ち向かった私だけだ」

 ユリウスがくぐもった声で言う。
 レインを抱きしめて、まるですがるみたいに、祈るみたいにして、レインに君は悪くないんだ、と告げる。

「お兄様だって、悪くありません」
「しかし……」
「王配殿下が亡くなったのは、お兄様のせいではありません」

 レインはきっぱりと言った。

「……きっと、お兄様はそれで、ずっと私への罪悪感がおありだったんですね。それで私を守ろうと……」
「違う。それは、違う」

 ユリウスが顔をあげた。
「私が君を守りたいのは、君を愛しているからだ、レイン。罪悪感からなどではない」

 ユリウスの目がレインを映す。琥珀色の目が今は赤くて、ああ、なんて優しいひとなんだろうか、と思った。自罰的で、責任感が強くて。だからレインを守ることに必死なのだろう、と。
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~

糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」 「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」 第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。 皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する! 規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)

モブ令嬢、当て馬の恋を応援する

みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。

悪役令嬢のはずですが、年上王子が幼い頃から私を甘やかす気でいました

ria_alphapolis
恋愛
私は、悪役令嬢なのかもしれない。 王子の婚約者としては少し我儘で、周囲からは気が強いと思われている―― そんな自分に気づいた日から、私は“断罪される未来”を恐れるようになった。 婚約者である年上の王子は、今日も変わらず優しい。 けれどその優しさが、義務なのか、同情なのか、私にはわからない。 距離を取ろうとする私と、何も言わずに見守る王子。 両思いなのに、想いはすれ違っていく。 けれど彼は知っている。 五歳下の婚約者が「我儘だ」と言われていた幼い頃から、 そのすべてが可愛くて仕方なかったことを。 ――我儘でいい。 そう決めたのは、ずっと昔のことだった。 悪役令嬢だと勘違いしている少女と、 溺愛を隠し続ける年上王子の、すれ違い恋愛ファンタジー。 ※溺愛保証/王子視点あり/幼少期エピソードあり

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

【完結】成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世
恋愛
 異世界転生キタコレー! と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎  えっあの『ギフト』⁉︎  えっ物語のスタートは来年⁉︎  ……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎  これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!  ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……  これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー  果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?  周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎