元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

高遠すばる

文字の大きさ
47 / 67
第七章

罰と残された謎

しおりを挟む
 レインは強くなった。レインを知らないものは、はレインを無条件に血筋だけで愛されている姫君だと思うだろう。
 けれど、血統の良さだけで愛される、だなんてそんなはずありはしない。
 レインはいつだって、前を向くために一生懸命だ。
 その気高いひたむきさに心を打たれるから、誰もが彼女を好きになる。
 もう、レインはユリウスだけに守られるべき存在ではないのかもしれない。

「……リウス」
「……レイン……」
「ユリウス!」
「……なんですか、父上」
「ああ、よかった。聞こえていた」

 執務室。ほっとしたような、からかうような声音で、ユリウスの父である前アンダーサン公爵が言う。ユリウスはこのつかみどころのない父に対応するのが面倒になって、それで、と切り返した。

「譲位の話に何か問題でも?」
「いいや、その話は驚くほどスムーズだ」

 前アンダーサン公爵が執務机に肘をつき、ユリウスを見やる。

「それよりも、私も久々にレインに会いたくてね」

 前アンダーサン公爵に続けるように、別の執務机で書類に署名をしていた国王がいいなあ、それ、とつぶやいた。

「私も会いたいなあ。卒業パーティーではほとんど話せなかったし……。私には王子二人で姫はいなかったから、イリスレインが輝いて見えたよ。姫というものはあんなに可憐なのだねえ」
「姫だから、ではなく、レインだから、ですよ」

 世界中の姫君がレインほどの逸材であったなら、どこも戦なんかしないだろう。
 後で会わせますから、さっさと書類を片付けてください、と目の前の現国王と王位継承権第一位の前公爵を睥睨し、ユリウスは王位継承の際に必要な手続きを進めていく。

「……ところで、くだんの三人は」

 書類から目を離さず、ユリウスはひとつ、確認した。
 前アンダーサン公爵が手を動かしながら言う。

「オリバーは今も荒れている。物の破壊を繰り返し、暴れてしかたがないので北の塔に幽閉しているが、このままだと辺境に飛ばすことになるかもしれない」

 それに国王が沈痛な表情を浮かべる。やはり血のつながった親子であるゆえに、切り捨てるには情が邪魔をするのかもしれなかった。

「コックス子爵夫人はおとなしい。娘のほうもだ。子爵は何も知らなかったらしく、幼い息子にも罪はないから、連帯責任とは言え、その二人の罰はあまり重くない。……だが、まあ、先は明るくないだろうが」
「社交界では敬遠されるでしょうね。息子の教育次第、というところでしょうか」
「そうだな……。夫人と娘は、イリスレインのお披露目後に北の修道院へ送るのだったか」

 ユリウスの言葉に、国王が思いだすように言った。
 ユリウスが頷くと、国王は目を伏せた。犯罪者にまで同情する彼は、やはり王には向いていない。それを自覚しているのだろう。国王は書類にまたひとつサインをして、それ以上何も言わなかった。

 戒律に厳しく、冬も寒い北の修道院は過酷だ。レインを傷つけ、貶めたものには充分な罰になるだろう。ただ、母親である子爵夫人にはまだ余罪がある。イリスレイン誘拐の手引きをした罪を加算した後は、その修道院からも移動し、より重い罰を受けることになるはずだ。

「これでひと段落ですかね」
「そうだな」

 前アンダーサン公爵と国王が頷きあって書類をまとめる。
 ユリウスもうなずいて、ペンを置いた。

 ――はたして、本当にそうだろうか。

 相槌をうちはしたが、まだわからないことがある。
 取り調べの時にヘンリエッタが言った「ヒロイン」「乙女ゲーム」「悪役令嬢」「ハーレムルート」という言葉。ひとつひとつの単語は推測できるのに、そのつながりの意味が分からない。そのわからないもののために、イリスレインが攫われたというのなら……。

 ユリウスはぐっと奥歯を噛んだ。
 まだ終わっていない。なにかがまだ、残っている。そう思った。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい

恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。 尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。 でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。 新米冒険者として日々奮闘中。 のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。 自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。 王太子はあげるから、私をほっといて~ (旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。 26話で完結 後日談も書いてます。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

【完結】その令嬢は号泣しただけ~泣き虫令嬢に悪役は無理でした~

春風由実
恋愛
お城の庭園で大泣きしてしまった十二歳の私。 かつての記憶を取り戻し、自分が物語の序盤で早々に退場する悪しき公爵令嬢であることを思い出します。 私は目立たず密やかに穏やかに、そして出来るだけ長く生きたいのです。 それにこんなに泣き虫だから、王太子殿下の婚約者だなんて重たい役目は無理、無理、無理。 だから早々に逃げ出そうと決めていたのに。 どうして目の前にこの方が座っているのでしょうか? ※本編十七話、番外編四話の短いお話です。 ※こちらはさっと完結します。(2022.11.8完結) ※カクヨムにも掲載しています。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...