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第八章
お披露目パーティー2
大広間に入ると、すぐに目に入り込んでくる、きらびやかな調度品に、レインは一瞬気おされそうになった。
数えきれないほどのシャンデリアがきらきらと輝き、クリーム色の壁を明るく照らしている。いたるところに飾られた白いユリの生花はいい匂いを振りまき、椅子や像など、こまごました調度品が邪魔にならない程度に飾られている。それらはレインが一目見てわかるほど高価な物ばかりで、ひとつひとつが国宝と言ってもいいものだった。
それだけで、どれほどこのパーティーが重大行事だととらえられているかわかる。
大広間に足を踏み入れたレインたちを迎えたのは、もちろんあたたかいまなざしばかりではない。
興味津々にレインたちを見るもの、訝しむような目で見るもの、見定めようとしているもの――そして、先代女王と比べるもの。
それに一瞬だけ臆しそうになるけれど、ユリウスがレインの手を柔らかく握って、安心させるように微笑んでくれるから、それでレインはほっとして、顎を引き、背筋を伸ばして前を向いた。うまく笑えているだろうか。
そうしてレインがあたりを見渡し、優雅に一礼すると、ため息をつくような吐息が、さざ波のように広がった。
「みんな、レインの美しさと、堂々とした態度に圧倒されているんだ」
目を瞬いたレインに、ユリウスが言った。誇らしげな表情は、レインがうまくやれたことの証だった。
国王が話し始める。
「今宵は我が姉君である先代女王陛下の遺児、イリスレインのお披露目に参加してくれて感謝する。誘拐されて十五年……無事に帰ってきてくれた王女を、どうかあたたかく迎え入れてほしい」
レインに視線が集中する。レインはなるべく優雅に見えるように微笑み、そっと胸に手を当てた。拍手が沸き起こり、確かに、先代女王陛下によく似ておいでだ、と声が聞こえる。
それでほっとしたレインだったが、しかし、不意を打つように「恐れながら、陛下」と一人の貴族が進み出て来た。
あの人は知っている。先だって騎士団長を務めていた人物で、ダンゼントの帰還と同時に副官に降格した貴族だ。オリバー王子の側近を務めていた――そして、レインをあの卒業パーティーの場で貶めようとした子息の父親。
そうして、先ほどレインにいぶかし気な目を向けたひとのひとり。
「なんだ、申してみよ」
「ありがとう存じます。その方がイリスレイン王女とおっしゃいましたが、その証拠はあるのですか?」
「なに?」
「顔はたしかに先代女王陛下に似ておいでですが、顔つきなどいくらでも似たものがいるものです。元アンダーサン公爵令嬢――失礼、イリスレイン王女殿下が本物であるという証明はあるのですか? 見つかったとき、王女殿下は奴隷だったとお聞きしています」
たったひとりの貴族が落とした疑問に、ほかの貴族がざわめき始める。
「何を言う――」
国王が、その疑念の声を止めようと声を上げる。レインは「国王陛下」とひとこと言って、その言葉を止めた。国王が驚いたように目を見開き、そしてその背後に控えている王兄――アンダーサン前公爵がおや、と片眉を挙げた。ユリウスは何も言わない。
ただし静かに目の前の貴族らを睥睨しているだけだ。
――信じていてくれるのだ。
レインが、きちんとこの場を治められると。
レインは微笑んで「お時間を頂戴してよろしいでしょうか」と、大広間によく通る声で言った。
ざわめきが止まる。視線がレインに集中する。レインは優雅に腰を下げて礼をした。
「たしかに、私を王女だと断じる証拠と言える『もの』はありません。誘拐犯がそのようなものを私の身に残しておくことはないでしょう」
「なら――」
「まだ話は終わっていません。お静かになさって、エウルア伯爵」
レインはぴしゃりと言って、大広間全体を見渡した。
何人か、レインが言い返したことに驚いたのみならず、狼狽したものがいる。憶えておかなくては。この国を、守っていくために。治めていくために。
「私は『もの』と言いました。私を、イリスレインだとする証明は、身に着けるようなものではなく、この体自身にあるとすれば……?」
「あざや何かだと言うのですか!」
「いいえ。私をイリスレインたらしめるのは、この目」
エウルア伯爵、と呼ばれた男が目を見開く。知っていたはずだ。卒業パーティーの日、あんなに騒がれたのだから。それを知っていて、レインのお披露目に黒い泥を吹きかけるためにわざわざこの場で言ったのだ。今は夜、陽の光がないと、暁の虹は出ないから。
数えきれないほどのシャンデリアがきらきらと輝き、クリーム色の壁を明るく照らしている。いたるところに飾られた白いユリの生花はいい匂いを振りまき、椅子や像など、こまごました調度品が邪魔にならない程度に飾られている。それらはレインが一目見てわかるほど高価な物ばかりで、ひとつひとつが国宝と言ってもいいものだった。
それだけで、どれほどこのパーティーが重大行事だととらえられているかわかる。
大広間に足を踏み入れたレインたちを迎えたのは、もちろんあたたかいまなざしばかりではない。
興味津々にレインたちを見るもの、訝しむような目で見るもの、見定めようとしているもの――そして、先代女王と比べるもの。
それに一瞬だけ臆しそうになるけれど、ユリウスがレインの手を柔らかく握って、安心させるように微笑んでくれるから、それでレインはほっとして、顎を引き、背筋を伸ばして前を向いた。うまく笑えているだろうか。
そうしてレインがあたりを見渡し、優雅に一礼すると、ため息をつくような吐息が、さざ波のように広がった。
「みんな、レインの美しさと、堂々とした態度に圧倒されているんだ」
目を瞬いたレインに、ユリウスが言った。誇らしげな表情は、レインがうまくやれたことの証だった。
国王が話し始める。
「今宵は我が姉君である先代女王陛下の遺児、イリスレインのお披露目に参加してくれて感謝する。誘拐されて十五年……無事に帰ってきてくれた王女を、どうかあたたかく迎え入れてほしい」
レインに視線が集中する。レインはなるべく優雅に見えるように微笑み、そっと胸に手を当てた。拍手が沸き起こり、確かに、先代女王陛下によく似ておいでだ、と声が聞こえる。
それでほっとしたレインだったが、しかし、不意を打つように「恐れながら、陛下」と一人の貴族が進み出て来た。
あの人は知っている。先だって騎士団長を務めていた人物で、ダンゼントの帰還と同時に副官に降格した貴族だ。オリバー王子の側近を務めていた――そして、レインをあの卒業パーティーの場で貶めようとした子息の父親。
そうして、先ほどレインにいぶかし気な目を向けたひとのひとり。
「なんだ、申してみよ」
「ありがとう存じます。その方がイリスレイン王女とおっしゃいましたが、その証拠はあるのですか?」
「なに?」
「顔はたしかに先代女王陛下に似ておいでですが、顔つきなどいくらでも似たものがいるものです。元アンダーサン公爵令嬢――失礼、イリスレイン王女殿下が本物であるという証明はあるのですか? 見つかったとき、王女殿下は奴隷だったとお聞きしています」
たったひとりの貴族が落とした疑問に、ほかの貴族がざわめき始める。
「何を言う――」
国王が、その疑念の声を止めようと声を上げる。レインは「国王陛下」とひとこと言って、その言葉を止めた。国王が驚いたように目を見開き、そしてその背後に控えている王兄――アンダーサン前公爵がおや、と片眉を挙げた。ユリウスは何も言わない。
ただし静かに目の前の貴族らを睥睨しているだけだ。
――信じていてくれるのだ。
レインが、きちんとこの場を治められると。
レインは微笑んで「お時間を頂戴してよろしいでしょうか」と、大広間によく通る声で言った。
ざわめきが止まる。視線がレインに集中する。レインは優雅に腰を下げて礼をした。
「たしかに、私を王女だと断じる証拠と言える『もの』はありません。誘拐犯がそのようなものを私の身に残しておくことはないでしょう」
「なら――」
「まだ話は終わっていません。お静かになさって、エウルア伯爵」
レインはぴしゃりと言って、大広間全体を見渡した。
何人か、レインが言い返したことに驚いたのみならず、狼狽したものがいる。憶えておかなくては。この国を、守っていくために。治めていくために。
「私は『もの』と言いました。私を、イリスレインだとする証明は、身に着けるようなものではなく、この体自身にあるとすれば……?」
「あざや何かだと言うのですか!」
「いいえ。私をイリスレインたらしめるのは、この目」
エウルア伯爵、と呼ばれた男が目を見開く。知っていたはずだ。卒業パーティーの日、あんなに騒がれたのだから。それを知っていて、レインのお披露目に黒い泥を吹きかけるためにわざわざこの場で言ったのだ。今は夜、陽の光がないと、暁の虹は出ないから。
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