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0.はじまりはじまり
少女はその男の正体を見破る
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よろしくお願いします。
*
侍烏帽子をかぶり、矢を背負い腰に太刀を挿して武装した若い男性は、手の甲で額から流れ落ちる汗を拭った。
『かつて神刀と崇められた刀。よもや、神聖なる刀が生き血を啜り妖と化すとは』
風が吹き抜ける音が響き渡り、満月の光が煌々と周囲を照らす荒れ地で男性と対峙するのは、長い銀髪と深紅の瞳を持つ異質な雰囲気を放つ男。
『都を脅かす妖を鎮めるため、お前を封じさせてもらう』
【はっ! 愚かな戦を繰り返し、俺の神格を堕としたのは貴様ら人だというのに、俺を封じるだと?】
肩を揺らして嗤った男は、鮮血を彷彿させる深紅色の刃を握った手の中から出現させた。
【ははははっ! 面白い!】
片足で地面を蹴り、瞬く間に公達との距離を縮めた男は手の中の刃を大きく振りかぶり、振り下ろそうとして動きを止めた。
男性が掲げた玉から伸びた白銀色の光は、異形の男の全身に絡み付くと鎖と化して動きを封じていたのだ。
【ぐっ⁉ これは御霊の力か!】
男が鎖と引き千切ろうと、藻掻けば藻掻くほど全身に鎖は絡み付いて行き、重みを増した鎖が肌に食い込み動きを制限する。
『御霊の力を借りても屈服させられぬほどの妖力とは……我が名は、高梨章澄。人を襲わぬ、禍を起こさぬという盟約を結ぶのならば、このまま消滅させずに我が一族がお前を祀り続けよう』
鎖の重みに屈して地面に膝をついた男は、怒りで赤黒く染まった瞳で男性を睨み付けた。
***
「はっ! うう……」
勢いよく閉じていた目蓋を開いた少女は、窓から射し込む朝日が眩しくて手で目元を覆った。
自分が眠っている場所がどこか分からず、顔を動かして細めた目で周囲を確認する。
(夢? お武家様とは違う、もっと昔の時代の武士かしら。戦っていた妖は、もしかしなくても……ううん、ただの夢よ)
武装した昔の時代の武士と、見覚えのある男性の物騒なやり取りが夢だったことに安堵して、
少女は枕元に置いている懐中時計の蓋を開く。
「寝坊!」
急いで支度をしないと朝食の時間に間に合わない。
時間に間に合わないと朝食抜きの上に、規則と時間に厳しい寮母から登校時間直前まで説教をされる。
眠気は一気に吹き飛び、少女は勢いよく上半身を起こした。
煉瓦造りの洋風の学舎の廊下を、牡丹色の着物、濃藍色の袴を着た女学生達が並んで歩く。
のんきに寝ていた同室の少女を叩き起こし、どうにか朝食の時間に間に合った少女は、登校後の朝活動前に教室へやって来た担任から「臨時の全校集会がある」ことを知らされ、校舎に隣接する大講堂へ向かっていた。
「臨時の集会だなんて、何があったのかしら?」
「まさか、また切り裂き魔が出たとか? 嫌だわぁ」
口元に手を当てた女子は、恐怖に顔を引き攣らせて身震いする。
「切り裂き魔って何?」
「えぇ? 鈴は切り裂き魔のことを知らないの?」
「うん」
髪を三つ編みにした女子から鈴と呼ばれた、長い黒髪を後頭部の高い位置で一括りにしている少女は、申し訳なさそうに首を横に振る。
「あやかし探偵倶楽部の一員として、皆を怖がらせている怪異を知らないのは不味いわ。あのね、切り裂き魔って言うのは」
「しっ」
三つ編みの女子の話を遮るよう、前を歩いていた女子が後ろを振り向き、自分の人差し指を唇に当てた。
「静かに。鈴さんはまだ編入したばかりだし、噂の事を知らなくても仕方ないわ。それよりも、先生方から切り裂き魔のことは口に出さないよう指導されているでしょう。今回の集会は切り裂き魔のことではなく、先日入院された今田先生の代わりにいらっしゃった先生の紹介らしいわ」
(今田先生の入院、それってまさか……)
風変わりな嗜好を持った教師の入院には、少しばかり心当たりは有る。
口を開いて声を発しかけた鈴は、階段の前に立つ教師の姿に気付き慌てて口を閉ざした。
*
侍烏帽子をかぶり、矢を背負い腰に太刀を挿して武装した若い男性は、手の甲で額から流れ落ちる汗を拭った。
『かつて神刀と崇められた刀。よもや、神聖なる刀が生き血を啜り妖と化すとは』
風が吹き抜ける音が響き渡り、満月の光が煌々と周囲を照らす荒れ地で男性と対峙するのは、長い銀髪と深紅の瞳を持つ異質な雰囲気を放つ男。
『都を脅かす妖を鎮めるため、お前を封じさせてもらう』
【はっ! 愚かな戦を繰り返し、俺の神格を堕としたのは貴様ら人だというのに、俺を封じるだと?】
肩を揺らして嗤った男は、鮮血を彷彿させる深紅色の刃を握った手の中から出現させた。
【ははははっ! 面白い!】
片足で地面を蹴り、瞬く間に公達との距離を縮めた男は手の中の刃を大きく振りかぶり、振り下ろそうとして動きを止めた。
男性が掲げた玉から伸びた白銀色の光は、異形の男の全身に絡み付くと鎖と化して動きを封じていたのだ。
【ぐっ⁉ これは御霊の力か!】
男が鎖と引き千切ろうと、藻掻けば藻掻くほど全身に鎖は絡み付いて行き、重みを増した鎖が肌に食い込み動きを制限する。
『御霊の力を借りても屈服させられぬほどの妖力とは……我が名は、高梨章澄。人を襲わぬ、禍を起こさぬという盟約を結ぶのならば、このまま消滅させずに我が一族がお前を祀り続けよう』
鎖の重みに屈して地面に膝をついた男は、怒りで赤黒く染まった瞳で男性を睨み付けた。
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「はっ! うう……」
勢いよく閉じていた目蓋を開いた少女は、窓から射し込む朝日が眩しくて手で目元を覆った。
自分が眠っている場所がどこか分からず、顔を動かして細めた目で周囲を確認する。
(夢? お武家様とは違う、もっと昔の時代の武士かしら。戦っていた妖は、もしかしなくても……ううん、ただの夢よ)
武装した昔の時代の武士と、見覚えのある男性の物騒なやり取りが夢だったことに安堵して、
少女は枕元に置いている懐中時計の蓋を開く。
「寝坊!」
急いで支度をしないと朝食の時間に間に合わない。
時間に間に合わないと朝食抜きの上に、規則と時間に厳しい寮母から登校時間直前まで説教をされる。
眠気は一気に吹き飛び、少女は勢いよく上半身を起こした。
煉瓦造りの洋風の学舎の廊下を、牡丹色の着物、濃藍色の袴を着た女学生達が並んで歩く。
のんきに寝ていた同室の少女を叩き起こし、どうにか朝食の時間に間に合った少女は、登校後の朝活動前に教室へやって来た担任から「臨時の全校集会がある」ことを知らされ、校舎に隣接する大講堂へ向かっていた。
「臨時の集会だなんて、何があったのかしら?」
「まさか、また切り裂き魔が出たとか? 嫌だわぁ」
口元に手を当てた女子は、恐怖に顔を引き攣らせて身震いする。
「切り裂き魔って何?」
「えぇ? 鈴は切り裂き魔のことを知らないの?」
「うん」
髪を三つ編みにした女子から鈴と呼ばれた、長い黒髪を後頭部の高い位置で一括りにしている少女は、申し訳なさそうに首を横に振る。
「あやかし探偵倶楽部の一員として、皆を怖がらせている怪異を知らないのは不味いわ。あのね、切り裂き魔って言うのは」
「しっ」
三つ編みの女子の話を遮るよう、前を歩いていた女子が後ろを振り向き、自分の人差し指を唇に当てた。
「静かに。鈴さんはまだ編入したばかりだし、噂の事を知らなくても仕方ないわ。それよりも、先生方から切り裂き魔のことは口に出さないよう指導されているでしょう。今回の集会は切り裂き魔のことではなく、先日入院された今田先生の代わりにいらっしゃった先生の紹介らしいわ」
(今田先生の入院、それってまさか……)
風変わりな嗜好を持った教師の入院には、少しばかり心当たりは有る。
口を開いて声を発しかけた鈴は、階段の前に立つ教師の姿に気付き慌てて口を閉ざした。
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