あやかし探偵倶楽部、始めました!

えっちゃん

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2章.あやかし探偵俱楽部の事件簿

黒い霧

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 子狐がかけた強制睡眠術の効果は抜群で、椅子に座って熟睡している万智子をベッドまで無理矢理引き摺っても、全く起きなかった。

 夕飯の時間直前、うたた寝を始めた子狐を揺り起こして術を解かせるまで、万智子は涎を枕に垂らして眠っていた。

「万智子さん起きて。夕食の時間よ」
「うう~ん、もうお腹いっぱいよぉ」
「もう! とりあえず、目が覚めるように顔を洗おうね」

 寝ぼけている万智子を洗面所まで連れて行き、顔を洗わせていたら食堂へ向かうのが遅くなってしまった。
 走りたい気持ちを抑え、早歩きで一階の食堂へ向かう。

「うーん。鈴が帰って来るまで机に向かっていたのは覚えているのに、何をしていたのかが思い出せないのよ」

 起きてから数回目になる疑問を言い、うーんと呻いて万智子は首を傾げる。

「昼寝をして忘れちゃうくくらいなら、大したことをしていなかったんじゃないの」
「そうかなぁ」

 納得いかないという表情の万智子が先に食堂へ入り、入り口近くに置かれているトレーと箸を取る。
 続く鈴もトレーと箸を取り、職員からおかずを受け取る女子の列の最後尾に並んだ。

「ひっ!」

 メイン料理とご飯、味噌汁を受け取り席へ向かおうとした鈴と擦れ違った際、青色のリボンで髪を結った女子が大きく目を開いて振り返った。
 引き攣った声を漏らした女子の顔から血の気が引き、トレーを持つ両手が震え出す。

「どうかしたの?」
「う、ううん、なんでもない。ごめんなさい」

 顔色の悪い女子の様子に気が付いた友人が声をかけて、肩を揺らした彼女は引き攣った笑みを作って席へ向かって歩き出した。

「あの子、どうかしたのかな。今日の献立に苦手な物でもあるのかしら。苦手なら受け取らず断ればいいのに」

 職員から渡された煮魚の皿をトレーに置き、万智子はフンッと鼻を鳴らす。

「こっちを見て驚いていたし、万智子さんの顔に昼寝の痕がついていたんじゃないの?」
「ええっ」
「ふふ、冗談だよ」

 万智子と冗談を言って表面上で笑っていても、鈴の内心は穏やかなものではなかった。先ほどの女子は、驚きと恐怖に満ちた表情で鈴を見詰めていたのだ。

(さっきの女子は私を見て怯えていたわ。稀に、“妖が見える人もいる”と緋さんから聞いたけど子狐ちゃんは部屋で寝ているだろうし、近くに妖の気配はない。私の側に妖はいないはずなのに、どうしたんだろう?)

 疑問を抱くも、受け取った煮魚の美味しそうな匂いに空腹の腹の虫が暴れ出し、鳴り出した腹の音で疑問を考えるどころじゃなくなった。


 ***


 翌日、夜遅くまで課題をやっていたせいで就寝が遅くなり、油断すると出てくる欠伸を堪えながら鈴は登校した。

(あれ?)

 昇降口へ入った時、ふと妙な違和感を抱いた鈴は周囲を見渡した。

 校舎の外は朝日で眩しいくらいなのに、昇降口に入った途端周囲がやけに暗く感じたのだ。
 何だろうと首を捻りつつ、上履きに履き替えて後ろを振り返った鈴は、廊下を歩いて来た女子と目が合う。

「お、おはようございます」
「おはようございます」

 強張った表情で挨拶をしてきた女子は、色素が薄いのか黒よりも焦げ茶に近い髪色と珍しい亜麻色の瞳をしていて、つい彼女を見詰めてしまった。

(あの子は昨日食堂で会った子だよね。調子が悪そうだった。あれ? 何だろう? 黒い靄がくっついている?)

 食堂では空腹が勝っていたため気にしなかったが、彼女の周囲を黒い靄が覆っているように見えた。
 明るい外から校舎内へ入った明暗差によるものかと、鈴は両手でごしごしと目を擦る。

(え、消えた? 見間違えかな? あの子は、隣のクラスの子かしら?)

 声をかけようと迷っている間に、女子は軽く頭を下げて立ち去って行った。
 遠ざかっていく女子の背中に、はっきりと黒い靄が纏わりついているのが見えて、鈴は目を瞬かせた。

「鈴? 行こう」

 下駄箱から動けずにいた鈴は、万智子に声をかけられてビクリと肩を揺らす。

「う、うん」

 教室へ向かう鈴は一度だけ後ろを振り返るが、黒い靄を纏った女子は二階に上がって行ってしまい、後ろ姿を確認できなかった。
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