あやかし探偵倶楽部、始めました!

えっちゃん

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2章.あやかし探偵俱楽部の事件簿

獣憑き

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 鈴達と同じように、川合さんに気が付いた女子が声をかけるが川合さんからは返事はなく、身動きすらしない。

「あんなところで何をしてるのかしら? ああ!?」

 突然、川合さんの周囲に黒色の靄が出現したのを目にして、驚いた鈴は声を上げた。

「鈴、どうしたの?」

 驚きで後退る鈴と川合さんを交互に見て、首を傾げる万智子にはやはり黒い霧は見えていないようだった。

(獣の臭いがする! 万智子さんには黒い靄は見えてない? あれって絶対によくないやつだわ。どうしたらいいの⁉)

 川合さんを覆いつくした黒い霧は、彼女の体内に吸い込まれていくようにして消えた。
 陽光に照らされていた中庭が急に暗くなっていくのを感じ取り、一歩後ろに下がった鈴は胸元に手を伸ばす。
 着物の合わせに手を当てて、首からかけている首飾りの玉触れた。


「川合さん? 寝ていなくてもいいの? 体調は良くなったの?」

 反応しない川合さんに近付いた女子が、彼女の肩に触れようとした。

「ぐるるる……!」
「ひっ⁉」

 振り返った川合さんは、目と口角を吊り上げた鬼女のような顔で、女子は引き攣った声を上げた。

「ぐぎゃああー!」

 恐怖で動けないでいる女子目掛けて、奇声を上げた川合さんが襲いかかった。

「きゃあああー!?」

 襲いかかってきた川合さんに押し倒された女子と、目撃した女子達の悲鳴が中庭に響き渡る。
 歯を剥き出しにした川合さんは、女子の肩に爪を立てて首筋に噛みついた。

「いやあ! 痛い! 誰かっ助けてぇ!」

 周囲にいる生徒達は、狂犬のように異様な光景を目にして動けずにいた。

「か、川合さん? 一体どうしたの?」
「誰か! 先生を呼んできて!」

 ようやく動けるようになった数人の生徒達は、教師を呼びに渡り廊下を走っていった。

「うぎゃぎゃぎゃ!」
「ひぃ、あぁあ……」

 楽しそうに笑いながら、爪と口元を赤く染めた川合さんに肩と首を噛みつかれ、痛みで涙を流す女子の声が弱弱しくなっていく。

(このままじゃ、あの子も川合さんも戻ってこれなくなっちゃう!)

 震える体を叱咤して、鈴は渡り廊下の柱に手をつくと大きく息を吸い込んだ。

「やめなさい!」
「えっ、鈴⁉」

 鈴の声に反応して川合さんの動きが止まり、上半身を起こしてゆっくりと振り返った。

「ひぃっ」

 口の周りを赤く染め、乱れた着物に血を飛び散らした川合さんの姿は、万智子が愛読している妖怪辞典に載っている鬼女そのもの。
 作り物とは違う、本物の怪異を前にした恐怖から万智子は体を震わせた。

「万智子さん、下がっていて。川合さんじゃないわね。貴女、誰なの! 今すぐ川合さんから離れなさい!」

 鈴の声に答えるように、川合さんの口と鼻から黒色の靄が漏れ出て来て彼女の周囲に漂う。

【御霊の持ち主、お前が……お前のせいかぁ!】 

 ひび割れた老婆の声で叫んだと同時に、川合さんは地面を蹴って鈴に向かって突進した。

「きゃああー!」

 渡り廊下から成り行きを見守っていた数人の女子達から悲鳴が上がる。

【があぁああ!】
「鈴! 逃げて―!」

 万智子の声は川合さんの上げた咆哮によってかき消される。
 自分に向かって突進する川合さんを迎え撃とうと、鈴は懐に右手を入れて隠し持っている懐刀の柄を握った。

【鈴!】

 バチンッ!

【ぎゃんっ!】

 川合さんが伸ばした手の先が鈴に触れる直前、駆け付けた子狐の放った火の玉が彼女の顔面に当たり、無数の火花が飛び散った。

【ぐるるるる……】

 火花を避けようと飛び退いた川合さんは、四本足の獣のような手足を地面につけて唸り声を上げた。

「皆さん! すぐに警備の方が来る! 早く教室に戻りなさい!」
「先生―!」

 校舎へ逃げた女子達に呼ばれてやって来た男性教師は、異様な光景に狼狽えつつも動けないでいる女子に声をかける。

【鈴! ここは任せて逃げて!】

 鈴を庇うように立つ子狐の背中の毛が逆立っていく。

(妖に操られている⁉ どうしよう、緋さんはここにはいない。子狐ちゃんの言う通り、逃げなきゃ! でも、このまま逃げていいの?)

 中庭と渡り廊下にいた女子が教師の指示に従い校舎へと戻っていく中、胸元に手を当てた鈴だけが決断できずにその場に留まった。
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