エリート医務官は女騎士を徹底的に甘やかしたい

鳥花風星

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「ニーナ、またこんなに怪我して来たのか」

 目の前の男、魔術医務官のガイアはそう言って小さくため息をつく。癖のない綺麗な黒髪にイエローグリーンのキラキラとした瞳、整った顔立ち。見るからにイケメンのその男は、私の専属魔術医務官だ。

 ここは騎士団本部内にある医務室の一つ。ガイアと私は、お互いに椅子に座って向かい合っている。

「しょうがないでしょう、今回の任務は魔物が強くてちょっと大変だったんだもの」

 ガイアの小言はいつものことだ。適当にやり過ごそうと思っていると、片腕を掴まれて治癒魔法をかけられる。あっという間に傷が治って、ガイアは私の腕を見ながら満足そうに微笑んだ。

「よし、綺麗に治った。それで、あとは?どうせ他にもあるんだろう、傷」

 ガイアに言われてうっ、と言葉に詰まると、ガイアは目を細めて腕を組む。言うまでここを動かないぞと言う気迫を感じて、私は小さくため息をついた。


「お腹に、傷があります」
「よし、すぐに見せろ」
「ええ、年頃の女によくそんな簡単に言えるわね」
「お前と俺の仲だろ、それに、隠すってことはそれなりに傷が深いんだろ。隠したって無駄だぞ」

 うう、バレてる。しぶしぶ自分の服を捲り上げると、ガイアは眉間に皺を寄せた。それもそのはず、右横の腹の部分に応急処置で包帯を巻いてはいるが、血が滲み出ている。

「もっとこっちに来いよ」

 ガイアがそう言って椅子ごと私を引き寄せると、器用に包帯をくるくると巻き取っていく。うわぁ、包帯に結構血が移っちゃってるんだな、なんて呑気なことを考えていると、ガイアは患部に両手をかざして治癒魔法をかけ始めた。ガイアの治癒魔法は、なんだかとてもあたたかい。患部にじんわりと温もりが伝わって、それがだんだん全身に巡っていく。

「よし、傷は完全に塞がった。痕も残ってない」

 そう言ってから、ガイアは私の横腹を指で優しくなぞった。

「この傷も、俺が跡形もなく消してあげられればいいんだけどな」

 そんな切なそうな顔しないでよ。ガイアの表情と言葉に、私の心はチクリと痛む。

「これはしょうがないよ。ガイアと出会う前の傷なんだし。これも、騎士としての勲章って思ってるからいいの」

 私がそう言うと、ガイアはそうか、と一言呟いて、名残惜しそうに私の横腹から手を離した。





 私はプロリア国の王都騎士団に所属する騎士だ。実家が元々騎士一家で、小さい頃から父や兄たちの姿を見てきて、自分も当たり前のように騎士になるのだと思っていた。母はありきたりな令嬢らしく振る舞えと言って来たけれど、私は父たちの剣を振るう姿にずっと憧れていた。
 だから、騎士になれて本当に嬉しかったし、これが天職だとずっと思ってきた。もう二十五歳にもなって令嬢としての結婚適齢期はとうの昔にすぎてしまったけれど、私は全然後悔していない。

 ガイアは私の専属医務官としてもう長い付き合いだ。最初はお互いにいけ好かないやつだと思っていたけど、今ではなくてはならない相棒と言ったところだろうか。
ガイアも結婚願望がないようで、イケメンなのに浮いた話ひとつ聞かない。それを別になんとも思わなかったし、この頃の私は、これからもずっとこのまま仕事上の良いパートナーとして過ごしていくんだろうと信じて疑わなかったのだ。

 まさか、ガイアとあんなことになるなんて、この頃の私は思いもしなかった。

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