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9 主要人物
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「本題に入ろう。小説の中では、俺がヒロインに恋をして、君はヒーローである俺の兄に恋をする。そして君は気に食わないヒロインに嫌がらせやいじめをして俺に憎まれ、惨殺される。俺は、兄と恋仲になるヒロインを無理やり自分のものにしようとして、兄に殺される、と。間違いないか?」
クロークはソファの背もたれに片手を伸ばし、もう片方の手で相変わらずキャロラインのローズピンクの髪の毛をいじりながらそっけなくそう言った。キャロラインはクロークを見ながら静かに頷く。
(昨日サラッと読んだだけの日記の内容をこんなにも全部覚えているだなんて、やっぱりクローク様は頭がいいんだわ)
呪われた瞳であるオッドアイだというだけで本来の実力を発揮することができないのは、やっぱり可哀想だと思う。なんてもったいないのだろうかとキャロラインは思った。
「俺がヒロインに恋を、ねぇ」
つまらなそうな顔でクロークはキャロラインの髪を指先でくるくると弄ぶ。そして、キャロラインをジッと見つめた。その瞳には何かを探るような、そしてほんの少しだけ何かに怯えるようなそんな瞳だった。
「君は小説の中の兄をどう思った?キャロラインは兄に惚れるんだろう?」
「私は……ヒーローであるあなたのお兄様は絵に描いたようなヒーローだと思いました。容姿端麗で人柄も良く、ヒロインのことを誰よりも愛して、ヒロインのピンチには必ず駆けつける。小説の中のヒーローとヒロインは、それはそれはお似合いだと思いました。思い合う二人は幸せそうで、ほとんどを病院で生活していた私には本当に羨ましく思えました」
キャロラインは両手指を胸の前で絡ませ、頬を少し赤らめて嬉しそうに微笑む。病院でほとんど寝たきりだった転生前のユキにとって、恋愛なんてものはほど遠く、創作物の中でしか出会えなかった。お互いにお互いを思い合うヒーローとヒロインの関係に、憧れを抱かないわけがない。
「なるほどな、そういうものか。だとしたら」
そう言って、クロークは背もたれから体を離し、ズイッとキャロラインの顔の前に身を乗り出した。
(えっ!?ち、近い近い近い近い!)
突然目の前にあるクロークの美しい顔に、キャロラインは顔を真っ赤にする。
「俺が君のヒーローになる。羨ましかったんだろう?」
「……ええっ!?はいいっ!?でも、クローク様はこれからヒロインに恋するはず」
「それは小説の中の話だろう。だがここは小説の中じゃない。君にとってはそうかもしれないが、俺にとってはここはリアルな世界だ。勝手に俺の気持ちを見知らぬ誰かに決められるのは気に食わない。俺の相手は俺自身が決める」
クロークはキャロラインの髪の毛にそっと口づけてからそう言う。
(う、半端ない色気!な、何、この人!なんでそうなるの!?)
ヒロインたちに会う前にクロークと仲良くなっておけば、クロークのヒロインに対する無茶な行動を阻止することができる、そう思っていた。だが、もはや仲良くなるを飛び越えて、キャロラインはクロークに気に入られてしまったようだ。
そういえば、小説の中でもクロークはヒロインを気に入った途端にデレ始め、ヒロインにグイグイ迫っていく。愛に飢えているがゆえに、気に入ったものを見つけると手放したくない、そばに置いておきたいと思ってしまうのだろう。
(なんか予定より全然違くなってしまった気がするのだけれど……これはこれでいいのかな?)
おそらく、クロークがヒロインに対して無茶をすることはないだろうし、自分もクロークに殺されることはないだろう。多分。だが、予想外のことばかり起きているのだ。万が一ということもある、気を引き締めておかないと、とキャロラインは意気込んだ。
「それで、兄たちに会うのは確か、君の実家が主催する社交パーティーの日だったな」
「そうです、小説通りに行けば、まだ少し先の話だとは思うのですが」
そう、思っていたのだが。その日は予定よりもうんと早く訪れることになった。
◆
(まさかこんなに早くヒロインたちに会うことになるなんて)
キャロラインの目の前には、ヒロインである伯爵令嬢のマリアと、クロークの双子の兄であるトリスタンがいた。マリアとトリスタンはすでに出会って挨拶を済ませ、意気投合しているようだ。
「初めまして。マリア・ユーデウスと申します」
「初めまして。キャロライン・レギウスと申します」
令嬢同士、挨拶を済ませてにっこりと微笑む。マリアは金色のサラサラな長い髪にトルマリン色の可愛らしい瞳、小さく可愛らしい見た目で庇護欲をそそる。
(やっぱり可愛らしいわ……!ザ、ヒロインという感じね)
チラ、とクロークの方を見ると、マリアを見ながら無表情だ。別段、心が浮き足立ってる様子は見えない。
「クローク、元気そうで何よりだ。初めまして、弟がいつもお世話になっています」
「初めまして、お兄様。キャロラインと申します。ご挨拶が大変遅くなってしまい、申し訳ありません」
キャロラインとトリスタンは小説内でもこの日が初対面だ。クロークとの結婚を認めたくなかった頭を打つ前のキャロラインは、クロークの家の人間と一切挨拶をしていない。
クロークと同じ漆黒の髪の毛はクロークよりも短く、トリスタンの瞳はアクアマリン色で美しい海の色をしている。クロークより少し男らしい雰囲気だが、見た目はやはり小説内で一・二を争うほどの男前だ。思わず見惚れていると、突然クロークがキャロラインの肩をグイッと引き寄せた。
驚いてキャロラインがクロークを見上げると、クロークは少し不機嫌そうだ。
(え、クローク様どうしたのかしら?もしかして、ヤキモチを妬いてらっしゃる?)
「おや、君たちは随分仲が良くなったんだね。結婚当初はお互いにいがみ合い目も合わせなかったらしいじゃないか。それなのに、キャロライン嬢が頭を打ってからまるで人が変わったと聞いてはいたが……それが原因かな?」
トリスタンの言い分にキャロラインは思わず作り笑いをすると、マリアは両手を胸の前に合わせてまあ!と微笑んだ。
「兄上、そちらの御令嬢とは懇意にしてらっしゃるのですか」
クロークがキャロラインの肩を抱いたまま、感情の乗らない声でトリスタンに聞く。
「ああ、マリアのこと?さっきバルコニーで出会って少し話をしたんだけど、とても聡明で心の綺麗な御令嬢なんだ。これからもっと仲良くなりたいと思っているよ。クロークもマリアのことが気になるのか?」
「いや、全く。俺が気になるのはキャロラインだけですね」
バッサリと言い切るクロークを、キャロラインもトリスタンもマリアも唖然として見つめていた。キャロラインはハッとしてから、トリスタンたちへ小さくお辞儀をしてクロークを人気ひとけの少ない壁側へ連れ込む。
「どうした?」
「どうした、じゃないですよ!マリアのこと自分から聞いておいてあんな風に言うなんて何考えてるんですか!」
「別に。ただ聞いておいた方がいいのかと思って聞いただけだ。それに、俺が興味があるのはキャロライン、君だけだとマリアにも兄上にもわからせておいた方がいいだろう。それとも何か不都合でも?」
クロークはジトっとした瞳でキャロラインのことを見つめる。
「不都合は何もないですけど……」
「君の方こそ、兄上のことを随分と気に入っていたようだが、やはり好きになったのか?」
「なっ、別に好きになってませんよ!ただやっぱり美しい方だなぁと思っただけで……」
「ふうん、本当にそれだけか?」
「それだけです!もう、今日のクローク様はなんだか意地が悪いですよ」
顔を赤くして抗議するキャロラインの耳元に、クロークはそっと顔を近づけた。
「俺はマリアを好きになることはないし、君がマリアをいじめることもない。よって俺は君を殺すことはしない。だが、君が兄上に惚れて俺の側から離れるようなことがあれば……俺は嫉妬に駆られて君を殺してしまうかもしれないな」
低く内臓に直に伝わるような声でクロークが耳元に囁く。キャロラインは思わずゾッとしてクロークを見ると、クロークは妖艶に微笑んでいた。
(こ、この人、本気だわ……!)
クロークはソファの背もたれに片手を伸ばし、もう片方の手で相変わらずキャロラインのローズピンクの髪の毛をいじりながらそっけなくそう言った。キャロラインはクロークを見ながら静かに頷く。
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呪われた瞳であるオッドアイだというだけで本来の実力を発揮することができないのは、やっぱり可哀想だと思う。なんてもったいないのだろうかとキャロラインは思った。
「俺がヒロインに恋を、ねぇ」
つまらなそうな顔でクロークはキャロラインの髪を指先でくるくると弄ぶ。そして、キャロラインをジッと見つめた。その瞳には何かを探るような、そしてほんの少しだけ何かに怯えるようなそんな瞳だった。
「君は小説の中の兄をどう思った?キャロラインは兄に惚れるんだろう?」
「私は……ヒーローであるあなたのお兄様は絵に描いたようなヒーローだと思いました。容姿端麗で人柄も良く、ヒロインのことを誰よりも愛して、ヒロインのピンチには必ず駆けつける。小説の中のヒーローとヒロインは、それはそれはお似合いだと思いました。思い合う二人は幸せそうで、ほとんどを病院で生活していた私には本当に羨ましく思えました」
キャロラインは両手指を胸の前で絡ませ、頬を少し赤らめて嬉しそうに微笑む。病院でほとんど寝たきりだった転生前のユキにとって、恋愛なんてものはほど遠く、創作物の中でしか出会えなかった。お互いにお互いを思い合うヒーローとヒロインの関係に、憧れを抱かないわけがない。
「なるほどな、そういうものか。だとしたら」
そう言って、クロークは背もたれから体を離し、ズイッとキャロラインの顔の前に身を乗り出した。
(えっ!?ち、近い近い近い近い!)
突然目の前にあるクロークの美しい顔に、キャロラインは顔を真っ赤にする。
「俺が君のヒーローになる。羨ましかったんだろう?」
「……ええっ!?はいいっ!?でも、クローク様はこれからヒロインに恋するはず」
「それは小説の中の話だろう。だがここは小説の中じゃない。君にとってはそうかもしれないが、俺にとってはここはリアルな世界だ。勝手に俺の気持ちを見知らぬ誰かに決められるのは気に食わない。俺の相手は俺自身が決める」
クロークはキャロラインの髪の毛にそっと口づけてからそう言う。
(う、半端ない色気!な、何、この人!なんでそうなるの!?)
ヒロインたちに会う前にクロークと仲良くなっておけば、クロークのヒロインに対する無茶な行動を阻止することができる、そう思っていた。だが、もはや仲良くなるを飛び越えて、キャロラインはクロークに気に入られてしまったようだ。
そういえば、小説の中でもクロークはヒロインを気に入った途端にデレ始め、ヒロインにグイグイ迫っていく。愛に飢えているがゆえに、気に入ったものを見つけると手放したくない、そばに置いておきたいと思ってしまうのだろう。
(なんか予定より全然違くなってしまった気がするのだけれど……これはこれでいいのかな?)
おそらく、クロークがヒロインに対して無茶をすることはないだろうし、自分もクロークに殺されることはないだろう。多分。だが、予想外のことばかり起きているのだ。万が一ということもある、気を引き締めておかないと、とキャロラインは意気込んだ。
「それで、兄たちに会うのは確か、君の実家が主催する社交パーティーの日だったな」
「そうです、小説通りに行けば、まだ少し先の話だとは思うのですが」
そう、思っていたのだが。その日は予定よりもうんと早く訪れることになった。
◆
(まさかこんなに早くヒロインたちに会うことになるなんて)
キャロラインの目の前には、ヒロインである伯爵令嬢のマリアと、クロークの双子の兄であるトリスタンがいた。マリアとトリスタンはすでに出会って挨拶を済ませ、意気投合しているようだ。
「初めまして。マリア・ユーデウスと申します」
「初めまして。キャロライン・レギウスと申します」
令嬢同士、挨拶を済ませてにっこりと微笑む。マリアは金色のサラサラな長い髪にトルマリン色の可愛らしい瞳、小さく可愛らしい見た目で庇護欲をそそる。
(やっぱり可愛らしいわ……!ザ、ヒロインという感じね)
チラ、とクロークの方を見ると、マリアを見ながら無表情だ。別段、心が浮き足立ってる様子は見えない。
「クローク、元気そうで何よりだ。初めまして、弟がいつもお世話になっています」
「初めまして、お兄様。キャロラインと申します。ご挨拶が大変遅くなってしまい、申し訳ありません」
キャロラインとトリスタンは小説内でもこの日が初対面だ。クロークとの結婚を認めたくなかった頭を打つ前のキャロラインは、クロークの家の人間と一切挨拶をしていない。
クロークと同じ漆黒の髪の毛はクロークよりも短く、トリスタンの瞳はアクアマリン色で美しい海の色をしている。クロークより少し男らしい雰囲気だが、見た目はやはり小説内で一・二を争うほどの男前だ。思わず見惚れていると、突然クロークがキャロラインの肩をグイッと引き寄せた。
驚いてキャロラインがクロークを見上げると、クロークは少し不機嫌そうだ。
(え、クローク様どうしたのかしら?もしかして、ヤキモチを妬いてらっしゃる?)
「おや、君たちは随分仲が良くなったんだね。結婚当初はお互いにいがみ合い目も合わせなかったらしいじゃないか。それなのに、キャロライン嬢が頭を打ってからまるで人が変わったと聞いてはいたが……それが原因かな?」
トリスタンの言い分にキャロラインは思わず作り笑いをすると、マリアは両手を胸の前に合わせてまあ!と微笑んだ。
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クロークがキャロラインの肩を抱いたまま、感情の乗らない声でトリスタンに聞く。
「ああ、マリアのこと?さっきバルコニーで出会って少し話をしたんだけど、とても聡明で心の綺麗な御令嬢なんだ。これからもっと仲良くなりたいと思っているよ。クロークもマリアのことが気になるのか?」
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「どうした?」
「どうした、じゃないですよ!マリアのこと自分から聞いておいてあんな風に言うなんて何考えてるんですか!」
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「不都合は何もないですけど……」
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