「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ

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2話

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 辺境の小さな村で、アリア・グランとして暮らし始めて半年が過ぎた。

 アリアンナの開いた小さな診療所は、次第に村人たちの間で「奇跡の薬草師」として評判になり始めていた。王都では魔力こそが全てだったが、この辺境では、彼女の卓越した知識と、患者を慈しむ優しさこそが、真の力だった。

 特に、王都の魔術治療でも治せなかった風土病に対し、アリアンナが調合する非魔力の薬草が劇的な効果を発揮したことで、彼女への信頼は揺るぎないものとなった。

「アリア様は本当にすごい。魔力を使わずに、あんなにひどかった熱が引くなんて!」 

「公爵令嬢だった頃は無能と蔑まれていたそうだが、あれは王都の貴族が真の才能を知らないだけだ」

 村人たちは、彼女の過去の噂を知りつつも、その実力と献身に心からの尊敬を抱いていた。アリアンナは、初めて自分の存在と才能が心から肯定される喜びを噛み締めていた。

(私は、侯爵夫人のときよりもずっと、生きている……!)

 その日の午後、診療所に村の若者たちが駆け込んできた。

「アリア様!旅の者が怪我をして倒れています!かなり深い傷のようです!」

 アリアンナはすぐに道具を手に駆けつけた。運び込まれてきたのは、身なりの良い旅装をしているが、全身に深い切り傷と打撲を負った青年だった。

 青年は、夜明けの空のような銀髪と、静かな湖を思わせる深い青の瞳を持っていた。その端正な顔立ちは、並の貴族よりも遥かに優雅で、どこか高貴な雰囲気を漂わせている。彼は、身分を隠して旅をしていた隣国の第三王子、レオン・フォン・アステアだった。

 アリアンナはすぐに治療に取り掛かった。

「魔力は使えません。薬草と縫合、そして自然治癒力に頼ります」

 アリアンナは、彼の傷を丁寧に洗い、精度の高い非魔力薬草で調合した治療薬を塗布し、完璧な手つきで縫合を行った。その一連の動作には、寸分の迷いもなく、熟練した職人のような美しさがあった。

 数時間後、レオンは意識を取り戻した。

「ここは……」

 レオンの青い瞳が、まずアリアンナを捉えた。彼の視線は、旅で培われた洞察力に満ちており、彼女の優しさと才能を即座に見抜いた。

「ここは私の診療所です。あなたは重傷でした。無理に動かないでください」

 アリアンナの穏やかな声と、献身的な態度に、レオンの心は一瞬で奪われた。彼は、王宮で出会う女性たちにはない、純粋な才能と慈愛を彼女の全身から感じ取ったのだ。

(魔力が欠けている?そんなことが、どうでも良くなるほどの、真の才能だ。こんなにも優しく、知識に満ちた女性が、この辺境にいるとは……)

 レオンは、アリアンナの過去の傷と、才能を蔑まれたであろう経験を、その鋭い洞察力で察知した。

「ありがとう、薬師殿……いや、アリア様」

 レオンは、身分を明かすことなく、アリアンナの手をそっと握った。

「私の命の恩人。お願いがあります。私はまだ旅の途中で、怪我が完治するまで時間がかかる。どうか、貴女の助手として、ここに置いていただけないでしょうか」

 その言葉は、傷を治すためというより、アリアンナの傍にいることを目的とした、熱烈な求愛の始まりだった。アリアンナは戸惑いながらも、高貴な雰囲気を纏う青年の申し出を、なぜか断ることができなかった。
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