2 / 9
2話
しおりを挟む
辺境の小さな村で、アリア・グランとして暮らし始めて半年が過ぎた。
アリアンナの開いた小さな診療所は、次第に村人たちの間で「奇跡の薬草師」として評判になり始めていた。王都では魔力こそが全てだったが、この辺境では、彼女の卓越した知識と、患者を慈しむ優しさこそが、真の力だった。
特に、王都の魔術治療でも治せなかった風土病に対し、アリアンナが調合する非魔力の薬草が劇的な効果を発揮したことで、彼女への信頼は揺るぎないものとなった。
「アリア様は本当にすごい。魔力を使わずに、あんなにひどかった熱が引くなんて!」
「公爵令嬢だった頃は無能と蔑まれていたそうだが、あれは王都の貴族が真の才能を知らないだけだ」
村人たちは、彼女の過去の噂を知りつつも、その実力と献身に心からの尊敬を抱いていた。アリアンナは、初めて自分の存在と才能が心から肯定される喜びを噛み締めていた。
(私は、侯爵夫人のときよりもずっと、生きている……!)
その日の午後、診療所に村の若者たちが駆け込んできた。
「アリア様!旅の者が怪我をして倒れています!かなり深い傷のようです!」
アリアンナはすぐに道具を手に駆けつけた。運び込まれてきたのは、身なりの良い旅装をしているが、全身に深い切り傷と打撲を負った青年だった。
青年は、夜明けの空のような銀髪と、静かな湖を思わせる深い青の瞳を持っていた。その端正な顔立ちは、並の貴族よりも遥かに優雅で、どこか高貴な雰囲気を漂わせている。彼は、身分を隠して旅をしていた隣国の第三王子、レオン・フォン・アステアだった。
アリアンナはすぐに治療に取り掛かった。
「魔力は使えません。薬草と縫合、そして自然治癒力に頼ります」
アリアンナは、彼の傷を丁寧に洗い、精度の高い非魔力薬草で調合した治療薬を塗布し、完璧な手つきで縫合を行った。その一連の動作には、寸分の迷いもなく、熟練した職人のような美しさがあった。
数時間後、レオンは意識を取り戻した。
「ここは……」
レオンの青い瞳が、まずアリアンナを捉えた。彼の視線は、旅で培われた洞察力に満ちており、彼女の優しさと才能を即座に見抜いた。
「ここは私の診療所です。あなたは重傷でした。無理に動かないでください」
アリアンナの穏やかな声と、献身的な態度に、レオンの心は一瞬で奪われた。彼は、王宮で出会う女性たちにはない、純粋な才能と慈愛を彼女の全身から感じ取ったのだ。
(魔力が欠けている?そんなことが、どうでも良くなるほどの、真の才能だ。こんなにも優しく、知識に満ちた女性が、この辺境にいるとは……)
レオンは、アリアンナの過去の傷と、才能を蔑まれたであろう経験を、その鋭い洞察力で察知した。
「ありがとう、薬師殿……いや、アリア様」
レオンは、身分を明かすことなく、アリアンナの手をそっと握った。
「私の命の恩人。お願いがあります。私はまだ旅の途中で、怪我が完治するまで時間がかかる。どうか、貴女の助手として、ここに置いていただけないでしょうか」
その言葉は、傷を治すためというより、アリアンナの傍にいることを目的とした、熱烈な求愛の始まりだった。アリアンナは戸惑いながらも、高貴な雰囲気を纏う青年の申し出を、なぜか断ることができなかった。
アリアンナの開いた小さな診療所は、次第に村人たちの間で「奇跡の薬草師」として評判になり始めていた。王都では魔力こそが全てだったが、この辺境では、彼女の卓越した知識と、患者を慈しむ優しさこそが、真の力だった。
特に、王都の魔術治療でも治せなかった風土病に対し、アリアンナが調合する非魔力の薬草が劇的な効果を発揮したことで、彼女への信頼は揺るぎないものとなった。
「アリア様は本当にすごい。魔力を使わずに、あんなにひどかった熱が引くなんて!」
「公爵令嬢だった頃は無能と蔑まれていたそうだが、あれは王都の貴族が真の才能を知らないだけだ」
村人たちは、彼女の過去の噂を知りつつも、その実力と献身に心からの尊敬を抱いていた。アリアンナは、初めて自分の存在と才能が心から肯定される喜びを噛み締めていた。
(私は、侯爵夫人のときよりもずっと、生きている……!)
その日の午後、診療所に村の若者たちが駆け込んできた。
「アリア様!旅の者が怪我をして倒れています!かなり深い傷のようです!」
アリアンナはすぐに道具を手に駆けつけた。運び込まれてきたのは、身なりの良い旅装をしているが、全身に深い切り傷と打撲を負った青年だった。
青年は、夜明けの空のような銀髪と、静かな湖を思わせる深い青の瞳を持っていた。その端正な顔立ちは、並の貴族よりも遥かに優雅で、どこか高貴な雰囲気を漂わせている。彼は、身分を隠して旅をしていた隣国の第三王子、レオン・フォン・アステアだった。
アリアンナはすぐに治療に取り掛かった。
「魔力は使えません。薬草と縫合、そして自然治癒力に頼ります」
アリアンナは、彼の傷を丁寧に洗い、精度の高い非魔力薬草で調合した治療薬を塗布し、完璧な手つきで縫合を行った。その一連の動作には、寸分の迷いもなく、熟練した職人のような美しさがあった。
数時間後、レオンは意識を取り戻した。
「ここは……」
レオンの青い瞳が、まずアリアンナを捉えた。彼の視線は、旅で培われた洞察力に満ちており、彼女の優しさと才能を即座に見抜いた。
「ここは私の診療所です。あなたは重傷でした。無理に動かないでください」
アリアンナの穏やかな声と、献身的な態度に、レオンの心は一瞬で奪われた。彼は、王宮で出会う女性たちにはない、純粋な才能と慈愛を彼女の全身から感じ取ったのだ。
(魔力が欠けている?そんなことが、どうでも良くなるほどの、真の才能だ。こんなにも優しく、知識に満ちた女性が、この辺境にいるとは……)
レオンは、アリアンナの過去の傷と、才能を蔑まれたであろう経験を、その鋭い洞察力で察知した。
「ありがとう、薬師殿……いや、アリア様」
レオンは、身分を明かすことなく、アリアンナの手をそっと握った。
「私の命の恩人。お願いがあります。私はまだ旅の途中で、怪我が完治するまで時間がかかる。どうか、貴女の助手として、ここに置いていただけないでしょうか」
その言葉は、傷を治すためというより、アリアンナの傍にいることを目的とした、熱烈な求愛の始まりだった。アリアンナは戸惑いながらも、高貴な雰囲気を纏う青年の申し出を、なぜか断ることができなかった。
42
あなたにおすすめの小説
地味令嬢の私が婚約破棄された結果、なぜか最強王子に溺愛されてます
白米
恋愛
侯爵家の三女・ミレイアは、控えめで目立たない“地味令嬢”。
特に取り柄もなく、華やかな社交界ではいつも壁の花。だが幼いころに交わされた約束で、彼女は王弟・レオンハルト殿下との婚約者となっていた。
だがある日、突然の婚約破棄通告――。
「やはり君とは釣り合わない」
そう言い放ったのは、表向きには完璧な王弟殿下。そしてその横には、社交界の華と呼ばれる公爵令嬢の姿が。
悲しみも怒りも感じる間もなく、あっさりと手放されたミレイア。
しかしその瞬間を見ていたのが、王家随一の武闘派にして“最強”と噂される第一王子・ユリウスだった。
「……くだらん。お前を手放すなんて、あいつは見る目がないな」
「よければ、俺が貰ってやろうか?」
冗談かと思いきや、なぜか本気のご様子!?
次の日には「俺の婚約者として紹介する」と言われ、さらには
「笑った顔が見たい」「他の男の前で泣くな」
――溺愛モードが止まらない!
嫌われ令嬢ですが、最終的に溺愛される予定です
由香
恋愛
貴族令嬢エマは、自分が周囲から嫌われていると信じて疑わなかった。
婚約者である侯爵令息レオンからも距離を取られ、冷たい視線を向けられている――そう思っていたのに。
ある日、思いがけず聞いてしまった彼の本音。
「君を嫌ったことなど、一度もない」
それは誤解とすれ違いが重なっただけの、両片思いだった。
勘違いから始まる、甘くて優しい溺愛恋物語。
酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~
ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、
夜会当日──
婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、
迎えに来ることはなかった。
そして王宮で彼女が目にしたのは、
婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。
領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、
感情に流されることもなく、
淡々と婚約破棄の算段を立て始める。
目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、
頭の中で、今後の算段を考えていると
別の修羅場が始まって──!?
その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、
エヴァンジェリンの評価と人生は、
思いもよらぬ方向へ転がり始める──
2月11日 第一章完結
2月15日 第二章スタート予定
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜
夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」
婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。
彼女は涙を見せず、静かに笑った。
──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。
「そなたに、我が祝福を授けよう」
神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。
だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。
──そして半年後。
隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、
ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。
「……この命、お前に捧げよう」
「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」
かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。
──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、
“氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。
【完結】身代わりに病弱だった令嬢が隣国の冷酷王子と政略結婚したら、薬師の知識が役に立ちました。
朝日みらい
恋愛
リリスは内気な性格の貴族令嬢。幼い頃に患った大病の影響で、薬師顔負けの知識を持ち、自ら薬を調合する日々を送っている。家族の愛情を一身に受ける妹セシリアとは対照的に、彼女は控えめで存在感が薄い。
ある日、リリスは両親から突然「妹の代わりに隣国の王子と政略結婚をするように」と命じられる。結婚相手であるエドアルド王子は、かつて幼馴染でありながら、今では冷たく距離を置かれる存在。リリスは幼い頃から密かにエドアルドに憧れていたが、病弱だった過去もあって自分に自信が持てず、彼の真意がわからないまま結婚の日を迎えてしまい――
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない
ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。
公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。
旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。
そんな私は旦那様に感謝しています。
無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。
そんな二人の日常を書いてみました。
お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m
無事完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる