離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ

文字の大きさ
14 / 23

14話

しおりを挟む
 いよいよ、アークライト侯爵とセシル嬢の結婚式当日。

 侯爵家の大聖堂は、国中の貴族と王族が集まり、華やかな雰囲気に包まれていた。だが、その華やかさの裏で、セシルの心は決意の「強い金」と緊張の「白」に満ちていた。

 セシルは純白のウェディングドレスを纏い、アークライトの隣に並んだ。彼の騎士服姿は凛々しく、その全身からはセシルへの「熱烈な愛の金」と、セシルを失うことへの「微かな焦燥の青」が放たれていた。

 そして、参列席の最前列には、侯爵家の当主代理として振る舞うアーサー叔父が、人当たりの良い笑顔で座っていた。セシルには、彼の周りの「欺瞞の薄い青」が、まるで毒のように揺らめいているのが見えた。

 結婚の誓いの儀式が始まった。

 厳かな司祭の声が響き渡る中、アークライトはセシルの手を握り、静かに誓いの言葉を口にした。

「私は、セシル・アルトワを、いかなる時も、私の全てを賭けて愛し、守ると誓う。彼女の笑顔は、私の孤独を終わらせた唯一の光だ」

 アークライトの言葉は、前世の冷徹な義務から解放された、真実の愛の告白だった。セシルの視界には、彼の全身から爆発的な「愛の金」が溢れ、大聖堂全体を暖かく照らしているのが見えた。

 セシルは心の中で、夫への愛を誓った後、「今こそ」と覚悟を決めた。

「待ってください」

 セシルの静かな声が、大聖堂に響き渡り、参列者全員が息をのんだ。

 アークライトは驚愕し、セシルを見た。彼の感情の色は「困惑の白」に染まる。

「セシル、どうした?」

 セシルはアークライトの手を強く握りしめ、彼を見つめた。

「アークライト様。この誓いを終える前に、わたくしには果たさねばならない、貴方との共同戦線がございます」

 セシルは、ルーク副官に合図を送った。

 ルークは、昨日発見した偽造された先代侯爵の遺言状を、司祭と王族の代表の前に提出した。

「参列者の皆様、そして司祭様。わたくしたちの結婚に水を差すようで大変恐縮ですが、侯爵家に重大な不正がございます。アークライト侯爵を陥れ、侯爵位と財産を奪おうとした真の黒幕が、この場におられます」

 セシルは、人当たりの良い笑顔を張り付けているアーサー叔父を、まっすぐ指差した。

「アーサー・ヴァンス様。貴方が偽造したこの遺言状には、『侯爵夫人セシルの不貞』を侯爵位剥奪の条件とする、という文言が加えられています。リゼッタを使い、わたくしを陥れようとしたのも、全てこの偽造遺言状を発動させるためでしたね」

 大聖堂は、騒然となった。アーサー叔父の顔は、瞬間的に「恐怖の黒」に染まり、立ち上がって叫んだ。

「何という侮辱だ!セシル嬢、貴女は発狂したのか!? そのような文書は偽造だ!」

「いいえ、偽造したのは貴方です」

 セシルは、動じることなく続けた。

「貴方が横領した結界資材の不正な記録、そして貴方しか持ち得ない秘密の金庫の鍵穴。それらは全て、貴方が侯爵位を奪おうとした証拠です」

 セシルの視界には、アーサー叔父の周りの「欺瞞の薄い青」が、「憎悪の赤」へと変わり、セシルへ向かって強烈な殺意を放っているのが見えた。

「黙れ、この女め!」

 アーサー叔父は逆上し、セシルへ向かって飛びかかった。

 しかし、その瞬間、アークライトが動いた。

「セシルに触れるな」

 アークライトの冷徹な声が響き、彼は一瞬でセシルの前に立ち塞がった。彼の全身から、純粋な「怒りの赤」と「庇護の金」が津波のように噴き出し、アーサー叔父を弾き飛ばした。

「私の妻を傷つけようとするなど、万死に値する!」

 アークライトは、長年信頼していた叔父の裏切りに、悲しみを一切見せず、ただセシルを守るという本能的な愛で動いた。

 王族の代表が偽造文書と横領の証拠を確認し、事態は完全に決した。アーサー叔父は、その場で騎士たちに拘束された。

 セシルは、静かにアークライトの胸に顔を埋めた。

「これで、もう大丈夫です、アークライト様。貴方を裏切りの悲しみから守り抜きました」

 アークライトはセシルを強く抱きしめ、参列者と神の前で、再び誓った。

「私はこの愛を、永遠に離さない。私の妻は、セシルだけだ」

 結婚の誓いは、愛の成就と悪役の断罪という、最高の形で結ばれた。二度目の人生は、真実の愛と共に、今、始まったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

不愛想な婚約者のメガネをこっそりかけたら

柳葉うら
恋愛
男爵令嬢のアダリーシアは、婚約者で伯爵家の令息のエディングと上手くいっていない。ある日、エディングに会いに行ったアダリーシアは、エディングが置いていったメガネを出来心でかけてみることに。そんなアダリーシアの姿を見たエディングは――。 「か・わ・い・い~っ!!」 これまでの態度から一変して、アダリーシアのギャップにメロメロになるのだった。 出来心でメガネをかけたヒロインのギャップに、本当は溺愛しているのに不器用であるがゆえにぶっきらぼうに接してしまったヒーローがノックアウトされるお話。

婚約破棄された地味伯爵令嬢は、隠れ錬金術師でした~追放された辺境でスローライフを始めたら、隣国の冷徹魔導公爵に溺愛されて最強です~

ふわふわ
恋愛
地味で目立たない伯爵令嬢・エルカミーノは、王太子カイロンとの政略婚約を強いられていた。 しかし、転生聖女ソルスティスに心を奪われたカイロンは、公開の舞踏会で婚約破棄を宣言。「地味でお前は不要!」と嘲笑う。 周囲から「悪役令嬢」の烙印を押され、辺境追放を言い渡されたエルカミーノ。 だが内心では「やったー! これで自由!」と大喜び。 実は彼女は前世の記憶を持つ天才錬金術師で、希少素材ゼロで最強ポーションを作れるチート級の才能を隠していたのだ。 追放先の辺境で、忠実なメイド・セシルと共に薬草園を開き、のんびりスローライフを始めるエルカミーノ。 作ったポーションが村人を救い、次第に評判が広がっていく。 そんな中、隣国から視察に来た冷徹で美麗な魔導公爵・ラクティスが、エルカミーノの才能に一目惚れ(?)。 「君の錬金術は国宝級だ。僕の国へ来ないか?」とスカウトし、腹黒ながらエルカミーノにだけ甘々溺愛モード全開に! 一方、王都ではソルスティスの聖魔法が効かず魔瘴病が流行。 エルカミーノのポーションなしでは国が危機に陥り、カイロンとソルスティスは後悔の渦へ……。 公開土下座、聖女の暴走と転生者バレ、国際的な陰謀…… さまざまな試練をラクティスの守護と溺愛で乗り越え、エルカミーノは大陸の救済者となり、幸せな結婚へ! **婚約破棄ざまぁ×隠れチート錬金術×辺境スローライフ×冷徹公爵の甘々溺愛** 胸キュン&スカッと満載の異世界ファンタジー、全32話完結!

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

政略結婚した旦那様に「貴女を愛することはない」と言われたけど、猫がいるから全然平気

ハルイロ
恋愛
皇帝陛下の命令で、唐突に決まった私の結婚。しかし、それは、幸せとは程遠いものだった。 夫には顧みられず、使用人からも邪険に扱われた私は、与えられた粗末な家に引きこもって泣き暮らしていた。そんな時、出会ったのは、1匹の猫。その猫との出会いが私の運命を変えた。 猫達とより良い暮らしを送るために、夫なんて邪魔なだけ。それに気付いた私は、さっさと婚家を脱出。それから数年、私は、猫と好きなことをして幸せに過ごしていた。 それなのに、なぜか態度を急変させた夫が、私にグイグイ迫ってきた。 「イヤイヤ、私には猫がいればいいので、旦那様は今まで通り不要なんです!」 勘違いで妻を遠ざけていた夫と猫をこよなく愛する妻のちょっとずれた愛溢れるお話

「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。 魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。 多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さくら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

処理中です...