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2話
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リサは、自分の足元でゴロゴロと喉を鳴らす巨大な熊を前に、困惑していた。
(この子、本当に森の主…?それともただの大きな熊?)
しかし、その熊から発せられる熱は尋常ではなかった。極寒の森の冷気を完全に遮断する圧倒的な温もり。リサの凍えきった体は、そのモフモフに触れているだけで、急速に生命力を取り戻していくのを感じた。
リサは、まるで昔飼っていた犬を撫でるように、恐る恐るその分厚い毛皮に触れてみた。
その瞬間、熊はさらに嬉しそうな「ンッフ」という低い音を立て、リサの手に頭をグリグリと擦り付けた。その行動は、明らかに「もっと撫でて」と要求していた。
「あ、ありがとう...温かいわ」
リサは、死の淵で得たこの温もりが、何よりも尊いと感じた。家族や元婚約者から受けた裏切りの冷たさを、この裏切りのないモフモフが溶かしていくようだった。
その夜、リサは熊の脇腹にもたれかかって眠った。
夜が明ける頃、リサは自分が驚くほど深く、安らかに眠れたことに気づいた。そして、体の奥から力が湧いてくるのを感じた。
(この温もり、ただの熱じゃない。私の微弱な魔力まで活性化されているみたい...)
リサは、熊を調べることにした。熊の体には、左前足に深い傷跡があり、それが治りかけであることがわかった。
「あなた、怪我をしているのね...」
リサは、持っていた薬草を煎じたもの(追放前にこっそり持っていたもの)を、恐る恐る熊の傷に塗ってみた。
熊は薬草の刺激に一瞬顔をしかめたが、リサを拒絶することはなかった。それどころか、リサが薬を塗る間中、彼女の顔を見つめ、「ンー」と鼻を鳴らしていた。
数日が経過した。
リサは完全に熊に依存し、熊もまたリサに依存していた。
リサが少しでも熊から離れようとすると、熊は大きなため息をつき、金色の瞳でリサをじっと見つめる。
「どこへ行く?離れるな」
熊は口をきけないが、その視線は雄弁だった。
「ごめんなさい、水を汲みに...」
リサがそう言うと、熊は「わかった」と言うように、リサが離れすぎない距離を保ちながら、ノソノソと彼女の後を追った。
リサは気づいた。この熊は、彼女の体から発せられる特殊な「匂い」に強く惹かれ、それを「命綱」のように感じているのだと。
(この子は、私の魔力とは違う、何かを必要としている...)
リサは、この温もりを失いたくなかった。熊の毛皮と温もりこそが、王都の冷酷さから自分を救ってくれた全てだったからだ。
その日の午後、リサが昼寝をしていると、小さな白いフクロウが肩に止まった。
「やあ、人間のお嬢さん。あなたは随分と森の主に気に入られたようだね」
リサは驚いて飛び起きた。フクロウは、風を操る上級精霊のシルフィだった。
「精霊!なぜ私に...」
「なぜって、そりゃあ、あなたからは全属性の精霊にとって、極上の香水のような匂いがするからさ!それで、まさかあの人嫌いの精霊王バルトが、こんなデカい熊の姿で人間を抱き枕にしているとはね!」
シルフィの言葉に、リサは凍り付いた。
「...精霊王?この子が?」
リサが慌てて熊を見上げると、熊はリサの膝に頭を乗せたまま、シルフィを睨みつけていた。その金色の瞳には、「俺の秘密をバラすな」という強い威圧感が込められていた。
シルフィはケラケラと笑った。
「そうさ。あの巨大モフモフこそ、この精霊の森の主、バルト王だよ。彼はね、長年の孤独と魔力の淀みで、体が酷く冷え切っていたんだ。あなたは、その体質で、彼にとって世界で一番温かいストーブなんだよ!」
リサは、自分が抱きついていた熊が、人間を食らうと恐れられていた森の絶対的な支配者だと知り、恐怖した。
しかし、同時に、その冷酷な王が、自分に依存し、甘えているという事実に、奇妙な高揚感を覚えた。
(王国の誰にも見せない、この温かくて、巨大で、モフモフな姿...)
リサは、熊の体に手を置いた。
「バルト王様...あなたは、私にとっての唯一の温もりです」
リサは、この絶対的な依存関係こそが、裏切りのない愛なのだと直感した。
(この子、本当に森の主…?それともただの大きな熊?)
しかし、その熊から発せられる熱は尋常ではなかった。極寒の森の冷気を完全に遮断する圧倒的な温もり。リサの凍えきった体は、そのモフモフに触れているだけで、急速に生命力を取り戻していくのを感じた。
リサは、まるで昔飼っていた犬を撫でるように、恐る恐るその分厚い毛皮に触れてみた。
その瞬間、熊はさらに嬉しそうな「ンッフ」という低い音を立て、リサの手に頭をグリグリと擦り付けた。その行動は、明らかに「もっと撫でて」と要求していた。
「あ、ありがとう...温かいわ」
リサは、死の淵で得たこの温もりが、何よりも尊いと感じた。家族や元婚約者から受けた裏切りの冷たさを、この裏切りのないモフモフが溶かしていくようだった。
その夜、リサは熊の脇腹にもたれかかって眠った。
夜が明ける頃、リサは自分が驚くほど深く、安らかに眠れたことに気づいた。そして、体の奥から力が湧いてくるのを感じた。
(この温もり、ただの熱じゃない。私の微弱な魔力まで活性化されているみたい...)
リサは、熊を調べることにした。熊の体には、左前足に深い傷跡があり、それが治りかけであることがわかった。
「あなた、怪我をしているのね...」
リサは、持っていた薬草を煎じたもの(追放前にこっそり持っていたもの)を、恐る恐る熊の傷に塗ってみた。
熊は薬草の刺激に一瞬顔をしかめたが、リサを拒絶することはなかった。それどころか、リサが薬を塗る間中、彼女の顔を見つめ、「ンー」と鼻を鳴らしていた。
数日が経過した。
リサは完全に熊に依存し、熊もまたリサに依存していた。
リサが少しでも熊から離れようとすると、熊は大きなため息をつき、金色の瞳でリサをじっと見つめる。
「どこへ行く?離れるな」
熊は口をきけないが、その視線は雄弁だった。
「ごめんなさい、水を汲みに...」
リサがそう言うと、熊は「わかった」と言うように、リサが離れすぎない距離を保ちながら、ノソノソと彼女の後を追った。
リサは気づいた。この熊は、彼女の体から発せられる特殊な「匂い」に強く惹かれ、それを「命綱」のように感じているのだと。
(この子は、私の魔力とは違う、何かを必要としている...)
リサは、この温もりを失いたくなかった。熊の毛皮と温もりこそが、王都の冷酷さから自分を救ってくれた全てだったからだ。
その日の午後、リサが昼寝をしていると、小さな白いフクロウが肩に止まった。
「やあ、人間のお嬢さん。あなたは随分と森の主に気に入られたようだね」
リサは驚いて飛び起きた。フクロウは、風を操る上級精霊のシルフィだった。
「精霊!なぜ私に...」
「なぜって、そりゃあ、あなたからは全属性の精霊にとって、極上の香水のような匂いがするからさ!それで、まさかあの人嫌いの精霊王バルトが、こんなデカい熊の姿で人間を抱き枕にしているとはね!」
シルフィの言葉に、リサは凍り付いた。
「...精霊王?この子が?」
リサが慌てて熊を見上げると、熊はリサの膝に頭を乗せたまま、シルフィを睨みつけていた。その金色の瞳には、「俺の秘密をバラすな」という強い威圧感が込められていた。
シルフィはケラケラと笑った。
「そうさ。あの巨大モフモフこそ、この精霊の森の主、バルト王だよ。彼はね、長年の孤独と魔力の淀みで、体が酷く冷え切っていたんだ。あなたは、その体質で、彼にとって世界で一番温かいストーブなんだよ!」
リサは、自分が抱きついていた熊が、人間を食らうと恐れられていた森の絶対的な支配者だと知り、恐怖した。
しかし、同時に、その冷酷な王が、自分に依存し、甘えているという事実に、奇妙な高揚感を覚えた。
(王国の誰にも見せない、この温かくて、巨大で、モフモフな姿...)
リサは、熊の体に手を置いた。
「バルト王様...あなたは、私にとっての唯一の温もりです」
リサは、この絶対的な依存関係こそが、裏切りのない愛なのだと直感した。
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