精霊の森に追放された私ですが、森の主【巨大モフモフ熊の精霊王】に気に入られました

腐ったバナナ

文字の大きさ
2 / 18

2話

しおりを挟む
 リサは、自分の足元でゴロゴロと喉を鳴らす巨大な熊を前に、困惑していた。

(この子、本当に森の主…?それともただの大きな熊?)

 しかし、その熊から発せられる熱は尋常ではなかった。極寒の森の冷気を完全に遮断する圧倒的な温もり。リサの凍えきった体は、そのモフモフに触れているだけで、急速に生命力を取り戻していくのを感じた。

 リサは、まるで昔飼っていた犬を撫でるように、恐る恐るその分厚い毛皮に触れてみた。

 その瞬間、熊はさらに嬉しそうな「ンッフ」という低い音を立て、リサの手に頭をグリグリと擦り付けた。その行動は、明らかに「もっと撫でて」と要求していた。

「あ、ありがとう...温かいわ」

 リサは、死の淵で得たこの温もりが、何よりも尊いと感じた。家族や元婚約者から受けた裏切りの冷たさを、この裏切りのないモフモフが溶かしていくようだった。

 その夜、リサは熊の脇腹にもたれかかって眠った。

 夜が明ける頃、リサは自分が驚くほど深く、安らかに眠れたことに気づいた。そして、体の奥から力が湧いてくるのを感じた。

(この温もり、ただの熱じゃない。私の微弱な魔力まで活性化されているみたい...)

 リサは、熊を調べることにした。熊の体には、左前足に深い傷跡があり、それが治りかけであることがわかった。

「あなた、怪我をしているのね...」

 リサは、持っていた薬草を煎じたもの(追放前にこっそり持っていたもの)を、恐る恐る熊の傷に塗ってみた。

 熊は薬草の刺激に一瞬顔をしかめたが、リサを拒絶することはなかった。それどころか、リサが薬を塗る間中、彼女の顔を見つめ、「ンー」と鼻を鳴らしていた。

 数日が経過した。

 リサは完全に熊に依存し、熊もまたリサに依存していた。

 リサが少しでも熊から離れようとすると、熊は大きなため息をつき、金色の瞳でリサをじっと見つめる。

「どこへ行く?離れるな」

 熊は口をきけないが、その視線は雄弁だった。

「ごめんなさい、水を汲みに...」

 リサがそう言うと、熊は「わかった」と言うように、リサが離れすぎない距離を保ちながら、ノソノソと彼女の後を追った。

 リサは気づいた。この熊は、彼女の体から発せられる特殊な「匂い」に強く惹かれ、それを「命綱」のように感じているのだと。

(この子は、私の魔力とは違う、何かを必要としている...)

 リサは、この温もりを失いたくなかった。熊の毛皮と温もりこそが、王都の冷酷さから自分を救ってくれた全てだったからだ。

 その日の午後、リサが昼寝をしていると、小さな白いフクロウが肩に止まった。

「やあ、人間のお嬢さん。あなたは随分と森の主に気に入られたようだね」

 リサは驚いて飛び起きた。フクロウは、風を操る上級精霊のシルフィだった。

「精霊!なぜ私に...」

「なぜって、そりゃあ、あなたからは全属性の精霊にとって、極上の香水のような匂いがするからさ!それで、まさかあの人嫌いの精霊王バルトが、こんなデカい熊の姿で人間を抱き枕にしているとはね!」

 シルフィの言葉に、リサは凍り付いた。

「...精霊王?この子が?」

 リサが慌てて熊を見上げると、熊はリサの膝に頭を乗せたまま、シルフィを睨みつけていた。その金色の瞳には、「俺の秘密をバラすな」という強い威圧感が込められていた。

 シルフィはケラケラと笑った。

「そうさ。あの巨大モフモフこそ、この精霊の森の主、バルト王だよ。彼はね、長年の孤独と魔力の淀みで、体が酷く冷え切っていたんだ。あなたは、その体質で、彼にとって世界で一番温かいストーブなんだよ!」

 リサは、自分が抱きついていた熊が、人間を食らうと恐れられていた森の絶対的な支配者だと知り、恐怖した。

 しかし、同時に、その冷酷な王が、自分に依存し、甘えているという事実に、奇妙な高揚感を覚えた。

(王国の誰にも見せない、この温かくて、巨大で、モフモフな姿...)

 リサは、熊の体に手を置いた。

「バルト王様...あなたは、私にとっての唯一の温もりです」

 リサは、この絶対的な依存関係こそが、裏切りのない愛なのだと直感した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔王城の清掃係ですが、ラスボスに懐かれて世界を磨くことになりました

由香
恋愛
異世界に転移したら、なぜか魔王城の清掃係に就職していました。 巨大な玉座、血のついた回廊、禍々しい装飾品の数々。 今日も黙々と床を磨いていたら―― 「お前の磨いた床は、よく眠れる」 恐怖の象徴と名高い魔王様に懐かれました。 見た目は完全にラスボス。 中身はちょっと不器用で、独占欲強めの努力型。 勇者は帰還の道を示し、魔王は隣を選べと願う。 光と闇のはざまで、選ぶのは――ただの清掃係。 戦争よりも、まず床。 征服よりも、まず対話。 これは、世界最強の存在に溺愛されながら 世界平和を“足元から”始める物語。 甘くて、少し熱くて、ちゃんと選ぶ恋。

【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

「役立たず」と追放された聖女ですが、デバッグモードで人間と魔物の立場を逆にしました。王族はスライムの経験値。私は魔王に溺愛されつつ高みの見物

唯崎りいち
恋愛
「役立たずは消えろ!」 国を追われ、民に泥を投げられた聖女の私。 でも、誰も知らない。私がこの世界のルールを書き換える【デバッグモード】の持ち主だってことを。 私が「外壁」の外へ一歩踏み出した瞬間、国を守る結界は音を立てて崩壊した。 さらに溺愛してくれる魔王様の横で、ポチッと一箇所設定を変更。 【人間(Human) ⇔ 魔物(Monster)】 さあ、元王族のみなさん。 今日から君たちは、可愛いスライム(勇者)に狩られる側の「経験値」ですよ。

完結·異世界転生したらアザラシ? でした〜白いモフモフでイケメン騎士たちに拾われましたが、前世の知識で医療チートしています〜

恋愛
ネットでアザラシを見ることが癒しだった主人公。 だが、気が付くと知らない場所で、自分がアザラシになっていた。 自分が誰か分からず、記憶が曖昧な中、個性的なイケメン騎士たちに拾われる。 しかし、騎士たちは冬の女神の愛おし子を探している最中で…… ※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿しています ※完結まで毎日投稿します

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

【完結】追放された私、宮廷楽師になったら最強騎士に溺愛されました

er
恋愛
両親を亡くし、叔父に引き取られたクレアは、義妹ペトラに全てを奪われ虐げられていた。 宮廷楽師選考会への出場も拒まれ、老商人との結婚を強要される。 絶望の中、クレアは母から受け継いだ「音花の恵み」——音楽を物質化する力——を使い、家を飛び出す。 近衛騎士団隊長アーロンに助けられ、彼の助けもあり選考会に参加。首席合格を果たし、叔父と義妹を見返す。クレアは王室専属楽師として、アーロンと共に新たな人生を歩み始める。

「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃
恋愛
女子高生のエリカは異世界に召喚された。聖女と呼ばれるエリカだが、王子の本命は一緒に召喚されたもう一人の女の子だった。「 聖女は二人もいらない」と城を追放され、魔族に命を狙われたエリカを助けたのは、銀髪のイケメン騎士フレイ。 圧倒的な強さで魔王の手下を倒したフレイは言う。 「あなたこそが聖女です」 「あなたは俺の領地で保護します」 「身柄を預かるにあたり、俺の婚約者ということにしましょう」 こうしてエリカの偽装結婚異世界ライフが始まった。 やがてエリカはイケメン騎士に溺愛されながら、秘められていた聖女の力を開花させていく。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

処理中です...