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8話
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地下宮殿の静寂を切り裂いたのは、鋭い金属音でした。
「エリス! どこにいる、エリス!」
聞き覚えのある声。それは、私がまだ伯爵家で「空気」として扱われていた頃、唯一私を気にかけてくれていた幼馴染の騎士、カイルのものでした。彼は私の「認識阻害」を解く魔道具を手に、決死の覚悟でこの迷宮へ潜入してきたのでしょう。
「……カイル、様?」
ベッドに横たわっていた私が顔を上げると、そこには傷だらけになりながらも私を見つけ出し、目を見開くカイルの姿がありました。
「ああ、なんてことだ……。こんな薄暗い場所に閉じ込められて……。さあ、エリス、今すぐここを出よう。君を自由にする!」
彼は私の手を取ろうと駆け寄ってきます。 かつての私なら、その「光」に縋り付いたかもしれません。けれど、彼が近づくにつれ、私の体には耐え難い拒絶反応が起きました。
「……来ないで」 「エリス?」 「来ないでください……! 貴方の魔力が、痛い……っ!」
レオンハルト様以外の魔力を拒絶するように作り変えられた私の体は、カイルの放つ「正義の魔力」を、毒のように感じて激しくのたうち回ります。
「何をされたんだ……。アスガルド公爵め、君をこんな体質にまで……!」
カイルが怒りに震え、剣を抜こうとしたその時。 背後の影が揺らぎ、死神が姿を現しました。
「――光の騎士様が、人の箱庭で何を騒いでいる」
レオンハルト様。その声を聞いた瞬間、私の震えがピタリと止まりました。 彼は歩み寄ると、私の肩を抱き寄せ、カイルをゴミを見るような目で見下ろします。
「エリスを返せ! 彼女をこんな場所に監禁し、心を壊すなんて……貴様は人間じゃない!」
「監禁? 心を壊す?」
レオンハルト様は低く笑い、私の顎を指先で持ち上げました。
「エリス、教えてやれ。お前は自由になりたいか? 誰からも見えず、誰の記憶にも残らないあの世界へ、こいつと共に帰りたいか?」
私はカイルを見つめました。彼は必死に私を救おうとしてくれている。 けれど、今の私にとって、彼の差し出す「自由」は、凍えるような孤独でしかありませんでした。
「……嫌。私は、ここにいたい」
カイルが絶望に顔を歪めます。
「エリス、何を言っているんだ……。君は洗脳されているだけだ!」
「いいえ。私は、レオンハルト様に暴かれている時だけ、自分がここにいると感じられるのです。……カイル様、貴方は私を『可哀想な女の子』として見ていたけれど、閣下は私を『女』として見つけ、必要としてくれた」
私は自らレオンハルト様の胸に顔を埋め、彼の漆黒の衣を強く掴みました。
「この檻こそが、私の居場所なのです。……閣下、お願いです。この人を追い出してください。私たちの邪魔をさせないで……」
「……聞き届けよう。我が愛しき小鳥よ」
レオンハルト様は満足げに目を細め、カイルに向けて指先を向けました。 影が触手のように伸び、カイルの四肢を縛り上げます。
「命だけは助けてやる。外で語るがいい。お前の救おうとした令嬢は、すでに死神の愛に溺れ、自分から檻に鍵をかけたのだとな」
絶叫と共にカイルが闇へ排除されていくのを、私はただ冷ややかに見つめていました。 再び訪れた二人きりの静寂。レオンハルト様は、私の耳元で甘く、冷酷に囁きました。
「よく言えたな、エリス。……さあ、ご褒美だ。余計な光に汚されたお前を、今夜も隅々まで俺の色で塗り替えてやろう」
光の世界との決別。 それは、誰にも見えない「透明な令嬢」が、愛という名の狂気に完全に飲み込まれた瞬間でした。
「エリス! どこにいる、エリス!」
聞き覚えのある声。それは、私がまだ伯爵家で「空気」として扱われていた頃、唯一私を気にかけてくれていた幼馴染の騎士、カイルのものでした。彼は私の「認識阻害」を解く魔道具を手に、決死の覚悟でこの迷宮へ潜入してきたのでしょう。
「……カイル、様?」
ベッドに横たわっていた私が顔を上げると、そこには傷だらけになりながらも私を見つけ出し、目を見開くカイルの姿がありました。
「ああ、なんてことだ……。こんな薄暗い場所に閉じ込められて……。さあ、エリス、今すぐここを出よう。君を自由にする!」
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カイルが怒りに震え、剣を抜こうとしたその時。 背後の影が揺らぎ、死神が姿を現しました。
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「エリスを返せ! 彼女をこんな場所に監禁し、心を壊すなんて……貴様は人間じゃない!」
「監禁? 心を壊す?」
レオンハルト様は低く笑い、私の顎を指先で持ち上げました。
「エリス、教えてやれ。お前は自由になりたいか? 誰からも見えず、誰の記憶にも残らないあの世界へ、こいつと共に帰りたいか?」
私はカイルを見つめました。彼は必死に私を救おうとしてくれている。 けれど、今の私にとって、彼の差し出す「自由」は、凍えるような孤独でしかありませんでした。
「……嫌。私は、ここにいたい」
カイルが絶望に顔を歪めます。
「エリス、何を言っているんだ……。君は洗脳されているだけだ!」
「いいえ。私は、レオンハルト様に暴かれている時だけ、自分がここにいると感じられるのです。……カイル様、貴方は私を『可哀想な女の子』として見ていたけれど、閣下は私を『女』として見つけ、必要としてくれた」
私は自らレオンハルト様の胸に顔を埋め、彼の漆黒の衣を強く掴みました。
「この檻こそが、私の居場所なのです。……閣下、お願いです。この人を追い出してください。私たちの邪魔をさせないで……」
「……聞き届けよう。我が愛しき小鳥よ」
レオンハルト様は満足げに目を細め、カイルに向けて指先を向けました。 影が触手のように伸び、カイルの四肢を縛り上げます。
「命だけは助けてやる。外で語るがいい。お前の救おうとした令嬢は、すでに死神の愛に溺れ、自分から檻に鍵をかけたのだとな」
絶叫と共にカイルが闇へ排除されていくのを、私はただ冷ややかに見つめていました。 再び訪れた二人きりの静寂。レオンハルト様は、私の耳元で甘く、冷酷に囁きました。
「よく言えたな、エリス。……さあ、ご褒美だ。余計な光に汚されたお前を、今夜も隅々まで俺の色で塗り替えてやろう」
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