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静寂に包まれた聖女の部屋は、一通の紙切れによってその均衡を破られた。
「…無実、ではありませんか」
私の眼前で、王国一の権力者である公爵が冷たく告げた。
「聖女リーリア。あなたは王子殿下に毒を盛った嫌疑がかかっています。聖女の座を降り、即刻この地を去るように」
その言葉は、あまりに一方的で、私の心を凍りつかせた。私は聖女として、人々を癒すためだけに生きてきた。他者を傷つけることなど、考えたこともなかったのに。
公爵の隣に立つ王子の瞳は、どこか遠くを見ていた。私を信じてはくれないのだろうか。そう思って顔を上げると、王子の後ろに隠れるように立つ侯爵令嬢と目が合った。彼女がわずかに唇の端を吊り上げるのが見えた。
すべては、彼女が仕組んだことなのだと、この瞬間に悟った。
「真実が明らかになるまで、ここに残らせていただけませんか」
「何を言っている。お前はもう聖女ではない。ただの罪人だ。今日限り、リーリアは存在しない」
公爵は私の懇願を聞き入れず、私を護衛の騎士に引き渡した。私は聖女の証である純白のローブを剥ぎ取られ、簡素な旅装に着替えさせられる。護衛の騎士は、私の手を荒々しく掴むと、馬車へと放り込んだ。
馬車は一路、王都から遠く離れた場所を目指す。窓から見える景色は、見慣れた王都の街並みから、だんだんと薄暗い森へと変わっていった。王都の人々が私に石を投げつけ、罵声を浴びせる声が、耳にこびりついて離れない。
「…私を信じてくれる人は、誰もいなかった」
絶望の淵に立たされた私を乗せた馬車は、やがて森の奥で止まった。
「ここがお前の追放先だ」
騎士は無愛想に言い放ち、私を森の奥にある、今にも崩れそうな古い建物へと突き飛ばした。
「ここ、は…?」
それは、かつて騎士団の寮として使われていた場所らしい。しかし、今は見るも無残な廃墟と化している。窓は割れ、壁には蔦が絡まり、中は埃とカビの匂いが充満している。
「王国の恥と呼ばれた『はぐれ者騎士団』の寮だ。今もお前のような問題児が集まっている。せいぜい頑張ることだな」
騎士はそう言い残すと、嘲笑を浮かべ、馬車に乗って去っていった。私は一人、深い森の中に取り残された。
ここが、私の新しい場所。
聖女ではなくなった私が、生きていく場所。
私は、崩れ落ちた建物のドアに手をかけ、ゆっくりと中に足を踏み入れた。その先には、私を待ち受ける「はぐれ者」たちがいるのだろう。
「…無実、ではありませんか」
私の眼前で、王国一の権力者である公爵が冷たく告げた。
「聖女リーリア。あなたは王子殿下に毒を盛った嫌疑がかかっています。聖女の座を降り、即刻この地を去るように」
その言葉は、あまりに一方的で、私の心を凍りつかせた。私は聖女として、人々を癒すためだけに生きてきた。他者を傷つけることなど、考えたこともなかったのに。
公爵の隣に立つ王子の瞳は、どこか遠くを見ていた。私を信じてはくれないのだろうか。そう思って顔を上げると、王子の後ろに隠れるように立つ侯爵令嬢と目が合った。彼女がわずかに唇の端を吊り上げるのが見えた。
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公爵は私の懇願を聞き入れず、私を護衛の騎士に引き渡した。私は聖女の証である純白のローブを剥ぎ取られ、簡素な旅装に着替えさせられる。護衛の騎士は、私の手を荒々しく掴むと、馬車へと放り込んだ。
馬車は一路、王都から遠く離れた場所を目指す。窓から見える景色は、見慣れた王都の街並みから、だんだんと薄暗い森へと変わっていった。王都の人々が私に石を投げつけ、罵声を浴びせる声が、耳にこびりついて離れない。
「…私を信じてくれる人は、誰もいなかった」
絶望の淵に立たされた私を乗せた馬車は、やがて森の奥で止まった。
「ここがお前の追放先だ」
騎士は無愛想に言い放ち、私を森の奥にある、今にも崩れそうな古い建物へと突き飛ばした。
「ここ、は…?」
それは、かつて騎士団の寮として使われていた場所らしい。しかし、今は見るも無残な廃墟と化している。窓は割れ、壁には蔦が絡まり、中は埃とカビの匂いが充満している。
「王国の恥と呼ばれた『はぐれ者騎士団』の寮だ。今もお前のような問題児が集まっている。せいぜい頑張ることだな」
騎士はそう言い残すと、嘲笑を浮かべ、馬車に乗って去っていった。私は一人、深い森の中に取り残された。
ここが、私の新しい場所。
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私は、崩れ落ちた建物のドアに手をかけ、ゆっくりと中に足を踏み入れた。その先には、私を待ち受ける「はぐれ者」たちがいるのだろう。
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