追放された元聖女は、イケメン騎士団の寮母になる

腐ったバナナ

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9話

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 ルシアンからの依頼を受け、リーリアは夜が更けてから、こっそりと寮を抜け出した。

 王都の地下へと続く、古びた階段を下りていく。かつて聖女として輝かしい光の中にいた自分とはまるで違う、暗く湿った空気が彼女を包み込んだ。

 地下水路は複雑な迷路になっていた。

 ルシアンに渡された地図を頼りに進んでいくが、どこも同じような景色で、リーリアはすぐに方向感覚を失ってしまう。その時、背後からかすかな足音が聞こえ、リーリアは思わず息をひそめた。

「…ゼノン?」

 暗闇の中に、ゼノンが静かに立っていた。彼は何も言わず、ただまっすぐとリーリアを見つめている。その瞳には、彼女を心配する光が宿っているように見えた。

「なぜ、ここに?」

 リーリアが尋ねると、ゼノンは無言で、彼女の前に立ち、先導するように歩き始めた。

 彼は地下水路の道に詳しく、迷うことなく目的地へと彼女を導いてくれた。その背中から伝わる、言葉にしない優しさに、リーリアは胸が熱くなった。

 やがて、二人は小さな部屋にたどり着いた。そこには、身なりは良いが、やつれた様子の男が一人、椅子に座っていた。

「待たせてすまない」

 リーリアがそう言ってルシアンから預かった薬の瓶を差し出すと、男はそれを手に取り、震える手で蓋を開けた。中に入っていたのは、薬ではなく、数枚の薄い紙だった。

「…これは?」

 リーリアが驚いて尋ねると、男は静かに顔を上げた。

「これは、王国が密かに進めている、違法な『奴隷売買』の証拠だ」

 男は、王族の親戚で、地下の裏情報に通じている人物だという。彼は、良心の呵責から、この情報を騎士団に流そうとしていたのだ。

「ルシアンは、この情報を私に託したのですか?」

「…いや、違う」

 その時、背後からゼノンが口を開いた。

「ルシアンが渡したかったのは、この証拠ではない。この男を始末するための、毒だったはずだ」

 リーリアは息をのんだ。ルシアンは、最初からこの男を殺すつもりで、私を利用しようとしていたのだ。

「ルシアンは、騎士団の真実を知っている。だが、彼は、その真実を隠し、王家から金を引き出そうとしている。…だから、お前は、この男を殺し、罪を被るはずだった」

 ゼノンの言葉に、リーリアは震えが止まらなかった。彼は、私を試していたのだろうか。

 それとも、私のことを、最初から信じてはいなかったのだろうか。

「…なぜ、あなたは私を助けてくれたのですか?」

 リーリアがそう尋ねると、ゼノンは、何も言わずに彼女をまっすぐ見つめた。

 その瞳に宿るのは、疑いでも、嘲笑でもない。ただ、彼女を信じているという、強い光だった。
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