王子がカエルにされた理由(ワケ)

羽衣野 由布

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 夜になり、寝間着姿になったラナはベッドに入った。

 「…本当にそれでよろしいのですか?」

 「え、ええ…。なんだか、こっちの方が落ち着くんですって」

 「そうですか……では、お休みなさいませラナ様」

 「ありがとう、モナルダ。おやすみなさい」

 扉は閉められ、寝室にはラナとカエルの2人だけになった。

 「…もう!どうして私のベッドに入るのよ?!あなたの寝床はそこに用意したじゃない!」

 部屋の端に置かれた寝床を指差し、ラナは隣にいるカエルに怒りをぶつけた。

 「あんな狭苦しくて固い所でなんか寝られるか!」

 カエルにとって快適となるよう、寝床はガラスケースに箱庭を入れたような作りになっていた。

 水浴びもできるようにちゃんと小さな池もあり、とても素敵に作ってもらった。

それなのに、中身が王子のカエルはこれを完全に拒否した。

 モナルダ達の前ではただのカエルで通しているため、彼女らの前では強く怒る事ができず、カエルのイベリスはちゃっかりラナのベッドに潜り込んでいたのだった。

 「今のその姿なら、きっと快適に感じるはずよ?」

 「ふんっ!断る!そんなに言うならお前が寝ればいいだろ」

 「無理に決まってるでしょ!……はぁ、もういいわ。好きにしてちょうだい」

 ラナは諦めのため息をつくと、ベッドを下りてクローゼット横の隠し扉を開けた。

 「うおっ!何だそれは?!」

 「避難用の隠し通路よ。さ、魔女の所へ行きましょう?」

 「っ……、お、お前1人で行けばいいだろ」

 「まだそんな事を言っているの?一緒に行ってくれなきゃ、あなたに呪いをかけた魔女かどうか分からないでしょ」

 渋るカエルを抱き上げ、ラナは階段を下りていった。



  †††



 いつものように黒い格好に着替えると、オーバーオールの胸のポケットにカエルを入れ、隠し通路から城下の路地裏へ出た。

 ランタンの灯りを頼りに町のはずれにある小さな家へ向かい、裏口の戸を叩く。

 するとカチャリと開いて、男が1人出てきた。

 それは、2メートルを優に超す大男だった。

 驚いたカエルのイベリスはポケットの中へと引っ込む。

 「こんばんは、ベンジャミン」

 「…………」

 「いつもお世話ありがとう。今日もよろしくね」

 「…………」

 大男の無言を気にする事なく、ラナは彼に紙袋を手渡した。

 それは、ティータイムの時にこっそり取っておいたものだった。

 「はい、これ。今日はあなたの好きなマドレーヌにしてみたの」

 「…………」

 ベンジャミンはちらりと紙袋を見据えると、静かにそれを受け取った。

 「ふふ。喜んでくれて嬉しいわ。それじゃあ借りていくわね」

 「…………」

 こくりと頷くベンジャミンに軽く手を振り、ラナは馬小屋へ向かった。

 「…おい、あれは誰だ?」

 イベリスがポケットから顔を出し、疑問を呈した。

 「彼はベンジャミン。ここで馬の世話をしてもらっているの」

 それは隠し通路と合わせて避難用に用意されている馬だった。

 したがってベンジャミンが実は城に仕える者であるという事は、王族以外誰も知らない。

 ラナは森へ通うため、頻繁にその馬を借りていた。

 「あいつ今喜んでたか?」

 「え?喜んでたわよ?」

 「どこがだ?何も反応がなかっただろうが」

 「ほんの少し笑ってくれたじゃない」

 「はぁ?!何も変わってなかったぞ?!」

 「変わってたわよ。ちょっと分かりにくいけどね」

 「ちょっとじゃないだろ!」

 「彼はシャイなの。話すのが苦手なだけで、とてもいい人よ」

 「意味が分からん!」

 あんな無反応な奴、俺の臣下だったら即刻クビだ!

 そんなカエルは放っておいて、ラナは馬小屋から馬を1頭外に出す。

 慣れた動作でひらりと飛び乗り、カエルのイベリスに注意を促す。

 「しっかり捕まっててね、カエルさん」

 「おい!カエルって呼ぶな!」

 「あなたこそ、『おい』って言うのやめて」

 ラナを乗せた馬は、夜の闇へと駆けていった。



  †††



 城の北東にある森へと到着。

 その入り口辺りに馬を繋ぎ、『行ってきます』と顔を撫でると、ラナはランタンを手に森へ入っていった。

 「おい、お前はこんな中でも道が分かるのか?」

 「ええ、大丈夫よ。よく通る場所は覚えているし、目印だってつけてあるもの」

 その言葉通り、ラナは迷いなくザクザクと分け入っていく。

 しかしイベリスには、どこを見ても同じ景色にしか見えなかった。

 「場所を覚える?全部同じ木の集まりじゃないか」

 「木の種類や生え方、地形だって、同じものは一つとしてないわ。よーく見ると分かるものよ」

 ん~~~…………分からん。

 しかし、分からないとは言いたくない。

 「…ふ、ふんっ!そんな面倒な事をせずとも、結局は目印があれば進めるのだろう?」

 「ここは自然の中よ?目印なんてすぐに消えてしまうわ。あまり頼り過ぎるものではないわね」

 「ぐっ…じ、じゃあもう森には入らん!」

 「ふふ。賢い判断ね」

 そんな言い合いをしているうちに、2人はひっそり佇む苔に覆われた石造りの家に到着した。

 「かっ、確認はしてやる!だが話はお前がつけろ!」

 そう言うなり、イベリスはポケットの中へ引っ込んだ。

 「あ、ちょっと!だめよ、そんなの!ちゃんと自分で話してもらいますからね」
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