2人の秘密はにがくてあまい

羽衣野 由布

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彼女の休日

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 土曜日。ジーンズに白Yシャツとグレーのセーターというラフな格好の碧乃は、中央図書館にいた。中間試験が終わったため、空き時間に読む本を借りに来たのだ。この図書館は中央駅の近くにあり、蔵書量がとても多いので、本好きにはたまらない場所だった。碧乃も小さい頃からここへ通い、さまざまな本を読み漁っていた。おかげで、館内の棚の配置は完全に覚えてしまっていた。

 とりあえずいつものように、自分の好きなジャンルの棚へ向かい、気になる本がないか探していった。碧乃は、現実とは違う世界を見せてくれるファンタジーなどが好きだった。

 1時間ほど悩んで、最終的に3冊借りる事にした。本当はもっと読みたいのだが、今月中に美術部での作品を完成させなければいけないので、授業の合間などで読み切れる量に抑えたのだ。

 手続きを済ませて腕時計を見ると、午後1時に差し掛かる所だった。

 お昼、どうしようかな…?

 いつもは図書館に併設されているカフェで食べる事が多いのだが、何度も通っているのでいい加減飽きてきた。

 どこにしようか考えると、この間食べたオムライスが浮かんだ。

 他のメニューも気になっていたし、あのおいしいコーヒーも飲みたくなってしまったので、喫茶小路へ行く事にした。小坂は部活があるから、鉢合わせる事はないだろう。

 彼は今結果待ちの状態なので、とりあえず練習を再開していた。何教科か採点が終わって戻ってきたが、今のところ赤点はないらしい。答案を受け取った時に嬉しそうな顔をしているので、直接聞かずとも伝わってきていた。

 小坂とは、カラオケの時以来全く会話をしていなかった。試験勉強の間ずっと誘いを断り続けたツケが回ってきて、彼は友達の対応に追われていたのだ。当然、こちらから話しかける事もないので、結果今に至っている。こちらとしては、ずっとこのままの方が気が楽で良いのだが、多分それはないだろう。どうせまた人をからかいに来る。小坂と言い、藤野と言い、なぜか自分はいじりがいのある人間に認定されていた。対応が面倒なので、もう少し普通に接してほしいものだ。





 カランカラン、と扉のベルが鳴る。

 「いらっしゃいませ。おや、碧乃ちゃん」

 中野さんの優しい声が出迎えてくれた。この声を聞くと、なんだかとても落ち着く。

 「こんにちは」

 「1週間ぶりだね。今日は1人かい?」

 中野さんは洗ったお皿を拭きながら尋ねてきた。

 「はい。急にここのコーヒーが飲みたくなってしまったので」

 碧乃は笑顔でそれに答えた。

 「それは嬉しいねぇ。さあ、中へどうぞ」

 一瞬いつもの席に行こうとして、ためらってしまった。

 「ん?どうしたんだい?」

 その様子に気付いた中野さんが話しかけた。

 「あ…、1人であの席は、ちょっと広いかなって思って…」

 「ああ、そうか。じゃあたまにはこっちに座ってみるかい?」

 中野さんは目の前のカウンターを示した。

 「あ、じゃあ、そこにします」

 彼の真正面は緊張してしまうので、少し斜め辺りの位置に座る事にした。

 「注文はいつものコーヒーかな?」

 「あ、お昼も食べたいなと思ってて…」

 「そうかい。じゃあ決まったら声かけてね」

 そう言うと、他の客の所へ食器を下げに行った。土曜日の昼時なのでいつもより客数は多いが、前回ほどではなかった。

 碧乃は目の前に置かれていたメニューを開いた。

 うーん………、悩む。やっぱりどれもおいしそう。

 ずっと悩んでいる訳にもいかないので、印象に残っていたナポリタンに決めた。

 中野さんが戻ってきたので、注文を伝えた。

 「…そういえば、光毅君はいつもナポリタンを頼んでいたねぇ」

 パスタを茹でながら、中野さんは思い出したように碧乃に話しかけた。

 「そうなんですか?」

 「ああ。たまに違うものにしている時もあるけど、大抵はこれだね」

 「よほど好きなんですね」

 碧乃が言うと、メガネの奥から苦笑いが返ってきた。

 「気に入ってくれるのは嬉しいんだが、あんなに幸せそうな顔されると、なんだかこっちは照れちゃうよねぇ」

 小坂のその顔を思い出し、つい笑ってしまった。

 「ふふっ。そうですね」





 碧乃が中野さんと談笑しながら食後のコーヒーを楽しんでいる頃、小坂はいまいち部活に集中できず、珍しくシュートを外していた。
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