2人の秘密はにがくてあまい

羽衣野 由布

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楽しい楽しい日々の始まり

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 深い深い森のような心の奥に、それはあった。

 いつからそこにあったのか、自分でもよく分からない。

 どうして存在してしまったのか、それは私の心が弱かったから。

 弱い心を守るためあらゆる感情を押し込めているうちに、黒く醜い塊ができあがり、いつの間にか、守ろうと思っていた弱い心を飲み込んでいた。

 それは、決して森の外へ出してはいけないもの、人が触れてはいけないものだった。触れたら途端に、その人は酷い悲しみと嫌悪に苛まれる。

 人の心に、絶対に存在してはならないもの。その姿は、さながら悪魔。

 しかし存在してしまった。弱い心が生み出してしまった。

 気付いた時には、もう元には戻せない程大きくなっていた。

 人に打ち明けて助けを求める事などできるはずもなく、しかしながらそれは、人と関わるたび少しずつ大きくなっていった。

 このままでは、いつか人の目に触れてしまう。

 戻す事ができないのなら、隠すしかない。

 そう思い、それの周りに壁を築いた。

 誰の目にも触れないように。何があるかも分からないように。

 何年もかけて分厚く、強固に作り上げた。森の奥に壁がある事すら気付かれないよう、表面には『無関心』という名のだまし絵の装飾を施した。自分自身も騙せるように。

 人と深く関わらないようにする事で、それが大きくなるのを防いだ。

 出来は正に完璧だった。完璧だと思っていた。

 ……しかし。

 その壁が、木っ端微塵に打ち砕かれた。

 今まで誰一人近付く事すらさせなかったその壁に、彼はいとも容易く近付き、触れた。そして壊した。

 彼の心に同調してしまった自分の弱い心が、彼の接近を許してしまった。

 彼の行動を甘く見ていた、完全なる自分の落ち度。

 けれど、そこは暗い暗い森の中。彼はまだ、壁の中に何があるかを見ていない。そこに壁があった事に、壁を壊してしまった事に、ただただ驚いているだけ。

 今ならまだ間に合う。

 だから、私は再び壁を築く。

 今度は壊されないように。近付く事すらできないように。

 あなたの心を守るため、私はあなたを遠ざけよう。

 大丈夫。あなたはただ、私に振り回されていればいいから。

 壁ができるまで、私を楽しませてくれればいいから。

 そうしてるうちに、いつの間にか壁の事なんて忘れてしまえる。余計な疑問も抱かなくなるよ。

 素直な心を持つあなたは、あんなものに触れちゃいけない。



 †††



 ふっと目が覚め、枕元のスマホを手に取る。

 午前5時58分。今日はちゃんと、アラームの前に起きる事ができた。6時に鳴り出したそれをすぐに止める。

 うーんと伸びをして窓へ向かい、カーテンを引き開けた。

 空はくもり。けれど心の中は、なんだか晴れ晴れしていた。

 ……だって。

 今日から新しいおもちゃで遊べるのだから。

 「ふふ…」

 思わず笑みがこぼれる。

 ああ、楽しみで仕方がない。

 どうやって遊ぼうか、そればかりを考えながら碧乃は仕度を始めた。



 †††



 森の外では、燦々と光が射している。

 光が射せば射す程に、森の奥は暗く見えなくなっていく。



 †††



 「おはよー」

 「ああ、おはよう」

 「えっ…」

 1階へ降りてきた陽乃は、碧乃を見るなり顔をひきつらせた。

 「な、なんで笑顔なの…?お姉ちゃん」

 「え?別に普通だけど」

 「いやいやいやいや!普通じゃないから!私に微笑みかけるとかあり得ないから!」

 「そう?」

 ブンブンと手を振って否定する陽乃に、首を傾げてみせた。

 「そーだよ!!何なの?!何企んでるの?!」

 言いながら陽乃はずいっと詰め寄ってきた。

 碧乃は涼しい顔で目の前の焼き鮭に箸を入れる。

 「企んでるなんて、そんな人聞きの悪い」

 「だってお姉ちゃんが笑ってる時って、怖い事考えてる時じゃん!!」

 「んー、そうだねぇ。例えば…」

 陽乃にニコリと笑いかけた。

 「陽に仕返しする時、とか?」

 「ひっ!!?」

 「次は邪魔しちゃだめだよ、陽乃ちゃん?」

 にこやかな笑顔を前に、陽乃は首が取れんばかりの勢いでこくこくと頷いた。

 同じテーブルについていた父と弟は、関わるまいと黙々と箸を進めていた。





 電車を降り、学校への道に歩を進める。

 今は11月の下旬。あと数日もすれば12月に突入する。世間一般では、クリスマスシーズン真っ只中。

 いつもはただの景色の一部としか見ていなかった駅前のイルミネーションも、お店の窓に吹き付けられたスプレーのサンタも、今日はなんだか心を浮き立たせてくれる。

 楽しい。楽しい。

 こんなに楽しい日が、今まであっただろうか。

 …あの2人には感謝しないと。

 ほころびそうになる顔を、手で軽く触れて引き締める。

 ケーキ屋の前を通る時、ふと思い出した。

 ああ、そうだ。今年は何のケーキにしよう?

 いつもはシンプルで味気ないチーズケーキを作っていたけど、今年は趣向を変えてみようか。

 うんと豪華で、うんと甘い、ちゃんとしたクリスマスケーキに。

 お父さんには申し訳ないけど、今は凝ったものを作りたい気分。

 …ごめんね。

 次の私の誕生日にはちゃんとチーズケーキに戻すから。

 だから今回だけ、我慢してね。



 §



 「なぁ、光毅」

 「んー?」

 「歩いてる時ぐらい見んのやめたら?」

 「んー…」

 「……」

 聞いてねぇな、こいつ…。

 隣の彼は今、地理の暗記用のテキストとにらめっこをしてブツブツ呪文を唱えながら歩いていた。

 「時間が惜しいのは分かるが、よそ見してっとコケるぞ?」

 って言ってる間に、目の前にケーキ屋の看板が。

 「おい危な…」

 ひょいっと避けて、再び呪文を唱え出す。

 「……」

 見えてんのかい。

 じゃあいいかと要らぬ心配をやめ、圭佑は頭の後ろで手を組んだ。

 「しっかし、まさかあの勉強嫌いがここまで頑張るようになるとはねぇー」

 「……」

 「ちょっと前じゃ考えられねぇなぁー。『愛の力は偉大だ』ってか?」

 「……」

 「…そんなにご褒美が欲しいか、犬?」

 「犬じゃねぇ!」

 「ありゃ、聞こえてたの?」

 ニヤリと笑いかけると、光毅は鋭く睨んでプイッとテキストに目を戻した。

 「無理だって思われてんのが悔しいから、見返してやるんだよ!」

 「欲しいのは否定しねぇのな?」

 「!?……だ、だって……欲しいもんは…欲しい…」

 顔を赤らめ、ごにょごにょ言う口元をテキストで隠した。

 その様子に圭佑の目が据わる。

 ………お前は恋する乙女か。

 「…キモい」

 「キモい言うなっ!!」

 「お前、完全に手の上で転がされてんなぁ。そうやって頑張ったら、あいつの思うツボだってのが分かんねぇの?」

 「うるさい!放っとけ!!ってかお前だって十分振り回されてんじゃねぇか!『騎士様ないとさま』なんて呼び方に反応し──」

 「んだとこら?」

 テキストを持っていた光毅の手をひっつかみ、捻り上げた。

 「いだだだだっ!!?ほ、ほら!そうやって!!人格崩壊してんじゃん!!」

 「うるせぇ。お前、次それ言ったらマジでシメんぞ?」

 どす黒さ漂う睨みを光毅に向けた。

 「分かった!言わねーよ!!だからもう離せよ!!」

 圭佑は乱雑に光毅の手を離した。

 「ふんっ」

 「いってーなぁ、もう…」

 手首をさすりつつ、光毅は地面に落としたテキストを拾った。

 「つーか今ので、せっかく覚えたのがちょっと飛んだじゃねぇか」

 「知るかよ」

 「もう話しかけんなよ?」

 「わーったよ」

 光毅の睨みを適当にかわし、歩みを再開する。

 すると校門に差し掛かった辺りで、女子生徒達が向かってくるのが見えた。

 さりげなく離れると、途端に彼女らは光毅を取り囲んだ。

 「え、わぁっ?!」

 勉強に集中しかけていた光毅は反応が遅れ、逃げる間もなく捕まった。

 「おはよぉー!小坂くぅん」

 「なになに?朝から勉強してるのー?」

 「すごーい!」

 「あれー?地理嫌いって言ってなかったぁー?」

 「いや、あの…」

 「えー!嫌いなのに頑張ってるなんてカッコいいー!」

 「ホント尊敬しちゃーう!」

 「小坂君なら、本気出したらすぐできちゃいそうだよねー!」

 「ねー!だってこの間の中間テストも、赤点軽々越えちゃったもんねー!」

 「……」

 なんとなく傍観していると、勉強が中断された事と心ない言葉のせいで光毅から表情が消えていくのが見えた。

 「あー……」

 苛立ってんなぁ、あれ。…ちょっとやばいかも?

 と、状況に耐えかねた光毅が苛立つままに言葉を発した。

 「あのさぁー」

 女子達が一斉に目を輝かせて耳を傾ける。

 「悪いけど、今忙しいから話しかけないでくんない?」

 瞬間、光毅の周りの空気が変わった。

 え、と声を漏らし、女子達の表情がピシリと固まる。

 「あーあ…」

 やっちゃった…。お前こそ崩壊してんじゃねぇか。

 圭佑はすかさず間に入り込んだ。

 「あーごめんごめん!ちょーっと通してねー!」

 無言で冷めた目をしている光毅を集団から引っ張り出し、玄関へ連れていきながら女子達に謝罪をした。

 「ごめんねぇー。今こいつ勉強がはかどらなくて余裕ない状態なんだ。だから大目に見てあげて?」

 「あ、そ、そうなんだぁ」

 「びっくりしたー」

 「ごめんねー小坂君、邪魔しちゃってぇー」

 「勉強頑張ってねー!」

 「はいはい、応援ありがとねー!」

 彼女らにヒラヒラと手を振り靴箱の所へ到着すると、渋い顔で光毅を睨んだ。

 「おい、『優しいお兄さん』どこいった?」

 対する光毅は、むすっとして靴箱を開けていた。

 「だって今のでまた飛んだ…」

 「だからってあれはダメだろ」

 「……」

 むーっとふくれた光毅に、思わずため息が漏れる。

 「お前が冷たくなったのは斉川のせいだってなって、またあいつにとばっちりがいったらどうすんだよ?」

 「あっ……ご、ごめん…」

 ハッとしてそれを理解すると、光毅はシュンとうなだれた。

 圭佑はなだめるようにその背中を軽く叩いた。

 「ったく…。まぁそうならないように俺がフォローしてやるよ。けど、お前もちゃんと考えて動くんだぞ?あいつに散々言われたろ?」

 「ああ…うん。…分かった」





 しかしそれがいかに大変かを、教室に着くまでの短い間に思い知らされた。

 会う人会う人皆に絡まれ、その度に光毅は『優しいお兄さん』の口調でやんわりと勉強に集中したい旨を伝え解放してもらうという事を繰り返していた。それでもまとわりついてくる奴には、圭佑が間に入ってやり過ごした。とばっちりがどうとか言っておきながら、隣にいるこちらがイライラしてきてしまった。

 やっと教室に到着という所で、つい不満が漏れる。

 「なんなんだよあいつら!集中しようとしてんのが丸分かりなんだから、話しかけんじゃねぇよ!」

 あわよくば懐に入り込もうという魂胆が見え見えで、不快な事この上ない。

 「しょうがないだろ。結局は自分の事しか考えてないんだから」

 「近付きたいと思ってんなら、気遣うぐらいしろっての!自分で自分のポイント下げてんの分かんねぇのかな」

 「はは、つーかなんで圭佑が怒ってんだよ?」

 「お前が怒れねぇから代わりに怒ってやってんの!感謝しろ!」

 「はいはい、サンキュ」

 「おうよ!」

 クスクス笑う光毅にニヤリと笑い返し、開け放たれた教室の扉をくぐった。

 すると、男女入り混じる人だかりが廊下側の席の辺りにできているのが見えた。

 「あちゃー…」

 まーた囲まれてるよ…。しかもなんか人数増えてるし。

 ……………そして三吉もまたいるし。

 思わず額を押さえる。

 今彼女は、頭に手をやり思案する斉川の腕に困惑顔でしがみついていた。

 「あ!小坂君おはよー!」

 「おはよう、小坂くん!」

 「あ、ああ、おはよう」

 「……」

 こっちもまたかよ…。

 うんざり顔を寄ってきた女子達に向けると、斉川の声が聞こえてきた。

 「あーもう、分かった!じゃあそれでいいから、今は自分の席戻って」

 「やったー!!」

 「りょーかいです!姐さん!」

 「んじゃまた後でー」

 見ると、斉川の前に立つ3人の男子生徒が嬉しそうに返事をして離れていった。

 「……」

 あの3人は、斉川に『舎弟にしてほしい』などと馬鹿な事を言って迫っていた奴らだ。気持ち悪いからと、彼女は冷たく突き放していたはず。

 …何があったんだ?

 「あと皆も、放課後になったら来て。その方がゆっくり教えられるから。それまでは私の勉強時間に充てさせてくれると嬉しい」

 斉川がふっと優しく笑いかけると、周りにいた生徒達は頬を赤らめて快諾し、自分の席へ戻っていった。

 光毅と目配せすると、圭佑は斉川と三吉に近付いた。

 「おはよ、2人共。大丈夫だったか?」

 振り向いた斉川は、圭佑を見るなりなぜかパッと顔を輝かせた。

 「あ!おはよう」

 なんだ、その顔…?嫌な予感しかしねぇんだけど。

 しかし今はそれよりも気になる事がある。

 「お、おはよー山内くん」

 「あのさ三吉ちゃん、なんでまた巻き込まれてる訳?昨日、俺が助けるから何かあったら呼んでねって言ったじゃん」

 先の3人組は、元は三吉に迫っていた連中だった。したがって昨日の朝同じ状況ができあがっていた際に、少々きつめに彼女に忠告しておいたのだ。

 せっかく排除したのに、三吉の方から近付かれては意味がない。彼女自身も奴らの事は分かっているはずなのに、なんで自ら危険な目に遭おうとするのだろうか。

 怖がりなくせにそんな事して…。俺は君の怯えた顔なんか見たくないんだよ?

 「あ、そ、それは…えっと…」

 三吉は斉川の腕にしがみついたまま、もじもじと言いよどんだ。

 「っ……」

 ったく…いちいち可愛いなぁ、もう!けど負けるもんか!

 三吉のためだからと、圭佑は表情に怒りを滲ませてみた。

 「…萌花ちゃんは萌花ちゃんなりに責任感じてたみたいだよ」

 圭佑の視線から逃れるように後ろへ隠れ出した三吉に代わり、斉川がふっと苦く笑って答えた。

 「は?責任?…何の?」

 つーか隠れるなよ、その動き可愛いから。斉川羨まし過ぎるぞ。

 「『那奈ちゃんが騒ぎ出した時に止めなかったから』って。そうでしょ?萌花ちゃん」

 「へ?…そうなの?」

 2人の視線を受け、三吉は斉川の後ろからばつが悪そうに顔を覗かせた。

 「う…うん…」

 「萌花ちゃんは悪くないって言ってるのに」

 「だってぇ…」

 「いや、だからって、なんでそれが1人で斉川を助けに行く事に繋がるのさ?」

 「え、あ、あの……その…」

 またしても、三吉は斉川の後ろに隠れていった。

 可愛いけど、今はじれったさのせいで怒りの方が強くなってきた。

 「三吉ちゃん」

 早く言いなさい。

 するとそこへ、藤野が近付いてきた。

 「おはよー。何?どしたの、萌花?」

 「あ、な、那奈ちゃんおはよー…」

 「おはよう。今ね…」

 斉川が答えようとした所で、ガラッと扉が開き担任が教室へ入ってきた。

 「あ!せ、先生来ちゃった!私もう戻るね!」

 「は?!こら三吉ちゃん!まだ話終わってな…」

 パタパタと、三吉は自分の席の方へ走っていった。

 「…逃げたな」

 「逃げたね」

 クスッと笑う斉川と共に、渋い顔で見送った。

 「萌花が逃げるなんて珍しー。あの子何やらかしたの?」

 「んー、ちょっとね。あとで教えるよ」

 可笑しそうに言いながら、斉川は自分の席に座った。

 「ふーん、なんか面白そー。じゃああとで絶対ねー」

 「分かった」

 「……全然面白くねぇよ」

 離れていった藤野の後ろ姿を軽く睨み付けてぼやくと、圭佑も席についた。

 朝のホームルームが始まる中、窓側で光毅に話しかけられている三吉を見据える。

 「俺の努力を無にする気かっつーの」

 するとそれに答えるように、斉川も三吉を見ながらクスリと笑った。

 「結構厄介な性格してるよね、あのお姫様」

 「ああ、みたいだな…って、あいつは『お姫様』かよ」

 「うん、そうだよ。かわいいでしょ?」

 「……」

 そりゃ可愛いけど。

 「影からお守りするのは大変そうだねぇ、騎士様ないとさま?」

 「っ!?」

 早速言いやがったこいつ!!

 恥ずかしさに顔が熱くなる。

 「お、お前このっ!今すぐその呼び方やめろ!」

 ホームルーム中のため怒鳴る訳にいかず、小声で語気だけをうんと強めた。

 「えー?なんで?すごくピッタリなのに」

 対する斉川は担任に注意を向けつつ、なんとも楽しげに返してきた。

 「全然ちげぇよ!馬鹿にしてるだけだろが!」

 「そうかなぁ?違わないと思うけど」

 「違うっつの!いいか、もう二度と言うなよ。次言ったら女だからって容赦しねぇからな」

 「ふふ、しょうがないなぁー。分かったよ」

 「……」

 絶対分かってねぇだろ…。

 これ以上からかわれては困ると、圭佑は話題を変えた。

 「そ、そういや斉川、あいつらと何話してたんだよ?」

 「ん?…ああ……あれね」

 それを思い出した途端、彼女の笑みが苦いものに変わった。

 担任が連絡事項を述べだしたので、一度会話を止める。

 ホームルームが終わって担任が出ていった所で、再び彼女に話しかけた。

 「…で?何があった?」

 斉川はこちらを振り向いて答えた。

 「いや、それが…」

 聞けば、斉川がうっかりさっきの舎弟希望者のうちの1人に挨拶を返してしまい、あとの2人が『俺も俺も』としつこくせがんできたらしい。それで仕方なく返し、挨拶以外は話しかけるなと言ったのだが、今度は『これで舎弟に認められた!』と騒ぎ出したのだそうだ。

 「…んで面倒くさくなって、承認しちまったと」

 こくっと、ばつが悪そうな頷きが返ってきた。

 「なんで返しちゃったんだよ?」

 渋い顔で睨むと、斉川は笑って頭に手をやった。

 「あー、いや、考え事してたらつい…あはは」

 「あははじゃねぇだろ。何考えてたんだよ?」

 「えー?それは教えられないなぁ」

 クスリと笑う目の奥に意地悪さを認め、その内容を瞬時に悟った。

 仕返しの事か…。

 「…あっそ。でもどうすんだよ、あいつら『舎弟』にかこつけて何してくるか分かんねぇぞ?」

 光毅にすり寄ったり三吉に迫ったりと、おのれの利しか考えてない奴らなので、こちらの言動1つで態度を一変させるはずだ。実際、より強い斉川の側につくために簡単に光毅に掌を返したのだから。

 今彼らは、圭佑には近寄りたくないらしく、離れた場所で会話をしていた。

 「大丈夫だよ。怒らせない程度にあしらうから」

 「マジで気を付けろよ?3対1じゃどうやったって敵わねぇ。まずい事になりそうな時は、ちゃんと俺に言え。いいな?」

 「えー?山内君にかぁー…」

 「なんだよ?俺じゃ不満かよ?」

 「だって騎士様お忙しいから」

 「なっっ!?て、てめっ!!また言いやがったな!?」

 「あははは!顔が赤いよ山内君」

 「赤くねぇっ!!つーか人が真面目に話してんだからふざけんなっっ!!」

 「ねぇ、容赦しないって具体的に何してくれるの?ものすごく興味あるんだけど」

 背もたれに頬杖をつき、真っ直ぐに目を合わせてきた。

 「は、はぁっ?!!なんてとこに興味持ってんだお前!!」

 「だって私じゃ思い付かないような事してくれそうなんだもん。気になって当然でしょ?」

 「んな訳あるか!!頭おかしいんじゃねぇのか?!」

 「あれ、褒めてくれるの?ありがとう」

 「褒めてねぇよっ!!!」

 『頭おかしい』のどこが褒め言葉なんだよ?!!

 「ねぇ、本当に何するの?これじゃあ気になって授業に身が入らないよ」

 「知るか!!」

 「ああ、なんだ、まだ思い付いてないのか。つまんないの」

 「っ!…」

 カチンッ。

 怒りの音が脳内で聞こえた。声を張り上げ、ビシィッと斉川を指差す。

 「ああそーだよっ!!なんも思い付いてねぇよ!!けど今に見てろ!?その生意気な口が二度ときけねぇようにしてやるからな!!!覚えとけっっ!!」

 周りの生徒が驚いてこちらを見るも、怒りのせいで圭佑の目には入らない。

 「…ふふっ。へぇー、そう。それは楽しみだなぁ。頑張ってね…ないとさま」

 「!!?」

 満面の笑みで最後の言葉を強調すると、斉川はクスクス笑いながら前を向いた。

 「っっ………」

 思わず拳に怒りがこもる。

 くっっっそぉぉーーーーー!!!ぜってぇ弱点見つけてやるからな!!!



 §



 「姐さん姐さん!さっき山内と何話してたんすか?!」

 「なんかすげー怒ってたじゃん!」

 「顔真っ赤にしてさー、マジウケたわ!」

 「……」

 …話しかけるなって言ったのに、早速これか。

 1限目が終わり飲み物を買いに行こうと教室を出た途端、舎弟3人組が碧乃を取り囲んだ。

 せっかくの楽しい気分を害され不機嫌さを露わにするも、お構いなしに会話は続く。

 「『生意気』とか言ってたけど、お前の方が生意気だっつーの」

 「小坂の親友だからって、いい気になってんじゃねぇよ。ねぇ?姐さん」

 「……」

 私に同意を求めるな。

 無視して歩くと、さも当然かのようについてきた。

 鬱陶しい。やっぱり承認するんじゃなかった。…いや、どちらにしろついてきてたか。

 「なんかあいつの弱みでも握ってんすか?だったら教えてほしいなぁー」

 「俺ら実は、あいつに1回ボコられてんすよぉ」

 「理由もなくいきなりとか酷くないすか?!」

 「ムシャクシャしてたからってさー」

 「もう暴力反対ー!」

 「……」

 よくもまぁ、そんな堂々と嘘を並べられるものだ。同情をひくような演技までつけて、いっそ感心すら覚える。

 山内は理由もなく人を殴ったりしないし、そもそも多分彼らを殴ってない。先日のように軽く技をかけるなりして脅しただけだろう。

 三吉萌花の側にいた私が何も気付いてないと思ってるのがすごいよなぁ…ああ、それ以前に彼女自身に見抜かれてる事が分かってないか。

 なんともめでたい人達だ。

 自分もそれくらい鈍かったら、もっと気楽に生きてこられたのだろうか。

 「…って、姐さん話聞いてますー?」

 ぼんやり歩いていると、1人がずいっと顔を覗き込んできた。

 「っ!」

 一瞬驚くもすぐに表情を無に戻し、その横をすり抜ける。

 「聞いてない」

 「えぇー?!姐さんひどっ!」

 「塩対応ハンパないわー」

 「山内の弱点教えてって言ってるんすよぉー」

 「…なんで教えなきゃいけないの?」

 誰とも目を合わせる事なく言い放ち、自販機に向かう。

 「だーかーらー!あいつにやり返してやりたいんですって!」

 「このまま黙って泣き寝入りなんてできないっすよ!」

 「悪い奴は懲らしめないと!」

 「ふーん…」

 悪い奴ねぇ。

 財布から小銭を取り出し、自販機に投入する。

 「お願いしますっ!」

 「可哀想な俺らのためにも!」

 「どーかお慈悲をー!」

 「……やだ」

 お茶でいいか、と光るボタンを押した。

 「えー!なんでっすかー?!」

 「今やらないと、また被害者が出るかも知れないんすよー?!」

 「そーそー!マジ危険ですって!!」

 「教えない」

 「なんでー?」

 「だって……」

 ペットボトルを取り出すと、碧乃は振り向いてニコリと笑いかけた。

 「私の楽しみがなくなっちゃうでしょ?」

 「「!!」」

 突然の笑顔での返しに、3人の口は声を忘れた。

 「あの人は私のおもちゃなの。だから勝手に手出さないでね?」

 まぁ、出した所で勝てるはずないけど。

 目を丸くする彼らの間を、涼しい顔で抜けた。

 数歩歩いた所で、我に返った3人組が再び後ろをついてきた。

 「あ、そそそーっすよね?!」

 「でしゃばった真似してすいませんっした!」

 「いやぁー、でもあいつをおもちゃにしちゃうなんてすごいっすねー!!」

 「さっすが姐さんっ!!」

 「……」

 なんて簡単な人達だ。

 こんなのに負ける事なんてあり得ない。

 …まぁ、油断しないようにだけ気を付けておくか。

 階段を登り2階の廊下へ出ると、不安気に誰かを探している藤野と遭遇した。こちらを見つけるなり、声を張り上げズンズン近付いてきた。

 「あ!?いた!!ちょっとあんたたち!?碧乃っちに付きまとって何やってんの?!」

 「げー、藤野だ」

 「あいつマジウザいよなー」

 「うるさい女ってキラーイ」

 「って事で、姐さんまたねぇー」

 藤野が辿り着く前に、ヒラヒラと手を振って3人は碧乃から離れていった。教室には向かわなかったので、おそらくサボるのだろう。

 「あー逃げられた!」

 碧乃の隣に立つと、藤野は怒りを露わに彼らの後ろ姿を睨み付けた。

 一緒に傍観していると、彼女の怒りが突然こちらへと方向を変えた。

 「もーーーっ!!碧乃っち!?1人で勝手にウロウロしちゃダメって言ったじゃん!!!」

 ビクッと反応し、目をしばたたく。

 「っ!?……へ?…あー、そういえば」

 昨日そんな事言われたな。小坂達と話をつける時は特例だって言って許してくれたんだった。

 おもちゃの事で頭がいっぱいで忘れてた。

 「そういえばじゃないっ!!授業終わって見たらいなくなってんだもん、びっくりしたじゃない!!」

 藤野は掴みかからんばかりの勢いで詰め寄ってきた。

 「ご、ごめんて…。でもそんなにびっくりする事?」

 「するから!!ちゃんと私に声かけてよ!?」

 「いや、だって、飲み物買いに行くだけだし」

 「行く途中で誰かに何かされたらどうすんの?!!」

 「別に大丈夫だよ。私怖がられてるみたいだし」

 「今絡まれてたじゃん!!」

 3人が消えていった方を指差し、更に詰め寄ってきた。

 「え?あ、ああ…あれはなんか、くだらない話しながらくっついてきただけだったよ?」

 「今回はそうでも次はどっかに連れてかれるかも知れないでしょ?!」

 「んー、そうかなぁ?」

 刺激しなければ大丈夫だと思うけど。

 「そうだよ!!!危険だからもう絶対1人にならないでね?!」

 「えー?ちょっとくらい大丈──」

 「ダーメ!!ちゃんと言って!!」

 「はぁ…分かったよ」

 「絶対だからね?!」

 「はいはい」

 「『はい』は1回!!」

 「はぁい」

 「何その返事!?ちゃんと危機感持って!!」

 「持ってるよー」

 「だったらちゃんと態度に示して!!!」

 「えー?ふふっ、てか那奈ちゃんお母さんみたい」

 「からかわないの!!」

 「ああ、そう聞こえた?ごめん」

 「んもーーーーーっ!!!碧乃っち?!」

 「あははは」

 碧乃は笑いながら教室へと向かった。

 だってなんか面白いんだもん。



 §



 「見事にしてやられましたね」

 向かい側に座りしょうが焼き定食に箸をつける田中は、こちらの話を聞き終えるなり開口一番にそう言った。顔には呆れを含んだ苦笑が浮かんでいる。

 「ったく、なんなんすかあいつ!?せっかく人が心配してやってんのに馬鹿にしやがって!!」

 圭佑は目の前のカレーに乗ったカツを、怒りを込めたフォークで突き刺した。そのまま乱暴に口に押し込む。

 昼休みの食堂にて、圭佑は田中聡一と昼食を共にしていた。

 斉川を黙らせる事を考えた時、それができる唯一の存在として先輩が思い浮かんだ。そして助言を求めるべくメールをした所、食堂で話を聞いてもらう事になり現在に至っていた。

 ちなみに、教室に1人置いていくのはまずいだろうと光毅も連れてきていた。先輩に光毅にばらしてしまった事を伝えた時は、『やはりそうなりましたか』とさも予想していたかのような返しをされ、改めてこの人を怖いと感じた。

 他の人が近付けないようにと食堂の一番角に座らせた光毅は、複雑な表情をしながらも2人の話に耳を傾け弁当をつついていた。元とはいえ、恋敵と共にいる事に居心地の悪さを感じているのだろう。

 咀嚼してゴクンと飲み込み、圭佑は光毅に怒りをぶちまけた。

 「だいたいお前があん時負けたりしなけりゃ、俺があいつに気を回す必要なかったんだ!!」

 「は?!お、俺のせいかよ?」

 「そーだよ!!あそこでなんでもっと強気にいかなかったんだよ?!」

 「いや無理だろあんなん!怒った斉川めちゃくちゃ怖かったし…」

 「怖くてもいけよ!!このヘタレがっ!!!」

 「……なんかすげー理不尽に怒られてる気がすんだけど。…ってか、お前反応しないんじゃなかったのか?」

 「うるせぇっ!!あー、くそっ!!先輩!!あいつの弱点って何なんすか?!」

 先輩は箸を止めると、しばし思案顔をした。

 「弱点ですか…そうですねぇ……今挙げるとすれば、『想定外』でしょうか」

 「『想定外』?」

 「はい。彼女は常日頃から、こう言えばこう返ってくるだろうという想定のもとに人と会話をしています。山内君や小坂君にそのような態度をとるのも、いい反応が返ってくると想定しているからです。ですから、その想定から外れた反応をされるとどう対応して良いか分からなくなってしまうんですよ。そうなってしまうのも、嘘がつけない性格故でしょうね」

 「はぁー、なるほど。…あ!じゃあ次あいつに何か言われたら、あいつが期待しているものと反対の反応を見せればいいって事っすね?!」

 「そういう事ですね」

 ふっと笑って味噌汁に口をつける先輩を前に、圭佑はニヤリと口角を上げた。

 …そうか。あいつの弱点は『想定外』か。なんだ、案外簡単じゃん。ってか俺、朝光毅に似たような事言ってたな。

 「よし!そうと分かればこっちのもんだ!!おい光毅!お前も勉強してあいつを見返すなんて止めちまえ!そうすりゃ、あいつ動揺して…」

 「いえ、小坂君はそのままで良いと思いますよ」

 「…へ?」

 そのまま?

 「え、な、なんでですか…?」

 「彼女がどのような仕返しをしてくるか分かりませんし、君が目標を達成する事も十分『想定外』になりますからね。…第一、君の性格では反応せずやり過ごすという事は難しいと思いますよ?」

 言いながら、クスッと光毅に笑いかけた。

 「!……そ、そう…ですね…」

 ズバリ言い当てられ、光毅は恥ずかしさに赤らむ顔を俯いて隠した。

 「必要でしたら僕も協力しますので、遠慮なく言って下さい」

 「あ、ありがとうございます…」

 「そうか!じゃあ俺も協力しようじゃないの!今日から俺んちでみっちり猛勉強な?!」

 「は?え、お前が教えんの?」

 「そうだ!悪いか?!」

 「だって圭佑教え方下手くそ…」

 「1人でやるより良いだろが!?目指せ打倒斉川だ!!まってろよー?ぜってぇ狼狽えてる顔拝んでやるからな?!」

 「…お前、なんか目的変わってない?」

 「良いんだよ!行き着く先は一緒なんだから!お前は黙って勉強しとけ!!」

 「……」

 「ふふ…。頑張って下さい、お二人共」

 「はい!ありがとうございますっ!!」

 意気込む圭佑とそれに呆れる光毅は、先輩の笑みに含まれていた何かを感じ取る事はできなかった。



 §



 午後8時半を少し過ぎた頃。碧乃が1人で夕食を食べていると、母親が帰宅してきた。

 「ただいまぁー」

 「おかえり」

 「あれ?碧、今晩ごはん?」

 コートを脱ぎながらダイニングテーブルに近付いてきた母親に、頷いて返す。

 「どしたの?誰かと勉強?あ!もしかして光毅君と仲直りした?!」

 「違う。別の人としてた」

 「なぁんだ。まだ仲直りしてないの?」

 「……和解はしたよ」

 断じて『仲直り』と言う気はない。

 「え!そうなの?なんてなんて?」

 テーブルに手をついて詰め寄ってくる母に鬱陶しさを感じつつ、問いに答えた。

 「今度からちゃんと考えて行動してくれるみたいだから、許す事にしたの」

 いつもの如く、色々省略。嘘ではない。

 ちなみに母と妹には、怒りの原因は『あの人が騒ぎを大きくしたからだ』と言ってある。騒ぎ当日に問い詰められ、怒りのままにそう言い捨てただけだが。

 「えーそれだけー?!『怒らせた罰として何でも言う事聞いてー!』みたいな可愛いわがまま言ってみたりしなかったの?」

 「………しないから」

 何言ってんだ、この人は。

 仕返しは甘んじて受けてもらう事になったが、そんな気持ちの悪い事は言ってない。

 …まぁ、聞いてくれるとは思うけど。

 従順なる犬の姿がなんとも容易に想像できてしまった。

 「なんで言わないのよぉー!チャンスだったのに!」

 「……」

 何のですか…。

 これ以上話を続けさせるとまた面倒な事を言い出すので、強制終了。碧乃はあからさまにため息をついて立ち上がると、コンロの上の味噌汁を温め直した。

 「早く着替えてくれば?」

 「もうー、碧ったらぁー」

 「食べないの?」

 「食べますぅー!」

 口を尖らせて母親はキッチンを出ていった。

 「………はぁ」

 鍋の中の味噌汁を見つめ、碧乃は小さく息を吐いた。

 …本当は疲れてるくせに。

 当直明けの通常勤務をこの時間までこなしていたのだから、母親の疲労蓄積度は相当なものだろう。それなのにあんな振る舞いをして、こちらをからかったりなんかして。

 ……けれど。

 それを止めろと言う事は、碧乃にはできない。

 なぜなら…これが私にとっての『甘え』だから。

 敢えてのあの振る舞いは、暗に『私の前で笑わなくていい』と伝えるためのもの。彼女は、甘え方を忘れた娘に甘える方法を教えてくれているのだ。

 娘に甘えてもらえないというのは、母親にとってとても辛く寂しい事らしい。小さい頃、怪我をしても『大丈夫』と笑顔を見せた自分を寂しそうに見つめてきたのを、今でもよく覚えている。

 だから自分は、母が提示してくれた形で『甘え』を見せる事にした。寂しい思いをさせないために。

 しかし、ここ最近の母の振る舞いは少し異常な気がする。小坂とどうにかさせようなど、今までにはなかった事だ。

 ……ねぇ、お母さん。

 一体、あの人に何を見出だそうとしてるの?

 何を託そうとしてるの?

 やっぱり私の笑顔が見たい?

 無愛想な娘のままは嫌?

 「…………」

 分かってる。何もかも全部分かってるよ。

 でも無理なの。

 今更もう手遅れなんだよ。

 …だって、悪魔になってしまったから。

 魔に堕ちた心は、醜い姿は、もう元には戻らない。

 かわいい娘じゃなくてごめんなさい。素直になれなくてごめんなさい。

 でも大丈夫。

 これ以上、寂しいなんて思わせないから。

 悲しい思いもさせないから。

 あなたのために、ちゃんと生き続けておくよ。

 そのためにも、早く頑丈な壁を作らないとね。

 悪魔が声を取り戻す前に。

 自分の食器を片付け母の食事を準備し終えると、碧乃は2階へと上がっていった。
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