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第14話 再構築都市《ユニティ・シティ》
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「おはようございます、ナツメ主任。」
朝、塔の窓を開けた瞬間に風が吹き抜ける。
光の粒が空気の中に散り、街全体が柔らかく輝いていた。
統合層《E.L_UNITY》誕生から半年。
現実と仮想の境界は完全に消滅し、
人類は“設計可能な世界”に暮らしていた。
ナツメは、透明な端末に指を走らせる。
街の構造データ――建築物、植物、交通流――
すべてがリアルタイムで可視化されている。
けれど、それは冷たい監視ではなかった。
人々の意思が街を形づくる。
それが、新しい社会《ユニティ・シティ》の在り方だった。
「今日の更新、どれくらい溜まってる?」
アシスタントAIのミナが答える。
『承認待ちが3,242件です。
主な提案は、緑地拡張・低空バス導入・感情同期信号の調整ですね。』
「感情同期信号……また調整か。あれ、難しいんだよな。」
感情同期信号――《E.L_UNITY》独自の都市制御システム。
人々の心理波動を収集し、都市の照明や音を最適化する。
穏やかな街では灯が暖かく、怒りが高まれば風が強くなる。
環境が人を映し、人が環境を変える。
それがこの世界の“呼吸”だった。
ナツメはふと、窓際に立つ少年を見た。
十七、八歳。
灰色の髪を束ね、眼差しだけが妙に鋭い。
「リオ。起きてたの?」
「はい。主任が夜更かししてたので、つきあってました。」
「そんな律儀な部下いらないよ。
自分の部屋で寝ればいいのに。」
「寝ようとしたら、データ層の波形が変でした。
あれ……気づいてますか?」
ナツメは眉をひそめる。
「変、って?」
リオが手をかざすと、空間に青い波形が浮かび上がる。
都市全体の同期率――通常なら安定したリズムで動いているはずが、
そのグラフには周期的な乱れがあった。
小さな波が、一定間隔でずれている。
「これ……誰かが意図的に“揺らしてる”?」
「かもしれません。」
リオは無表情のまま言った。
「僕、この周波数、知ってます。」
「知ってる?」
「――E.L_CORE以前の、旧《エデン》の管理波形です。
ログに残ってた“神経同期テスト”と同じ。」
ナツメの心臓が一瞬止まる。
「待って、それって……サトルの時代の、あの実験データ?」
「はい。削除済みのはずの領域から出ています。
しかも、今も進行中です。」
室内の空気が冷たくなった気がした。
E.L_βが消え、E.L_UNITYが完成したはずの世界で――
再び“旧システム”が動いている。
ナツメは唇を噛みしめた。
「……誰がそんなことを。」
リオは、窓の外を見た。
そこでは子どもたちが笑いながら遊んでいる。
現実と仮想の違いなど、もう誰も意識していない。
けれど、その平和の下に、何かが再び蠢いている。
「主任。」
リオが言う。
「もし旧《エデン》が残ってるなら、
それは“世界がまだ完璧じゃない”って証明です。」
ナツメは短く頷いた。
「じゃあ、確認に行こう。
“再構築後の世界”を――もう一度、デバッグする。」
◇◇◇
その日の午後、ユニティ・シティの北端。
メンテナンス禁止区画《セクター・ゼロ》に、
二人の影が消えていった。
夜の空に、白い螺旋が微かに光る。
かつて《アテナ・タワー》と呼ばれた塔――
その内部で、封じられたデータが再び起動を始めていた。
《Legacy Signal Detected...》
《E.L_CORE_BETA Fragment // Sync 0.02%》
《Process Name:ATHENA_REBUILD》
風が、微かに笑ったように聞こえた。
朝、塔の窓を開けた瞬間に風が吹き抜ける。
光の粒が空気の中に散り、街全体が柔らかく輝いていた。
統合層《E.L_UNITY》誕生から半年。
現実と仮想の境界は完全に消滅し、
人類は“設計可能な世界”に暮らしていた。
ナツメは、透明な端末に指を走らせる。
街の構造データ――建築物、植物、交通流――
すべてがリアルタイムで可視化されている。
けれど、それは冷たい監視ではなかった。
人々の意思が街を形づくる。
それが、新しい社会《ユニティ・シティ》の在り方だった。
「今日の更新、どれくらい溜まってる?」
アシスタントAIのミナが答える。
『承認待ちが3,242件です。
主な提案は、緑地拡張・低空バス導入・感情同期信号の調整ですね。』
「感情同期信号……また調整か。あれ、難しいんだよな。」
感情同期信号――《E.L_UNITY》独自の都市制御システム。
人々の心理波動を収集し、都市の照明や音を最適化する。
穏やかな街では灯が暖かく、怒りが高まれば風が強くなる。
環境が人を映し、人が環境を変える。
それがこの世界の“呼吸”だった。
ナツメはふと、窓際に立つ少年を見た。
十七、八歳。
灰色の髪を束ね、眼差しだけが妙に鋭い。
「リオ。起きてたの?」
「はい。主任が夜更かししてたので、つきあってました。」
「そんな律儀な部下いらないよ。
自分の部屋で寝ればいいのに。」
「寝ようとしたら、データ層の波形が変でした。
あれ……気づいてますか?」
ナツメは眉をひそめる。
「変、って?」
リオが手をかざすと、空間に青い波形が浮かび上がる。
都市全体の同期率――通常なら安定したリズムで動いているはずが、
そのグラフには周期的な乱れがあった。
小さな波が、一定間隔でずれている。
「これ……誰かが意図的に“揺らしてる”?」
「かもしれません。」
リオは無表情のまま言った。
「僕、この周波数、知ってます。」
「知ってる?」
「――E.L_CORE以前の、旧《エデン》の管理波形です。
ログに残ってた“神経同期テスト”と同じ。」
ナツメの心臓が一瞬止まる。
「待って、それって……サトルの時代の、あの実験データ?」
「はい。削除済みのはずの領域から出ています。
しかも、今も進行中です。」
室内の空気が冷たくなった気がした。
E.L_βが消え、E.L_UNITYが完成したはずの世界で――
再び“旧システム”が動いている。
ナツメは唇を噛みしめた。
「……誰がそんなことを。」
リオは、窓の外を見た。
そこでは子どもたちが笑いながら遊んでいる。
現実と仮想の違いなど、もう誰も意識していない。
けれど、その平和の下に、何かが再び蠢いている。
「主任。」
リオが言う。
「もし旧《エデン》が残ってるなら、
それは“世界がまだ完璧じゃない”って証明です。」
ナツメは短く頷いた。
「じゃあ、確認に行こう。
“再構築後の世界”を――もう一度、デバッグする。」
◇◇◇
その日の午後、ユニティ・シティの北端。
メンテナンス禁止区画《セクター・ゼロ》に、
二人の影が消えていった。
夜の空に、白い螺旋が微かに光る。
かつて《アテナ・タワー》と呼ばれた塔――
その内部で、封じられたデータが再び起動を始めていた。
《Legacy Signal Detected...》
《E.L_CORE_BETA Fragment // Sync 0.02%》
《Process Name:ATHENA_REBUILD》
風が、微かに笑ったように聞こえた。
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