16 / 29
16.誕生
しおりを挟むお腹も随分と目立つようになってきた。
もういつ産まれてもおかしくない頃だそうだ。
義父の体調は変わらずだが、孫を抱く日を楽しみに少しでも長生きする!と意気込みを見せてくれていて、少し安心だ。
ニケ様は相変わらず侯爵家の公務と皇子の護衛にと忙しそうだが、私との時間も大切にしてくれ、いつも身体を気遣ってくれる。
何とも穏やかで幸せな日々だ。
ゴードンとマーガレットの聖女騒動が無ければ…。
マーガレットとゴードンは相変わらず我が者顔で侯爵家の屋敷に居座り、侯爵家のお金を使い贅沢三昧だそうだ。
ニケ様は、
"来たる時が来るまでの夢を見せてやっている。"
と言っていた。
マーガレットの子どもは、9ヶ月になった。母親であるはずのマーガレットは抱きもしないが、代わりに乳母が愛情たっぷりに育てすくすく健康に成長しているらしい。
そして、他家にもマーガレットが我が子を聖女と偽っている事は漏れていないようだ。
「ニケ様、お帰りなさい。今日は早いお帰りなのですね!」
「あぁ、ただいまフィオナ。他の護衛騎士達と皇子が奥さんが身重のヤツは早く帰れ!と言って、帰らされたのだ。」
「まぁ。本当に。あの方達は本当にいつも優しくて気の良い方達ですわね。第一皇子も素晴らしい方で、本当にこの国は安心ですわ。」
2度程、ニケ様の同僚の方々に会う機会があったが、皆有能で気さくな方ばかりだった。
とても仲が良く、私との仲を冷やかされて少年のように言い返すニケ様がとても可愛らしく見えたものだ。
「まぁ、皆悪い奴では無いな。」
少し照れ笑いするニケ様を見て私も微笑む。
「それにしてもいつ生まれてくるかな…?おーい。明日も非番だから今日産まれたらお父様は助かるぞー??」
そう言ってお腹を撫でるニケ様。
「まぁニケ様ったら…。この子のタイミングで産まれてきます…うっ…いたたたた。」
「えっ!?」
「収まりましたわ…。もしかしたら、陣痛というものが始まったかもしれませんわ…。」
「だっ、誰かー!!」
いつもは頼りになるニケ様が慌てふためいている。
「ふふっニケ様ったら大丈夫ですわ!いたたたた。」
医者が駆けつけ、お産の準備が始まる。
痛みがどんどん増してくるが、不思議と不安は無い。
何度も迫り来る痛みを耐え流し、何度も気を失いそうになるが、痛みで我に帰る。
(私のお母様もこのような痛みを耐えて私を産んでくれたのね…。)
一日中かかり、やっと…!
「奥様!!もう一踏ん張りです!もう髪の毛が見えています!!次で産んでしまいましょう!!」
最後の力を振り絞る。すると…。
「おぎゃぁ~!!」
と、同時に扉がバーーン!と開く。
「ニッニケ様ッッ!!まだ事後処理等終わっておりませんので…。」
そう産婆に言われるニケ様だが、あまり聞いていない…。自分の母親がお産で亡くなったと聞いているので特に心配だったのだろう…。
でも、ずっと扉の外で待っていてくださった事が心から嬉しい。
「フィオナッ!ありがとう、ありがとう…!!子どもの顔を見せてくれ!~~~~っ!!!可愛い…!!なんっっって可愛い子なん………!えっっ…!!!」
顔中の筋肉が緩んで、我が子を愛でていたニケ様が急に真剣な顔になる。
「ど、どうされましたか…!?子どもに何か…!?」
「額に……。十字の刻印が……!!」
94
あなたにおすすめの小説
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
【完結】濡れ衣聖女はもう戻らない 〜ホワイトな宮廷ギルドで努力の成果が実りました
冬月光輝
恋愛
代々魔術師の名家であるローエルシュタイン侯爵家は二人の聖女を輩出した。
一人は幼き頃より神童と呼ばれた天才で、史上最年少で聖女の称号を得たエキドナ。
もう一人はエキドナの姉で、妹に遅れをとること五年目にしてようやく聖女になれた努力家、ルシリア。
ルシリアは魔力の量も生まれつき、妹のエキドナの十分の一以下でローエルシュタインの落ちこぼれだと蔑まれていた。
しかし彼女は努力を惜しまず、魔力不足を補う方法をいくつも生み出し、教会から聖女だと認められるに至ったのである。
エキドナは目立ちたがりで、国に一人しかいなかった聖女に姉がなることを良しとしなかった。
そこで、自らの家宝の杖を壊し、その罪を姉になすりつけ、彼女を実家から追放させた。
「無駄な努力」だと勝ち誇った顔のエキドナに嘲り笑われたルシリアは失意のまま隣国へと足を運ぶ。
エキドナは知らなかった。魔物が増えた昨今、彼女の働きだけでは不足だと教会にみなされて、姉が聖女になったことを。
ルシリアは隣国で偶然再会した王太子、アークハルトにその力を認められ、宮廷ギルド入りを勧められ、宮仕えとしての第二の人生を送ることとなる。
※旧タイトル『妹が神童だと呼ばれていた聖女、「無駄な努力」だと言われ追放される〜「努力は才能を凌駕する」と隣国の宮廷ギルドで証明したので、もう戻りません』
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。
三葉 空
恋愛
ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……
【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ
綾雅(りょうが)今月は2冊出版!
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」
物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。
★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位
2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位
2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位
2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位
2023/01/08……完結
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる