【R18】呪いを解けと皇弟が迫ってきますが、処女なので無理です

白岡 みどり

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「体は、辛いか?」

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 目を開けると、ウォルフリートの腕の中にいた。

(……いつの間に、寝ちゃった?)

 男は寝台のふちに座った状態で、フィルエシュカを落とさないように、しっかりとその腕で包み込んでいた。体は怠くて、まるで全力疾走をした後のような疲労を感じる。
 なぜそんなにも疲れているのだろうと、ぼうっとする頭で考えるが、なかなか思い出せない。
 
「……起きたか?」

 返事の代わりに顔を上げると、とても心配そうな顔が覗き込んでくる。

「体は、辛いか?」

 辛いというよりは、重いと感じる。
 こくりと頷くと、ウォルフリートの顔が途端に曇っていく。

「無理をさせたな……」

 体を支えてくれている手とは反対の手が、そっと伸びてくる。その手はこめかみに触れて撫でると、耳と首へ移りそこを撫で、またこめかみに戻る、を繰り返した。
 
(なんでウォルが、そんな顔をするの?)

 この体に残る疲労感に、もしかして関係あるのだろうか。
 眠る前のことを思い出そうと、必死に記憶をたぐる。

 ーーゾフィ、そう、彼女が訪ねてきてくれた。村長からの手紙のようなものを、置いていった。たいしたもてなしも出来ないうちに帰ると言うから、まじないをした。その彼女を送っていくという彼に、まじないをねだられて、自分はそれに応じようとした。

(そ、うだ……)

 唇に甘い記憶がまざまざと蘇る。
 まじないをしようとして、何故か、初めてウォルフリートに口づけをされたのだ。
 加えてその感触の記憶は、一度ではない。彼が帰宅した後に二度目もあった。そしてその後、彼はーー。

 眠る直前のことを、とうとう細部まで思い出してしまって、自分が赤面していくのがわかった。

「……フィルエシュカ?」

 恥ずかしすぎて、見下ろしてくる彼の顔をまともに見られない。慌てて目線を下げると、背中をゆるりと撫でられた。
 そうされると、朝から二度も味わった、あの、得も言われぬ感覚が甦りそうになる。

「まだ辛いんだな。すまん、俺のせいだ。お前が可愛すぎて、途中でやめられなかった」
「か……」

 自分の耳はおかしくなったのかもしれない。
 聞き間違いでないなら、今、ウォルフリートに可愛いと言われた。
 あり得ない、と頭が必死に否定する。
 彼が何かに対して可愛いとか綺麗とか、褒めるところを聞いた覚えがないからだ。

 もしくはここにいるのはウォルフリートじゃなくて、別人がすり替わっているのかもしれない。
 
「ウォル、ほ、ほんもの、ですか?」
「は?」

(あ、本物だ)

 眉間のしわの入り方で判断していると、抱く腕の力が強まった。

「……何を考えているのか分からんが……俺は、本物だぞ」
「ん……」

 彼の腕がもたらしてくる、程よい圧迫感が心地良い。
 分かったのは、こうなると自分は、てんで駄目だということ。
 なぜ口付けたのかという疑問も、彼の行動を非難しようという心すらも、この快楽の前では小さくなってしまう。それが普通なのか分からないけれど、もしそうなら、なんと危険なのだろう。

(ウォルがこうするのは、私を、魔女にするため……)

 それが分かっていても、触れる場所から広がる穏やかで甘い毒は、耐え難いものだ。
 それに侵されることすら、心地好くて。もっと与えて欲しくて、彼の胸に擦り寄った。

「……っ」

 擦り寄るとほぼ同時に、彼が息を呑む気配が伝わってくる。

「お前な……」

 すると何を思ったのか、彼は抱えていたフィルエシュカを寝台に横たわらせた。そのまま足元に固まっていた毛布を引き上げると、それをしっかりと掛ける。一瞬でそれを終わらせた男の顔は、いつもよりも少し赤い気がした。
 フィルエシュカの首元まで毛布を引き上げた手は、毛布がただの布になるんじゃないかと思うくらい、強く握り込まれていた。

「……荷の整理と、食事の支度を、してくる」

 痛みを堪えるような顔をしながら言う言葉ではない。
 どこか痛めたのでは、と身を起こそうとしても男の手に押し止められた。

「大丈夫ですか? ウォル、辛そうですけど……」
「問題ない……」

 彼は一度、かなり長く息を吐き出して、その後は振り返ることなく部屋を出ていった。
 一連の異常な行動に、やっぱり偽物じゃないのか。そう思いつつも、もう一度聞くことは出来なかった。



 ***

「ウォル、これもすっごく美味しいです」
「……そうか」

 グラタン、という料理を作ってくれた男はなぜか沈んでいた。
 朝から何も食べていなかった胃に、染み渡る優しい味。舌鼓を打ちながらも、男の様子に首を傾げた。
 
(落ち込んでる? 何かあったのかな)

 端正な顔は打ちひしがれているようにも見えた。
 食事を終えてもそれは全く変わらないから、空腹が原因ではないのだろう。

 聞いていいものか、そっとしておくべきか。
 悩みながら、とろけたチーズの下に隠れていたカボチャを口に運んだ時だった。

 天井が、ミシリ、と音を立てた。

「……失礼いたします、殿下」
「ーーひっ!?」

 なんと屋根裏から男の声がしたのである。
 驚きに叫び出しそうになった口を、自身の手で慌てて塞ぐ。
 声は殿下と言っていた。なら、用があるのは自分ではない。

 正面に座るウォルフリートは動じず、天井を睨みつけている。

「フィルエシュカといる時は、俺に話しかけるな」
 
 怒りの滲んだ声だ。彼は、声の主が誰なのか分かっているらしい。

「お許しをーー陛下より急ぎの書簡を、お届けに参りましたゆえ」
「兄上から?」

 天井から手紙でも降ってくるのだろうかと、じっと見つめていたが、そうではないらしい。
 ウォルフリートは溜め息をついて立ち上がり、外へと足を向ける。
 追いかけようと腰を浮かせるも、気づいた彼によって制止された。

「すぐ終わる」

 その言葉どおり、ウォルフリートは外で皇帝の遣いと二言三言交わすだけで戻ってきた。
 なぜ分かるのか、というと。
 玄関扉の横のガラス窓に張り付いて、見ていたからである。

 ウォルフリートに何かを手渡した皇帝の遣いは、全身真っ黒な服を纏っていた。
 細身の体は、向かい合う男の半分くらいだろう。もしかすると、まだ若いのかもしれない。
 けれどその頭髪も顔も、目元以外は全て黒い布に隠されていて、本当のところは分からなかった。

(急ぎってなんだろう)

 戻ってきた男はすでに書簡の中身に目を通したらしい。表情はなく、足取りはやや重かった。
 窓際に立つフィルエシュカの目の前で足を止めたウォルフリートは、じっとこちらを見下ろしている。

「……フィルエシュカ、少しいいか」
「は、はい」

 下ろした左手の先には書簡らしき紙が握り締められている。その反対の手で髪を掻き上げ額を押さえる男は、苦悶の表情を浮かべていた。



「――俺の、父上が……病で、お倒れになったらしい」


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