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過去を知る者

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ダグラス・リードンは
サーシャリア・アルベルをエスコートしながら
これからどうするかと考えていた。

ルイス殿下に勧められて
断りきれず、父がローレンス伯爵と古い友人だった事からこの茶会に送り込まれた。

正直、居心地は悪い。

「今度は貴方ですか。ダグラス・リードン様」

さり気なく離れた手と相手との距離
サーシャリアは妹、シャーロンの前と自分達の前では別人だ

「そう睨むな。」

「生まれつきこの目なんですの。申し訳ありません。」

嘘つけ。とダグラスは思う

妹君に見せる笑顔を男に向ければ
皆すぐ虜になるだろうに

まあ、そんなことせずとも彼女に気に入られたい奴らは沢山いるが

「私、誰とも結婚する気はありません。
だからってを見捨てる気は有りませんからどうかご安心を」

「か弱い……君からすればそうだろうな」

「ええ。私以外居ないから、焦っているのでしょう?でも私には役目がありますから」

「君が縁を結びたくなくとも
他国の人間は違う。君という人間を欲しがっている」

サーシャリアは強い
そして美しい。

陛下が断っているが、他国の王族からの
縁談の申し込みもある
だから他の貴族達が焦った

強さは魅力だ
戦争になった時これ程心強い存在は無いだろう
何せ彼女の魔法はさせるのだから

「だから、貴方と?」

「国境を守る辺境伯は君にとっても他国に行くより良いんじゃないのか?」

「あなた方は何か勘違いしていませんか?」

「勘違い?」

「私を引き止めたいならまず、シャーロンをこの国に留める方法を考えるべきですわ」

「………確かに」

「でも、シャーロンを辺境伯様の所へ嫁がせる訳には行きません。勘違いなさらないで下さいね。
辺境伯様が国を守る誇りある武神である事は私も解っています。」

本来ならありえない身分差だ
しかも俺は彼女より9つも上だ。

「あぁ。分かっている。弱いものは狙われ易い」

サーシャが黙って目を伏せる
扇で隠れた顔から表情を読み取ることは出来ないが
その柄を握る強さで何を思い出しているのかは解る



彼女は未だにあの事件を引きずっている

サーシャリア・アルベルの魔法が覚醒し
暴走した時のことを____




******





__あれは10年前


他国との戦が終結し、3年程経った頃で
国が復興して行くさまに皆が安堵していた時期だった

警戒はしていたが、どこか気が緩み
平和な日々に慣れそれが当たり前になる

陛下の計らいで、敗戦国にも情けをかけていたし
全て上手く行っていると思って居た


だが、議会に席を持つ貴族が密かに他国に
通じていて
王宮で茶会が開かれた時に1人の少女が攫われた

本来なら王族を狙うのだろうが
常に護衛に守られているルイス殿下よりも
狙いやすかったのだろう

連れ去られたのは、当時3歳だった
シャーロン・アルベル

まだ幼すぎる少女が
人質に囚われてしまったのだった。




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