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第107話 疑問と憶測
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「⋯⋯なるほど。奇跡論的事象、か。まさか、そんなことが⋯⋯」
マリアは次に、GMCの第三課課長、ウィルムと、彼の事務所にて対談していた。しかし先程とは異なり、それほど緊張感はなかった。
「しかし、なぜだ? なぜ君たちの名だけ認識できないようにされていたんだ? そもそも、誰がやったんだ?」
ウィルムは当然の疑問をマリアに投げかける。
「今、GMCと財団が結託することを望まない者など、限られているではありませんか、ウィルム課長」
「⋯⋯ああ」
「彼は、学園都市の理事会員として在籍していたことがあります。そして、彼は財団との関わりが多かった⋯⋯特に奇跡論部門や、それに関係するアノマリーと」
「つまり以前より、奴は君たちの持つアノマリーに目をつけていた?」
ここでいう『彼』と『奴』は別人である。しかし相互にそれは理解している。
「であるかと。あのクリップはただの模造品でしたがね。しかし異常性は本物と同じだった。アノマリーに詳しい人物でなければこんなことはできない。しかし⋯⋯色彩と思しき人間が、かつて財団に所属していたことがAIの解析により判明しました。これは我々の落ち度です。申し訳ない」
あの白神降臨イベントでは、ギーレと色彩が手を組んでいたことが分かっている。彼ら二人が、もしアノマリーについて情報を共有していたとすれば、アノマリーのコピー品を作ることができないとは言えない。
「語弊があるかもしれませんが、魔術に対してアノマリーが無力というわけではありません。むしろ超常現象という観点からしてみれば、アノマリーは魔術より、文字通り異質でありながら判別がつかない。対応を誤りやすいものです。ゆえに、影響下に陥りやすいと言わざるを得ないでしょう」
「ふむ。ならば、君はどう考える? 私は既に、私たちは策にはめられたと思う」
ウィルムは声色一つ変えずにそう言った。まるでそんな逆行、苦難にもならないと言うように。
「でしょうね。現状は非常に不味い。GMCのトップに、たかたがリスクレベルDのアノマリーが通用すると相手方は把握したわけですから」
あのクリップは、奇跡論的事象に分類されるリスクレベルDのアノマリーだ。その内容はごくシンプルなもので、クリップに挟んだ紙など情報媒体の内容を誤認させるというもの。
奇跡論を扱うものからしてみれば、なんてことのないアノマリーだ。
「後日、我々が有する奇跡論的事象アノマリーの情報について共有させて頂きますが、全部、とはいかないことをご理解いただけますか?」
「それ相応の都合があるのだろう? ならば問題はない」
「ええ。中には知ること事態が影響下に入るということにつながるアノマリーもありますので」
リスクレベルBやAのアノマリーはそれ単体で財団が壊滅しかねない代物だ。もしそんなもののコピー、ましてやオリジナルがあれば、そして収容違反を起こそうものなら、それは世界の存亡に関わる事象になりかねない。
既にマリアとウィルムの間で交わされるべき議題は終わりを迎えていた。これ以上、話すべきことは何もない。
マリアは部屋を出ようとした。が、それをウィルムが静止する。
「⋯⋯これは関係のない話かもしれないが⋯⋯」
そう前置きし、ウィルムはとある少女たちについて、マリアに話した。
「超能力者について詳しい君に聞くが、魔術と超能力を扱う者について、質問がある。ミナ・ホシバナとリエサ・ツキミヤについて。知っているか?」
突然、何を聞かれたかと思えば、全く予想だにしていなかったことを聞かれたから、マリアは言葉に一瞬だけ詰まった。
だがその人物についてはよく知っている。
「ええ。彼女らは先の事件などの記録から、ある程度。それに彼女らは有名です。レベル5ではあるものの、その特異性と破壊力はレベル6と遜色ない星華ミナ。その研究価値が再検討され、場合によってはレベル6に認定されるかもしれない月宮リエサ。また、彼女たちが共に魔術を持つ、とも。それが何か?」
大規模な戦闘能力を持つミナの超能力『仄明星々』は、正体不明のエネルギーとして、そしてそれ自体が超能力に由来するものではないと判明していたから、彼女には研究価値があった。
リエサは当初、物理学的にありえない物質を生み出し操る能力だとして、研究価値はゼロに等しかった。しかし、彼女が見せた絶対零度を下回る温度の顕現及び証明によって、その部分における研究価値は十分にあると認められた。
「GMCの記録上、過去に魔術と超能力を持った人間は存在しない。それは財団も同じか?」
複数の固有魔力を持つ者はいたが、魔術と超能力のハイブリッドは今までに存在した記録はなかった。
「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯そう、ですね。同じです。我々の見解では、魔術と超能力は相反する──いいえ、超能力が魔術を排斥する力。全くの別系統どころか、真逆の性質。どちらか片方のみしか、人間という種族には許されていないもの。メモリが足りない、とでも言うべきでしょうか? そんなもの二つも持っていては、自壊してしまうものです。ですがその説は否定されてしまいましたが」
敢えて言えばルイズがその最初の例だろうが、彼女はその超能力によるものだ。はっきり、明確に、二つの異なる力を持つのは、彼女らが初めてだった。
「やはりそうか。⋯⋯あの二人の少女、あとついでに例の魔女についても、本人に話を聞かねばならない。君の方でも、頼めるだろうか?」
「分かりました。⋯⋯ところで、なぜ?」
主語のない言葉だったが、その意図をウィルムは理解した。
「魔術界にはある種の都市伝説のような言い伝えがある。それは、時代の節目には必ず、それまでの常識が通用しない者達が生まれる、というものだ」
それを聞いてから、マリアは今度こそ退室した。
◆◆◆
エストは久しく、GMCからの直接的な命令を受けた。内容は、その正体と力について。
分かりきった話だと彼女は思っていたが、詳しく話を聞けばそうも単純なものではなさそうだった。
目の前に居るのはGMC研究部、魔術課の課長、ニアス・ギャラシー。黒みかがった紫の長髪に赤い目。黒のコートを着飾った怪しげな雰囲気の男だ。
「⋯⋯さて。エスト一級魔術師。これより質疑応答を始めさせてもらうよ」
ニアスの執務室にて。ニアスとエストは対面、向かい合って座っているが、片やオフィスチェアを横向きに座り、片や足を組み座っている。マナーの欠片もない者同士の対談が始まっていた。
「なにかな?」
「ワタシは無駄な会話が嫌いだ。だから単刀直入に聞く。なぜアナタは魔術と超能力を使うことができるのかね?」
「私が天才だから」
「そういうことが聞きたいんじゃない。人が持ち合わせる下地など、再現性のない代物だ」
エストが思う限りこの答えが一番的を得ている。が、先方はそれが好みでないようだ。ならば、と彼女は思考を巡らせた。
一秒と絶たずに彼女は再び口を開く。
「じゃあこう言おう。そしてキミが求めている答えでもあると思うね。──私が異世界人であり、この世のルールにはそぐわない人間であるから。あと、私がここに来たのは必然じゃない。偶然だ」
エストの目が白く光っていた⋯⋯ような気がした。
なんであれ、彼女の返答がニアスの求めていたものに違いはない。
「⋯⋯ナルホド。では次の質問だ。ミナ・ホシバナについて。アナタはそれを知っていて、今まで我々に報告しなかった。違うかね?」
ニアスはとある報告書を思い出した。
「やっぱり調べられていたかー。そうだね。知っていたし、報告する気もなかったよ。責める? やだね。私が魔術師になったのはただの享楽だ」
その内容とは、ミナが魔術師御三家『マナ家』の相伝魔力を継承しているということ。つまり彼女は魔術師の家系の一人であり、そして彼女の母親についても見当がついている。
「たかが享楽ごときで一級になどなってもらいたくないものだが⋯⋯。彼女がマナ家の隠し子であることは、そしてアナタがそれを報告しなかったことは、この際、不問としよう。少なくとも、我々は。だが、それはそうとして、アナタに彼女がハイブリッドであることについて、何か知らないか聞きたいのだが?」
「自分で調べなよ。まあいいけどさ⋯⋯私は彼女に『キミは特異体質だ』と言ったけど、いやこれに間違いはないんだけどね? 言ってしまえば、私と彼女は似た存在だ。厳密に言えば、そりゃ違うけどさ」
初めてエストがミナと会ったとき、何か近いものをミナに感じた。
そして彼女の体をよく調べた際、分かったことがある。それはなにか? と、ニアスが質問し、エストがこれに答える。
「異世界人。彼女は異能を持っているんだよ。厳密に違うといったのは、彼女がれっきとした異世界人ではないから。おそらく彼女は異世界人の血を引く人間なんだと思う」
だから、ミナは魔術と超能力の両方を有しており、使うことができている。
「私がこの世界で魔術と超能力の両方が使えるのは、私が天才であり、その両方の才能を持っていたから。確かに希少だけどこの下地自体はこの世界の住民でも全くいないわけじゃない。私が思うに⋯⋯」
それからエストは、彼女自身の説を提言する。
世界には理がある。理はその世界の住民に恩恵と制約を齎している。
しかしこの世界には理のバグのようなものである異常が存在する。本来それは有り得ないものであった。
超能力とはこの異常に分類される力であり、人間に適した形態そのもの。
魔術とは理に分類される力であり、同じく、人間に適したもの。
だがらこそ、正常である魔術と、異常である超能力の両方は排斥し合う性質を帯びている。だから通常の人間には扱うことができない。
しかしながら、これが異世界人であればそうとは限らない。
異世界人はその存在そのものが異常だ。本来であれば、どちらかに傾くのが道理である。
「私は魔法によって私自身を保護しつつ、魔術を得ている。つまり、私は正常であり、異常でもある、という半々の性質を持ち合わせているということさ」
ミナもおそらくそうなのだろう。尤も彼女は何か特別な方法で正常であり異常である性質を持ち合わせているわけではない。寧ろ彼女は本来正常であるべき存在だが、彼女に宿っていると思しき異能が、彼女をアノマリーへと昇華させているのだろう、と、エストは結論付けていた。
「⋯⋯理解はした。月宮リエサについては?」
「ごめんね。彼女については本当に見当がつかない。私は彼女がどうやって魔術を得たのか、分からない。ただ一つ言えることがあってね⋯⋯彼女は、彼女自身の力で魔術を使っていない。語弊を恐れず言うのであれば、超能力者が魔道具を使う事自体におかしなことはないでしょ? 多分、それに似た原理なんじゃないかな?」
「ふむ。⋯⋯アナタの知恵は素晴らしいな。異世界人であるがゆえの視点だからだろうか? 是非ともワタシたちの研究に協力願いたいものだがね」
「普通ならこんな思考はできないはずだよ。研究への協力? それも悪くない提案だね。ただ今はいい」
以上で、会議は終わる。
マリアは次に、GMCの第三課課長、ウィルムと、彼の事務所にて対談していた。しかし先程とは異なり、それほど緊張感はなかった。
「しかし、なぜだ? なぜ君たちの名だけ認識できないようにされていたんだ? そもそも、誰がやったんだ?」
ウィルムは当然の疑問をマリアに投げかける。
「今、GMCと財団が結託することを望まない者など、限られているではありませんか、ウィルム課長」
「⋯⋯ああ」
「彼は、学園都市の理事会員として在籍していたことがあります。そして、彼は財団との関わりが多かった⋯⋯特に奇跡論部門や、それに関係するアノマリーと」
「つまり以前より、奴は君たちの持つアノマリーに目をつけていた?」
ここでいう『彼』と『奴』は別人である。しかし相互にそれは理解している。
「であるかと。あのクリップはただの模造品でしたがね。しかし異常性は本物と同じだった。アノマリーに詳しい人物でなければこんなことはできない。しかし⋯⋯色彩と思しき人間が、かつて財団に所属していたことがAIの解析により判明しました。これは我々の落ち度です。申し訳ない」
あの白神降臨イベントでは、ギーレと色彩が手を組んでいたことが分かっている。彼ら二人が、もしアノマリーについて情報を共有していたとすれば、アノマリーのコピー品を作ることができないとは言えない。
「語弊があるかもしれませんが、魔術に対してアノマリーが無力というわけではありません。むしろ超常現象という観点からしてみれば、アノマリーは魔術より、文字通り異質でありながら判別がつかない。対応を誤りやすいものです。ゆえに、影響下に陥りやすいと言わざるを得ないでしょう」
「ふむ。ならば、君はどう考える? 私は既に、私たちは策にはめられたと思う」
ウィルムは声色一つ変えずにそう言った。まるでそんな逆行、苦難にもならないと言うように。
「でしょうね。現状は非常に不味い。GMCのトップに、たかたがリスクレベルDのアノマリーが通用すると相手方は把握したわけですから」
あのクリップは、奇跡論的事象に分類されるリスクレベルDのアノマリーだ。その内容はごくシンプルなもので、クリップに挟んだ紙など情報媒体の内容を誤認させるというもの。
奇跡論を扱うものからしてみれば、なんてことのないアノマリーだ。
「後日、我々が有する奇跡論的事象アノマリーの情報について共有させて頂きますが、全部、とはいかないことをご理解いただけますか?」
「それ相応の都合があるのだろう? ならば問題はない」
「ええ。中には知ること事態が影響下に入るということにつながるアノマリーもありますので」
リスクレベルBやAのアノマリーはそれ単体で財団が壊滅しかねない代物だ。もしそんなもののコピー、ましてやオリジナルがあれば、そして収容違反を起こそうものなら、それは世界の存亡に関わる事象になりかねない。
既にマリアとウィルムの間で交わされるべき議題は終わりを迎えていた。これ以上、話すべきことは何もない。
マリアは部屋を出ようとした。が、それをウィルムが静止する。
「⋯⋯これは関係のない話かもしれないが⋯⋯」
そう前置きし、ウィルムはとある少女たちについて、マリアに話した。
「超能力者について詳しい君に聞くが、魔術と超能力を扱う者について、質問がある。ミナ・ホシバナとリエサ・ツキミヤについて。知っているか?」
突然、何を聞かれたかと思えば、全く予想だにしていなかったことを聞かれたから、マリアは言葉に一瞬だけ詰まった。
だがその人物についてはよく知っている。
「ええ。彼女らは先の事件などの記録から、ある程度。それに彼女らは有名です。レベル5ではあるものの、その特異性と破壊力はレベル6と遜色ない星華ミナ。その研究価値が再検討され、場合によってはレベル6に認定されるかもしれない月宮リエサ。また、彼女たちが共に魔術を持つ、とも。それが何か?」
大規模な戦闘能力を持つミナの超能力『仄明星々』は、正体不明のエネルギーとして、そしてそれ自体が超能力に由来するものではないと判明していたから、彼女には研究価値があった。
リエサは当初、物理学的にありえない物質を生み出し操る能力だとして、研究価値はゼロに等しかった。しかし、彼女が見せた絶対零度を下回る温度の顕現及び証明によって、その部分における研究価値は十分にあると認められた。
「GMCの記録上、過去に魔術と超能力を持った人間は存在しない。それは財団も同じか?」
複数の固有魔力を持つ者はいたが、魔術と超能力のハイブリッドは今までに存在した記録はなかった。
「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯そう、ですね。同じです。我々の見解では、魔術と超能力は相反する──いいえ、超能力が魔術を排斥する力。全くの別系統どころか、真逆の性質。どちらか片方のみしか、人間という種族には許されていないもの。メモリが足りない、とでも言うべきでしょうか? そんなもの二つも持っていては、自壊してしまうものです。ですがその説は否定されてしまいましたが」
敢えて言えばルイズがその最初の例だろうが、彼女はその超能力によるものだ。はっきり、明確に、二つの異なる力を持つのは、彼女らが初めてだった。
「やはりそうか。⋯⋯あの二人の少女、あとついでに例の魔女についても、本人に話を聞かねばならない。君の方でも、頼めるだろうか?」
「分かりました。⋯⋯ところで、なぜ?」
主語のない言葉だったが、その意図をウィルムは理解した。
「魔術界にはある種の都市伝説のような言い伝えがある。それは、時代の節目には必ず、それまでの常識が通用しない者達が生まれる、というものだ」
それを聞いてから、マリアは今度こそ退室した。
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エストは久しく、GMCからの直接的な命令を受けた。内容は、その正体と力について。
分かりきった話だと彼女は思っていたが、詳しく話を聞けばそうも単純なものではなさそうだった。
目の前に居るのはGMC研究部、魔術課の課長、ニアス・ギャラシー。黒みかがった紫の長髪に赤い目。黒のコートを着飾った怪しげな雰囲気の男だ。
「⋯⋯さて。エスト一級魔術師。これより質疑応答を始めさせてもらうよ」
ニアスの執務室にて。ニアスとエストは対面、向かい合って座っているが、片やオフィスチェアを横向きに座り、片や足を組み座っている。マナーの欠片もない者同士の対談が始まっていた。
「なにかな?」
「ワタシは無駄な会話が嫌いだ。だから単刀直入に聞く。なぜアナタは魔術と超能力を使うことができるのかね?」
「私が天才だから」
「そういうことが聞きたいんじゃない。人が持ち合わせる下地など、再現性のない代物だ」
エストが思う限りこの答えが一番的を得ている。が、先方はそれが好みでないようだ。ならば、と彼女は思考を巡らせた。
一秒と絶たずに彼女は再び口を開く。
「じゃあこう言おう。そしてキミが求めている答えでもあると思うね。──私が異世界人であり、この世のルールにはそぐわない人間であるから。あと、私がここに来たのは必然じゃない。偶然だ」
エストの目が白く光っていた⋯⋯ような気がした。
なんであれ、彼女の返答がニアスの求めていたものに違いはない。
「⋯⋯ナルホド。では次の質問だ。ミナ・ホシバナについて。アナタはそれを知っていて、今まで我々に報告しなかった。違うかね?」
ニアスはとある報告書を思い出した。
「やっぱり調べられていたかー。そうだね。知っていたし、報告する気もなかったよ。責める? やだね。私が魔術師になったのはただの享楽だ」
その内容とは、ミナが魔術師御三家『マナ家』の相伝魔力を継承しているということ。つまり彼女は魔術師の家系の一人であり、そして彼女の母親についても見当がついている。
「たかが享楽ごときで一級になどなってもらいたくないものだが⋯⋯。彼女がマナ家の隠し子であることは、そしてアナタがそれを報告しなかったことは、この際、不問としよう。少なくとも、我々は。だが、それはそうとして、アナタに彼女がハイブリッドであることについて、何か知らないか聞きたいのだが?」
「自分で調べなよ。まあいいけどさ⋯⋯私は彼女に『キミは特異体質だ』と言ったけど、いやこれに間違いはないんだけどね? 言ってしまえば、私と彼女は似た存在だ。厳密に言えば、そりゃ違うけどさ」
初めてエストがミナと会ったとき、何か近いものをミナに感じた。
そして彼女の体をよく調べた際、分かったことがある。それはなにか? と、ニアスが質問し、エストがこれに答える。
「異世界人。彼女は異能を持っているんだよ。厳密に違うといったのは、彼女がれっきとした異世界人ではないから。おそらく彼女は異世界人の血を引く人間なんだと思う」
だから、ミナは魔術と超能力の両方を有しており、使うことができている。
「私がこの世界で魔術と超能力の両方が使えるのは、私が天才であり、その両方の才能を持っていたから。確かに希少だけどこの下地自体はこの世界の住民でも全くいないわけじゃない。私が思うに⋯⋯」
それからエストは、彼女自身の説を提言する。
世界には理がある。理はその世界の住民に恩恵と制約を齎している。
しかしこの世界には理のバグのようなものである異常が存在する。本来それは有り得ないものであった。
超能力とはこの異常に分類される力であり、人間に適した形態そのもの。
魔術とは理に分類される力であり、同じく、人間に適したもの。
だがらこそ、正常である魔術と、異常である超能力の両方は排斥し合う性質を帯びている。だから通常の人間には扱うことができない。
しかしながら、これが異世界人であればそうとは限らない。
異世界人はその存在そのものが異常だ。本来であれば、どちらかに傾くのが道理である。
「私は魔法によって私自身を保護しつつ、魔術を得ている。つまり、私は正常であり、異常でもある、という半々の性質を持ち合わせているということさ」
ミナもおそらくそうなのだろう。尤も彼女は何か特別な方法で正常であり異常である性質を持ち合わせているわけではない。寧ろ彼女は本来正常であるべき存在だが、彼女に宿っていると思しき異能が、彼女をアノマリーへと昇華させているのだろう、と、エストは結論付けていた。
「⋯⋯理解はした。月宮リエサについては?」
「ごめんね。彼女については本当に見当がつかない。私は彼女がどうやって魔術を得たのか、分からない。ただ一つ言えることがあってね⋯⋯彼女は、彼女自身の力で魔術を使っていない。語弊を恐れず言うのであれば、超能力者が魔道具を使う事自体におかしなことはないでしょ? 多分、それに似た原理なんじゃないかな?」
「ふむ。⋯⋯アナタの知恵は素晴らしいな。異世界人であるがゆえの視点だからだろうか? 是非ともワタシたちの研究に協力願いたいものだがね」
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