Reセカイ

月乃彰

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第108話 RDC財団

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 GMCルーグルア支部の復旧から更に二日後。
 GMCの施設に、登録外の魔力の侵入を知らせる緊急アラートが鳴り響く。
 その魔力測定の結果、大魔族相当であると識別。
 魔術的防衛装置だけでなく、科学的対魔族迎撃設備及び現実性維持装置が起動する。
 しかし──二十四秒後、それら全ての破壊を確認した。
 ただ、これら装置は時間稼ぎのためのものだ。二十四秒でも、十分役目は果たされた。
 GMCの施設に続く森の中の整備された道にて、脅威対策部門の魔術師、財団機動部隊の精鋭たちは、大魔族ギーレと相対していた。
 その先頭には脅威対策部門、第三課『明るき右手』の課長、ウィルムと、第一課『B&D』課長、ジャンヌ・シュヴァリエが立っていた。

「恐ろしい警備だね。まさか防衛装置を全破壊するまでに三十秒近く掛かるとは思わなかったよ。それに集まるのがとっても早い。警戒心が強くて感心するね」

「何の用だ、ギーレ」

 ウィルムが聞く。

「『何の用だ』? ははは!」

 ギーレは返答でもするように笑った。愉快そうな、小馬鹿にしているような、そんな笑顔を浮かべていた。

「君たちがそれを聞くかい? 私を前にして? 先に手が出るものじゃないのか。それとも⋯⋯。まあ、いいだろう」

 ギーレはその作り笑顔から、本物の笑顔へと変容する。ただし、人間のそれとは違う。明確に悪質で、不愉快で、おどろおどろしい性質のものだった。

「私がここに来たのは布告のためだ」

「⋯⋯は?」

「三日後、グリンスタッドで我々はテロを行う。先の神の降臨では辛酸を嘗める結果となったが⋯⋯今度はそうはいかない。さぞ、十分な戦力を充てがうといい」

 ギーレはそれを言うためだけに、未だ疲弊したこのGMC施設に侵入したようだ。
 今ここにいる戦力が、残存する全防衛力。大魔族一体とやりあおうものなら、半数以上の死亡は必至だし、それでも尚勝てるとは言い切れない。

「⋯⋯何が目的だ」

「目的? 依然としてそれは変わらない。私は人類の根絶と新たなる支配種の誕生を目的としている」

 話は通じない。分かりきっていたことだ。彼に話をする気はない。

「では諸君。三日後にまた会おう」

「待て。逃がすわけないでしょう!」

 ウィルムではなく、ジャンヌが言った。
 例え残存戦力の半数を失うとしても、ここで大魔族の一体を見逃す理由にはならない。

「いいや、君たちは私を逃がす。逃さざるを得ない。なぜならば⋯⋯」

 辺り一帯の空間に割れ目が生じて、そこから人の背丈ほどの大きさの手が、空間を掴むようにして現れた。
 それだけではない。様々な種類の魔獣が、ノースが、姿を顕にした。
 ギーレはそんな中、背中を見せて歩いていていた。目の前には黒色の靄のような門がいつの間にか現れていた。

「じゃあね、人間。また逢う日まで」

 ウィルムたちは、ギーレが残していった化物共の掃討を余儀なくされ、彼を追跡することは不可能だった。

 ◆◆◆

 GMCに宣戦布告をしたその日の夜のことだ。
 ギーレのその宣戦布告の内容は概ね本当の事だ。
 三日後に都市『グリンスタッド』でテロを行うことは間違いない。そこはレジアたちの根城がある都市であり、準備は進んでいる。どんなに探そうとも彼らは見つけられない。少なくとも三日間は。そして三日後には、誰もが忘れてしまったあの都が、記憶と共に再顕現するだろう。
 しかし、言っていないことがあった。嘘が、言葉にない嘘が隠れていたのだ。
 それは、既に戦いは始まっているということ。
 色彩──彼はかつて、RDC財団に所属していた。ギーレは彼から、いくつかの秘匿された事実を聞いていた。

「⋯⋯この世界は、危険に晒されている。大半の人間がそういった危険を知らず、見ず、巻き込まれないのは、ひとえにそういったモノたちと戦う組織があるから」

 それこそがRDC財団。それこそが財団本来の理念であり職務。
 今でこそ財団は超能力研究組織として世界に台頭しているが、それでさえ彼らからしてみればフロント企業のようなもの。
 Research、Destruction、Creationとは、RDC財団の頭文字。それらの意味は『超能力を開発し、今までの常識を破壊し、新たなる世界を作る』。
 しかしそれは表側の意味。本当の意味は、真なる文字は、

「──Resist、Develop、Contain⋯⋯『アノマリーに抵抗するために技術を開発し、そしてそれを以て収容する』」

 ギーレは色彩から聞いたことを思い出しながら、夜の郊外を歩いていた。
 そこはなんてことのない自然公園。夜だから人はいない。
 とある都市の、とある公園。誰もここに何かあるとは思わないし、万一疑ったとして、誰もそれを見つけることはできない。
 最高クラスの現実性維持装置が五十四台。
 物理、精神、非実体問わず排斥する超能力的多重結界。
 とあるアノマリーを元に作られた奇跡論的オートマタ九体。
 とあるAクラス奇跡論的アノマリーの収容──それは実質的に全能的能力者の事前排除及び偵察行為への自動的なカウンター。
 最高クラスの霧状記憶処理剤の散布。
 自爆用核爆弾と奇跡論的爆弾の内包。
 最高クラスの対魔術防衛装置が五十四台。
 魔術的な高レベルの多重結界。
 魔力の拡散及び魔毒と同等の効果を持つ霧状の薬剤の散布。
 対魔術師──魔族、魔獣含む──に特化した人型アノマリー及び機動部隊の配置。

「物理的な破壊は勿論。核爆弾でも傷一つつかない。超能力や現実改変、アノマリーへの防衛システムも完璧だ。他のアノマリーを扱う団体でも、これを突破できるものは居ないだろうね。それに魔術的な防衛も、それに劣らない。大魔族でも返り討ちに合う。引き際を見誤れば死んでもおかしくない⋯⋯つまり、ここは物理的にも、アノマリー的にも、そして魔術的にも、世界最高峰の防衛力を持つ場所だ。総合的な防衛力で言えば、GMCの本部落とすのと変わらないだろうね」

 ──そう、平時であれば。

「でも私は違う。ノースという戦力。色彩からの情報提供により、私はこのサイト-16に関して、知り尽くしている」

 ギーレはこの情報を知ってから計画していたことがある。
 GMC、現代最強の魔術師イア・スカーレットを殺すには、魔術では不可能だ。魔術戦となれば、ギーレは彼らを殺せない。
 しかし、ならば、魔術戦をしなければよい。そのうちの一つの方法として、アノマリーの活用を思い付いた。
 そしてアノマリーを奪うなら、逆に魔術でいけばいい。

「──さて、始めようか」

 時刻、22:18。
 RDC財団、サイト-16の全域を覆うように大規模魔術結界が展開される。

「魔術的防衛装置? ああ、確かに恐ろしいさ。私でも無策に行けば魔術を封じられる。だけどね、財団。君たちは魔術を知らない」

 心核結界。展開された結界術の正体だ。
 通常であれば、これほどの規模の心核結界の展開は不可能。
 だが、ギーレは『閉じない心核結界』の展開が可能であり、そのリソースの大半を空にして、対象魔術の相殺に、残ったリソースは通信の遮断と維持コストの軽減にあてている。
 以上の効力により、サイト-16の魔術的防衛装置の全てが無効化。そして他サイトとの連絡が完全に遮断された。
 尚も科学的な防衛装置は続いている。が、何も問題はない。
 そこが心核結界であるならば、ギーレは魔術を問題なく使うことができる。
 彼は惜しみなく、そのリソースを使う。
 およそ千体の魔族、魔獣がサイト-16に放たれた。
 ──22:56。サイト-16の第一防衛ラインが突破され、サイト内部への侵入を許す。
 現時点において、開放された千体の魔族、魔獣のうち、八割が死亡する。
 サイト-16を守っていたオートマタは魔術的攻撃能力も持ち合わせていた。
 しかし焼け石に水。オートマタは全滅してしまった。
 残存の機動部隊が残り二百体の魔族、魔獣との交戦を開始するも、ギーレは第二防衛ラインを突破した。
 ──00:47。サイト-16、サイト管理室にて。
 ギーレは、そこに侵入した。
 ここでアノマリーたちの収容装置の無力化を行うためだ。
 しかし、部屋に入ったとき、彼を迎える者が居た。

「ハロー、ギーレ。私がここ、サイト-16の管理官で、奇跡論部門の部門長を務めている、マリア・ヒューズよ。よろしく。そして⋯⋯」

 綺麗に整えられた金髪に、宝石のような碧眼。紺色のスーツを着ている、四十代半ばの高身長の女性。
 彼女はその手に拳銃を持っていて、ギーレに照準を合わせていた。

「死ね」

 ギーレは弾丸を頭に受ける。
 まず、巡った思考は「なぜ」だ。そして次に「まずい」で、最後に「逃げなければ。失敗だ」である。
 ギーレが頭に弾丸を受けたくらいでは死なない。それがただの鉛球ならそもそもダメージを受けない。
 だが、彼が受けたのはアノマリーだ。
 G-4-1911。マリアが持っていたその拳銃型アノマリーのナンバーだ。異常性は、これによって射撃された生き物は、普通の人間が拳銃に撃たれたのと同じ損傷を受ける。
 どんなに生命力が高い生物だろうと、いかなる防御手段を持とうと、この銃の前には一般人と同じ耐久力となる、ということだ。

「極めて高い現実強度を持っていてもそれは同じ。勿論、魔術的な実験もしたわ。全部、結果は一緒だった」

 ただし、再生能力の阻害効果はないようだ。
 ギーレは頭にぶち開けられた穴を塞ぐため、魔力によって肉体を構築する。
 構築しつつ、魔術を使う。ただの人間。でも、油断ならない。だから、全力を──。

「⋯⋯は?」

 ──分からない。
 どうして、私は「まずい」と思った。
 どうして、私は「逃げなければ」と思った。
 どうして、私はそれでも尚逃げなかった。
 何かが欠落している。その何かが、分からない。

「⋯⋯!」

 ギーレは。しかし、マリアには当たらなかった。
 拳は彼女を捉えたはずだ。なのに、当たらなかった。防御した? 否。回避した? これも否。
 ギーレは、マリアの位置を見誤ったのだ。

「⋯⋯⋯⋯」

 欠落している。無くなっている。分からない。知らない。覚えていない。忘れている。
 私は何者だ。ここはどこだ? 名前は。目の前の女は? なぜここに私はいるのか?
 
「⋯⋯普通の人間なら一秒も掛からない。数百年生きた人間でも数秒。⋯⋯まあいいわ。あなたはもう自分が何者であるのかも分からない。全て忘れてしまったでしょう?」

 B-4-0904。非実体の奇跡論的アノマリー。それは対象の記憶を食らう幽霊のようなものだ。
 マリアはこのアノマリーを手懐けており、他者の記憶を食わせることができる。
 全て初見だ。だから、ただの人間であるマリアはギーレを無力化することができた。
 現状でなければ、平時であれば、どんな処理を受けるか想像もできない。

「⋯⋯さてと」

 マリアは携帯電話を取り出し、近隣財団施設とGMCに連絡を取ろうとした。
 だが、電話は未だ繋がらないままだった。つまりそれは、

「⋯⋯!」

「危なかったよ」

 ギーレは魔砲を放つ。マリアはそれを察知し回避しようとするも、基礎的なスペックに差があり過ぎる。

「ぐっ⋯⋯」

 肩がいくらか消し飛んだ。それで済んだのは奇跡だ。
 彼女が持ち出したアノマリーと彼女の戦闘訓練。だから、生きていられている。

「⋯⋯認知薬。クラスA⋯⋯なぜ⋯⋯」

 B-4-0904から記憶を守ろうとするなら、クラスA──代償にあらゆる生体機能の破壊を求められるもの──を摂取する必要がある。
 しかし、ならばなぜ、

「『最初から効かなかったのか?』」

 ギーレはマリアの考えていることを言い当てた。
 クラスAの認知薬をギーレが服用している可能性。それをマリアは事前に警戒していた。
 しかし最初はギーレに、記憶を奪うアノマリーが通用した。

「私はその認知薬を使っていなかった。クラスAの認知薬の服用は大魔族である私でさえリスクになる。だから私は同等の効力を持つオリジナルの薬を作ったんだがね⋯⋯」

 失敗だった。けれど、それは良い結果に導いてくれた。

「まさに。そうだろう? 幸運だ。もし私に科学の才能があれば⋯⋯負けていただろうさ」

 ギーレは笑っている。それはきっと、自分に向けていた。

「勝負に勝った君に敬意を評して⋯⋯ここで確実に君を殺す。君は危険だ。ただの人間の範疇にいない」

「⋯⋯それは、どうも。でもね、化物。⋯⋯まだ終わりだとは思うな」

 マリアは、自分の命は無価値ではないと理解している。
 自分がいなければ、財団は奇跡論的アノマリーへの対抗などできなくなってしまう。
 だから、この作戦の提案をしたときに、Dメンバーからは「死ぬな」と命じられ、あと一つ、渡されたものがあった。

「時間は稼いだ。通信がシャットアウトされてから一時間がとうにすぎているわ」

「⋯⋯まさか。君──」

 理解した。思えば、そうだ。なぜ、ギーレは疑問を抱かなかった? 
 なぜ、
 マリアは幾何学模様の入ったキューブのようなものを取り出したかと思えば、次の瞬間、彼女の姿が消えた。転移だ。心核結界内部での転移を可能とするものなんて、限られている。

「⋯⋯ミリア・アインドラの仕業か」

 アノマリーではなく装置。世界最高峰の神秘を持つミリアの『境界支配』能力を使ったものだろう。そんな高価で稀少な装置を持たせたのならば、つまり、

「最初から私の考えは読まれていた、ということか。⋯⋯まったく、面白いね。実に⋯⋯ははは!」

 あと十分もしないうちにギーレを殺す為の部隊が、戦力が送り込まれるはずだ。
 それまでの間、ギーレはアノマリーを奪うことに時間をかけることができる。
 だが、選ばなくてはならない。目的の為に必要な、全てのアノマリーを奪うことはできない。できて一つ。

「やってくれたね、人間!」

 でも。それでも。ギーレはこの状況が、とてつもなく面白いと思っていた。

◆◆◆

「⋯⋯以上です」

 サイト-16がギーレに襲撃された翌日。
 マリアはただ一人の生還者として、病室内でD-3と面会していた。
 彼女は彼に、サイト-16の被害状況を伝えた。

「奪われたアノマリーは3090、か。一つで済んだのは良かったけど、ただその一つが何より奪われたくなかったものだね」

 D-3は言う。
 アノマリーナンバー、A-5-3090。
 ナンバーの最初文字であるAとはAlefであり、この文字はリスクレベルを意味している。
 そしてAlefとは、財団が指定するリスクレベルで最も高いものであり、財団の全力を以てしても、それに対応することはできない。
 ただし、このサイトのアノマリーの収容難易度は例外なく全てSafe。つまり、リスクレベルが何であれ、それを収容すること自体は非常に容易であるということ。
 言ってしまえば、サイト-16は財団にとっての武器を保管している場所であった。
 無論、A-5-3090もその一つだ。いやむしろこれは特別、切札と言えるようなものだった。

「『逆説的セーフティプロトコル』──そのプロトコルが適応された場所以外は時間と共に主観的に不都合な事が起きるが、代わりにその適応箇所は絶対の安全が確保される⋯⋯」

 マリアの無数にある功績の中でも、このアノマリーの開発は群を抜いて評価されている。
 謂わば、財団最後の砦だ。世界が終わるようなアノマリーをいくつも抱えていて、知っている彼ら唯一絶対の生命線でもある。

「⋯⋯使。少なくとも私はそう思っています。⋯⋯間違っているのでしょうか?」

「僕は君の上司だけど、奇跡論の知識。現場における判断力において、僕は君より優れていると自惚れたことはない。それに結果論になるよ、答えは」

 マリアは判断を間違っていなかった。
 A-5-3090は一度起動し解除すれば、消失する。それを再び造るには、莫大な資金と労力と時間が必要だ。
 何より代償として起きる不都合。不確定要素の塊であるこの可能性を差し置いて、おいそれと使えたものではない。

「さて。私は報告を受けるためだけにここに来たわけではない。ここからが本題だ。君の知恵を借りたい。我々は何に抵抗し、何の手段を取ればよいか」

 ギーレはA-5-3090をどのように使うのか?
 誰よりもそのアノマリーを知っているマリアならば、予想ができるだろう。そう期待して、D-3は訊いている。

「⋯⋯⋯⋯」

 A-5-3090は元々、時間稼ぎのために作られたアノマリーだ。最後の生命線とはよく言うが、その実態はただのシェルター。核爆弾だけでなく、他のあらゆる被害から身を守ることができるだけ。
 何かを解決できるものではない。何かを解決する為の手段。
 外部が不都合なこと⋯⋯つまり、最悪の状態になることを利用したテロ? いいや、ありえない。その最悪の状態とは、使用者の主観によって決められる。例えばマリアの場合だと、世界中のアノマリーの収容違反及び世界の終焉が発生するだろう。
 まず間違いなく、ギーレにとって都合の良いことは起きない。そう設計せざるを得なかったのだから。

「⋯⋯本来の用途」

 何かを解決する為の手段として用いる。それの確率が最も高い。
 であれば、何だ? この状況下、ギーレに時間稼ぎが必要な成し遂げたいこととは?
 あらゆる危険から遠ざけられる概念的防衛プロトコル。
 例え世界が終焉しても、シェルター内では生存が約束される。
 これをどう使う? どう悪用する?

「時間稼ぎ⋯⋯」

 マリアの脳裏に、あの白神降臨イベントの報告書が映る。
 大規模結界による分断。ノースと呼ばれる生命体の誕生。白神の降臨。多数の死者。

「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯ギーレは、あの大魔族は、何をしなければならない?」

 あの時、ギーレがやったこととは? そして失敗してしまったこととは? 布石として置こうとしていたものは?
 GMCの壊滅ではない。財団の壊滅でもない。
 白神の降臨そのものは、むしろギーレにとって不都合なものになる。確かに人類は存亡の危機になるが、新たなる時代の土台まで崩れてしまう。
 あのイベントは、あの降臨自体は、白神の完全な誕生そのものは、止められても良いものだったのだとすれば?

「⋯⋯ギーレにとって、最大の障壁は⋯⋯」

 そんなもの、一つ。

「⋯⋯⋯⋯」

 マリアの思考が纏まるまで、三十秒。彼女にしては長い思考の末、ようやく結論を出す。

「D-3、GMCに連絡してください。すぐにでもアリストリア・グルーヴを保護しなければなりません。でなければ──」

 彼女の声色に変化はない。けれど、その表情に焦りはあった。
 結論を聞いた彼も、また、焦燥に駆られていた。
 財団とGMCの間にあった協定。先日、破棄された、特級魔術師の学園都市への派遣禁止令が思い浮かぶ。
 その理由は、単純明快。

「最悪の場合──最強の魔術師を、敵に回すことになります」
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