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第55話 相伝の魔力
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ミナとリエサに敵意を向けられ、アンノウンは振り返った。それから彼は頭を掻き、見るからに面倒くさそうな表情を見せた。
「あなた⋯⋯ここで何をしてるの」
ミナの警戒心は限界まで引き上げられていた。
周囲には一般人が多く居る。戦闘が起これば、沢山の死傷者が出るだろう。
「俺はコンビニに昼飯買いに行くのも駄目なのかよォ? えェ?」
アンノウンの右手には白いビニール袋が握られていた。本当に彼は昼飯を買いに出かけているだけのようだ。
「⋯⋯ま、今のオレにはテメェらと殺り合うつもりはねェ。分かったならさっさと失せろ」
「残念だけどそれはできないわね。お生憎、私たちは犯罪者を野放しにする気はないから」
リエサはいつでも超能力を使うことができるよう、準備する。
「ンだと? ⋯⋯アア、そういうことかァ。テメェら財団と組んだなァ? 大方、邪魔になったオレを始末しに来たってところかァ。チッ⋯⋯」
アンノウンは明らかに苛立っている。リエサ、ミナはいつでも攻撃できるように準備こそしているが、間違いなくアンノウンには全くの無意味だ。
彼の意識一つで、学園自治区一つから人の命が根こそぎ刈り取られる。
彼はそれほどの超能力者だ。
「はァ⋯⋯テメェらがいくら束になろうとオレには敵わねェよ。それにテメェらが財団と協力するってことは、O.L.S.計画の凍結を約束したってとこだろ? なら、忠告してやらァ」
アンノウンの言葉は信用できない。彼はO.L.S.計画に加担し、残酷な実験を実行した張本人だ。
だがしかし、彼の言葉に、意識を奪われる。
「財団は目的の為なら手段を問わねェ。いつ後ろから刺されても可笑しくねェような組織だ」
彼の言葉には、声には、明確な敵意と憎悪が含まれていた。彼になにがあったのか分からないが、そうさせるだけの出来事があったことは確実だ。
「⋯⋯ご忠告どうも」
アンノウンの話した内容、一言一句信じることは愚かだ。
しかし、それは忠告として十分な価値がある。リエサも、財団を信用しきっているわけではなかった。
「もういいかよ? オレを殺すってんなら受けて立つが、無駄に終わるだろォな」
アンノウンは何処かへ歩いて行こうとした。
「待って」
ミナがアンノウンを引き止める。彼は「ああ?」と言いつつ立ち止まり、振り返った。
「あなたはこれからどうするつもりなの?」
「⋯⋯それを聞いてどォする。邪魔でもするつもりか?」
「いや⋯⋯わかった。正直に言う。あなたは、今もオーバーレベルの超能力者になるつもりなの?」
まさか、そんなことを聞かれることになるとは、と、アンノウンは少しばかり驚いた。
彼は、皮肉も何も無しに、本心から答える。
「オレがO.L.S.計画に参加したのは、オレの過去を知るためだ。それが成された今、もうオレにそんなつもりはねェ」
もし、アンノウンがO.L.S.計画のような非人道的な所業を今尚行うつもりであれば、ミナは何としてでも彼をここで止めようとした。
だが、その必要性はなかった。
もう、彼はホムンクルスの虐殺を行うつもりはないようだ。
けれど、
「⋯⋯だから、財団を憎んで、殺そうとしているの?」
ミナの言葉は、アンノウンの新たな目的を言い当てた。彼の目には、確かに、憎悪や殺意が込められていた。もしそれが向けられる相手が居るとすれば、それは財団しかない。
「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯そうだとしてよォ、テメェはどうするんだァ?」
「あなたを止める」
アンノウンは続けようとしていた言葉が詰まる。ミナの声には、本当にそうすると、そして成し遂げるという説得力があったからだ。嘲笑し、煽るようなことはできなかった。
「──そォかよ。⋯⋯なら今ここで⋯⋯」
やってみせろ。アンノウンがそう言おうとした時だった。
「──や、面白そうな面子が揃っているね」
聞く者全てを虜にするような、少女のように可憐で、女性らしく美しい声が響いた。
その声は一度聞けば忘れることはない。
目線を向けるとそこには、白髪の少女、エストが立っていた。
「私としたことが、まさか殺し損ねるとは思わなかったよ。アンノウン」
「ンだテメェ⋯⋯喧嘩でも売りに来たのかよ?」
「いんや? キミとの戦いで魔力回路が麻痺したから、正直今ここで殺しに来られたら何もできないよ」
だとすれば自殺行為だ。魔術が使えない、魔力も扱えないエストを殺すことは、アンノウンにとって容易も容易だ。
「でもキミは私を殺さない。私の目が示した未来の話さ」
それは事実である。アンノウンはエストを殺すつもりはない。彼にはそうするだけの理由がなかった。
「じゃあ何が目的だァ?」
「私の用があるのは、そこのお二人さんだよ。ま、キミも折角だ。ここだと何だし、それにお昼もまだでね。近くのファミレスにでも行こうか」
そう言って、言われるがままにアンノウン、ミナ、リエサの三人はエストについていき、近くのファミリーレストランに足を運んだ。
◆◆◆
お昼時は過ぎたとはいえ、まだまだ客は多く、話し声や食器の音が騒がしい。
店の入り口に来た四人を迎えるように、店員の一人が何名であるかを聞いてきて、エストは四人だと指で示す。
偶然にもテーブル席が一つ空いていたようで、待つことなく案内された。
四人がそれぞれ席に座る。ミナとリエサ、エストとアンノウンでそれぞれ別れた。
「キミたちは学生だし、私が奢ってあげよう。好きなものを選んでね」
外見年齢では寧ろミナたちのほうが上なのだが、実年齢だとエストが上だ。魔術師の給与は高いらしく、余裕があるようだ。
「子供扱いするンじゃねェ。自分の分は自分で払う」
アンノウンは財団所属の研究員兼色々と超能力開発に関わってきており、投資など資産運用をしているため働かなくても良いほど貯蓄がある。
何より自分を殺しに掛かってきた相手に奢られたくないため、断ろうとした。
「ここは大人しく奢られるべきだよ」
「⋯⋯チッ」
だが渋々引き下がる。
各々注文し終えると、エストが話を始めた。
「先に結論から言おうか。今回の事件、GMCが本格的に介入しないといけなくなった。下手すれば学園都市が滅ぶ程度じゃ済まないものだと判明したんだよ」
「⋯⋯は? それは、どういうことですか」
確かにDicidersは『未曾有の戦争が学園都市で起こる』とは言っていたが、学園都市が消滅するとまでは言っていなかった。
何より、GMC──魔術サイドの本格的な介入とは何を意味するのか。
「⋯⋯魔族関連の話か。チッ、面倒なことになりやがる」
「ま⋯⋯ぞく?」
「んだァ? テメェら魔術師と関わってンのに魔族も知らねェのか」
「じゃあまずそこから話していかないといけないみたいだね」
エストは魔族とは何か、そもそも魔術師、GMCとは何かを説明する。
Global Magic Coalition──世界魔術連合とは、魔族と呼ばれる存在から人類を守ることを目的とした組織である。
魔術界の総本山。世界各国に拠点を持ち、活動している。だが一般人には存在を認知すらされておらず、政府の中でも上層部や、一部の人間のみがその存在を知っている。
「そもそも魔術に適性を持つ人間自体が少なくて関わることがないし、魔族の生態から、これらの存在を公にするメリットは一切ない。だから、キミたちが知らないのは当然なんだ」
「魔族とやらの生態が⋯⋯?」
「そそ。魔族の起源やらなんやらはよく分からないってされてるけど、どうやって生まれるかは分かっているんだ」
魔族とは、魔力を扱える者──要は魔術適正のある者だけが視認することができる人食いの化物である。
「魔族の数は少ない。でも毎年少なくない数の人間が食われてる。行方不明者っているでしょ? 大多数は探せば見つかるけど、二割くらいは見つからない。で、その見つからない二割は大体食われてるんだよ」
「なっ⋯⋯」
一般人には不可視の化物。個体数が少ないにも関わらず、及ぼす影響は非常に大きい。
「何より厄介なのは、その繁殖方法。簡単に言えば人から漏れる魔力と、負の感情を源に生まれるのさ」
最も旧く、最も強い負の感情とは未知への恐怖であり、それは何者であろうと逃れることができない。
不可視の人食いの化物の存在がもし知られれば、社会は間違いなく混乱し、より魔族の発生に繋がるだろう。
そうなれば負のループだ。
「あとついでに言うと、魔族は通常兵器は勿論、超能力も基本通用しない。魔力が込められたものじゃないと傷つけることもできないってこと」
「そんな厄介なものが、今回の事件⋯⋯『革命家』、シャフォン教に関わっている、と?」
「そう。シャフォン教のバックに魔族が居るっていう報告が上がったんだ。で、この魔族がどうもきな臭くてね」
先述したように、魔族とは人食いの化物だ。そんな化物が捕食対象であるはずの人間と取引をするということは異例中の異例である。
「知性がある魔族は厄介極まりないから一級魔術師⋯⋯私と同じ階級の術師が討伐のために派遣されたんだけどね、まあ見事に死体残してGMCに送りつけられたの。きっちり派遣された三人全員、死体は綺麗にされた状態でね」
「え? エストさんと同じ階級の術師が⋯⋯しかも三人殺された?」
「星華ミナ、テメェ、勘違いしてるなァ? この白髪術師は並の一級魔術師じゃねェ。その殺された野郎共とは比較にならねェよ。⋯⋯だが、それでも一級魔術師は超能力者で言えばレベル5ってとこか」
少なくともその魔族は、一級魔術師、レベル5の超能力者相当を三人殺害するだけの強さを持つ。しかも綺麗な死体を送りつけるという所業を見るに、遊び程度なのかもしれない。
「だからGMCはこれを特級案件──国家存続の危機レベルの大事件として、対応することにしたんだ」
「じゃあ良いじゃないんですか? GMCが介入してくれるのなら」
ミナからすれば、GMCは助け舟のようなものに思えた。財団とGMCが協力すれば、『革命家』、シャフォン教のテロなんてどうとでもなりそうなものである。
「そう簡単な話でもないんだよねぇ。特級ってのは核兵器みたいなものだ。対応を間違えれば簡単に周辺が消し飛ぶ。GMCだって下手に動けない」
「それに財団とGMCは互いにいがみ合ってやがる。O.L.S.計画の一件で、まず普通に協力関係を結べるのかも怪しいなァ」
「そんなことが⋯⋯。⋯⋯ところで、なんでわたしたちにそんな話を? どうにかできるものだとは思えないんですけど」
「そりゃ、星華ミナ、キミなら何とかできるかもしれないから話してるんだよ」
「⋯⋯はい? わたし?」
ミナは、まさか自分がこの問題をなんとかできるとは思えず、唖然とした。
「うん。実はキミね、血筋調べたら御三家の人間だって分かった」
「血筋⋯⋯御三家⋯⋯?」
魔術界における大御所、御三家。その中の一つ、あらゆる魔力の祖とも言われる『マナ家』の血筋に、ミナは属していた。
「その家系の相伝魔力は『変質』。思うがままに、自らの魔力の性質を変化させることができる」
原初にして万能の固有魔力。それこそが『マナ家』の相伝である。
「『変質』の固有魔力は正に万能の力だ。使いこなせれば、まず格上でもない限り負けることはない。そして⋯⋯私の予想が正しければ、私の力を最大限に引き出すことができるかもしれないんだよ」
「エストさんの力を⋯⋯?」
「そう。私訳あって、そもそも全力全開で戦うことができないわけなんだけどね」
まるで注釈でもするように、アンノウンとの戦闘で魔力回路が麻痺したことは関係ない。それ以前の問題であると彼女は言った。
エストは魔力を使おうとすればするほど、肉体への負担が加速度的に大きくなっていく。そのため全力全開で戦おうとすれば一瞬たりとも持たない。
「でも『変質』の魔力があれば問題ないかもしれない。この原因についてはある程度予想がついてる。そこにちょちょっと干渉してやれば、原因をどうにかできるって寸法さ」
「滅茶苦茶わたし頼りの解決案じゃないですか。わたしは魔力のマの字すら知らないんですが?」
「実は私ね、記憶を流し込むことができるんだ。それ応用すれば、キミも今から一級術師だよ」
「あなた本当にどうなってるんですか!?」
無論、誰でも一級術師並の知識と技能をインストールしたからといって本当に一級術師になることができるわけではない。それ相応の素質がなければいけないし、結局インストールされたものを使いこなせるかどうかは本人のセンス次第だ。
「まあキミには魔術師の才能がある、とだけ言っておくよ。歴代でも天才側の私のお墨付きさ」
「うーん⋯⋯まあ、はい。わかりました⋯⋯」
「色々とやることはあるけど、それは後ほど。とりあえず今日はこのくらいで解散しよう。ほら、丁度食べ物も届いたし」
このタイミングで、注文していたものがテーブルに届いた。
エストがミナに言いたかったこと、協力してほしかったことは言い終えた。既に要件は終わっており、残りは食事を楽しむだけだ。
いや、あと一つ、言わなければならないことがあった。
「そうそう。キミが『マナ家』の血筋であること、あんまり言いふらしたらいけないよ。下手しなくても間違いなくその身柄が魔術界から狙われるから」
「──え?」
現在、『マナ家』の相伝魔力、『変質』を持つものは、その家系に存在しない。星華ミナという隠れ子を除き。
「あなた⋯⋯ここで何をしてるの」
ミナの警戒心は限界まで引き上げられていた。
周囲には一般人が多く居る。戦闘が起これば、沢山の死傷者が出るだろう。
「俺はコンビニに昼飯買いに行くのも駄目なのかよォ? えェ?」
アンノウンの右手には白いビニール袋が握られていた。本当に彼は昼飯を買いに出かけているだけのようだ。
「⋯⋯ま、今のオレにはテメェらと殺り合うつもりはねェ。分かったならさっさと失せろ」
「残念だけどそれはできないわね。お生憎、私たちは犯罪者を野放しにする気はないから」
リエサはいつでも超能力を使うことができるよう、準備する。
「ンだと? ⋯⋯アア、そういうことかァ。テメェら財団と組んだなァ? 大方、邪魔になったオレを始末しに来たってところかァ。チッ⋯⋯」
アンノウンは明らかに苛立っている。リエサ、ミナはいつでも攻撃できるように準備こそしているが、間違いなくアンノウンには全くの無意味だ。
彼の意識一つで、学園自治区一つから人の命が根こそぎ刈り取られる。
彼はそれほどの超能力者だ。
「はァ⋯⋯テメェらがいくら束になろうとオレには敵わねェよ。それにテメェらが財団と協力するってことは、O.L.S.計画の凍結を約束したってとこだろ? なら、忠告してやらァ」
アンノウンの言葉は信用できない。彼はO.L.S.計画に加担し、残酷な実験を実行した張本人だ。
だがしかし、彼の言葉に、意識を奪われる。
「財団は目的の為なら手段を問わねェ。いつ後ろから刺されても可笑しくねェような組織だ」
彼の言葉には、声には、明確な敵意と憎悪が含まれていた。彼になにがあったのか分からないが、そうさせるだけの出来事があったことは確実だ。
「⋯⋯ご忠告どうも」
アンノウンの話した内容、一言一句信じることは愚かだ。
しかし、それは忠告として十分な価値がある。リエサも、財団を信用しきっているわけではなかった。
「もういいかよ? オレを殺すってんなら受けて立つが、無駄に終わるだろォな」
アンノウンは何処かへ歩いて行こうとした。
「待って」
ミナがアンノウンを引き止める。彼は「ああ?」と言いつつ立ち止まり、振り返った。
「あなたはこれからどうするつもりなの?」
「⋯⋯それを聞いてどォする。邪魔でもするつもりか?」
「いや⋯⋯わかった。正直に言う。あなたは、今もオーバーレベルの超能力者になるつもりなの?」
まさか、そんなことを聞かれることになるとは、と、アンノウンは少しばかり驚いた。
彼は、皮肉も何も無しに、本心から答える。
「オレがO.L.S.計画に参加したのは、オレの過去を知るためだ。それが成された今、もうオレにそんなつもりはねェ」
もし、アンノウンがO.L.S.計画のような非人道的な所業を今尚行うつもりであれば、ミナは何としてでも彼をここで止めようとした。
だが、その必要性はなかった。
もう、彼はホムンクルスの虐殺を行うつもりはないようだ。
けれど、
「⋯⋯だから、財団を憎んで、殺そうとしているの?」
ミナの言葉は、アンノウンの新たな目的を言い当てた。彼の目には、確かに、憎悪や殺意が込められていた。もしそれが向けられる相手が居るとすれば、それは財団しかない。
「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯そうだとしてよォ、テメェはどうするんだァ?」
「あなたを止める」
アンノウンは続けようとしていた言葉が詰まる。ミナの声には、本当にそうすると、そして成し遂げるという説得力があったからだ。嘲笑し、煽るようなことはできなかった。
「──そォかよ。⋯⋯なら今ここで⋯⋯」
やってみせろ。アンノウンがそう言おうとした時だった。
「──や、面白そうな面子が揃っているね」
聞く者全てを虜にするような、少女のように可憐で、女性らしく美しい声が響いた。
その声は一度聞けば忘れることはない。
目線を向けるとそこには、白髪の少女、エストが立っていた。
「私としたことが、まさか殺し損ねるとは思わなかったよ。アンノウン」
「ンだテメェ⋯⋯喧嘩でも売りに来たのかよ?」
「いんや? キミとの戦いで魔力回路が麻痺したから、正直今ここで殺しに来られたら何もできないよ」
だとすれば自殺行為だ。魔術が使えない、魔力も扱えないエストを殺すことは、アンノウンにとって容易も容易だ。
「でもキミは私を殺さない。私の目が示した未来の話さ」
それは事実である。アンノウンはエストを殺すつもりはない。彼にはそうするだけの理由がなかった。
「じゃあ何が目的だァ?」
「私の用があるのは、そこのお二人さんだよ。ま、キミも折角だ。ここだと何だし、それにお昼もまだでね。近くのファミレスにでも行こうか」
そう言って、言われるがままにアンノウン、ミナ、リエサの三人はエストについていき、近くのファミリーレストランに足を運んだ。
◆◆◆
お昼時は過ぎたとはいえ、まだまだ客は多く、話し声や食器の音が騒がしい。
店の入り口に来た四人を迎えるように、店員の一人が何名であるかを聞いてきて、エストは四人だと指で示す。
偶然にもテーブル席が一つ空いていたようで、待つことなく案内された。
四人がそれぞれ席に座る。ミナとリエサ、エストとアンノウンでそれぞれ別れた。
「キミたちは学生だし、私が奢ってあげよう。好きなものを選んでね」
外見年齢では寧ろミナたちのほうが上なのだが、実年齢だとエストが上だ。魔術師の給与は高いらしく、余裕があるようだ。
「子供扱いするンじゃねェ。自分の分は自分で払う」
アンノウンは財団所属の研究員兼色々と超能力開発に関わってきており、投資など資産運用をしているため働かなくても良いほど貯蓄がある。
何より自分を殺しに掛かってきた相手に奢られたくないため、断ろうとした。
「ここは大人しく奢られるべきだよ」
「⋯⋯チッ」
だが渋々引き下がる。
各々注文し終えると、エストが話を始めた。
「先に結論から言おうか。今回の事件、GMCが本格的に介入しないといけなくなった。下手すれば学園都市が滅ぶ程度じゃ済まないものだと判明したんだよ」
「⋯⋯は? それは、どういうことですか」
確かにDicidersは『未曾有の戦争が学園都市で起こる』とは言っていたが、学園都市が消滅するとまでは言っていなかった。
何より、GMC──魔術サイドの本格的な介入とは何を意味するのか。
「⋯⋯魔族関連の話か。チッ、面倒なことになりやがる」
「ま⋯⋯ぞく?」
「んだァ? テメェら魔術師と関わってンのに魔族も知らねェのか」
「じゃあまずそこから話していかないといけないみたいだね」
エストは魔族とは何か、そもそも魔術師、GMCとは何かを説明する。
Global Magic Coalition──世界魔術連合とは、魔族と呼ばれる存在から人類を守ることを目的とした組織である。
魔術界の総本山。世界各国に拠点を持ち、活動している。だが一般人には存在を認知すらされておらず、政府の中でも上層部や、一部の人間のみがその存在を知っている。
「そもそも魔術に適性を持つ人間自体が少なくて関わることがないし、魔族の生態から、これらの存在を公にするメリットは一切ない。だから、キミたちが知らないのは当然なんだ」
「魔族とやらの生態が⋯⋯?」
「そそ。魔族の起源やらなんやらはよく分からないってされてるけど、どうやって生まれるかは分かっているんだ」
魔族とは、魔力を扱える者──要は魔術適正のある者だけが視認することができる人食いの化物である。
「魔族の数は少ない。でも毎年少なくない数の人間が食われてる。行方不明者っているでしょ? 大多数は探せば見つかるけど、二割くらいは見つからない。で、その見つからない二割は大体食われてるんだよ」
「なっ⋯⋯」
一般人には不可視の化物。個体数が少ないにも関わらず、及ぼす影響は非常に大きい。
「何より厄介なのは、その繁殖方法。簡単に言えば人から漏れる魔力と、負の感情を源に生まれるのさ」
最も旧く、最も強い負の感情とは未知への恐怖であり、それは何者であろうと逃れることができない。
不可視の人食いの化物の存在がもし知られれば、社会は間違いなく混乱し、より魔族の発生に繋がるだろう。
そうなれば負のループだ。
「あとついでに言うと、魔族は通常兵器は勿論、超能力も基本通用しない。魔力が込められたものじゃないと傷つけることもできないってこと」
「そんな厄介なものが、今回の事件⋯⋯『革命家』、シャフォン教に関わっている、と?」
「そう。シャフォン教のバックに魔族が居るっていう報告が上がったんだ。で、この魔族がどうもきな臭くてね」
先述したように、魔族とは人食いの化物だ。そんな化物が捕食対象であるはずの人間と取引をするということは異例中の異例である。
「知性がある魔族は厄介極まりないから一級魔術師⋯⋯私と同じ階級の術師が討伐のために派遣されたんだけどね、まあ見事に死体残してGMCに送りつけられたの。きっちり派遣された三人全員、死体は綺麗にされた状態でね」
「え? エストさんと同じ階級の術師が⋯⋯しかも三人殺された?」
「星華ミナ、テメェ、勘違いしてるなァ? この白髪術師は並の一級魔術師じゃねェ。その殺された野郎共とは比較にならねェよ。⋯⋯だが、それでも一級魔術師は超能力者で言えばレベル5ってとこか」
少なくともその魔族は、一級魔術師、レベル5の超能力者相当を三人殺害するだけの強さを持つ。しかも綺麗な死体を送りつけるという所業を見るに、遊び程度なのかもしれない。
「だからGMCはこれを特級案件──国家存続の危機レベルの大事件として、対応することにしたんだ」
「じゃあ良いじゃないんですか? GMCが介入してくれるのなら」
ミナからすれば、GMCは助け舟のようなものに思えた。財団とGMCが協力すれば、『革命家』、シャフォン教のテロなんてどうとでもなりそうなものである。
「そう簡単な話でもないんだよねぇ。特級ってのは核兵器みたいなものだ。対応を間違えれば簡単に周辺が消し飛ぶ。GMCだって下手に動けない」
「それに財団とGMCは互いにいがみ合ってやがる。O.L.S.計画の一件で、まず普通に協力関係を結べるのかも怪しいなァ」
「そんなことが⋯⋯。⋯⋯ところで、なんでわたしたちにそんな話を? どうにかできるものだとは思えないんですけど」
「そりゃ、星華ミナ、キミなら何とかできるかもしれないから話してるんだよ」
「⋯⋯はい? わたし?」
ミナは、まさか自分がこの問題をなんとかできるとは思えず、唖然とした。
「うん。実はキミね、血筋調べたら御三家の人間だって分かった」
「血筋⋯⋯御三家⋯⋯?」
魔術界における大御所、御三家。その中の一つ、あらゆる魔力の祖とも言われる『マナ家』の血筋に、ミナは属していた。
「その家系の相伝魔力は『変質』。思うがままに、自らの魔力の性質を変化させることができる」
原初にして万能の固有魔力。それこそが『マナ家』の相伝である。
「『変質』の固有魔力は正に万能の力だ。使いこなせれば、まず格上でもない限り負けることはない。そして⋯⋯私の予想が正しければ、私の力を最大限に引き出すことができるかもしれないんだよ」
「エストさんの力を⋯⋯?」
「そう。私訳あって、そもそも全力全開で戦うことができないわけなんだけどね」
まるで注釈でもするように、アンノウンとの戦闘で魔力回路が麻痺したことは関係ない。それ以前の問題であると彼女は言った。
エストは魔力を使おうとすればするほど、肉体への負担が加速度的に大きくなっていく。そのため全力全開で戦おうとすれば一瞬たりとも持たない。
「でも『変質』の魔力があれば問題ないかもしれない。この原因についてはある程度予想がついてる。そこにちょちょっと干渉してやれば、原因をどうにかできるって寸法さ」
「滅茶苦茶わたし頼りの解決案じゃないですか。わたしは魔力のマの字すら知らないんですが?」
「実は私ね、記憶を流し込むことができるんだ。それ応用すれば、キミも今から一級術師だよ」
「あなた本当にどうなってるんですか!?」
無論、誰でも一級術師並の知識と技能をインストールしたからといって本当に一級術師になることができるわけではない。それ相応の素質がなければいけないし、結局インストールされたものを使いこなせるかどうかは本人のセンス次第だ。
「まあキミには魔術師の才能がある、とだけ言っておくよ。歴代でも天才側の私のお墨付きさ」
「うーん⋯⋯まあ、はい。わかりました⋯⋯」
「色々とやることはあるけど、それは後ほど。とりあえず今日はこのくらいで解散しよう。ほら、丁度食べ物も届いたし」
このタイミングで、注文していたものがテーブルに届いた。
エストがミナに言いたかったこと、協力してほしかったことは言い終えた。既に要件は終わっており、残りは食事を楽しむだけだ。
いや、あと一つ、言わなければならないことがあった。
「そうそう。キミが『マナ家』の血筋であること、あんまり言いふらしたらいけないよ。下手しなくても間違いなくその身柄が魔術界から狙われるから」
「──え?」
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