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第64話 突入
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黄金の剣が、老婆に射出される。それは間違いなく、老婆の首を突き刺し殺すものだった。
──しかし、剣は弾かれた。青年の拳によって。
「⋯⋯成程。この心核結界に付与された魔術はそれか」
青年が受けた傷は治っていない。既に致死量を超える出血をしているし、常人なら動くことができないはずだ。
にも関わらず青年は動いている。いやむしろ、その動きはより洗練されていた。
(速い⋯⋯いや、それだけじゃない)
黄金の剣は射出と同時に、全て破壊された。ただの魔力放出で。術式を通していないものであるにも関わらず、だ。
青年の身体能力、魔力出力は上がっている。
青年がリクに接近し、拳を突き出す。リクは躱しつつ、その拳に触れて黄金化させた。が、抵抗され大した黄金化はできなかった。
(全体的に能力が上がっている。直接触れてこれなら、剣による黄金化は百本くらいは突き刺さないといけなさそうだ)
ひらりひらりとリクは青年の格闘を躱し続ける。が、回避に専念しているだけでは隙を作ることができない。
傍目でヨセフを確認した。彼はゾンビたちを殺し尽くしているものの、処理速度より召喚速度の方が早く、段々と処理が間に合わなくなりつつあった。
時間を掛ければ死ぬだろう。
隙を作るには、青年の抹殺は必要事項だ。
「〈水銀の矢〉」
五十を超える矢の形をした水銀が、高速で青年に向かって射出される。
青年は水銀の矢を躱す、弾こうとするも、数本突き刺さる。
水銀は非常に毒性の強い物質だ。魔術により増幅されたそれが命中した犠牲者が発症する症状は主に二つ。
「⋯⋯っ」
青年は不死性が与えられている。そのため彼は死ぬことがない。また、肉体の損傷も、動くことが困難になった場合に限って修復される。
ただし、それは青年が正真正銘のアンデッドになったということではない。
「水銀中毒って知ってる? まあ僕の魔術で生成された水銀は本物とは違うけど、毒性は大体一緒。簡単に言えば、死ぬか神経全部麻痺する」
不死性を得た青年が死ぬことはない。ただ、運動機能が停止し動けなくなり、頭痛や悪寒を感じ、絶え間ない激痛を味わうだけだ。
「さて、君の体質ならすぐに毒を除去し、機能を回復することができるだろうね。でも、それをする頃にはもう遅い」
「⋯⋯!?」
青年が立ち上がった時、彼は無数の魔術陣に囲まれていた。数えるのも億劫になる。百は容易く超えているはずだ。
「言ったろ? 君を黄金化させるなら、百の剣を突き刺せばいいだろう、って。じゃあそうするだけだよ」
リクでも百を超える魔術の行使は難しい。が、準備さえできれば可能なことだ。
まるで銃声のような音が、一度に響いた。
黄金の剣、総数百十四本が、たった一人の青年を標的に射出された。
「さて、これで二人目」
リクは手元に剣を生成し、老婆の首を刎ねる勢いで迫る。ゾンビ、スケルトンがこれを妨害すべく彼に襲いかかるが、全て、黒い渦に飲み込まれた。ヨセフの魔術だ。
リクは老婆を斬りつけた。老婆は詠唱を中断し、自分を守るために防御結界を展開。彼の剣を受け止めることには成功した。しかし──、
「リン、あと一人も頼むよ」
「ほんっと、あなたの魔術容赦ないわね。でも、任された!」
隙を作り、穴を開けて結界内から脱出する。そんな作戦は今、却下した。
──このまま、心核結界を塗り潰す。
リンは心核結界を広げる。押し合いにはわずかに抵抗を感じたが、最早、拮抗するような力ではない。
一瞬、そこに本殿が顕現し──、
「これで、三人目」
切り刻まれた老婆の死体が、ビルの屋上に倒れた。
◆◆◆
上空三百メートル。いくら魔術師であろうと、まともに落下すれば死ぬ。
だがホタルはマトモな魔術師、人間ではない。魔力強化、茨による衝撃緩和があるとは言え、無傷で着地した。
あの魔詛使は空中で引き剥がした。その際に胸を貫き、即死とまではいかずとも落下に耐えられるような状態ではないはずだ。
実際、近くには魔詛使の死体が転がっている。全身の骨という骨がへし折れ、曲がってはいけない方向に曲がっている。
「⋯⋯なんだったの。自分の命を犠牲にしてまで、することじゃないよ」
ともあれ、今は何とかしてビルの屋上にいかないといけない。リンたちの身が心配だ。茨を使って、ホタルはビルを駆け上がろうとした⋯⋯が、
「⋯⋯!」
一般攻撃魔術が、ホタルを狙って行使される。防御魔術によって防ぐことはできたが、驚きは隠せなかった。
「死んだはずじゃ⋯⋯」
魔術を使ったのは、あの中年の男だ。死体も、そこに、
「⋯⋯ないっ!?」
そこには、死体はあろうことか血溜まりすらなかった。
「⋯⋯驚いてるみたいだな、お嬢さん。まさか自然落下で無傷だとは思わなかったが⋯⋯それ、油断っていうんだぜ」
ホタルは背後から魔力を感知し、茨により防御した。すると、全く同じ姿をした男が居た。男はホタルを蹴りつけようとしたが、彼女の茨によって腹を貫かれ即死した。
「⋯⋯二人。分身系の魔術⋯⋯?」
「ああ、そうだ」
ホタルを、全く同じ顔、背丈、肉質、服装の男、六人が囲む。
ホタルは魔術を行使。茨を大量に出現させ、それらを全て振り払う。
男たちは全滅だ。
「⋯⋯⋯⋯」
が、ホタルは油断しなかった。隠密していた男の位置に向かって茨を打ち込む。問題なく、それを殺した。
「戦い慣れてるな。それに魔力感知も鋭い」
「──!?」
しかし、またもう一人、現れた。
「これでも魔力隠密は得意なんだぜ? はあー、危ない危ない」
「⋯⋯どういうこと? さっき殺ったのが本体のはず」
ホタルの魔力感知に反応した対象は全て殺し尽くしたはずだ。だというのに、殺しきれていない。それどころか、もう一度、六人の魔力反応を感じた。視認もできた。
「あー、じゃあ情報開示といこう。俺の固有魔力は確かに分身を作り出す⋯⋯が、本体は移し替えることができる。同時に出せるのは六人。ついでに言えば、この情報開示をしたおかげで今の俺は魔力が増幅され──」
分身体──すべて本体──が、一斉にホタルを襲う。
「──七人だ」
ホタルは一般攻撃魔術を意図的に暴走させ、魔力を破裂させることで全方位攻撃する。分身たちは致命的な傷を負った。
「⋯⋯わたしなら、動けなくなった分身体は消してしまう。そうして新たに万全の分身体を作る。情報開示はまだ足りなかったようね」
ホタルは襲ってきた分身体六人のうち、三人を生きたまま茨により拘束した。これで自殺もさせない。
思ったとおり、致命傷を負った残り三人は自殺し、また新たな分身体が作られる。
「ほぉ⋯⋯中々どうして観察眼が鋭いな。⋯⋯だが、これで俺に勝てると思ってんなら、そりゃあ油断だぜ」
男は肉体を魔力により強化。一気にホタルとの距離を詰める。彼女が茨を操り、攻撃していることから中遠距離タイプだと判断したのである。
茨による薙ぎ払いを突破した一人が、ホタルに殴り掛かる。
だが、
「⋯⋯!?」
肘打ちが男の顔面に入る。続いて軽快な身のこなしからは想像もできないパワーの回し蹴りが男の頭を捉えた。
「女だって侮ったのが運の尽き、ね」
脳震盪により動けない。地面から生えた植物の根のようなものに囚われた。
「あと三人」
魔力を感知し、茨を叩き付ける。ようやく男は学習したようで雑に突っ込んでくることを止めたようだ。茨を回避することに専念していた。
(⋯⋯強い。もう分身が四人も無力化された。ここは逃げるに限るな)
魔詛使たちは報酬に釣られて、このテロ行為を手助けしている。男も勿論そうであった。
無論、仕事を放棄すれば報酬は支払われないだろうし、下手をすれば命を狙われる。が、ここでホタルに殺されるよりは格段にマシだ。
(命あってこそだぜ、金ってのは)
男は逃亡を図った。分身二人に命を懸けさせれば、いくらホタルほどの魔術師相手でも、逃げる時間くらいは稼ぐことができるはずだ。
男は踵を返し、一目散に逃亡し始めた。
「逃げ⋯⋯速!?」
男は逃亡することを良しとしてきた。プライドなんてあったものではない。そのため、彼の逃げ足はとてつもなく速い。
魔力強化を足のみに集中させたその速度は一級魔術師でも上位に相当するだろう。
「〈穿ち引裂く死の茨〉!」
が、ならば詠唱魔術を使うだけだ。
通常の茨よりも格段に速く、多い数の茨が分身と逃亡した本体を掴む。
普通に茨を顕現するより魔力消費が倍以上となるデメリットがある。これを使っておいて逃がすようなヘマはしない。
「なんだその魔術! 卑怯だぞ!」
「知らないよ!」
ホタルは掴まえた分身全てを一気に殺し、残る本体の首を締め付け気絶させた。
念の為、生き残りがいないかを確認したが、魔力感知に反応はなかった。
男の完全沈黙を確認後、ビル屋上からリンたちが降りてくる。
「大丈夫だった? 怪我はない?」
ホタルがリンたちの無事を確認する。彼らに大した傷はない。任務はそ問題な続行できる状態だ。
既に結界を維持していた魔導具は破壊した。結界師も倒した今、結界は破壊されるはずだ。
しかし、ミース学園自治区を覆う結界は解けていなかった。
「なんで⋯⋯?」
リンはまだ結界師が残っているのかと考えた。
だが、ホタルは何かに気が付き、結界に触れた。すると、触れた手は向こう側に通じた。
「⋯⋯わたしたちは通ることができるね。何層か結界が重なっているみたい。ということは⋯⋯」
ミース学園自治区を覆う結界は、何層かに分かれている。
一番外側にあった結界は、おそらく、魔術師もしくは外部からの侵入を防ぐ効力を持っていた。
他には、内部からの脱出を防ぐ効力が考えられるだろう。
ホタルが触れた結界は、二層展開されているように感じた。
「一つは脱出阻害だとして⋯⋯あと一つはなんなのかな⋯⋯」
ホタルの疑問に答えるべく、リンは結界に触れて解析を試みた。
無論、試す前から分かっていたことだが、中和及び破壊は不可能だ。リンの実力だと、やろうとすれば数日は必要になるだろう。
肝心なのはその効力の解析なのだが、こちらも失敗に終わる。一番内側の結界は、やはり脱出阻害の結界だとすぐ分かったが、もう一つが分からない。暗号化されていて、効力を暴くのにはかなりの時間を必要としそうだ。
「今、時間を掛けるべきことじゃない。ホタルさん、みんな、行くわよ」
リンたちは結界内に侵入する。
──しかし、剣は弾かれた。青年の拳によって。
「⋯⋯成程。この心核結界に付与された魔術はそれか」
青年が受けた傷は治っていない。既に致死量を超える出血をしているし、常人なら動くことができないはずだ。
にも関わらず青年は動いている。いやむしろ、その動きはより洗練されていた。
(速い⋯⋯いや、それだけじゃない)
黄金の剣は射出と同時に、全て破壊された。ただの魔力放出で。術式を通していないものであるにも関わらず、だ。
青年の身体能力、魔力出力は上がっている。
青年がリクに接近し、拳を突き出す。リクは躱しつつ、その拳に触れて黄金化させた。が、抵抗され大した黄金化はできなかった。
(全体的に能力が上がっている。直接触れてこれなら、剣による黄金化は百本くらいは突き刺さないといけなさそうだ)
ひらりひらりとリクは青年の格闘を躱し続ける。が、回避に専念しているだけでは隙を作ることができない。
傍目でヨセフを確認した。彼はゾンビたちを殺し尽くしているものの、処理速度より召喚速度の方が早く、段々と処理が間に合わなくなりつつあった。
時間を掛ければ死ぬだろう。
隙を作るには、青年の抹殺は必要事項だ。
「〈水銀の矢〉」
五十を超える矢の形をした水銀が、高速で青年に向かって射出される。
青年は水銀の矢を躱す、弾こうとするも、数本突き刺さる。
水銀は非常に毒性の強い物質だ。魔術により増幅されたそれが命中した犠牲者が発症する症状は主に二つ。
「⋯⋯っ」
青年は不死性が与えられている。そのため彼は死ぬことがない。また、肉体の損傷も、動くことが困難になった場合に限って修復される。
ただし、それは青年が正真正銘のアンデッドになったということではない。
「水銀中毒って知ってる? まあ僕の魔術で生成された水銀は本物とは違うけど、毒性は大体一緒。簡単に言えば、死ぬか神経全部麻痺する」
不死性を得た青年が死ぬことはない。ただ、運動機能が停止し動けなくなり、頭痛や悪寒を感じ、絶え間ない激痛を味わうだけだ。
「さて、君の体質ならすぐに毒を除去し、機能を回復することができるだろうね。でも、それをする頃にはもう遅い」
「⋯⋯!?」
青年が立ち上がった時、彼は無数の魔術陣に囲まれていた。数えるのも億劫になる。百は容易く超えているはずだ。
「言ったろ? 君を黄金化させるなら、百の剣を突き刺せばいいだろう、って。じゃあそうするだけだよ」
リクでも百を超える魔術の行使は難しい。が、準備さえできれば可能なことだ。
まるで銃声のような音が、一度に響いた。
黄金の剣、総数百十四本が、たった一人の青年を標的に射出された。
「さて、これで二人目」
リクは手元に剣を生成し、老婆の首を刎ねる勢いで迫る。ゾンビ、スケルトンがこれを妨害すべく彼に襲いかかるが、全て、黒い渦に飲み込まれた。ヨセフの魔術だ。
リクは老婆を斬りつけた。老婆は詠唱を中断し、自分を守るために防御結界を展開。彼の剣を受け止めることには成功した。しかし──、
「リン、あと一人も頼むよ」
「ほんっと、あなたの魔術容赦ないわね。でも、任された!」
隙を作り、穴を開けて結界内から脱出する。そんな作戦は今、却下した。
──このまま、心核結界を塗り潰す。
リンは心核結界を広げる。押し合いにはわずかに抵抗を感じたが、最早、拮抗するような力ではない。
一瞬、そこに本殿が顕現し──、
「これで、三人目」
切り刻まれた老婆の死体が、ビルの屋上に倒れた。
◆◆◆
上空三百メートル。いくら魔術師であろうと、まともに落下すれば死ぬ。
だがホタルはマトモな魔術師、人間ではない。魔力強化、茨による衝撃緩和があるとは言え、無傷で着地した。
あの魔詛使は空中で引き剥がした。その際に胸を貫き、即死とまではいかずとも落下に耐えられるような状態ではないはずだ。
実際、近くには魔詛使の死体が転がっている。全身の骨という骨がへし折れ、曲がってはいけない方向に曲がっている。
「⋯⋯なんだったの。自分の命を犠牲にしてまで、することじゃないよ」
ともあれ、今は何とかしてビルの屋上にいかないといけない。リンたちの身が心配だ。茨を使って、ホタルはビルを駆け上がろうとした⋯⋯が、
「⋯⋯!」
一般攻撃魔術が、ホタルを狙って行使される。防御魔術によって防ぐことはできたが、驚きは隠せなかった。
「死んだはずじゃ⋯⋯」
魔術を使ったのは、あの中年の男だ。死体も、そこに、
「⋯⋯ないっ!?」
そこには、死体はあろうことか血溜まりすらなかった。
「⋯⋯驚いてるみたいだな、お嬢さん。まさか自然落下で無傷だとは思わなかったが⋯⋯それ、油断っていうんだぜ」
ホタルは背後から魔力を感知し、茨により防御した。すると、全く同じ姿をした男が居た。男はホタルを蹴りつけようとしたが、彼女の茨によって腹を貫かれ即死した。
「⋯⋯二人。分身系の魔術⋯⋯?」
「ああ、そうだ」
ホタルを、全く同じ顔、背丈、肉質、服装の男、六人が囲む。
ホタルは魔術を行使。茨を大量に出現させ、それらを全て振り払う。
男たちは全滅だ。
「⋯⋯⋯⋯」
が、ホタルは油断しなかった。隠密していた男の位置に向かって茨を打ち込む。問題なく、それを殺した。
「戦い慣れてるな。それに魔力感知も鋭い」
「──!?」
しかし、またもう一人、現れた。
「これでも魔力隠密は得意なんだぜ? はあー、危ない危ない」
「⋯⋯どういうこと? さっき殺ったのが本体のはず」
ホタルの魔力感知に反応した対象は全て殺し尽くしたはずだ。だというのに、殺しきれていない。それどころか、もう一度、六人の魔力反応を感じた。視認もできた。
「あー、じゃあ情報開示といこう。俺の固有魔力は確かに分身を作り出す⋯⋯が、本体は移し替えることができる。同時に出せるのは六人。ついでに言えば、この情報開示をしたおかげで今の俺は魔力が増幅され──」
分身体──すべて本体──が、一斉にホタルを襲う。
「──七人だ」
ホタルは一般攻撃魔術を意図的に暴走させ、魔力を破裂させることで全方位攻撃する。分身たちは致命的な傷を負った。
「⋯⋯わたしなら、動けなくなった分身体は消してしまう。そうして新たに万全の分身体を作る。情報開示はまだ足りなかったようね」
ホタルは襲ってきた分身体六人のうち、三人を生きたまま茨により拘束した。これで自殺もさせない。
思ったとおり、致命傷を負った残り三人は自殺し、また新たな分身体が作られる。
「ほぉ⋯⋯中々どうして観察眼が鋭いな。⋯⋯だが、これで俺に勝てると思ってんなら、そりゃあ油断だぜ」
男は肉体を魔力により強化。一気にホタルとの距離を詰める。彼女が茨を操り、攻撃していることから中遠距離タイプだと判断したのである。
茨による薙ぎ払いを突破した一人が、ホタルに殴り掛かる。
だが、
「⋯⋯!?」
肘打ちが男の顔面に入る。続いて軽快な身のこなしからは想像もできないパワーの回し蹴りが男の頭を捉えた。
「女だって侮ったのが運の尽き、ね」
脳震盪により動けない。地面から生えた植物の根のようなものに囚われた。
「あと三人」
魔力を感知し、茨を叩き付ける。ようやく男は学習したようで雑に突っ込んでくることを止めたようだ。茨を回避することに専念していた。
(⋯⋯強い。もう分身が四人も無力化された。ここは逃げるに限るな)
魔詛使たちは報酬に釣られて、このテロ行為を手助けしている。男も勿論そうであった。
無論、仕事を放棄すれば報酬は支払われないだろうし、下手をすれば命を狙われる。が、ここでホタルに殺されるよりは格段にマシだ。
(命あってこそだぜ、金ってのは)
男は逃亡を図った。分身二人に命を懸けさせれば、いくらホタルほどの魔術師相手でも、逃げる時間くらいは稼ぐことができるはずだ。
男は踵を返し、一目散に逃亡し始めた。
「逃げ⋯⋯速!?」
男は逃亡することを良しとしてきた。プライドなんてあったものではない。そのため、彼の逃げ足はとてつもなく速い。
魔力強化を足のみに集中させたその速度は一級魔術師でも上位に相当するだろう。
「〈穿ち引裂く死の茨〉!」
が、ならば詠唱魔術を使うだけだ。
通常の茨よりも格段に速く、多い数の茨が分身と逃亡した本体を掴む。
普通に茨を顕現するより魔力消費が倍以上となるデメリットがある。これを使っておいて逃がすようなヘマはしない。
「なんだその魔術! 卑怯だぞ!」
「知らないよ!」
ホタルは掴まえた分身全てを一気に殺し、残る本体の首を締め付け気絶させた。
念の為、生き残りがいないかを確認したが、魔力感知に反応はなかった。
男の完全沈黙を確認後、ビル屋上からリンたちが降りてくる。
「大丈夫だった? 怪我はない?」
ホタルがリンたちの無事を確認する。彼らに大した傷はない。任務はそ問題な続行できる状態だ。
既に結界を維持していた魔導具は破壊した。結界師も倒した今、結界は破壊されるはずだ。
しかし、ミース学園自治区を覆う結界は解けていなかった。
「なんで⋯⋯?」
リンはまだ結界師が残っているのかと考えた。
だが、ホタルは何かに気が付き、結界に触れた。すると、触れた手は向こう側に通じた。
「⋯⋯わたしたちは通ることができるね。何層か結界が重なっているみたい。ということは⋯⋯」
ミース学園自治区を覆う結界は、何層かに分かれている。
一番外側にあった結界は、おそらく、魔術師もしくは外部からの侵入を防ぐ効力を持っていた。
他には、内部からの脱出を防ぐ効力が考えられるだろう。
ホタルが触れた結界は、二層展開されているように感じた。
「一つは脱出阻害だとして⋯⋯あと一つはなんなのかな⋯⋯」
ホタルの疑問に答えるべく、リンは結界に触れて解析を試みた。
無論、試す前から分かっていたことだが、中和及び破壊は不可能だ。リンの実力だと、やろうとすれば数日は必要になるだろう。
肝心なのはその効力の解析なのだが、こちらも失敗に終わる。一番内側の結界は、やはり脱出阻害の結界だとすぐ分かったが、もう一つが分からない。暗号化されていて、効力を暴くのにはかなりの時間を必要としそうだ。
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