Reセカイ

月乃彰

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第65話 連合会議

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 ──11月26日、13:30、某所。
 先のミース学園へのテロ行為。及びそこで確認された魔族、魔詛使の存在。
 それだけではない。シャフォン教、色彩、革命家の関与が疑われているこの事件を危険視し、学園都市理事会主導の元、秘密裏に会議が開かれた。
 参加者は、学園都市理事会、ミース学園学園長と関係者、RDC財団統括議会、GMC総監督部及び倫理議会、同じくGMC関係者、グルーヴ家当主である。

「⋯⋯まず、今回の会議への出席、感謝する」

 学園都市理事会、理事長、アンドリュー・ハリソン。年老いて髪が真っ白になっている男であるが、威厳と気品があった。
 彼の一言により、会議は始まった。
 話し合う内容は、シャフォン教、色彩の目的。そしてそのバックにいる魔族の正体と、それらへのGMCの対応である。

「では、私から話しても?」

 ミース学園学園長、スージー・ローレンス。金髪の初老の女性であり、高貴な雰囲気とカリスマ性に溢れている。
 彼女の一声に理事長アンドリューは無言で促す。

「シャフォン教の目的は、おそらく私たちミース学園⋯⋯いえ、あるいは学園都市そのものの破滅でしょう。お恥ずかしながら、我々ミース学園は彼らに恨まれることに心当たりがあります。その上で申し上げると、彼らは学園都市そのものの在り方を否定している、のだと思われます」

 ミース学園の過去。シャフォン教の存在を知っている者ならば、スージーの言葉には頷くしかなかった。
 かの宗教は学園都市を恨み、憎み、壊そうとしている。そうするだけの理由と、過去がある。

「色彩は⋯⋯おそらくシャフォン教に手を貸しているのかと。色彩の最終目的は分かりませんが、少なくとも学園都市の破滅は目標の一つではあるでしょう」

「ふむ。シャフォン教の目的が学園都市の崩壊であるとして、ミース学園はどう対応していくおつもりで?」

「まずはミース学園の閉鎖です。これ以上、生徒たちの命が失われることはあってはなりません。そして、シャフォン教の捜索。そのために理事会にはS.S.R.F.への協力申請を許可して頂きたい」

「分かった。その辺りは私たちで手配しておこう。⋯⋯次は」

「よろしい?」

 理事長が横目に見たのは、誰がどう見てもこの場に相応しくない少女だった。
 しかし彼女はれっきとした権力者。何しろ財団の創設者だ。彼女の正体を知らない者は、今この場にはいない。

「じゃあ、私たちの動向は結論から言うけど、事後対応だ。色彩は私たち財団でも、その正体を捉えられなかった⋯⋯でも、一つ分かっていることがある。それは、色彩は私たちが保有していた暗部組織『革命家』を掌握しているということ」

 既に『革命家』とは連絡を取ることができない。そして先の財団への謀反行為、十中八九、彼らは色彩の手に堕ちている。

「『革命家』のメンバーは厄介極まりない連中だよ。はっきり言ってこっちから仕掛けることはできない。潜伏に専念されれば、ね」

 ただでさえ色彩の足取りは掴めない。なのにジョーカーの超能力が合わされば、いくら財団でも彼らの捜索に全力を充てようと見つけ出すことはできない。
 彼らがテロ行為をするのであれば、それは完全に事後対応になり、大多数にとって最悪のタイミングとなるだろう。

「⋯⋯わかった。財団の見解、対応は理解した。では、GMCはどうだ? バックにいる魔族、関係する魔詛使の情報は洗い出せたのか?」

 GMCの代表者として来たのは総監督部、職員統括、アベル・オースティン。黒髪、三十代ほど、細身の整った顔つきの男である。

「魔詛使はピンからキリまであります。それこそ名前も知らない、大して魔力も強くない者から⋯⋯ヴィーテと言う、一級魔術師数名ですら返り討ちに遭うような凶悪犯まで。注意すべき魔詛使はリストアップしておきました。そしておそらく彼らは大まかな命令しか受けていないようです。各々、勝手に動いているかと」

 リストアップされている魔詛使は、最低でも魔術師で言えば二級。上は特級相当までいる。ただし絶対数は少ない。

「魔族に関しては、全く、一切不明です。故に粗方予想がつく⋯⋯我々が指定するところの大魔族の一体、ギーレでしょう」

 魔族の中でも国家規模での大災害、あるいは対応を誤ればGMCが壊滅しかねない力を持った魔族は特級魔族として認定される。
 そして特級魔族の中でも長い時を生き、強大な魔力を持った魔族を大魔族と呼称する。
 つまり、規格外中の、更に規格外。それが大魔族であり、今回の騒動の裏側にいるとされる魔族の正体だ。

「大魔族、ギーレは非常に狡猾で、我々も百年規模で手を焼いているような存在です。手札も分からない。目的も理解できない。つまり、何をしでかすつもりなのかも分からない⋯⋯正直言って、どうすればよいのかは我々にも判断しかねます」

 大魔族は他にも居るが、他の大魔族は積極的に人類を脅かそうとはしておらず、関わらないことが最善策になるような者ばかりだ。
 しかしギーレだけは違う。この大魔族は積極的に人類の存続を脅かすような事件を、五十年から百年単位で起こし続けている。正に生きる災害そのものだ。

「⋯⋯しかし、全くの無策というわけでもないはずだ。なにしろこの会議に参加したのだから。普段、財団とは決して同席しないはずのあなた方、GMCが」 

 GMCと財団は互いに睨み合うような関係だ。いわば敵同士、それらが同じ会議に座っているような状況。そうしなければいけないと判断するのには、それ相応の理由があった。

「⋯⋯ええ。先程、大魔族ギーレへの対処は我々にも分からないと申し上げましたが、それはあくまでも普通の手段において。⋯⋯全く無いわけではない」

「⋯⋯ふむ」

 アベルのその言葉の意図を、理事長アンドリューは理解できた。その上で、沈黙を選択した。
 しかし、口を出さずにはいられなかった人物がいた。

「⋯⋯まさかとは思うけど、だから、そこのグルーヴ家を呼んだってわけ?」

 財団の責任者にして創設者、ミリア・アインドラだ。
 グルーヴ家は魔術界隈では御三家に並ぶほど古く、強大な権力を持つ家系である。
 そんな彼らが代々相伝する固有魔力は『無限結界』。
 汎用魔術としての結界術とは異なり、魔力の効果そのものが結界術に特化した力である。
 そしてグルーヴ家は特有の結界術を以て、

「そのまさかです。ミリア・アインドラ。我々GMCはあなた方との間に結んだ平和条約のうち一つを、例外的に一時破棄することを申しに来ました」

「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 財団とGMCはかつて、互いの主義主張や理念の相違を理由に、戦争一歩手前になるほどの衝突が発生した。
 これを収めるために両者は平和条約を結んだ。そのうちの一つに、このような文言があった。

「──『特級魔術師を学園都市に派遣しない』」

 ──魔術師の最高等級は一級である。だが、その斜め上には特級という階級があった。
 魔族、魔詛使の特級認定条件は『国家規模の災害あるいはGMCが壊滅する危険性』。
 だが、魔術師の特級認定条件は異なる。
 それは──『確定的な国際規模での機能不全』である。
 特級の魔術師に認定された魔術師は現在四名。
 歩くだけで人々を殺し、国滅ぼしなど容易な死の魔術師。
 単独にて世界を焼き尽くしかねない炎の魔術師。
 思うだけでありとあらゆるものが概念的に根底から崩落する壊滅の魔術師。
 そして──グルーヴ家当主が力を封印しても尚、他三名の特級魔術師と比較しても劣らない。
 あらゆるものを即死させる魔力もなければ、世界を物理的に焼き尽くす出力と規模もない。概念を根底から破壊する力もない。
 しかし、単独にて、その他全てを凌駕する。
 単独最強の戦闘能力。
 対個人において、現代の魔術師においては誰も敵わないだろう。
 それ以外の全てが結託しようと、それに対して互角に至ることは有り得ない。
 最強の魔術師、イア・スカーレット。
 GMCが今回の騒動の鎮圧の為に投入する唯一にして最大の戦力である。

「⋯⋯⋯⋯。わかった。その条件を飲もう。でも、一つ教えてほしい」

 ミリアは渋々ながら、イア・スカーレットの学園都市への派遣を容認した。
 アベルはそのことに、胸を撫で下ろし安心した。そして彼女の質問に答えるために、彼女の言葉を聞く。

「特級魔術師である限り、何かしらの危険性を抱えているはずだよね。ましてや戦闘力最強。ただ強いだけなら、特級魔術師にはならない⋯⋯なにか、人格面に危険性でもあるの?」

 特級魔術師は強さで認定されるわけではない。特級魔術師を圧倒できる実力者でも、極端な話、人格者だったり、危険性のある固有魔力を持たなければ特級ではなく一級魔術師に認定されるだろう。
 その質問に、正確にアベルは答えられない。
 答えられるのは、同席するもう一人だ。
 グルーヴ家現当主、アリストリア・グルーヴ。銀髪に金色の目。黒のゴシック調のドレスを着た高貴な雰囲気を感じさせる人物。だが彼女はおそらく十五、六歳ほどだ。名家の当主にしては若かった。

「⋯⋯彼女は、私に忠誠を誓い、無闇矢鱈に人を殺すような破綻者ではありません。ですが彼女は、。彼女は

「⋯⋯吸血鬼? ヴァンパイア⋯⋯ノスフェラトゥ、つまり異常存在アノマリーってこと?」

「ええ。イア・スカーレットは半吸血鬼ハーフ・ヴァンパイア。魔族とは異なる、財団が定義するところの異常存在。生まれつき理外の生き物です」

 この世界には、人間や動物、ましてや魔族でもない、理外の生き物や物体が実在する。
 能力開発組織としての面が大きく有名になったが、RDC財団はかつてそういった、理外の存在、アノマリーを発見し、収容もしくは破壊していた。

「⋯⋯まあ、色々と言いたいことはあるけれど、とにかくその魔術師は人格破綻者なわけでも、制御不可能な暴の化身ってわけでもないわけだね? じゃあ、問題はな⋯⋯」

「あ、でもイアが戦闘するなら、他の人員は避難させてください。彼女は私が封印を施して力を弱めても、他の魔術師は足手まとい⋯⋯もっと悪く言えば、邪魔になると思われるので」

「⋯⋯わかった。退避させるように努めよう」

 どれほどまでの規格外の戦闘能力を持つのか。他の魔術師が足手まといにしかならないとは、とんでもない化物であるようだ。いや、化物フリークスではあるのだが。
 各陣営の方針を伝えた所で、次にやるべきことは細かな調整だ。特にイア・スカーレットの派遣関係は慎重かつ丁寧にしなければいけない。
 各々話し合う──その時だった。
 ──突如として、会議室の壁一面が崩壊した。瓦礫は中にいた人々に飛来し、この時点で要人及び護衛の半数近くが死亡する。

「⋯⋯警備は何やってるんだか⋯⋯と言いたいけど、そりゃ無理だよね」

 外への情報漏れは努力できる限り防いだはずだ。しかしそれでも足りなかったようである。
 各陣営の要人が集まった会議──ここを襲撃する価値は大いにある。

「⋯⋯警告はしない。皆殺しに来た」

 襲撃者は三人。『革命家』だった。
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