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鬼っ娘チャコちゃん

チャコちゃんと尻

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そろそろ冬の気配が本格的に感じられて来た朝早いリビングでの事だ。

「満たせ、満たせ、満たせ、満たせ、繰り返す毎に4度、あれ? 5度だっけ? まぁいいや、抑止の輪より来たれ! 天秤の守り手よ!!」

ズギャーン! シュビビビビィー(スマホから流れる効果音)

「どれどれ・・・・ズコー!!」

と、この様にどこかで聞いた事がある様な召喚の呪文を唱えつつ、スマホの画面をつついたりこすったりしては「ズコー!」とこけ続けている我が家のちっさな鬼娘。

暑かろうが寒かろうが家の中だろうが外だろうが、一年中どこでも黒地に赤い虎縞模様のビキニ姿で過ごしている豪の者なんだが、それはさておきこいつはさっきから何をしているんだろう? 

その有様からして徹夜でスマホ弄りに興じていたんだろうが、あまりにも「ズコー!」を連呼しているので、流石に気になって背後から奴の握っているスマホを覗き込んで見た所・・・・。

コインをチャージをタップ→クレジット支払いをタップ→俺のクレカ番号入力→なぜか知ってる暗証番号も入力→諭吉数人分のチャージ完了→謎の召喚文句(やる度にコロコロ変わる)を唱え課金ガチャを捻る→ズコー!

という一連の流れを繰り返していた。

「おぅらぁー!!」(俺の膝蹴り炸裂)

「おギャンポ!!」(チャコの後頭部にクリティカルヒット! 反動で握ったスマホにおでこもヒット!)

「てめぇはなに人のクレカで米帝プレイしてやがるんだよ!!! ぶちのめされたいのかよ!! ぶちのめされたいんだよな? いいぜ!やってやんよ!! おらぁー!! おらおらおらぁー!!」

膝蹴り如きでは俺の怒りは収まらないので、両足を掴んで股ぐらを足でグリグリとやってやる。俗に言う電気あんまだ。

「痛だだだだ!! タンマ! ホント! まじタンマ!! そこはゾーンでございます!! そこはデリケートなゾーンでございます!! 大人になっちゃう!! 下手したらこれ大人になっちゃうだろぉぉ!!これぇぇぇぇ!」

「なれよおらぁー!! 今すぐなれよぁー!! 大人は他人の金でゲームしねぇからよぉー!!」

「あばばばばばばー!!」

ちーーん。

俺の魂の叫びとも取れる電気あんまを続ける事数分。鬼娘はほどなくして沈黙した。
バカタレが大人しくなったので、とりあえず奴のスマホを取り上げ、恐る恐る購入履歴を確認してみたんだが・・・。

「1、10、100・・・なんじゃこりゃあああああ!!」

その金額はおよそ諭吉50人分。 なにこれ、誰か嘘だと言ってくれ!!

しかもそれは今日の分の話。震える手で今月の履歴を確認した俺はそのあまりの合計金額に「ブフゥー!」と吹いてぶっ倒れてしまった。

「ちょっとちょっと~、朝から五月蝿いんですけどぉ~、寝れないぢゃん。って、二人ともどうしたのさー!!」

朝から騒がしいリビングに、半ギレ気味に登場したミントが白目を向いてぶっ倒れてるチャコと俺を見てド胆を抜かれたらしいが、そんなことはこの際どうでもいい事だった。


この許されざる蛮行におよんだ娘の名はチャコール・バーガンディー。家の連中や親しい人間からは名前を略してチャコと呼ばれている。

俺がブリーダーになって初めて担当したモン娘で、現在抱えている3匹の中では一番の古株だ。

オーガ目、オーガ科、鬼属、小鬼種の雌で頭部の角以外は人間の子供と見た目的な差異はほとんどない。

小鬼種なのでこれでも十分に成熟しており繁殖は可能。いわゆるロリBBAだ。
いや、ババアと言うわけでもないか、絶賛繁殖適齢期なので、合法ロリと形容した方が正しいだろう。

そんなチビ助だが、俺が初めて飼育することになったモン娘と言う事もあり、浮かれて栄養管理やら日々のトレーニングやら、めっちゃ気合入れて英才教育を施し育てた結果、小鬼としてはありえない程の強さを誇るに至った大変な暴れん坊将軍である。

どのぐらいの暴れん坊かと言えば、同科イチの暴れはっちゃくな種と称される、ムキムキマッチョなオーガロードとカップリングした際に「お前!洗ってない犬の臭いがすんだよ!」との口撃で相手の心をへし折り、その後に物理的にもワンパンチで沈めてしまうぐらいにはエグくて強い。

オマケに相手のアビリティをある程度緩和する能力も持っているらしく、俺がぶん殴っても「痛ぇなコンチクショウ!」とやりかえして来る位にはタフである。

黙らせるには、先ほどの様に急所を攻めなくては有効な攻撃とならない。

チャコの体を医者が色々調べた結果、遺伝的には間違いなく小鬼なのだが、スペック的には鬼神の領域に片足を突っ込んでいるそうで、魔物の常識で無理矢理カップリングしたら雄の命はまずないと言われてしまった。
アビリティ緩和能力に関しては、悪さする度に人外特攻能力を持つ俺に尻を叩かれたせいで、耐性能力に目覚めたのではないかとの事だった。

強い雌ほど雄にはモテる傾向にあるので、チャコと番いになりたいと言う話は人語を解する雄達から良く来たのだが、飼い主であるブリーダーからしてみれば希少な雄を殺されてはたまらないので、縁談が成立する事はほとんどなかった。

上記の例えは、そんな「ほとんどない」縁談の中、オーガロードならたぶん大丈夫だろうと試した時の結果だ。

お相手の鬼三郎君は心も体もズタボロにされ、雌恐怖症に陥り使い物にならなくなってしまったとの事だ。

それ以来、ブリーダー間で危険な雌との噂が広まり、チャコとやりたいと言う話は一切来なくなってしまい、コイツは家で一番のただ飯食らいに成り下がったと言うわけだ。

そして現在。そのチャコのまた違ったベクトルからの蛮行により、わが牧場は経営の危機に直面してしまった。
高速道路でダンプカーに轢かれた挙句、痛くて動けずにそのまま転がっているぐらいの危機だ。

うん。そう。つまりもう死んでます。詰んでます。今更追加で轢かれても元々死んでますよ。HAHAHAHAな状況だ。

クソッタレ! どうすりゃいいんだよ!! コンチクショウ!!

事の経緯を他の娘共にも説明した所、チャコの奴は二人から追加の折檻を受け、現在、ロープで簀巻きにされたまま天井から吊るされ気絶していた。

「それにしても困りましたね・・・いくらなんでもこの金額は我が家の収入状況を軽く振り切った、とんでもないものです・・・」

白装束に身を包み、自身のボディも頭の天辺からつま先(リリィの場合は尻尾の先だが)まで真っ白な、白蛇精のリリィがチャコのスマホを眺めてため息を吐く。
この半人半蛇の白い奴についてはリリィ回で詳しく語るとして、その発言通り、チャコの課金額は俺が支払える額をぶっちぎってくれていた。

これが普通の子供なら、親が運営に難癖つけて支払いを拒否したり、クレジット支払いなので口座から引き落とされる前にクレカ会社へと書面で抗弁を垂れる事で支払いを拒める可能性もあるんだが・・・。
それもケースバイケースで許可されたり拒否されたりとマチマチで、綱渡りには違いない上にモンペなバカ親丸出しで、正直できたとしてもどうなんだって話だが。

だが、だがな? 今回はそういう話以前の問題だ。

下手人のチャコはモンスター娘。

モン娘のしでかした一切合切はペットと同じく飼い主であるブリーダーが負う物と定められているので、おそらくどんだけ抗弁を垂れても支払い拒否はできないだろう。

まいった・・・これはホントにまいったぞぅ・・・お手上げだ・・・・。もう節約とかそう言うレベルで凌げる段階ではない。

「破産だなぁ・・・これ。お前達の新しい飼い主、探さないとなぁ・・・・」

「うひぃ!」

「あふん!!」

ぽろっと出た本心からのつぶやきに、白い奴と緑の奴がすっとんきょうな悲鳴を上げた。

「ちょ、待ちなよ長さん! まだ諦めるには早いよ! 私、他の家で暮らせる自信ないよ!」

「そうです! わたくしとご主人様は一蓮托生!! 他の方に仕えるなど考えられません!!」

「そーだよ!そーだよ!ソースだよ!!美味い焼きそばソースだよ!」

ミントとリリィが俺の破産宣言に対して異を唱える中、意味不明な発言が挟まれた。
三人揃って声がした方を見やれば、簀巻きで吊るされているチャコが目を覚ましていた。

どうやら盛り上がってる周りに参加したくて勢いだけで適当な発言をしたようだ。

「おう、起きたかバカチン」

「うん。起きた。股ぐらと尻がものすごく痛い。それはそうと喉が渇いたのでジュース頂戴。おティヌちゃん」

「はい。ただいまお持ちしますね」

まったく悪びれた様子もなく、目覚めて早々、お母さんジュース頂戴的なノリでリリィへと飲み物の催促をするチャコ。

相変わらずあっぱれな位、自由奔放だな・・・。

普段からなにかと便利に使われているリリィは、さっきまで一緒になって折檻していたと言うのに、チャコの催促に反論するでもなく飲み物を用意する為に台所へと向かった。
一頻りチャコの尻を叩いたので、溜飲は下がったのかもしれない。

「てめぇ、自分がしでかした事の重大さを理解してねー様だな?」

んが、俺としては未だに怒りが収まらない中発せられる奔放発言に、拳が真っ赤に唸りそうだ。

「まて! ちょっとまて! なにをそんなにキレてるのかわかんねーが、まずその振り上げた手を下ろすんだ!セニョール!! 流石にこれ以上はいくらなんでも尻がもたん!! 暴力! いくない!!」

尻の限界を訴え、吊るされたまま必死にもじもじする様は見てて相当に滑稽だが、それよりなによりマジでわかってねーのかよこいつ・・・。

「なにをそんなにキレてるかわかんねーって、お前のせいで俺ぁ破産だよ。じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶお前が課金したせいで、破産だよ・・・」

言ってて非常に切なく、また情けない事この上ないので、じゃぶじゃぶの辺りから俺は顔を手で覆い、破産だよの部分は人生で発した言葉の中で一番の小声だった。

「ハサン?なんだよそれアサシンさんの真名かよw うけるーw 意味わかんねーww 草生えるぅww」

お通夜な俺と対照的に、なにが面白いのかゲラゲラ笑い飛ばす簀巻きで吊るされたままの鬼娘。
いや、そっちの方が意味わかんねーよ! 誰だよアサシンさん! ふざけんなよコンチクショウ!

「いぎゃあああああ!! 尻がぁー!!」

頭に来たのでこれでもか!って言うぐらい力を込めて、チャコの尻へと渾身のスパンキング! スパン! スパン! スパパン! スパンパン! のリズムでスパンキング!

「だぁぁぁ!! ミントぉ! ミントちゃーん! 見て! あたしの尻見て! 確認して! サルみたいになってる? なぁなぁ? サルみたいになっちゃってる?」

簀巻きで吊るされてるというのに、器用にくるりと回り、妹分のミントの方へと尻を向けるチャコ。

「あー、なってるよぉ。これはもうお姉ちゃんは角の生えた新種のニホンザルとして登録できるレベルだよ。シリマッカツノツキと言う新種名を私から贈るよ」

「マジか! 真っ赤っかっかサルのケツか!」

「うん。真っ赤っかっかサルのケツだね。ふんす!」

「ぎゃーす!! 妹からも無慈悲な追加攻撃きたー!!」 

台詞棒読みで新種を誕生させた後、ミントの奴もチャコの尻へとスパンキング。
俺の経済状況はミント自身の待遇にも直結するのだから、怒りは当然。
ちょっと前に散々ぱらリリィと一緒になって叩いたのだが、ミントは未だに怒りが収まっていない様だ。姉貴分とは言え容赦はない。

「チャコさーん。ジュース持って来ましたよー」

妹からの容赦ない仕置きにチャコが悶絶していた矢先、リリィが飲み物を持ってきた。

「おおぅ! 天使! 天使来た! おティヌちゃん! コイツ等なんとかしてくれよ! 尻が限界突破して新種のサルが誕生しちまったよ! 助けてくれよぅ」

「それは丁度良かったです。これを飲めば万事解決ですよ。どうぞ。ぞうきん汁という名の新製品です!」

そう言ったリリィの手には、ドス黒い液体で満たされた異臭を放つマグカップが握られていた。

リリィの奴もやっぱりお冠のままだった。

「うん?なんだって??」

「新製品です。飲めば1発で解決です!」

目をパチクリさせながら聞き返すチャコに、笑顔のまま新商品で押し通すリリィ。

「うん?チガウチガウ。新製品の前。商品名。商品名をもういっかいプリーズ」

「ぞうきん汁です。アチコチの汚れを吸い取った雑巾を絞った真っ黒な色合のエスプリが効いた味わいのジュースですよ」

ブラックジョークと言う意味では確かにエスプリが効きまくっている。

「いやいやいや! ちょっとまって! 給湯室で気に入らない上司の飲み物に雑巾汁を混ぜるOLがいるとかって話あるけどさ、これ原液だよね? 雑な巾と書いて雑巾の! 本気汁だよね!」

「雑巾じゃありません。ぞうきん汁です。ひらがな表記です」

製品名に対して無駄な拘りを見せるリリィ。

「一緒だろ! 成分も名前も!!効能も!!」

「いいから!早く飲んでください!! 冷めちゃうと美味しくないから! さぁ! ほら! さぁ!さぁ!!さぁ!!」

元々ホットではない物に、冷めちゃうと美味しくないと言う謎理由をつけ、ぐいぐいとマグカップをチャコの顔へと押し付けるリリィ

「やめろー! 臭いー!! テロ液体の入ったマグカップをほっぺに押し付けるなぁー! そんなもん飲んだらお腹がゆんゆんしちゃうだろぉ! ゲリドバしちゃうだろぉ! お前等どんだけあたしの尻を虐めれば気が済むんだよー!」

「もう。しょうがないですねぇチャコさんは。でも大丈夫。こんな事もあろうかと漏斗も持ってきてますから」

そういって懐から漏斗を取り出すリリィ。

「!!」

その本気具合を見て取り、やっべー!と言う顔をした後、口を真一文字にして抵抗するチャコだったが、

「あらぁ? いけませんねぇ。えい!」

ドス!

「うっ! おご!」

笑顔のままチャコに腹パンを入れて、うめき声が漏れた所にすかさず漏斗をねじ込むリリィ。

「もがー!! もげもがぁー! もっひぃぃー!!!!!」

漏斗を咥えたまま半泣きで抵抗するチャコだったが、その漏斗へとドゥビドゥバ容赦なくぞうきん汁を流し込むリリィ。まじパネぇ!!

ほどなくして全てのぞうきん汁はチャコの胃袋へと流し込まれ、そのあまりのマズさに奴は再びアッチの世界へと旅立った。

尻への攻撃だけなら痛いで済む話だったのだろうが、こんな形で胃袋まで責められては撃沈するしかないだろう。

ぴくぴくと吊るされたまま痙攣するチャコを見て、俺はシリマッカツノツキゲリドバと言う長い名の新種が我が家に誕生するのは、そう遠い未来の話ではないのだろうと確信するのだった。
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