追放されたけどFIREを目指して準備していたので問題はない

君山洋太朗

文字の大きさ
32 / 46

29話 両ギルドへの提案

しおりを挟む
翌朝、俺は商業ギルドに向かっていた。早朝の街には、北方からの脅威に対する緊張感が漂っている。装備を整えた冒険者たちが行き交い、普段は賑やかな市場も、いつもより声が控えめだ。

「準備はいいですか?」

隣を歩くソフィアが尋ねる。今日の彼女は、いつも以上に真剣な表情を浮かべていた。

「ああ。計画書は完璧だ」

「でも、ヴィクター様を説得するのは簡単ではありませんよ」

ソフィアの言葉に頷く。商業ギルドマスターのヴィクターは、保守的な商人として知られている。新しい融資の仕組みを認めさせるのは、並大抵の説得では難しいだろう。

商業ギルドの建物に到着すると、受付で予約を確認し、すぐに案内された。重厚な扉の向こうには、ヴィクターの執務室がある。

「レオン・クラウゼン殿、お待ちしておりました」

白髪混じりの髭を蓄えた老商人が、机の向こうから俺たちを見た。その眼光は鋭く、長年の商売で培われた洞察力を感じさせる。

「本日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございます。今日は、街の危機に対する新しい提案があって参りました」

「ほう?」

「冒険者パーティーへの投資スキームです」

俺は用意した計画書を取り出した。ソフィアが補足資料を並べる。

「現状、多くの冒険者パーティーが装備の不足に悩んでいます。特に中堅パーティーは、高価な装備の維持費用が経営を圧迫している」

「それは把握している」

ヴィクターが眉を寄せる。

「だが、それが何か?」

「このスキームは、商人が冒険者に投資し、その見返りとして討伐報酬から一定割合を受け取る仕組みです」

「ふむ」

「最初のモデルケースとして、実績のある中堅パーティーと契約を結ぶ予定です。彼らなら、確実に投資を回収できる」

ヴィクターは黙って資料に目を通している。その表情からは何も読み取れない。

「面白い提案だ。だが、リスクも大きい」

「はい。だからこそ、商業ギルドによる保証制度を提案させていただきたい」

「なに?」

ヴィクターの目が鋭く光る。

「商業ギルドが保証人となることで、個々の商人のリスクを分散できます。その代わり、ギルドは保証料として報酬の一部を受け取る」

「つまり、ギルドがリスクを取れと?」

「いいえ」

俺は首を振る。

「ギルドは純粋な利益を得られます。なぜなら」

「このスキームは街の防衛力を高める公益性があるため、すでに王都行政府からの支援を取り付けているからです」

ソフィアが補足する。ヴィクターの眉が動いた。

「行政府が?」

「はい。行政府からの保証も得られれば、実質的なリスクは最小限に」

「待て」

ヴィクターが手を上げる。

「行政府と、いつ交渉した?」

「昨日の夜です」

俺は答える。

「緊急の非公式会合を開いていただき、基本的な合意を得ました」

「...なるほど」

ヴィクターは椅子に深く腰掛け、しばし考え込んだ。

「君の提案は、確かに興味深い。だが、一つ聞かせてほしい」

「はい」

「なぜ、これほど急いでいる?」

その問いに、俺は真っ直ぐに答えた。

「街が危機に瀕しているからです。今この時も、北方では魔獣の大群が接近しています。防衛力の強化は待ったなしの課題です」

「しかし、それは冒険者ギルドの...」

「違います」

俺は静かに、しかし力強く言った。

「これは街全体の問題です。商人である私たちにも、できることがある。いや、やるべきことがある」

部屋が静かになる。ヴィクターの目が、俺とソフィアを交互に見つめる。

「...面白い」

突如、ヴィクターが笑みを浮かべた。

「若いのに、なかなか良い考えを持っているじゃないか」

「ありがとうございます」

「まだ細かい詰めは必要だが、基本的な方向性は承認しよう。午後の幹部会議で諮る」

「ありがとうございます!」

ソフィアが思わず声を上げた。ヴィクターは温かな目で彼女を見る。

「ヴァイス家の娘が、こんなに成長していたとはな」

俺たちが執務室を後にする時、ヴィクターが付け加えた。

「若き商人よ、期待しているぞ」

* * *

午後、今度は冒険者ギルドを訪れた。

「レオンくん、お待ちしてました」

受付のマリアが笑顔で迎えてくれる。

「ギルドマスターが、すぐにお会いできるそうです」

案内された部屋で、銀髪の老人が立ち上がった。

「よく来てくれた、レオン」

「お時間を取っていただき、ありがとうございます」

「商業ギルドでの話は聞いている」

ロドリグが穏やかに微笑む。

「面白い提案だな」

「はい。冒険者ギルドにも、メリットがあると考えています」

「説明してみてくれ」

俺は午前中と同じように説明を始めた。ロドリグは時折頷きながら、静かに聞いている。

「なるほど。確かにギルドとしても、歓迎すべき提案だ」

「ありがとうございます」

「だが、一つ気になることがある」

ロドリグは立ち上がり、窓際に歩み寄った。

「君は、なぜそこまで冒険者たちのことを考えている?」

その問いには、心の準備ができていた。

「私は商人です。利益を追求するのが仕事です」

「ほう?」

「しかし」

俺は続けた。

「利益は、相手にもメリットがなければ続きません。これは、冒険者と商人の双方が恩恵を受けられる仕組みです」

「それだけか?」

「...いいえ」

窓の外を見る。かつての仲間たちの姿が、心に浮かぶ。

「冒険者には、冒険者にしかできないことがある。商人には、商人にしかできないことがある。それぞれの立場で、街を守れると信じています」

長い沈黙。そして、ロドリグが大きく頷いた。

「よかろう。ギルドとして全面的に協力しよう」

「ありがとうございます!」

「条件の詳細は担当者と詰めてくれ。それと...」

ロドリグが振り返る。その目は、かつて「銀の盾」と呼ばれた英雄のものだった。

「街を守るという思いは、立場が変わっても変わらないものだな」

俺は黙って頷いた。

事務所に戻る頃には、日が傾き始めていた。

「本当にお疲れ様です」

ソフィアがお茶を差し出してくれる。

「ありがとう。君のサポートのおかげだよ」

「いいえ」

彼女は首を振った。

「レオンの提案が素晴らしかっただけです」

窓の外を見る。街には、まだ緊張感が漂っている。

「これで、計画の第一段階は完了だ」

「はい。あとは実行あるのみ、ですね」

俺は立ち上がり、机に向かった。やるべきことは、まだまだ多い。

「準備を始めよう」

その言葉に、ソフィアが頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

追放された荷物持ち、スキル【アイテムボックス・無限】で辺境スローライフを始めます

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーで「荷物持ち」として蔑まれ、全ての責任を押し付けられて追放された青年レオ。彼が持つスキル【アイテムボックス】は、誰もが「ゴミスキル」と笑うものだった。 しかし、そのスキルには「容量無限」「時間停止」「解析・分解」「合成・創造」というとんでもない力が秘められていたのだ。 全てを失い、流れ着いた辺境の村。そこで彼は、自分を犠牲にする生き方をやめ、自らの力で幸せなスローライフを掴み取ることを決意する。 超高品質なポーション、快適な家具、美味しい料理、果ては巨大な井戸や城壁まで!? 万能すぎる生産スキルで、心優しい仲間たちと共に寂れた村を豊かに発展させていく。 一方、彼を追放した勇者パーティーは、荷物持ちを失ったことで急速に崩壊していく。 「今からでもレオを連れ戻すべきだ!」 ――もう遅い。彼はもう、君たちのための便利な道具じゃない。 これは、不遇だった青年が最高の仲間たちと出会い、世界一の生産職として成り上がり、幸せなスローライフを手に入れる物語。そして、傲慢な勇者たちが自業自得の末路を辿る、痛快な「ざまぁ」ストーリー!

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...