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29話 両ギルドへの提案
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翌朝、俺は商業ギルドに向かっていた。早朝の街には、北方からの脅威に対する緊張感が漂っている。装備を整えた冒険者たちが行き交い、普段は賑やかな市場も、いつもより声が控えめだ。
「準備はいいですか?」
隣を歩くソフィアが尋ねる。今日の彼女は、いつも以上に真剣な表情を浮かべていた。
「ああ。計画書は完璧だ」
「でも、ヴィクター様を説得するのは簡単ではありませんよ」
ソフィアの言葉に頷く。商業ギルドマスターのヴィクターは、保守的な商人として知られている。新しい融資の仕組みを認めさせるのは、並大抵の説得では難しいだろう。
商業ギルドの建物に到着すると、受付で予約を確認し、すぐに案内された。重厚な扉の向こうには、ヴィクターの執務室がある。
「レオン・クラウゼン殿、お待ちしておりました」
白髪混じりの髭を蓄えた老商人が、机の向こうから俺たちを見た。その眼光は鋭く、長年の商売で培われた洞察力を感じさせる。
「本日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございます。今日は、街の危機に対する新しい提案があって参りました」
「ほう?」
「冒険者パーティーへの投資スキームです」
俺は用意した計画書を取り出した。ソフィアが補足資料を並べる。
「現状、多くの冒険者パーティーが装備の不足に悩んでいます。特に中堅パーティーは、高価な装備の維持費用が経営を圧迫している」
「それは把握している」
ヴィクターが眉を寄せる。
「だが、それが何か?」
「このスキームは、商人が冒険者に投資し、その見返りとして討伐報酬から一定割合を受け取る仕組みです」
「ふむ」
「最初のモデルケースとして、実績のある中堅パーティーと契約を結ぶ予定です。彼らなら、確実に投資を回収できる」
ヴィクターは黙って資料に目を通している。その表情からは何も読み取れない。
「面白い提案だ。だが、リスクも大きい」
「はい。だからこそ、商業ギルドによる保証制度を提案させていただきたい」
「なに?」
ヴィクターの目が鋭く光る。
「商業ギルドが保証人となることで、個々の商人のリスクを分散できます。その代わり、ギルドは保証料として報酬の一部を受け取る」
「つまり、ギルドがリスクを取れと?」
「いいえ」
俺は首を振る。
「ギルドは純粋な利益を得られます。なぜなら」
「このスキームは街の防衛力を高める公益性があるため、すでに王都行政府からの支援を取り付けているからです」
ソフィアが補足する。ヴィクターの眉が動いた。
「行政府が?」
「はい。行政府からの保証も得られれば、実質的なリスクは最小限に」
「待て」
ヴィクターが手を上げる。
「行政府と、いつ交渉した?」
「昨日の夜です」
俺は答える。
「緊急の非公式会合を開いていただき、基本的な合意を得ました」
「...なるほど」
ヴィクターは椅子に深く腰掛け、しばし考え込んだ。
「君の提案は、確かに興味深い。だが、一つ聞かせてほしい」
「はい」
「なぜ、これほど急いでいる?」
その問いに、俺は真っ直ぐに答えた。
「街が危機に瀕しているからです。今この時も、北方では魔獣の大群が接近しています。防衛力の強化は待ったなしの課題です」
「しかし、それは冒険者ギルドの...」
「違います」
俺は静かに、しかし力強く言った。
「これは街全体の問題です。商人である私たちにも、できることがある。いや、やるべきことがある」
部屋が静かになる。ヴィクターの目が、俺とソフィアを交互に見つめる。
「...面白い」
突如、ヴィクターが笑みを浮かべた。
「若いのに、なかなか良い考えを持っているじゃないか」
「ありがとうございます」
「まだ細かい詰めは必要だが、基本的な方向性は承認しよう。午後の幹部会議で諮る」
「ありがとうございます!」
ソフィアが思わず声を上げた。ヴィクターは温かな目で彼女を見る。
「ヴァイス家の娘が、こんなに成長していたとはな」
俺たちが執務室を後にする時、ヴィクターが付け加えた。
「若き商人よ、期待しているぞ」
* * *
午後、今度は冒険者ギルドを訪れた。
「レオンくん、お待ちしてました」
受付のマリアが笑顔で迎えてくれる。
「ギルドマスターが、すぐにお会いできるそうです」
案内された部屋で、銀髪の老人が立ち上がった。
「よく来てくれた、レオン」
「お時間を取っていただき、ありがとうございます」
「商業ギルドでの話は聞いている」
ロドリグが穏やかに微笑む。
「面白い提案だな」
「はい。冒険者ギルドにも、メリットがあると考えています」
「説明してみてくれ」
俺は午前中と同じように説明を始めた。ロドリグは時折頷きながら、静かに聞いている。
「なるほど。確かにギルドとしても、歓迎すべき提案だ」
「ありがとうございます」
「だが、一つ気になることがある」
ロドリグは立ち上がり、窓際に歩み寄った。
「君は、なぜそこまで冒険者たちのことを考えている?」
その問いには、心の準備ができていた。
「私は商人です。利益を追求するのが仕事です」
「ほう?」
「しかし」
俺は続けた。
「利益は、相手にもメリットがなければ続きません。これは、冒険者と商人の双方が恩恵を受けられる仕組みです」
「それだけか?」
「...いいえ」
窓の外を見る。かつての仲間たちの姿が、心に浮かぶ。
「冒険者には、冒険者にしかできないことがある。商人には、商人にしかできないことがある。それぞれの立場で、街を守れると信じています」
長い沈黙。そして、ロドリグが大きく頷いた。
「よかろう。ギルドとして全面的に協力しよう」
「ありがとうございます!」
「条件の詳細は担当者と詰めてくれ。それと...」
ロドリグが振り返る。その目は、かつて「銀の盾」と呼ばれた英雄のものだった。
「街を守るという思いは、立場が変わっても変わらないものだな」
俺は黙って頷いた。
事務所に戻る頃には、日が傾き始めていた。
「本当にお疲れ様です」
ソフィアがお茶を差し出してくれる。
「ありがとう。君のサポートのおかげだよ」
「いいえ」
彼女は首を振った。
「レオンの提案が素晴らしかっただけです」
窓の外を見る。街には、まだ緊張感が漂っている。
「これで、計画の第一段階は完了だ」
「はい。あとは実行あるのみ、ですね」
俺は立ち上がり、机に向かった。やるべきことは、まだまだ多い。
「準備を始めよう」
その言葉に、ソフィアが頷いた。
「準備はいいですか?」
隣を歩くソフィアが尋ねる。今日の彼女は、いつも以上に真剣な表情を浮かべていた。
「ああ。計画書は完璧だ」
「でも、ヴィクター様を説得するのは簡単ではありませんよ」
ソフィアの言葉に頷く。商業ギルドマスターのヴィクターは、保守的な商人として知られている。新しい融資の仕組みを認めさせるのは、並大抵の説得では難しいだろう。
商業ギルドの建物に到着すると、受付で予約を確認し、すぐに案内された。重厚な扉の向こうには、ヴィクターの執務室がある。
「レオン・クラウゼン殿、お待ちしておりました」
白髪混じりの髭を蓄えた老商人が、机の向こうから俺たちを見た。その眼光は鋭く、長年の商売で培われた洞察力を感じさせる。
「本日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございます。今日は、街の危機に対する新しい提案があって参りました」
「ほう?」
「冒険者パーティーへの投資スキームです」
俺は用意した計画書を取り出した。ソフィアが補足資料を並べる。
「現状、多くの冒険者パーティーが装備の不足に悩んでいます。特に中堅パーティーは、高価な装備の維持費用が経営を圧迫している」
「それは把握している」
ヴィクターが眉を寄せる。
「だが、それが何か?」
「このスキームは、商人が冒険者に投資し、その見返りとして討伐報酬から一定割合を受け取る仕組みです」
「ふむ」
「最初のモデルケースとして、実績のある中堅パーティーと契約を結ぶ予定です。彼らなら、確実に投資を回収できる」
ヴィクターは黙って資料に目を通している。その表情からは何も読み取れない。
「面白い提案だ。だが、リスクも大きい」
「はい。だからこそ、商業ギルドによる保証制度を提案させていただきたい」
「なに?」
ヴィクターの目が鋭く光る。
「商業ギルドが保証人となることで、個々の商人のリスクを分散できます。その代わり、ギルドは保証料として報酬の一部を受け取る」
「つまり、ギルドがリスクを取れと?」
「いいえ」
俺は首を振る。
「ギルドは純粋な利益を得られます。なぜなら」
「このスキームは街の防衛力を高める公益性があるため、すでに王都行政府からの支援を取り付けているからです」
ソフィアが補足する。ヴィクターの眉が動いた。
「行政府が?」
「はい。行政府からの保証も得られれば、実質的なリスクは最小限に」
「待て」
ヴィクターが手を上げる。
「行政府と、いつ交渉した?」
「昨日の夜です」
俺は答える。
「緊急の非公式会合を開いていただき、基本的な合意を得ました」
「...なるほど」
ヴィクターは椅子に深く腰掛け、しばし考え込んだ。
「君の提案は、確かに興味深い。だが、一つ聞かせてほしい」
「はい」
「なぜ、これほど急いでいる?」
その問いに、俺は真っ直ぐに答えた。
「街が危機に瀕しているからです。今この時も、北方では魔獣の大群が接近しています。防衛力の強化は待ったなしの課題です」
「しかし、それは冒険者ギルドの...」
「違います」
俺は静かに、しかし力強く言った。
「これは街全体の問題です。商人である私たちにも、できることがある。いや、やるべきことがある」
部屋が静かになる。ヴィクターの目が、俺とソフィアを交互に見つめる。
「...面白い」
突如、ヴィクターが笑みを浮かべた。
「若いのに、なかなか良い考えを持っているじゃないか」
「ありがとうございます」
「まだ細かい詰めは必要だが、基本的な方向性は承認しよう。午後の幹部会議で諮る」
「ありがとうございます!」
ソフィアが思わず声を上げた。ヴィクターは温かな目で彼女を見る。
「ヴァイス家の娘が、こんなに成長していたとはな」
俺たちが執務室を後にする時、ヴィクターが付け加えた。
「若き商人よ、期待しているぞ」
* * *
午後、今度は冒険者ギルドを訪れた。
「レオンくん、お待ちしてました」
受付のマリアが笑顔で迎えてくれる。
「ギルドマスターが、すぐにお会いできるそうです」
案内された部屋で、銀髪の老人が立ち上がった。
「よく来てくれた、レオン」
「お時間を取っていただき、ありがとうございます」
「商業ギルドでの話は聞いている」
ロドリグが穏やかに微笑む。
「面白い提案だな」
「はい。冒険者ギルドにも、メリットがあると考えています」
「説明してみてくれ」
俺は午前中と同じように説明を始めた。ロドリグは時折頷きながら、静かに聞いている。
「なるほど。確かにギルドとしても、歓迎すべき提案だ」
「ありがとうございます」
「だが、一つ気になることがある」
ロドリグは立ち上がり、窓際に歩み寄った。
「君は、なぜそこまで冒険者たちのことを考えている?」
その問いには、心の準備ができていた。
「私は商人です。利益を追求するのが仕事です」
「ほう?」
「しかし」
俺は続けた。
「利益は、相手にもメリットがなければ続きません。これは、冒険者と商人の双方が恩恵を受けられる仕組みです」
「それだけか?」
「...いいえ」
窓の外を見る。かつての仲間たちの姿が、心に浮かぶ。
「冒険者には、冒険者にしかできないことがある。商人には、商人にしかできないことがある。それぞれの立場で、街を守れると信じています」
長い沈黙。そして、ロドリグが大きく頷いた。
「よかろう。ギルドとして全面的に協力しよう」
「ありがとうございます!」
「条件の詳細は担当者と詰めてくれ。それと...」
ロドリグが振り返る。その目は、かつて「銀の盾」と呼ばれた英雄のものだった。
「街を守るという思いは、立場が変わっても変わらないものだな」
俺は黙って頷いた。
事務所に戻る頃には、日が傾き始めていた。
「本当にお疲れ様です」
ソフィアがお茶を差し出してくれる。
「ありがとう。君のサポートのおかげだよ」
「いいえ」
彼女は首を振った。
「レオンの提案が素晴らしかっただけです」
窓の外を見る。街には、まだ緊張感が漂っている。
「これで、計画の第一段階は完了だ」
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