追放されたけどFIREを目指して準備していたので問題はない

君山洋太朗

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30話 防衛会議

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広間に緊張が漂っていた。

行政府の文官、騎士団長のヴァルター・フォン・ヴァイスブルク、商業ギルドの幹部、冒険者ギルドの幹部、そして街の主だった商人たちが一堂に会している。机の上には北方偵察隊からの最新の報告書が広げられ、誰もが深刻な表情でそれを見つめていた。

「以上が、現状の報告となります」

斥候の冒険者が説明を終えると、室内に重苦しい沈黙が流れる。
地図上には、魔獣の大群の現在位置と予想進路が赤い線で示されていた。複数の斥候の報告を総合すると、その数は優に千を超える。そして、その群れは着実にこの街へと近づいてきている。

「これほどの数となると…」

商業ギルド幹部の一人が、眉をひそめながら呟いた。通常の魔獣の襲来であれば、街の防衛部隊と冒険者たちで対処できる。しかし、これほどの数となると話は別だ。

「問題は装備の補充です」

冒険者ギルドのロドリグが発言する。

「多くの冒険者たちが、この戦いに参加する意思を示してくれています。しかし……」

彼は一度言葉を切り、深いため息をついた。

「装備の補修や補充が追いついていない。特に中堅パーティーは、高価な装備の維持費用が経営を圧迫しているのが現状です」

その言葉に、商人たちの間でざわめきが起こる。確かに、質の良い装備は高価だ。それを大量に用意するとなると、莫大な費用がかかる。

「行政府からの支援体制について、説明をお願いできますか」

ヴァルターが、行政府の文官を促す。

「はい」

文官が立ち上がる。

「昨夜の緊急会議で合意された支援策について、ご説明させていただきます」

文官が説明を始めようとした時、静かに、しかし確信に満ちた声が響いた。

「その件について、具体的な実施案を用意しています」

全員の視線が、若い商人に向けられる。
俺は立ち上がり、用意していた資料を取り出した。

「レオン・クラウゼン殿」

文官が頷く。

「昨夜の提案の詳細を、皆様にご説明いただけますか」

「はい」

地図の横に、新たな資料を広げる。そこには、具体的な数字と計画が記されていた。

「冒険者パーティーへの投資スキームについて、ご説明させていただきます」

俺は指を立てて、一つずつ説明していく。

「まず第一段階として、実績のある中堅パーティーと契約を結びます。彼らなら、確実に投資を回収できる」

「第二段階では、その成功例をもとに、より多くのパーティーに展開。商業ギルドによる保証制度を設け、個々の商人のリスクを分散します」

「そして第三段階では、この制度を恒久的な仕組みとして確立。街の防衛力を継続的に強化していく」

説明を終えると、会場にはしばしの沈黙が流れた。

「面白い提案だ」

マーカスが最初に口を開く。

「確かに、これなら商人としても参加しやすい。リスクも管理できる」

「しかし」

別の商人が声を上げた。

「そもそも、なぜ我々が危険を冒す必要が?」

その言葉に、幾人かが同意するように頷く。商人にとって、リスクを取ることは本能的に避けたい本質だ。

俺は、その商人をまっすぐに見つめた。

「この街が滅べば、我々の商売も終わりです」

静かな、しかし力強い声で告げる。

「商人である私たちには、戦士のように剣を振るうことはできない。魔法使いのように魔法を放つこともできない」

一呼吸置いて、続ける。

「しかし、私たちにも、できることがある。いや、やるべきことがある」

会場の空気が、少しずつ変わっていく。

「冒険者たちは、自らの命を賭けてこの街を守ろうとしている。我々にできることは、その彼らに最高の装備を提供することです」

「そして、これは単なる慈善事業ではない。適切な利益を得られる、れっきとしたビジネスとして成立する」

資料の数字を指し示す。そこには、具体的な収支計画が記されていた。

「この数字……」

ベテラン商人の一人が、目を細めて資料を確認する。

「確かに、これなら十分な利益が見込める」

「街も守れる、利益も出る」

マーカスが立ち上がる。

「私は、この提案に賛成します」

彼の言葉を皮切りに、賛同の声が次々と上がり始めた。

「具体的な制度設計は、これから詰める必要があります」

俺は冷静に付け加える。

「しかし、基本的な方向性としては、この形で進めさせていただきたい」

ロドリグが立ち上がり、深く頷いた。

「冒険者ギルドとしても、全面的に協力させていただきます」

「商業ギルドも同様です」

商業ギルドのヴィクターも同意を示す。

「では」

行政府の文官が立ち上がった。

「この提案を、正式な防衛計画の一つとして採用することとします」

会議室に、新たな空気が流れ始めていた。

* * *

説明を終えると、ヴァルターが発言した。

「装備の調達以外にも、防衛設備の強化は必要不可欠だ。その点についても考えがあるのか?」

「はい」

俺は頷く。

「実は、装備の調達と防衛設備は密接に関連しています」

資料の最後のページをめくると、そこには防衛設備の概略図が示されていた。

「私の『価値転換』の能力は、装備品だけでなく、建材や防具にも応用が可能です。これを活用することで...」

「なるほど」

ヴァルターの目が光る。

「城壁や防御施設の強化にも使えるというわけか」

「その通りです。詳細な計画は別途ご提案させていただきますが、基本的な方向性としては……」

会議は具体的な実施案の検討へと移っていった。商人たちからの質問に答え、騎士団からの要望を聞き、行政府との調整を行う。

* * *

「防衛設備の強化案については、明日の朝一番で具体案を提出させていただきます」

俺の言葉に、ヴァルターが満足げに頷いた。

「期待しているぞ、レオン殿」

会議が終わる頃には、夕暮れの空が赤く染まっていた。

「お疲れ様です」

ソフィアが資料をまとめながら声をかけてきた。

「ああ。でも、これからが本番だ」

机の上には、防衛設備の設計図の第一案が広げられている。魔獣の大群が現れる前に、できることは全てやっておく必要がある。

「今晩は徹夜になりそうだな」

そう言いながらも、俺の口元には自信に満ちた笑みが浮かんでいた。この街を守る。それは商人としての誇りであり、かつての冒険者としての責務でもある。
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