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【第20話】交渉決裂 対立へ
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また数日が経過した。最初は下手だったプラムとアローの授業もかなりの上達を見せ、ふたりを担当する中塚先生までもが高い評価をするようになった。
翔斗自身も、特に異変に巻き込まれるということはなく、護衛の契約期間満了まで刻一刻と時間が流れていくだけの日々を送っていた。だからといって、プラムとアローに油断は無い。むしろ、翔斗の身に何も起こらないということが嫌に不気味だった。
「最近なーんにも無いわね~」
「いいことだろ。このまま何も起こらずに終わって欲しいけどな」
「そうだけどさー。なんかつまんないじゃないのよ~」
「お前なぁ・・・」
昼休み、教育実習生の控え室でコンビニの唐揚げ弁当を食べるプラムとアロー。その隣では、翔斗が自分で作った弁当を広げている。自分で作った不細工な卵焼きを頬張りながら、翔斗はふたりの方を見た。
「・・・プラムとアローさんって、契約期間が終わったら帰っちゃうの?」
「そうだよ~!」
にっこりと笑うアロー。その隣では、眠たそうな目で唐揚げを頬張るプラム。彼女がこちらを気にする様子はない。契約期間が終わったら、このふたりは自分の元からいなくなる。翔斗の胸が、少し締め付けられるような感覚に陥る。それに負けぬよう、噛んでいる途中の卵焼きを無理やり飲み込んだ。
その頃、Group Emma日本支部5階リーダー室・・・。応接スペースにて、ベルはビットと共に、先日来訪した田ノ上と森による交渉を受けていた。内容は先日と同じで、東京進出を目指す39委員会の、Group Emmaへの業務委託である。
・・・今し方ベルが放った言葉が、田ノ上と森の表情を険しくしていた。
「どうかご再考願えませんか?」
「残念ですが、Group Emmaの考えは変わりません」
「どうしても、でしょうか」
「ええ。答えはNOです。39委員会との取引はできません」
ベルとビット、そして田ノ上と森。応接テーブルを挟む双方の間に、不穏というひと言では到底片付けられない、歪んだ空気が充満している。両者が互いに発し合う禍々しいソレは、四角いはずの応接テーブルが、ぐにゃりと大きく変形する錯覚を覚えそうになるほどだ。
「・・・承知致しました」
ふと、田ノ上と森が応接ソファから立ち上がった。真似るように、ベルとビットも立ち上がる。
「また機会がございましたら、是非ともお声をかけていただければ幸いです。弊社は今後も、御社との良好な関係を望んでおります」
「ええ。こちらこそ。本日はお忙しい中、遠方よりお越しくださりありがとうございました。御社の更なるご活躍とご発展を祈念しております」
互いに深くお辞儀をした後、田ノ上と森はビルを去っていった。リーダー室でふたりになったベルとビット。ビットが、直立不動のままベルに聞いた。
「よろしかったのですか? 断ってしまって」
「いいのよ。Cの遺体は引き渡したし、賠償金も全額一括で払ったしね」
「・・・これからどうなるでしょうか」
ビットが言うそばで、ベルはポケットからスマートフォンを取り出し、電話番号を入力して、すかさず耳に当てると、ビットに向かって不敵な笑みを浮かべた。
「これからが私たちの本番よ」
その顔は、これから起ころうとする事柄を、すべて見通しているかのような笑みであった。やがて、電話のコール音が消え、通話中の表示が現れる。ベルはビットにウィンクすると、ビットは部屋中の窓に取り付けてあるブラインドを下し、日光を遮断した。リーダー室が、薄暗い闇に包まれる。リーダー室の空気が氷のように一変した瞬間、ベルがその場でぺこりとお辞儀した。
「・・・もしもし。お疲れ様です、エマさん。例の件の報告のため、お電話させていただきました」
翔斗自身も、特に異変に巻き込まれるということはなく、護衛の契約期間満了まで刻一刻と時間が流れていくだけの日々を送っていた。だからといって、プラムとアローに油断は無い。むしろ、翔斗の身に何も起こらないということが嫌に不気味だった。
「最近なーんにも無いわね~」
「いいことだろ。このまま何も起こらずに終わって欲しいけどな」
「そうだけどさー。なんかつまんないじゃないのよ~」
「お前なぁ・・・」
昼休み、教育実習生の控え室でコンビニの唐揚げ弁当を食べるプラムとアロー。その隣では、翔斗が自分で作った弁当を広げている。自分で作った不細工な卵焼きを頬張りながら、翔斗はふたりの方を見た。
「・・・プラムとアローさんって、契約期間が終わったら帰っちゃうの?」
「そうだよ~!」
にっこりと笑うアロー。その隣では、眠たそうな目で唐揚げを頬張るプラム。彼女がこちらを気にする様子はない。契約期間が終わったら、このふたりは自分の元からいなくなる。翔斗の胸が、少し締め付けられるような感覚に陥る。それに負けぬよう、噛んでいる途中の卵焼きを無理やり飲み込んだ。
その頃、Group Emma日本支部5階リーダー室・・・。応接スペースにて、ベルはビットと共に、先日来訪した田ノ上と森による交渉を受けていた。内容は先日と同じで、東京進出を目指す39委員会の、Group Emmaへの業務委託である。
・・・今し方ベルが放った言葉が、田ノ上と森の表情を険しくしていた。
「どうかご再考願えませんか?」
「残念ですが、Group Emmaの考えは変わりません」
「どうしても、でしょうか」
「ええ。答えはNOです。39委員会との取引はできません」
ベルとビット、そして田ノ上と森。応接テーブルを挟む双方の間に、不穏というひと言では到底片付けられない、歪んだ空気が充満している。両者が互いに発し合う禍々しいソレは、四角いはずの応接テーブルが、ぐにゃりと大きく変形する錯覚を覚えそうになるほどだ。
「・・・承知致しました」
ふと、田ノ上と森が応接ソファから立ち上がった。真似るように、ベルとビットも立ち上がる。
「また機会がございましたら、是非ともお声をかけていただければ幸いです。弊社は今後も、御社との良好な関係を望んでおります」
「ええ。こちらこそ。本日はお忙しい中、遠方よりお越しくださりありがとうございました。御社の更なるご活躍とご発展を祈念しております」
互いに深くお辞儀をした後、田ノ上と森はビルを去っていった。リーダー室でふたりになったベルとビット。ビットが、直立不動のままベルに聞いた。
「よろしかったのですか? 断ってしまって」
「いいのよ。Cの遺体は引き渡したし、賠償金も全額一括で払ったしね」
「・・・これからどうなるでしょうか」
ビットが言うそばで、ベルはポケットからスマートフォンを取り出し、電話番号を入力して、すかさず耳に当てると、ビットに向かって不敵な笑みを浮かべた。
「これからが私たちの本番よ」
その顔は、これから起ころうとする事柄を、すべて見通しているかのような笑みであった。やがて、電話のコール音が消え、通話中の表示が現れる。ベルはビットにウィンクすると、ビットは部屋中の窓に取り付けてあるブラインドを下し、日光を遮断した。リーダー室が、薄暗い闇に包まれる。リーダー室の空気が氷のように一変した瞬間、ベルがその場でぺこりとお辞儀した。
「・・・もしもし。お疲れ様です、エマさん。例の件の報告のため、お電話させていただきました」
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