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【第23話】ALPHABETのナンバー2
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廃トンネルを抜けた先にある、カルト教団のアジトをただめちゃくちゃにしただけで、謎の男が乗るRX-7を撒くことができなかったランエボプラムは、元来た道を戻り、再び峠道を爆走していた。
「タイヤだ! 次のコーナーで四輪ドリフトするから、その時に撃ち込め!」
「オッケー!」
銃に弾倉を挿し込んだアローは、迫り来る急カーブに備えて右の窓を全開にした。刹那、ある重要なことを思い出す。
「あ、翔斗くん。学校に「今日は風邪を引いたのでおやすみします」って電話しといてね」
「え?! 今?!」
「できる時でいいわよ~!」
嘘だろ・・・!
助手席と後部席の間に潜るようにしてうずくまる翔斗。激しく揺れ動く車体と、死ぬかもしれないという緊張から気が動転したのか。あろうことか、この状況で学校に電話をかけ始めた。
「お電話ありがとうございます、こちら稽進学園高等学校受付窓口でございます」
「あ、あの、黒川です。今日風邪引いたので学校休みます」
「はい? あの、うるさくてよく聞こえませんが」
「だ、だから、学校休みます」
「え? なんですか? もう一度お願いします」
プラムはランエボを充分に加速させ、次に控える右カーブのブレーキングポイントに狙いを定める。バックミラーには、やはりRX-7がピタリとランエボの尻に張り付いている。
・・・奴は運転が上手い。ということは車に詳しいはずだ。あたしの運転を見て、グリップで勝負するタイプだと思い込んでるはずだ。・・・それでいい!
「曲がるぞ!」
「プラム、合図!」
「了解! ・・・3、2、1!」
その瞬間、プラムはブレーキペダルとクラッチペダルを同時に踏み込み、ステアリングを切り込んだ。右足でアクセルを軽く煽りつつ、車体がコーナーの出口を向くや否や、ステアリングを直進の位置に固定し、アクセルペダルを奥まで踏み込む。この間わずか数秒の出来事である。
・・・!
RX-7に乗る男は、思わず目を見開いた。ランエボが何の兆しも見せず、車体を斜めに滑らせたのだ。ランエボの右半身が、RX-7の顔と対面する。後部座席からは、ひとりの女性が体を乗り出し、こちらに向かって銃を構えていた。
男はハンドルを切ったが、時すでに遅し。アローが打ち込んだ銃弾がRX-7の右の前輪にヒットし、タイヤがパンク。車体のバランスが失われてしまった。思い切りブレーキをかけるも、そのままガードレールに突っ込んでしまい、RX-7は大きな音を立ててクラッシュしてしまった。
・・・。
遠ざかっていくランエボの排気音を耳に残しながら、車内を脱出した男は、今しがた走っていた道路を見渡した。アスファルトに残るタイヤの軌跡。ゴムの焦げ臭い匂いが辺りに漂っている。
ゼロカウンターか・・・。
すると、男の背後でクラクションが軽く鳴る音がした。振り返ると、そこには荷台にたくさんの野菜を積み込んだ軽トラックが。農家だろうか。頭にタオルを巻いた中年のオヤジが、慌てた様子で男に駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫かあんた!」
農家のオヤジは、ガタガタに曲がったガードレールとペシャンコに潰れたRX-7を見て、事故の凄惨さを悟った。
「怪我はないんか?!」
「・・・」
巨漢は何も答えない。よく見ると、彼には傷ひとつ付いていない。何事もなかったかのようにピンピンしている。
「すぐ救急車を呼んだるからな!」
「・・・結構だ」
「ダメダメ! こんな大事故、奇跡的に怪我が無くったって病院で見てもらわにゃ!」
「・・・」
電話で救急車を呼ぶオヤジの隣で、男は静かに立っていた。
「『B』、ですか」
「ええ。暗殺のプロ集団『ALPHABET』でナンバー2の実力を持つ男よ。屈強な男で、経歴は不明。顔立ちからして、北欧人ってことだけは確かね。あと、プラムが殺した『C』とは恋仲だったって説もあるわよ」
Group Emma日本支部ビル5階、リーダー室。リーダーのベルはソファに座り、紅茶を飲んでいた。そのそばで、副リーダーのビットは骨董品である小太刀の手入れをしている。
「なぜ、彼が日本に?」
「そんなのカンタン、任務のためよ。つい最近、39委員会との取引を蹴ったしね」
ベルは紅茶をひとくち飲むと、ビットが用意してくれたチョコチップクッキーを頬張った。
「39委員会は予想以上にメンツを重視する。裏社会のハシクレごときに、世界に誇る自慢のアサシンがやられたと周りに知られたら、いい笑い者でしょ? そんな私たちを確実に潰すために、Bを送り込んできたんでしょうね」
「プラムたちは大丈夫でしょうか」
「大丈夫よ。あの子達なら、黒川翔斗を守り切れるわ。今ごろ、どこかでドンパチやってるんじゃないかしら! アハハ」
プラムとアローのゴタゴタを想像して笑うベル。あながち間違ってなさそうだと思うビット。ビットは手入れが終わった小太刀を鞘に収めると、机の上にそっと置いた。
「我々も、そろそろ準備が必要かと」
ベルが不敵に笑った。
「ええ、もちろん。忙しくなるわよ。エマさんも快く協力してくれるし。・・・あ、それとビット」
「はい」
「バンに、黒川一博をよく見張っておくように伝えておいてちょうだい」
「依頼主をですか?」
聞き返したビット。ベルはさらに不気味な笑みを浮かべると、静かに呟いた。
「ええ。彼、最近少し忙しそうだから」
「タイヤだ! 次のコーナーで四輪ドリフトするから、その時に撃ち込め!」
「オッケー!」
銃に弾倉を挿し込んだアローは、迫り来る急カーブに備えて右の窓を全開にした。刹那、ある重要なことを思い出す。
「あ、翔斗くん。学校に「今日は風邪を引いたのでおやすみします」って電話しといてね」
「え?! 今?!」
「できる時でいいわよ~!」
嘘だろ・・・!
助手席と後部席の間に潜るようにしてうずくまる翔斗。激しく揺れ動く車体と、死ぬかもしれないという緊張から気が動転したのか。あろうことか、この状況で学校に電話をかけ始めた。
「お電話ありがとうございます、こちら稽進学園高等学校受付窓口でございます」
「あ、あの、黒川です。今日風邪引いたので学校休みます」
「はい? あの、うるさくてよく聞こえませんが」
「だ、だから、学校休みます」
「え? なんですか? もう一度お願いします」
プラムはランエボを充分に加速させ、次に控える右カーブのブレーキングポイントに狙いを定める。バックミラーには、やはりRX-7がピタリとランエボの尻に張り付いている。
・・・奴は運転が上手い。ということは車に詳しいはずだ。あたしの運転を見て、グリップで勝負するタイプだと思い込んでるはずだ。・・・それでいい!
「曲がるぞ!」
「プラム、合図!」
「了解! ・・・3、2、1!」
その瞬間、プラムはブレーキペダルとクラッチペダルを同時に踏み込み、ステアリングを切り込んだ。右足でアクセルを軽く煽りつつ、車体がコーナーの出口を向くや否や、ステアリングを直進の位置に固定し、アクセルペダルを奥まで踏み込む。この間わずか数秒の出来事である。
・・・!
RX-7に乗る男は、思わず目を見開いた。ランエボが何の兆しも見せず、車体を斜めに滑らせたのだ。ランエボの右半身が、RX-7の顔と対面する。後部座席からは、ひとりの女性が体を乗り出し、こちらに向かって銃を構えていた。
男はハンドルを切ったが、時すでに遅し。アローが打ち込んだ銃弾がRX-7の右の前輪にヒットし、タイヤがパンク。車体のバランスが失われてしまった。思い切りブレーキをかけるも、そのままガードレールに突っ込んでしまい、RX-7は大きな音を立ててクラッシュしてしまった。
・・・。
遠ざかっていくランエボの排気音を耳に残しながら、車内を脱出した男は、今しがた走っていた道路を見渡した。アスファルトに残るタイヤの軌跡。ゴムの焦げ臭い匂いが辺りに漂っている。
ゼロカウンターか・・・。
すると、男の背後でクラクションが軽く鳴る音がした。振り返ると、そこには荷台にたくさんの野菜を積み込んだ軽トラックが。農家だろうか。頭にタオルを巻いた中年のオヤジが、慌てた様子で男に駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫かあんた!」
農家のオヤジは、ガタガタに曲がったガードレールとペシャンコに潰れたRX-7を見て、事故の凄惨さを悟った。
「怪我はないんか?!」
「・・・」
巨漢は何も答えない。よく見ると、彼には傷ひとつ付いていない。何事もなかったかのようにピンピンしている。
「すぐ救急車を呼んだるからな!」
「・・・結構だ」
「ダメダメ! こんな大事故、奇跡的に怪我が無くったって病院で見てもらわにゃ!」
「・・・」
電話で救急車を呼ぶオヤジの隣で、男は静かに立っていた。
「『B』、ですか」
「ええ。暗殺のプロ集団『ALPHABET』でナンバー2の実力を持つ男よ。屈強な男で、経歴は不明。顔立ちからして、北欧人ってことだけは確かね。あと、プラムが殺した『C』とは恋仲だったって説もあるわよ」
Group Emma日本支部ビル5階、リーダー室。リーダーのベルはソファに座り、紅茶を飲んでいた。そのそばで、副リーダーのビットは骨董品である小太刀の手入れをしている。
「なぜ、彼が日本に?」
「そんなのカンタン、任務のためよ。つい最近、39委員会との取引を蹴ったしね」
ベルは紅茶をひとくち飲むと、ビットが用意してくれたチョコチップクッキーを頬張った。
「39委員会は予想以上にメンツを重視する。裏社会のハシクレごときに、世界に誇る自慢のアサシンがやられたと周りに知られたら、いい笑い者でしょ? そんな私たちを確実に潰すために、Bを送り込んできたんでしょうね」
「プラムたちは大丈夫でしょうか」
「大丈夫よ。あの子達なら、黒川翔斗を守り切れるわ。今ごろ、どこかでドンパチやってるんじゃないかしら! アハハ」
プラムとアローのゴタゴタを想像して笑うベル。あながち間違ってなさそうだと思うビット。ビットは手入れが終わった小太刀を鞘に収めると、机の上にそっと置いた。
「我々も、そろそろ準備が必要かと」
ベルが不敵に笑った。
「ええ、もちろん。忙しくなるわよ。エマさんも快く協力してくれるし。・・・あ、それとビット」
「はい」
「バンに、黒川一博をよく見張っておくように伝えておいてちょうだい」
「依頼主をですか?」
聞き返したビット。ベルはさらに不気味な笑みを浮かべると、静かに呟いた。
「ええ。彼、最近少し忙しそうだから」
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