TEST SCENE

みかん星人

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【第24話】撃つのに覚悟は関係ない

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 謎の男が駆るRX-7をなんとか振り切ったプラムは、峠を越えた先の街にひっそりと佇む寂れた工場、梅工房に向かっていた。

「ベル姉に電話するね」

「頼んだ」

 短いやりとり。後部座席に座るアローが電話する内容が『謎の男に襲撃』されたという内容であることくらい、その隣に縮こまって座る翔斗にも分かった。しばらくして電話が繋がったのか、アローがスマートフォンに向かって話し始めた。アローが通話する間に翔斗は運転席のプラムに話しかけ始めた。

「プラムさん」

「ん?」

 唐突に名を呼ばれたプラムは、視線を道路から移すことなく返事をした。

「この前、僕に銃見せてくれたよね」

「おお」

 翔斗が座る座席の下を指で探ると、豆粒ほどの大きさのボタンがある。それを押すと隠しスペースが飛び出し、過去にプラムが米軍から盗んできた銃が顔を出すのだ。

「それ、僕にちょうだい」

「ダメ」

「え・・・なんで?」

「ダメだから」

「なんでだよ。これは僕の問題だろ?」

「そりゃな」

「もう覚悟できたんだ。もし追い詰められて、もう死ぬかもしれないって時が来たら、最後くらい自分で自分を守りたいんだ」

「ふーん」

「だからさ、銃が欲しいんだ」

「むり」

「なんで・・・!」

 苛立つ翔斗。斜め後ろから見えるプラムの眠たそうな表情は、ピクリとも変わらない。自身の隣では、アローがイヤホンをつけてベルと通話している。車外に流れゆく景色は、やがて寂れた田舎へと姿を変えていった。
 翔斗の覚悟は確かだった。散々、理想論ばかり並べてきた。その分だけ、自分に中身が無いことも知った。
 教わったのだ。あれだけ軽蔑していた裏社会の人間から。自分がどれほど恵まれた環境で育ち、いかに幸せな空間で生きてきたかを。
 真夏。照りつける日光が、街を熱した鉄板のように焼く猛暑日。広い家の、クーラーでひんやりと涼しくした部屋の快適なベッドに寝そべり、スマートフォンを片手に時事問題について考える。そんな日々こそが、偽善そのものだったのだと教わったのだ。だからこそ、翔斗はそんな自分を脱却したかった。

「頼む。お願いです。僕に銃をください」

 誠心誠意、頭を下げてプラムにお願いした。目を閉じ、念を送るように沈黙する。しかし、プラムからの返事がNOからYESに変わることはなかった。

「ダメなもんはダメ」

「なんでなんだよ! 僕は、銃を撃つ覚悟ができたんだよ?!」

「だってそれあたしの銃だもん」

「じゃあ、貸してよ。借りるていならいいんだろ?」

「うん、普通にダメ」

「なんで・・・! なんでだよ!」

「覚悟のある政治家に銃なんかいらねえだろ」

 思わず、翔斗の思考がカチリと停止した。プラムは得意げになるわけでもなく、周りに走る車を気にしながら淡々と語る。

「撃つのはあたしらの仕事だ」

「けど・・・」

「勘違いすんな。銃を撃つ奴に覚悟があるんじゃねえ」

「・・・?」

「そんなモン、無くても勝負できる」

 一瞬・・・ルームミラー越しに、プラムと翔斗の目が合った。

「今のお前なら、銃が無くても大丈夫だろ」

「・・・」

「契約期間が終わるまでは、あたしらがお前を守る。そのあとは知らん。好きにしろ」

 会話が途切れたタイミングで、ベルとの通話を終えたアローがイヤホンを耳から取り外した。

「うるさいわねも~。電話しづらいじゃないのよぉ」

「わりわり」

 軽く謝るプラム。アローは、隣で真剣な表情で考え込む翔斗に視線を移した。

「何話してたの?」

「・・・なんでもない」

「え~、気になるー」

「そんなことよりアロー。ベル姉はなんて?」

 プラムに突っ込まれてようやく、アローは電話の内容を話し始めた。

「さっき襲ってきた奴、やっぱりALPHABETっぽいよ。Bっていうらしい」

「B?」

「うん。組織ナンバー2の実力者。戦闘力はトップレベルね。それに・・・」

「うん」

「39委員会とかいうデッカい親玉が襲ってくる可能性が高いらしいわよ」

「39委員会? ンだそりゃ」

「あたしも初めて聞いたからよく分かんないけど、ALPHABETを従える怖~い人たちらしいわよ。強さ的には軍隊以上だってさー」

 アローが翔斗に向かって、脅かすように手を大きく広げて、怪獣のようなポーズをとる。「な、何だよ」と答える翔斗の困惑した表情。アローはニコッと笑うと、その可愛らしい顔が嘘のように、不敵な笑みを浮かべた。

「それで、ここからが重要なんだけど・・・」

「なんだ?」

 その頃、峠の事故現場は異様な雰囲気に包まれていた。

「当人が、消えた?」

「そうなんだよ。救急車が来るまで、ここで待ってろって言ったんだがね・・・」

 うねる峠道。前部分がペシャンコに潰れたRX-7の元に、救急隊や警察が駆けつけ、辺りは交通整理で軽い渋滞となっていた。大破したRX-7を最初に見つけた軽トラックのオヤジが、道端で警察の事情聴取を受けている。バインダーを片手に、ペンでメモをとる警察。淡々と、事故当時の光景について質問が進んでいく。

「なるほど。事故車は物凄い速さで走行していて、この急カーブを曲がりきれずにガードレールに衝突したんですね」

「そうそう」

「事故を起こしたのは男性ですか? 女性ですか?」

「男性だよ。もうガタイがデカいのなんの。顔もね、日本人じゃなかったよ」

「なるほど。体の大きい外国人男性が、この車に乗っていたんですね」

「うん。そう」

「その方は、どちら向きに去っていったのですか?」

 その質問に対する軽トラックのオヤジの返答に、警察は思わず困惑してしまうこととなる。

「この急斜面を降りて行ったんですか・・・?」

「ああ、嘘じゃねえ。手慣れた感じであっちゅうまに、ひょいひょい降りてったよ」

 オヤジが指さすのは、RX-7の衝突により、ぐにゃぐにゃに曲がってしまったガードレール。彼によれば、謎の男はこのガードレールを飛び越えて、道もない山中の急斜面を降っていったのだという。

「男性に怪我はなかったんですか?」

「それが不思議なもんでさ。無傷なんだよ。何もなかったみたいにピンピンしてやがるんだ」

「これほどの事故を起こしていてですか・・・?」

「ああ」

 なかなかに信じられない。すると、その警察の肩を後ろからぽんぽんと軽く叩く者が。振り向くと、そこにはスーツ姿の男が2人立っていた。

「取り込み中失礼。刑事課の土井です」

「同じく、刑事課の福田です」

「あ、お疲れ様です」

「事故車の状況を詳しく見たいので、ちょっと入りますね」

「は、はい」

 そう言って、土井と福田は手袋をはめ、大破したRX-7の元に行った。近づくや否や、土井は右の前輪あたりでしゃがみ込んだ。

「福田」

「はい」

「やっぱりパンクしてるぞ」

 福田もしゃがみ込み、土井と同じ目線でタイヤを見る。

「本当ですね。しかも、この穴・・・」

「間違いないな。ベルの奴、ついに39委員会とドンパチ始めやがったか」
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