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みかん星人

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【第25話】裏切り者には制裁を

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「うそ・・・」

 峠を超え、殺し屋Bから無事に逃げ切った一行は、匿ってもらうために訪れた梅工房の駐車場で唖然としていた。
 バラックで建てられた施設に空いた、おびただしい数の弾痕。かつて、プラムとアローを娘のように可愛がってくれた工房長の梅が、業務をサボってよく入り浸っていた小さな事務所・・・。
 爆破されたのか、内装は散り散りになり、元が何だったのかも分からないほど、粉々にされた物品が辺りに散乱していた。そして壁には、銃撃や爆発に巻き込まれた誰かの血が生々しくこびりついている。
 あまりに凄惨な光景を前にして、翔斗は思わず吐き気を覚えた。平和なはずの日本。許可なしでは、銃も刀剣も、爆発物の所持も許されていない。なのにどうだ。この有様。

 無法だ。こんなの・・・。

「梅おじさん!」

「おい、アロー!」

 わずかな望みに精神を託し、アローは自動車整備場に向かって走り出した。翔斗を連れて、プラムはアローを追いかけた。走った先で、アローは立ちすくんでいた。アローに追いついたプラムと翔斗は、目の前に広がる光景を見て、絶句した。
 梅を含め、梅工房すべての従業員が、死体と化して整備場の隅に捨てられていたのだ。それはまるで、たくさんの人形が乱雑に置かれているかのような・・・。まさに、虐殺そのものであった。

「うっ・・・」

 翔斗は走り出し、離れたところで嘔吐した。死体の元に駆け寄ったアローは、梅を見つけると、その場にしゃがみ込んだ。アローはうずくまったまま、鎮魂の念を送り続けていた。背後から、靴の音がゆっくりと近づいてくる。プラムだ。音は、背中の少し手前で止まった。

梅工房ここは、Group Emmaあたしらしか知らない場所のはずだ」

「・・・そうね」

 アローの弱々しい返事。プラムは、そんな彼女の背中を見つめているようで、どこにも焦点を合わせずに、呟くように言った。

「怯むなよ」

「・・・誰に言ってんのよ」

 プラムとアロー・・・ふたりの間で、目に見えない意思が疎通し合う。アローが静かに立ち上がる。意識したわけでもなく、ふたりは同時に顔を見合わせた。その目は、今までにない怒りを纏っていた。

「行くぞ」

 離れた場所で嘔吐していた翔斗を半ば強引に連れて、プラムは目的地に向けてランエボを飛ばした。


「そう・・・分かったわ。あなた達は無事なの? ・・・良かった。報告ありがと。すぐに清掃員を送るわ。無理しないでね」

 そう言って、ベルはスマートフォンの通話を切った。カーテンを閉め切った薄暗いリーダー室で、ベルは項垂うなだれるようにソファに腰掛けた。

「梅さんがやられたわ」

 俯く彼女の前髪は、僅かに乱れを見せている。そばに立つビットは真顔のまま静かに目を閉じた。

「・・・残念です」

「梅さんはね。エマさんと私がコンビだった時からお世話になってたの。気さくなおじさんでね。注文してない武器を余計に仕入れては、コレでお前たちは無敵だーってはしゃいで」

 ベルの声が、悲しみから怒りに変貌していく。

「元より、梅工房とGroup Emmaの契約関係は私たちしか知らない情報よ。ビット、何か匂わない?」

「はい」

「間違いなく、情報を売った奴がいるわね」

Group Emma我々の武器の供給元をしつこく聞いてきた者を、ひとり覚えています」

「・・・誰?」

「ひとりしかいません。リーダーもお分かりでしょう」

 ソファに座るベルは、過去に起きた不可解な出来事を思い出していた。

 黒川翔斗の警護任務初日の行動として、プラムとアローは黒川翔斗と共に理事長室を訪れ、契約内容の最終確認を行うプランだった。しかし、どういうわけかALPHABETのCはこれを見越し、秘書にまで変装して理事長室で待ち構えていた。
 他にも、不審な点は多く見られる。
 黒川翔斗の送迎時、プラムの運転するランサーエボリューション7を尾行する不審車両の存在。偽の位置情報を送ったにも関わらず、Group Emma日本支部ビルの場所を特定してきた39委員会大阪支部の派遣員・・・。
 やがて、ベルの目つきがまるで般若のような形に変貌した。

「黒川一博ね・・・」

「はい。奴は最初から、裏切るつもりで我々に接触し、自身の息子を警護させつつALPHABETとコンタクトを取り、最終的には39委員会と関係を築こうとしているのでしょう」

「舐めた真似を・・・。私たちの正体も知らずに」

「愚かな男です」

 ベルの悪人の表情。思わず、ビットの背筋が凍った。

「潰してやる。禁忌を犯したな・・・」

「戦争ですか。リーダー」

 視線だけベルに移すビット。ベルは静かに、しかし怒りに満ちた声で語った。

「我々は我々の流儀に従い、恩義を利用した商売などせん。・・・だが、温情さえも仇で返すクソ共には、我々の流儀に従い消えてもらう。・・・思い知らせてやる。眠る猛虎の尾を踏んだ無能共が。その腐った脂肪で覆われた首を、食いちぎってやる」
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