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みかん星人

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【第34話】大抜擢! ロケット打ち上げ阻止支援!

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 警視庁 公安部 公安第五課及び外事第四課による特別合同捜査組織・・・。
 Group Emmaの正体。自身たちの真の姿を知ったプラムとアローは、楕円を描く円卓の対に座るエマとベルが、今まで以上に不気味に思えた。

 すると、しんと静まり返った部屋にベルがケラケラという笑い声が響いた。

「どう? びっくりしたでしょ。今まで黙っててゴメンね。アンタ達やらかしまくるから、なかなか言えなかったのよ」

「え~、ベル姉ひどーい」

 頬を膨らますアローの隣で、プラムはふと、自分の経歴過去のことを思い出していた。それは、自身がGroup Emmaに入る前。当時の自分の立場と、明かされたGroup Emmaの正体に深い関わりがあるのではないか。そう実感していたのだ。

「さて、私たちの正体も知ってもらったところで、新任務の説明をしなきゃね。ベル、よろしく」

「はい」

 ベルが手のひらサイズのリモコンを操作した。すると、壁に貼り付けられたモニターの画面が切り変わった。するとモニターには、何やら細い長い、少し歪な形をした図形のようなものが映し出された。シルエットのみ表示されており、色は真っ黒。何なのかは分からない。

「これが何か分かるかしら?」

 エマの問いに対して、プラムとアローは首を傾げた。見たことあるような、無いような・・・。

「はーい!」

「はい、アローちゃん」

 エマに指名されたアローは立ち上がると、胸を張って解答した。

「ミドリムシでーす!」

「ぶっぶー。ぜんっぜん違うわよ」

「えー!」

「プラムちゃん、分かる?」

 呆れるエマが、プラムに解答権を与える。プラムは顎に手を添えてしばし唸ると、やがて目をカッと見開いて答えた。

「これはうんこっスね」

「このバカ」

 ため息をついて呆れ果てるベルとエマ。ベルは、正解を示すためさらにリモコンを操作した。すると、モニターの画面に大きく種子島という文字が出てきた。

「正解は種子島よ」

「あー、種子島か~!」

「そっちかー。うんこか種子島かで迷ったんスよ」

「アンタ種子島の人たちに謝ってきなさい」

 あたかも、種子島というワードを解答の候補として控えていたかのような態度をとるプラムとアローに、より一層頭を抱えたくなるベルだが、エマはにっこり微笑むだけだった。

「総面積445㎢のこの島の東南端に位置する、種子島宇宙センターという場所で最近、39委員会がウロチョロしてるのよ」

「また39委員会ですか」

 プラムが言うと、ベルが真剣な眼差しを向けた。

「奴らは現代戦を裏で操る終末思想の戦争屋よ。何としても、私たちが潰さないといけないの」

 39委員会は、以前も大阪支部とベルが率いるGroup Emma日本支部との間で激しい抗争があった。

「39委員会は種子島宇宙センターを乗っ取って、大崎射場から人工衛星を打ち上げようとしているわ」

「人工衛星?」

 プラムが聞き返すと、エマが真剣な表情でこれに応えた。

「世界を混沌に追いやる、最悪の兵器よ」

「最悪の兵器・・・」

「これを食い止めなければ、世界はあらゆる情報を遮断されるわ。全ての流れが止まり、人々は飢えに苦しむことになる」

 飢え・・・?

 プラムとアローの脳内に「飢」の文字がハッキリと浮かび上がる。39委員会が、種子島宇宙センターを乗っ取ってまで発射しようとしている人工衛星には、一体どれほどの脅威が眠っているのか。ふたりは、その恐ろしさを未だ完全に理解仕切れていない。

「飢えが呼ぶのは戦争。39委員会奴らの描く未来に、子どもへの愛も、全世界の繁栄も無い。あるのは利益。目指すのは世界征服。奴らは今、この世で最も危険なクソ野郎よ」

 眉間に皺を寄せるエマは、そのままニヤリと笑った。そして、力強く声を発す。

「プラム、アロー」

「はい」

「はーい!」

「種子島宇宙センターに潜入し、人工衛星の打ち上げを阻止するサポートをしなさい」

「はい」

「はい!」

 プラムとアローが姿勢を正す。エマは、ふたりの目を交互にまっすぐと見た。

「これはGroup Emma私たちと39委員会の戦いである以前に、世界と奴らの戦いでもあるわ。あなたたちに、世界の命運が懸かっている。私たちの最後の戦争よ。絶対にやり遂げなさい。あなた達は、世界最強のポンコツコンビなんだから」

 その後、詳しい説明と作戦資料を受け取ったプラムとアローは会議室を後にし、早速任務の準備に取り掛かることにした。
 
「えーっと、人工衛星の打ち上げは・・・」

 プラムが運転するランエボは高速道路に乗り、早速鹿児島に向けて疾走していた。

「約2週間後とかじゃなかったか?」

「あ、ほんとだ書いてある」

 助手席で、ベルに渡された作戦資料を読み込むアローは頭をポリポリと掻きながら、ホッチキスで留められた紙をぺらりとめくった。

「ほえ~! 壮大ねーアイツら」

「なんて書いてあんの?」

「なんか、人工衛星にチップ? みたいなのを埋め込んでるんだって」

「ちっぷ?」

「そ。ご飯のふりかけ一粒くらいしかないんだけど、すっごい頭のいいコンピュータの頭脳として機能してるんだって」

「すっごい頭のいいコンピュータだぁ?」

「そうそう。もうホンット頭いいんだって」

「ふりかけくらいなのにか?」

「なんか、インターネットをぜ~んぶ一瞬でハッキングできるんだってさ~」

「すっげーな。なんかヤバそう」

 ふたりに詳しいことは理解できないが、どうやら人工衛星に積み込まれたコンピュータチップに、39委員会の野望が秘められていることは確かなようだ。
 プラムはあくびをすると、サービスエリアに入るために進路変更の合図を出して、ハンドルを少しだけ左に切った。駐車場にランエボを停めて降車する。曇り空の下、昼食のためフードコートに向かう。

「だいたい、ハッキングしてどうすんだ?」

「そりゃあ、自家製ウイルスに感染させてインターネットを我が物にするんでしょ」

「そんなんで世界征服になるのか?」

「なーに言ってんのよ。今の時代、情報が遮断されたらオシマイなのよ? 飛行機は道に迷って墜落、良くても不時着。船は航路を見失って海の上で立ち往生。あんたのランエボちゃんのナビも意味不明な道案内を始めて、使い物にならなくなるんだからね」

「ほお」

「証券ウンヌンではシステム障害で取引が止まるし、銀行ATMがぶっ壊れて貯金も預金も引き落とせなくなる。スーパーのセルフレジも、医療関係のシステムもストップ。つまり、ヒト・モノ・カネの流れが止まるってことね」

「なるほど」

「それだけじゃないわよ。テレビもラジオも砂嵐しか流れなくなるし、電話も繋がらない。スマホで動画を見たり、音楽を聞いたりすることもできなくなる。インフラが片っ端から死ぬわね~」

「え?! テレビとスマホ使えなくなんの?!」

「そーよ。あったりまえじゃない」

「朝7時のニュース占い見れなくなっちゃうじゃん!」

「どこ心配してんのよアンタは~!」

「だって、7時の占いはあたしの楽しみなんだぞ?!」

「知らないわよも~。それよりもナビが壊れるとかの心配しなさいよぉ」

「いや、ナビは別に。いざって時はアローが助手席でペースノート読んでくれればいいし」

「ラリー選手権じゃないのよ」

 たくさんの客で賑わうフードコート。プラムとアローは丸いテーブルに席を取り、各々好きな食べ物の食券を買って、再び席に戻ってきた。

「けど、39委員会やつらはもっともっと戦争を起こして金儲けしたいんだろ? インターネットを使えなくすることと何の関係があるんだ?」

「さっき言ったことのまんまよ。流通を掌握するってことは、戦争で使われる兵站へいたんや兵器、情報の流れを独占できるってこと」

「うんうん」

「管制塔がデクの棒化して、緊急発進スクランブルの警報が鳴らなくなる。戦闘機も哨戒機も救難機も飛べなくなって、世界中の制空権が消滅するのよ。こうなると、潜水艦なんかは海に潜ることさえできなくなるわね」

「おお~」

「みんな大好き核ミサイルも打てなくなって、燃えないゴミになる。つまり、アタシ達はみんな、銃を持った原始人になっちゃうってこと」

「へ~」

「世界中が混乱の嵐に巻き込まれて、約100年ぶりの世界恐慌が開幕。企業が倒産しまくって、失業者で溢れまくって、餓死者が出まくって、暴動が起きまくって、紛争が起きまくって、たくさんの武器が消費される。39委員会の狙いは、世紀末化した世界の武器商人になることじゃないかな」

「武器商人ねぇ」

「そ。死の商人って言ってもイイわね。ガン◯ムの世界でいう、アナハイム・エレクトロニクスなんかがまさにそうじゃん」

「ほぉー」

「もぉ、ちゃんと聞いてんのあんたぁ~?」






「ホントに良かったんですか? センパイ」

「ん? 何が?」

 モニターの青白い光が、エマ、ベル、ビットの3人を照らす。ベルの不安げな表情を横目に、エマは資料を読み返している。

「こんな大事な任務に、プラムとアローを起用するなんて・・・」

 すると、エマは資料を静かにデスクに置いた。

「あら、私の判断に不服でも?」







「いえ・・・けど、センパイがこんなに大胆になってるところを見てると、なんだか昔を思い出してしまって・・・」







「ベル。私たちだって、コンビだった頃は失敗ばかり重ねていたでしょ」

「はい。私のせいで先輩の顔に・・・」

「あら、まだ引きずってるの? アレはこの傷だけで済んでラッキーだっただけじゃない。別に、今さら振り返ることでもないわ」

 湿ったような、涼しいような。しんみりとした空気が、ふたりの間に満ちていく。

「ベル」

「はい?」

「上司として、あの子たちをしっかり見ていてあげなさい」

「はい。じきに、私もビットと一緒に鹿児島に飛びます」

 ベルと共に、エマの視線はビットに移った。

「ふふ、頼もしいわね。ビットくん、いい上司を持ったでしょう」

「はい。恐悦至極に存じます」







「ふふふ、相変わらずマジメね」

 エマは視線をベルに戻すと、不敵な笑みを浮かべた。

「この作戦が無事に終わったら、みんなで飲みに行きましょう。色々と話したいことがあるのよ。あなた達にも、あの子たちにも、次の人生を歩んでもらうことになりそうだし」
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