TEST SCENE

みかん星人

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【第35話】すでに先手を取られてる

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 サービスエリアで昼休憩を済ませたプラムとアローは、再び高速道路に乗り込み、鹿児島を目指してランエボを走らせていた。

「あ~、美味しかったー! やっぱりうどんは最高よねぇ~」

「ケバブサンド、アレも結構美味かったわ。ちょっと食いづらかったけど」

「あ~、あんた食べてたわね」

「あとやっぱ、ソフトクリーム食べとくべきだったな」

「何よ今さら~! いらないって言ってたじゃないのよー!」

「いやぁ、いざ食わずに出発すると、やっぱなんか寂しいわ」

「も~。ほんっと気ままよねぇ」

 青空の下、高速道路から見えるのは、暖かな陽に照らされた田んぼ。どこまでも続く平原のような場所に、民家がポツポツと建っている。
 遠くの方を見渡せば、青みが失せた山が見える。初めて通る道にも関わらず、どこか懐かしいような、そんな気持ちになっていく。

「で、あたしたちは鹿児島でどう動きゃぁイイんだ?」

 若干半目の、眠たそうな顔をしたプラムが、ハンドルを握りながらアローに聞いた。「えーっとねぇ~・・・」と呟きながら、アローは膝下のグローブボックスから作戦資料を取り出した。紙をぺらり、ぺらりと1枚ずつめくっていく。

「あった。『39委員会による人工衛星『はばたき』の打ち上げ阻止作戦要項』」

 アローは目で文字を追いながら、資料を読み上げていく。

「作戦7日前までに、現地で待機している実行部隊と合流。準備ができ次第、宇宙センターに潜入して調査活動開始。施設内部の構造とか、警備員の数とかを調べ上げなきゃいけないみたい」

「実行部隊って、ベル姉自慢の軍隊上がりの集団だろ?」

「メンバーのほとんどがそうらしいわね。けど、ド派手にはやらないみたい。工作班が上手くいかなかった時に、最終手段でカチコミに行くらしいわよ」

「ん!」

「?」

「んんん!」

 プラムが突然唸った。

「何よ」

 その気味の悪さに顔を歪めるアローは、視線を資料からアローの横顔に移した。

「ケッコーいいこと思いついちゃった」

「はー?」

 プラムは勝ち誇ったような顔をすると、ハンドルを強く握りしめる。そして、前を向いたままニヤリと笑ってみせた。

「ベル姉ってさ、自衛隊のお偉いさんとも仲良いだろ?」

「そうね」

「だったらよ、自衛隊そいつらに頼んで、どっかの基地から戦闘機飛ばしてもらえばいいじゃん。爆弾落としゃ、ロケットなんてイチコロだろ」

 ハンドルを握ったまま、得意げに胸を張るプラム。しかし、アローの反応はプラムの期待からは大きく逸れていた。

「残念だけど、答えはNOよ。ま、プラムにしちゃよく考えた方だと思うけど」

「ハ、なんでだよ」

「そりゃあアンタの言う通り、自衛隊ぶち込めば一瞬で終わるでしょうね。それは絶対にできないのよ。むしろ、その手が使えないから、こうやってアタシたちが派遣されてんのよ」

「どーゆーこっちゃ」

「まぁ聞きなさいよ。種子島宇宙センターのロケット打ち上げ阻止作戦・・・コレにはひとつ、大きな問題があるのよ。分かる?」

「39委員会の見張りか?」

「それは有って当然じゃない。それよりも厄介な問題があんのよ」

「ふーん。何なの?」

「客よ」

「客?」

「そう。種子島宇宙センターのロケット打ち上げには、毎回たくさんの見物人が来る。一般のね」

「そうなんだ。知らんかった」

「しかも今回の『はばたき』打ち上げはね、39委員会の工作でニュースでも大きく取り上げられてんのよ。日本の宇宙開発チームが、なんかスッゴイの打ち上げまーすって」

「うんうん」

「打ち上げの瞬間を生中継するためにテレビ局も集まるし、THEY TUBEゼイチューブで世界中にライブ配信される。いつもより、世間からの注目をかなり浴びてるってこと。これがどういうことか分かる?」

「ンにゃ。全く」

 あっさり応えるプラム。アローは前にまっすぐ伸びる高速道路を眺めながら続けた。

「世界中の観衆が見守る中、自衛隊の飛行機やら巡洋艦やらが、打ち上げロケット目掛けてミサイルなんて撃ってみなさいよ。どーなると思う?」

「あ~、それはヤバいわ」

「でしょ~? なーんも知らない一般人からしたら「何事?!」よ。人類の夢である宇宙への進歩を、突然出てきた自衛隊が力づくで破壊する。そんなことしたら最後、自衛隊は非難の超新星爆発を喰らうわね」

「なるほどなぁ・・・」

 これには、さすがのプラムも深く納得したようだ。アローはさらに続けた。

「ただでさえ、この国は日本嫌いのメディアと、な~んも考えてない洗脳済み平和ボケカスチンパンジーで溢れてるからね~」

「言い過ぎだろ」

「いーや。コイツらが『自衛隊暴走! 自国の宇宙開発に牙を向く悪魔のテロ集団』なんて報道してみなさいよ。アホがここぞとばかりに自衛隊を袋叩きにするわ。コレがきっかけで、自衛隊解体なんてことも有り得るわ」

「うーーーん、よく考えられてんな」

「納得したでしょ」

「じゃあ、他の国から軍隊引っ張ってきたらどうよ?」

「それもダメ」

「ダメなのか」

「人工衛星『はばたき』はあくまでも日本のロケットよ。他国の軍が攻撃でもしたら、自衛隊出動で即開戦。それこそ、39委員会の思う壺じゃない」

「日本そのものが人質かよ。39委員会アイツら、よっぽどの悪党だな」

「そゆこと。将棋で言えば、Group Emmaあたしらはとっくの昔に王手を宣告されてんのよ」

「ほえ~。だいぶキツい任務になるのか」

「ま、そうなるでしょうねー」

「やだやだ。もし、警備にALPHABETなんかがいたらと思うとゾッとするわ」

 プラムは軽くため息をつくと、一瞬だけアローに目をやった。

「にしてもお前、やけに詳しいな」

「ん? 何が~?」

「なんだろ。軍事的なことっていうか、そこら辺が」

「そう? 考えたら誰でも分かりそうだけど」

「・・・お前、Group Emmaに入る前、何してんだ?」

「さあね~」

「何だよ教えろよ」

「ヤーよ。規則だもん。大体、アンタも教えてくれないじゃないのよ」

「そりゃあ規則だからな」

「いつか語り合える日が来るかもね~」

「そん時は多分、死に際だな」

「怖いわねぇ~」

 アローは作戦資料を膝下のグローブボックスに入れると、助手席の背もたれを目一杯倒した。

「怖いから、あたしゃ寝る」
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