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みかん星人

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【第36話】ふたりを運ぶ『ぶっそうげ』

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 ランエボのナビがたった今、鹿児島県に入ったことを知らせた。

「やーっと着いたわね~」

「さすがに疲れたな。ランエボももうキツイだろうに」

「顔バレしてるからって、飛行機も船も使えないなんてねー。あたしたち、ALPHABETからどんだけ恨み買ってんのよ」

 実に17時間という時をランエボで過ごしたプラムとアロー。時刻は既に14時。どこかの格安ホテルでひと休みしたいところだが、休んでいる暇はない。こうしている間にも、39委員会の世界征服計画は着々と進んでいる。
 プラムとアローはひと息つく間もなく谷山港まで赴くと、駐車場にランエボを停め、受付で乗船手続きを済ませた。
 プラムとアローが乗り込むのは『ぶっそうげ』という船だ。この船は、鹿児島から種子島、種子島から屋久島へと続く定期旅客船であり、車輌の航送も可能である。船内は広くはなく、旅客船というよりも貨物船の雰囲気が色濃い。
 現在時刻は17時。出港は18時なので、1時間の余裕がある。受付の人からご飯の準備をした方がいいと言われたのを思い出したふたりは、少し歩いたところにあるコンビニに向かった。
 
「うーーーん! 気持ちのいい場所!」

「のどかだな」

 普段、ふたりが居る都心部に比べて、ここは栄えてなどいない。だが、ぽつりぽつりと佇むスーパーやカフェに集まる人々からは何か、豊かさと呼べるようなものが感じられた。ゆったりとした豊かさだ。ふたりには、これを上手く言語化する能力は備わっていない。ただ、この心の安らかさは確かに感じることができる。
 プラムとアローだけではない。リーダーのベルも、副リーダーのビットも、ボスであるエマも・・・とうの昔に捨てたもの。

 それは、闇に生きる彼女らが最も忘れそうで、最も忘れたくなくて、最も忘れたことがないものだった。

「ねープラム」

「ん?」

 コンビニの店内で好きな食べ物をカゴに入れるプラムの背中を追いながら、アローは呟くように言った。

「なんか、いいよね」

「ん? 何が」

「田舎ってさ。なんかこう、なんて言えばいいんだろ。知らないところなのに懐かしく感じることない?」

「・・・あるかもな」

「やっぱ人ってさ、もともとは自然の中で生きてきたわけじゃん? やっぱそういうことよねって」

「どーゆーコトだよ」

 ・・・と言いつつも、プラムはアローが言わんとすることの大半を理解できていた。共感できるのだ。デコボココンビとは言え、同じ時代を生きてきた相棒なのだから。

 やがて日は沈み、部屋の蛍光灯の光が眩しく感じられるようになった。客室は、旅客スペースが5箇所と、女性専用スペースが1箇所。
 旅客スペースと言っても、ただ広い一室を膝下ほどの高さしかない簡単な仕切り版で4分割しただけの、簡素なものだ。
 普通の旅客船ならひと部屋ずつ分けられていて、その都度ベッドも用意されているだろうが、もともと貨物船だった『ぶっそうげ』にそこまでの旅客機能はない。
 そのため、乗船している間はプライベートなどまるでない。種子島に到着するまで、どこから来たかも分からない乗客と共に、一晩過ごさなければならない。
 プラムとアローが『ぶっそうげ』に乗り込んだのは出港時間の間近。女性専用スペースに入る頃には、スマートフォンなどを充電するためのコンセント差し込みプラグ周辺は、先に乗船していた客に陣取られてしまっていた。わずかに残されたスペースにようやく座ったプラムとアロー。窮屈だが、仕方がない。時刻は18時半。種子島到着は21時40分ごろなので、時間に余裕がある。
 ふたりは自身が寝るスペースを確保し、船内をぐるりと散歩すると、唯一の楽しみであった展望デッキに足を運んだ。

 潮の匂いがする。すでに日が沈んだ海の上。遠くの方に見える粒状の白い光。街の灯り。風はやや強く、薄い生地のスーツでは少し肌寒さも感じる。風になびく長い髪を手で押さえながら、アローはひたすら黒い空を見上げていた。彼女の頭上に広がる満天の星空は、ここが奇跡の星であるということを容易に実感させてくれる。

「・・・いつだったっけ。あんたとプラネタリウム見に行ったの」

「え、プラネタリウム? 見に行ったことあるっけ?」

「あるわよ~。忘れたの? ほら、あの時よ。確かホラ、東京で魔堕会まだかいの会長さん乗せてた信号待ちのセンチュリーを、改造トラックで跳ね飛ばした日。あの帰りよ」

「魔堕会? トラックで? そんな仕事したっけ」

「したわよぉ~! 3年前くらいに、ベル姉が何でもかんでもトラックで仕事させてた時期あったじゃーん!」

「あぁ、アレか! 思い出した。確かベル姉、あン時『トラック野郎』にハマってたんだよなぁ」

「そうそう、その時よ!」

「んじゃあお前、魔堕会の連中を轢いた時じゃないぞ。それはもっと前だろ」

「え? ウソ」

「いやホントだって。多分アローが言ってんのは、横浜でクスリ運んでた尾前会おまえかいのハイエースをトラックでぶっ飛ばした時の話だろ」

「え~、そうだっけー?」

「間違いねえ。ちゃんと覚えてる。アレは横浜だった。ンで、その帰りに横浜のプラネタリウム寄ったんだよ。リーダーベル姉が「なんで私も呼ばないのよっ!」って拗ねてたろ」

「あ~、確かに拗ねてた。あのあとベル姉、アタシらの前で仕返しと言わんばかりに浜松のカニ食べてたもん」

「うわ、懐かし。確かに食ってたわ。分けてくんなかったもんな。・・・って、コレ何の話だっけ」

 つい昔話に夢中になっていた。アローは気を取り戻し、もう一度展望デッキの周りを見渡した。少し離れたところでは、欧米を思わせる顔立ちの外国人がカメラを構えて船体を撮影している。アローはもう一度空を見上げると、目を輝かせて続けた。


「あの時行ったプラネタリウムなんかより、全然こっちの方がキレイじゃない?」

「そりゃーな。本物だからな」

「なんかさ、こういう星空見てると、地球が本当に宇宙の中にあって、ひとつの星として彷徨ってるって、実感できるのよね~」

「まぁ、なんとなく分かるわ。実際、昼は空が青くて分かんねえけど。夜はそのまんま宇宙が見えるもんな。空じゃなくて、宇宙だもんな」

「そう考えたらさ? こんなチッコい星の覇権握ったトコでじゃない?」

「まぁな。ちっさく感じるわ」

「衛星飛ばす力はあるのにね。39委員会って、宇宙が見えてないのかなーって」

「深いのか浅いのか分からんこと言うな」

「深いわよ~」

「てか、戻らね? 腹減ったし、寒い」

「そうね。あと2時間でしっかり休まないとね」

 そう言って、プラムとアローは展望デッキを去り、船内に戻って行った。
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