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【第37話】姿を見せる傭兵軍団
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「言え。誰の差し金だ」
「・・・」
「隊長、コイツら口を割りません」
「始末しろ。問題ない」
「了解」
21時40分、種子島西之表港。
やや荒れた風の中、暗闇に包まれた港にランエボが上陸した。
「さーてと、任務開始ね」
「ああ。とりあえず集合場所に行くぞ」
「はーい」
前照灯にしなければ、一寸先も分からないほどの暗闇の中を進むランエボ。ベルの指示通り、港から離れたコンテナターミナル付近の地点に到着したふたり。すでに敵地に侵入している。銃を手にし、周りを確認しながらランエボを降りる。
細心の注意を払い、定められた集合地点に足を運ぶ。周りに敵が潜んでいないことを確認すると、銃を懐にしまった。
「大丈夫みたいね」
「だな」
アローはスマートフォンを取り出すと、電話のマークを押して耳に当てた。電話の呼び出し音が、荒れた風にかき消されていく。
「もしもしリーダー。お疲れ様でーす! ハイ、予定通り集合地点に到着しました。ハイ、ハイ、了解でーす!」
短い会話を済ませ、アローは耳からスマートフォンを下ろした。
「すぐ来るってさ」
数分後、連なるコンテナの陰から、ベルがビットと共に姿を現した。
「あ、お疲れ様でーす!」
「お疲れッス」
「うん。ふたりも長旅ご苦労様」
いくつも置かれたコンテナの内、ベルは少し大きめのコンテナの中にふたりを招き入れた。コンテナの中身はガランとしていて、あるのは暗闇を照らしてくれる小さなライトだけだった。
「谷山港まで車で行くの、キツかったでしょ」
「いえ、全然」
キッパリと答えるプラム。ベルは一瞬、安堵の表情を浮かべたが、それはすぐに曇った。
「休みたいところでしょうけど、ふたりに悪い報せがあるわ」
「なんですかー?」
アローが聞くと、ベルではなくビットが応えた。
「工作班がやられた」
まるで稲妻のような衝撃が、プラムとアローを襲った。
「何人やられたんスか?」
「全員よ」
ベルによれば、連絡が途絶えたことと、隠しGPSの反応が消えたことが証拠となったという。重苦しい空気が、薄暗いコンテナに充満していく。
「状況は深刻よ。39委員会、宇宙センター付近にかなり厳重な警備を敷いてるわ。内部チェックも厳しくて、工作班の活動もすぐにバレた」
「連中も本気ッスね」
「人工衛星『はばたき』の打ち上げが成功すれば、天下が獲れるもの。本気にもなるわよ」
工作班の工作活動は全て失敗に終わった。成果といえば、彼らが収集した僅かな情報くらいだった。とはいえ、今はこれが最大の手がかりだ。
その情報を、ベルはゆっくりと説明し始めた。
「ひとつ目は、宇宙センターの警備員が39委員会に雇われた傭兵部隊であることよ」
「傭兵部隊? どこのですか?」
「メープル・コープよ」
ベルが発した組織名に、思わずプラムとアローは固まった。
「それって、アレですか?!」
「アローの想像してる通りよ」
「メープル・コープまで出てきたんスか・・・」
より一層重苦しくなる空気。それも無理はない。
Maple Corporation・・・通称『メープル・コープ』はアメリカ、フランス、カナダに拠点を置く民間軍事会社である。
その強さは一国の軍隊をも凌ぐと言われており、任務に対する冷酷なまでの徹底ぶりは、陰で『狂人集団』と言われるほどである。
「ヤツらが相手じゃ、ウチの部隊でも部が悪い」
腕を組み、唸るベル。コンテナの外では依然、風が吹いている。風はコンテナに降りかかり、コンテナ内で重い音に変わって4人に伝わる。その音が、さらに空気を重くしていく。
しかし、そんな悲痛な雰囲気など気にも溜めていないのか・・・埃を風で吹き飛ばすかのごとく、プラムが口を開いた。
「で? ベル姉。2つ目は?」
「え?」
「2つ目の情報ッスよ。少ないにはしろ、工作班が頑張ってかき集めてくれたんでしょ?」
「あ、あぁそうだったわね」
ハッとしたベルは、2つ目の情報を説明し始めた。
「これは情報というより報告よ。工作班は最後まで口を割らなかった。それだけよ」
簡潔な言葉。しかし、プラムもアローも、冷静なビットでさえも、眉をひそめていた。ベルは静かに続けた。
「メープル・コープの拷問が残忍なのは知ってるでしょ? そんな仕打ちの中、工作班は誰ひとりとして口を割らなかった。これがいかに偉大なことか・・・」
ビットが静かに目を閉じた。切なささえ見て取れるその表情を、アローは黙って見つめていた。そしていま一度、ベルの目を見る。
「ベル姉。残ってるのはアタシたちと実行部隊だけなんですよね?」
「ええ」
「どうするんスか?」
・・・。
風が止んだ。
ベルは、いつの間にか鬼のような形相に変貌していた。
「もはや穏便な手は使えないわ」
ベルの冷たい声。ビットが、わずかに口角を吊り上げた。
「戦争ですか。リーダー」
「散々やられておいて、今さら静かに済ませる気なんて毛頭ないわよ」
プラムとアローが同時に頷く。
リーダーはやる気だ。こうなったら誰も止められねえ。
スイッチ入ったみたいね~! 面白くなってきた!
それぞれの思いを受け取ったのか、ベルの口調はさらに強まった。
「残った部隊で突撃するわよ。目標は『はばたき』の破壊のみ。邪魔する者はすべて蹴散らす。プラム、アロー」
「はーい!」
「ウッス」
「あなたたちも作戦変更よ。よく聞きなさい」
数日が経過した。
あれから、プラムとアローは格安ホテルに身を潜めていた。
《人工衛星『はばたき』の打ち上げ予定日まで、残り3日となりました。本日・・・》
《テレビ番組の海外中継などで見られるように、スタジオと現地のリポーターのやりとりにタイムラグがあるでしょう? 通信遅延っていうのは、送信側が送った内容が相手に届くまでにかかる時間を指すんですよ。二者間の距離が離れるほどその差は大きくなって・・・》
《地球低軌道に『はばたき』を配置すれば、通信遅延の大きな短縮が期待できます。世界の連絡速度が急激に速まり、緊急事態や自然災害時の意思疎通もより迅速に・・・》
ほとんどのニュースが人工衛星『はばたき』の話題を大きく取り上げている。『はばたき』はネット上の書き込み掲示板でも盛り上がりを見せており、世界がさらに便利になるのではないかという期待が寄せられている。
「なかなか人気じゃん。はばたき」
「なんか便利になるとか吹かしてるんでしょ? そりゃ誰だって注目するわよ」
海が見える小さな部屋。壁に貼り付けられた薄型のテレビを見ながら、硬めのベッドに横たわるプラム。デスクチェアに座るアローは、ライティングデスクに広げた2丁の銃を整備していた。
「総合指令棟に紛れ込んで、火災ベルを押すだけ・・・か」
「いやに簡単よね~」
数日前、ベルから直接告げられた作戦変更。ふたりに与えられた任務は、宇宙センターの総合指令棟に忍び込み、火災ベルを押すことだった。巻き起こる混乱に乗じてリーダーのベルが号令、実行部隊投入。打ち上げロケットの直接破壊を目指すというものだ。
一見、華のある作戦だが、はっきり言って当たって砕けに行くようなもの。宇宙センターには、39委員会に雇われたメープル・コープが警備の目を光らせている。
その警備網を正面突破するともなれば、妨害に遭って戦闘になるのは避けられない。彼らは軍隊顔負けの傭兵軍団である。たとえ作戦が成功したとしても、その時にはこちら側にも大損害が出ていることは容易に想像がつく。
そして、万が一作戦遂行が困難となった場合、プラムとアローは管制室に突入することになっている。職員を銃で脅し、ロケットの爆破命令を出させようというものだ。
今は亡き工作班が集めた情報によれば、管制室にメープル・コープはいない。宇宙センター側に存在を悟られたくないのだろう。
アローは整備を終えた銃をライティングデスクにそっと置くと、テレビのリモコンを手に取った。アローが押すボタンに従って、チャンネルが切り替わっていく。
「小学生のいたずらじゃない。こんなの」
「命懸けのいたずらになるな」
侵入経路もすでに決まっている。あとは作戦当日を待つだけだ。それまでゆっくりできるとはいえ、数日後には世界の命運を賭けた戦いが控えている。ふたりは、何とも言えない緊張感を抱いていた。
西之表港コンテナターミナル。まったく人がいない場所で、黒い人影が動いていた。
「種子島ビジネスホテル『サンシャイン』201号室・・・プラムとアローはそこにいます」
「承知した」
「あなたの後輩のBも、弟子のCもそのふたりに殺られている。彼女たちは組織内ではポンコツ扱いされていましたが、油断禁物ですよ。充分に気をつけてください」
「承知した」
「これ、顔写真です」
2枚の顔写真を受け取った長身の男。灰色のコートに黒い手袋。中折れのウールハットは男の目元をほとんど隠している。
「バンと言ったな。君は」
「そうですが」
「39委員会と内通して、Group Emmaの情報を流し、工作班を全滅させた・・・。やるじゃないか」
黒いスーツを着たバンは軽く笑った。
「ハハ、ありがとうございます」
「この写真の者たちとは、苦楽を共にしてきたはずだが」
「この世界に裏切りは付きものですから」
バンの口角が吊り上がる。コート姿の男はひと言「・・・そうか」と呟き、写真を懐にしまうと、ポケットからUSBメモリを取り出してバンに手渡した。
「頼まれていたものだ。『メープル・コープ』の幹部情報が入っている」
「ありがとうございます。・・・Aさん」
USBメモリをポケットにしまったバン。Aが、ニヤリと笑った。
「君は若いなりに、この世界での生き方を心得ているようだな」
「そのつもりです。利潤こそすべてですから。それでは、僕はこれで」
「うむ。頑張りたまえ」
「どうも」
バンはAに背中を向け、歩き出した。
「バン」
踵を返したバンを、Aが呼び止めた。
「君にひとつ言ってなかったことがある」
「・・・? 何でしょう」
振り返るバン。そこには、自身の眉間に向けてピストルを構えるAが・・・。
「ALPHABETの『A』の顔を見た者は、この世にひとりもいなくてね・・・」
乾いた破裂音が、港に虚しくこだました。
「・・・」
「隊長、コイツら口を割りません」
「始末しろ。問題ない」
「了解」
21時40分、種子島西之表港。
やや荒れた風の中、暗闇に包まれた港にランエボが上陸した。
「さーてと、任務開始ね」
「ああ。とりあえず集合場所に行くぞ」
「はーい」
前照灯にしなければ、一寸先も分からないほどの暗闇の中を進むランエボ。ベルの指示通り、港から離れたコンテナターミナル付近の地点に到着したふたり。すでに敵地に侵入している。銃を手にし、周りを確認しながらランエボを降りる。
細心の注意を払い、定められた集合地点に足を運ぶ。周りに敵が潜んでいないことを確認すると、銃を懐にしまった。
「大丈夫みたいね」
「だな」
アローはスマートフォンを取り出すと、電話のマークを押して耳に当てた。電話の呼び出し音が、荒れた風にかき消されていく。
「もしもしリーダー。お疲れ様でーす! ハイ、予定通り集合地点に到着しました。ハイ、ハイ、了解でーす!」
短い会話を済ませ、アローは耳からスマートフォンを下ろした。
「すぐ来るってさ」
数分後、連なるコンテナの陰から、ベルがビットと共に姿を現した。
「あ、お疲れ様でーす!」
「お疲れッス」
「うん。ふたりも長旅ご苦労様」
いくつも置かれたコンテナの内、ベルは少し大きめのコンテナの中にふたりを招き入れた。コンテナの中身はガランとしていて、あるのは暗闇を照らしてくれる小さなライトだけだった。
「谷山港まで車で行くの、キツかったでしょ」
「いえ、全然」
キッパリと答えるプラム。ベルは一瞬、安堵の表情を浮かべたが、それはすぐに曇った。
「休みたいところでしょうけど、ふたりに悪い報せがあるわ」
「なんですかー?」
アローが聞くと、ベルではなくビットが応えた。
「工作班がやられた」
まるで稲妻のような衝撃が、プラムとアローを襲った。
「何人やられたんスか?」
「全員よ」
ベルによれば、連絡が途絶えたことと、隠しGPSの反応が消えたことが証拠となったという。重苦しい空気が、薄暗いコンテナに充満していく。
「状況は深刻よ。39委員会、宇宙センター付近にかなり厳重な警備を敷いてるわ。内部チェックも厳しくて、工作班の活動もすぐにバレた」
「連中も本気ッスね」
「人工衛星『はばたき』の打ち上げが成功すれば、天下が獲れるもの。本気にもなるわよ」
工作班の工作活動は全て失敗に終わった。成果といえば、彼らが収集した僅かな情報くらいだった。とはいえ、今はこれが最大の手がかりだ。
その情報を、ベルはゆっくりと説明し始めた。
「ひとつ目は、宇宙センターの警備員が39委員会に雇われた傭兵部隊であることよ」
「傭兵部隊? どこのですか?」
「メープル・コープよ」
ベルが発した組織名に、思わずプラムとアローは固まった。
「それって、アレですか?!」
「アローの想像してる通りよ」
「メープル・コープまで出てきたんスか・・・」
より一層重苦しくなる空気。それも無理はない。
Maple Corporation・・・通称『メープル・コープ』はアメリカ、フランス、カナダに拠点を置く民間軍事会社である。
その強さは一国の軍隊をも凌ぐと言われており、任務に対する冷酷なまでの徹底ぶりは、陰で『狂人集団』と言われるほどである。
「ヤツらが相手じゃ、ウチの部隊でも部が悪い」
腕を組み、唸るベル。コンテナの外では依然、風が吹いている。風はコンテナに降りかかり、コンテナ内で重い音に変わって4人に伝わる。その音が、さらに空気を重くしていく。
しかし、そんな悲痛な雰囲気など気にも溜めていないのか・・・埃を風で吹き飛ばすかのごとく、プラムが口を開いた。
「で? ベル姉。2つ目は?」
「え?」
「2つ目の情報ッスよ。少ないにはしろ、工作班が頑張ってかき集めてくれたんでしょ?」
「あ、あぁそうだったわね」
ハッとしたベルは、2つ目の情報を説明し始めた。
「これは情報というより報告よ。工作班は最後まで口を割らなかった。それだけよ」
簡潔な言葉。しかし、プラムもアローも、冷静なビットでさえも、眉をひそめていた。ベルは静かに続けた。
「メープル・コープの拷問が残忍なのは知ってるでしょ? そんな仕打ちの中、工作班は誰ひとりとして口を割らなかった。これがいかに偉大なことか・・・」
ビットが静かに目を閉じた。切なささえ見て取れるその表情を、アローは黙って見つめていた。そしていま一度、ベルの目を見る。
「ベル姉。残ってるのはアタシたちと実行部隊だけなんですよね?」
「ええ」
「どうするんスか?」
・・・。
風が止んだ。
ベルは、いつの間にか鬼のような形相に変貌していた。
「もはや穏便な手は使えないわ」
ベルの冷たい声。ビットが、わずかに口角を吊り上げた。
「戦争ですか。リーダー」
「散々やられておいて、今さら静かに済ませる気なんて毛頭ないわよ」
プラムとアローが同時に頷く。
リーダーはやる気だ。こうなったら誰も止められねえ。
スイッチ入ったみたいね~! 面白くなってきた!
それぞれの思いを受け取ったのか、ベルの口調はさらに強まった。
「残った部隊で突撃するわよ。目標は『はばたき』の破壊のみ。邪魔する者はすべて蹴散らす。プラム、アロー」
「はーい!」
「ウッス」
「あなたたちも作戦変更よ。よく聞きなさい」
数日が経過した。
あれから、プラムとアローは格安ホテルに身を潜めていた。
《人工衛星『はばたき』の打ち上げ予定日まで、残り3日となりました。本日・・・》
《テレビ番組の海外中継などで見られるように、スタジオと現地のリポーターのやりとりにタイムラグがあるでしょう? 通信遅延っていうのは、送信側が送った内容が相手に届くまでにかかる時間を指すんですよ。二者間の距離が離れるほどその差は大きくなって・・・》
《地球低軌道に『はばたき』を配置すれば、通信遅延の大きな短縮が期待できます。世界の連絡速度が急激に速まり、緊急事態や自然災害時の意思疎通もより迅速に・・・》
ほとんどのニュースが人工衛星『はばたき』の話題を大きく取り上げている。『はばたき』はネット上の書き込み掲示板でも盛り上がりを見せており、世界がさらに便利になるのではないかという期待が寄せられている。
「なかなか人気じゃん。はばたき」
「なんか便利になるとか吹かしてるんでしょ? そりゃ誰だって注目するわよ」
海が見える小さな部屋。壁に貼り付けられた薄型のテレビを見ながら、硬めのベッドに横たわるプラム。デスクチェアに座るアローは、ライティングデスクに広げた2丁の銃を整備していた。
「総合指令棟に紛れ込んで、火災ベルを押すだけ・・・か」
「いやに簡単よね~」
数日前、ベルから直接告げられた作戦変更。ふたりに与えられた任務は、宇宙センターの総合指令棟に忍び込み、火災ベルを押すことだった。巻き起こる混乱に乗じてリーダーのベルが号令、実行部隊投入。打ち上げロケットの直接破壊を目指すというものだ。
一見、華のある作戦だが、はっきり言って当たって砕けに行くようなもの。宇宙センターには、39委員会に雇われたメープル・コープが警備の目を光らせている。
その警備網を正面突破するともなれば、妨害に遭って戦闘になるのは避けられない。彼らは軍隊顔負けの傭兵軍団である。たとえ作戦が成功したとしても、その時にはこちら側にも大損害が出ていることは容易に想像がつく。
そして、万が一作戦遂行が困難となった場合、プラムとアローは管制室に突入することになっている。職員を銃で脅し、ロケットの爆破命令を出させようというものだ。
今は亡き工作班が集めた情報によれば、管制室にメープル・コープはいない。宇宙センター側に存在を悟られたくないのだろう。
アローは整備を終えた銃をライティングデスクにそっと置くと、テレビのリモコンを手に取った。アローが押すボタンに従って、チャンネルが切り替わっていく。
「小学生のいたずらじゃない。こんなの」
「命懸けのいたずらになるな」
侵入経路もすでに決まっている。あとは作戦当日を待つだけだ。それまでゆっくりできるとはいえ、数日後には世界の命運を賭けた戦いが控えている。ふたりは、何とも言えない緊張感を抱いていた。
西之表港コンテナターミナル。まったく人がいない場所で、黒い人影が動いていた。
「種子島ビジネスホテル『サンシャイン』201号室・・・プラムとアローはそこにいます」
「承知した」
「あなたの後輩のBも、弟子のCもそのふたりに殺られている。彼女たちは組織内ではポンコツ扱いされていましたが、油断禁物ですよ。充分に気をつけてください」
「承知した」
「これ、顔写真です」
2枚の顔写真を受け取った長身の男。灰色のコートに黒い手袋。中折れのウールハットは男の目元をほとんど隠している。
「バンと言ったな。君は」
「そうですが」
「39委員会と内通して、Group Emmaの情報を流し、工作班を全滅させた・・・。やるじゃないか」
黒いスーツを着たバンは軽く笑った。
「ハハ、ありがとうございます」
「この写真の者たちとは、苦楽を共にしてきたはずだが」
「この世界に裏切りは付きものですから」
バンの口角が吊り上がる。コート姿の男はひと言「・・・そうか」と呟き、写真を懐にしまうと、ポケットからUSBメモリを取り出してバンに手渡した。
「頼まれていたものだ。『メープル・コープ』の幹部情報が入っている」
「ありがとうございます。・・・Aさん」
USBメモリをポケットにしまったバン。Aが、ニヤリと笑った。
「君は若いなりに、この世界での生き方を心得ているようだな」
「そのつもりです。利潤こそすべてですから。それでは、僕はこれで」
「うむ。頑張りたまえ」
「どうも」
バンはAに背中を向け、歩き出した。
「バン」
踵を返したバンを、Aが呼び止めた。
「君にひとつ言ってなかったことがある」
「・・・? 何でしょう」
振り返るバン。そこには、自身の眉間に向けてピストルを構えるAが・・・。
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