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行列とその先
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俺は深夜から並び続けた。
新装開業するA川遊園地で、六歳になる愛娘と遊ぶためだ。
全国的に有名で、五日前から並んでいる猛者もいるらしい。
電話で娘に、何がしたいか尋ねたら、A川遊園地に行きたいと返された。
娘に会うのは半年ぶり。大きくなっただろうか。ランドセルを買ってやりたい。
離婚してから一年が経とうとしている。元嫁とは争うことも無く、円満の離婚だったと思う。すれ違いが重なった結果だった。憎んでも恨んでもいない。
慰謝料などは発生しなかったが、無論、養育費は毎月振り込んでいる。
互いの新天地が離れたために、なかなか会えていない。
空が白んできた。あと五時間で列が動き始める。その三十分前には母娘が到着する。
前日から水分は最低限に留めている。まだ尿意はない。
単独で行列を待ち続けるのはのは辛いと知り合いに聞いたが、案外余裕かもしれない。
まあ、グループで集う人は、交代で眠ったりしているようだ。開園後に備えてだろう。
悴む手を撫でながら、俺は前を見つめた。
『予定していた電車が事故で遅れそう!間に合うと思うけど、来なかったら先に入っていてください。』
元嫁から連絡が来たのは、待ち合わせ時刻の二十分前。
居眠りしていた人も戻ってきつつあるようで、行列は人々の話し声で賑わっている。承諾の返信をしてから、辺りを見回した。
瞬間、腹痛が襲ってきた。
「あ、あの・・・。」
俺は耐えきれず、後ろにいた若い女性に声を掛けた。白いワンピースで、凄く清楚だ。
「どうかしましたか?顔色が悪いですよ?」
「お腹がおかしくて・・・カバンを置いておくので、見ておいて貰っても良いですか?」
やっとの思いでそう伝えると、彼女は頷いた。
貴重品だけポケットに突っ込み、俺は駆け出す。幸い個室が空いており、直ぐに用を足す事が出来た。
数分後、列に戻ると置いておいたはずのカバンがなかった。
「えっ?」
慌てて彼女を見ると、屈託のない笑顔で話された。
「係員の方が持っていきましたよ。持ち主はいませんか?と聞かれましたので、列を抜けてました、と答えました。」
俺のこめかみに青筋が出来る。怒鳴りかけそうだ。
「だって、貴方はカバンを見ておいて貰っても良いですか?と言いましたでしょう?ですから私は目で追いましたよ。係員の方がカバンを持っていくまで。流石に、そこの角を曲がったら見えなくなったので辞めましたが・・・。」
俺はその場に立ち尽くした。
Game Over...
新装開業するA川遊園地で、六歳になる愛娘と遊ぶためだ。
全国的に有名で、五日前から並んでいる猛者もいるらしい。
電話で娘に、何がしたいか尋ねたら、A川遊園地に行きたいと返された。
娘に会うのは半年ぶり。大きくなっただろうか。ランドセルを買ってやりたい。
離婚してから一年が経とうとしている。元嫁とは争うことも無く、円満の離婚だったと思う。すれ違いが重なった結果だった。憎んでも恨んでもいない。
慰謝料などは発生しなかったが、無論、養育費は毎月振り込んでいる。
互いの新天地が離れたために、なかなか会えていない。
空が白んできた。あと五時間で列が動き始める。その三十分前には母娘が到着する。
前日から水分は最低限に留めている。まだ尿意はない。
単独で行列を待ち続けるのはのは辛いと知り合いに聞いたが、案外余裕かもしれない。
まあ、グループで集う人は、交代で眠ったりしているようだ。開園後に備えてだろう。
悴む手を撫でながら、俺は前を見つめた。
『予定していた電車が事故で遅れそう!間に合うと思うけど、来なかったら先に入っていてください。』
元嫁から連絡が来たのは、待ち合わせ時刻の二十分前。
居眠りしていた人も戻ってきつつあるようで、行列は人々の話し声で賑わっている。承諾の返信をしてから、辺りを見回した。
瞬間、腹痛が襲ってきた。
「あ、あの・・・。」
俺は耐えきれず、後ろにいた若い女性に声を掛けた。白いワンピースで、凄く清楚だ。
「どうかしましたか?顔色が悪いですよ?」
「お腹がおかしくて・・・カバンを置いておくので、見ておいて貰っても良いですか?」
やっとの思いでそう伝えると、彼女は頷いた。
貴重品だけポケットに突っ込み、俺は駆け出す。幸い個室が空いており、直ぐに用を足す事が出来た。
数分後、列に戻ると置いておいたはずのカバンがなかった。
「えっ?」
慌てて彼女を見ると、屈託のない笑顔で話された。
「係員の方が持っていきましたよ。持ち主はいませんか?と聞かれましたので、列を抜けてました、と答えました。」
俺のこめかみに青筋が出来る。怒鳴りかけそうだ。
「だって、貴方はカバンを見ておいて貰っても良いですか?と言いましたでしょう?ですから私は目で追いましたよ。係員の方がカバンを持っていくまで。流石に、そこの角を曲がったら見えなくなったので辞めましたが・・・。」
俺はその場に立ち尽くした。
Game Over...
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