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01.最悪な日常
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※この作品はR18となっております。
「きりーつ」
「礼」
「ありがとうございました」
放課後のホームルーム挨拶。毎日の儀式のなかで僕は口のなかでもごもご言いながらお辞儀をした。授業が終わると、一気にがやがやした声であふれ各々がそれぞれの行動へと移っていく、ある人は部活動へ向かい、ある人はバイトへ向かい、ある人は荷物をまとめて自宅へ帰り、ある人は友達同士で遊びに行く。そんななかで僕はひとりこそこそと逃げるようにして教室の出口へ向かう。
見つからないうちに早く教室から出てしまいたい。
できるだけ体を小さく小さく丸める、あまりせかせかと早足になっても気づかれてしまうので、流れにそって、早すぎず、ゆっくりすぎず。心臓が妙に煩くて外に聞こえてしまうのではないかとはらはらする。目の下どころか顎近くにまでまで伸びた前髪と、さらに俯くことで顔を隠しながら教室の外へと向かう、気持ちが焦る。早く、早く、早く。
「一式!!なに勝手に帰ろうとしてんだよ。今日は俺らと遊ぶ日だろ?」
後ろから大きな声がかかって、わかりやすく僕の肩が震えた。なんでだよ、見逃してくれてもいいじゃないか。足を止めて恐る恐る振り返ると、にこやかに笑うひとりの姿。茶色く染めた髪、耳にはピアス、着崩した制服、わかりやすい不良。僕とは全く正反対の人。
この国元君が僕に話しかける理由なんて、会話を聞いたら十中八九誰だって分かるだろうに声をかけてくる人なんてない。後ろから似たような人達がぞろぞろついてくる、僕に声をかけたのはリーダー格である国元君、彼の右腕ともいえるひょろりと背の高く髪色をピンクに染めている毛羽君、大きな図体をした田場君は鼻にピアスをつけている。
「あの…ぼ、ぼくは…よ、ようじ、が、あって…その」
なんとか逃げ出せないかと、視線を彷徨わせながらぼそぼそと言葉を紡ぐ。
「いーからいーから、行こうぜ!!今日は歌いたい気分なんだよ!!」
気安く肩を組まれて身長差のある僕の体がよろける。何か言い訳を考えているうちに、そのまま引きずられるようにして学園の外に連れ出される、靴に履き替えるふりをして履かずに逃げ出してしまいたいが、毛羽君と田場君が見張るようにして僕を見ているし、逃げ出したところで鈍足な僕が彼らを振り切れるはずがない。もうすでに泣きそうになりながらも3人に連れ出される。
「でさー聞いてよ?千恵美先輩ってまじヤバいぜ?俺が好きって言っただけでヤらせてくれたの!しっかも自分から上に乗ってきてエロいのなんの。あの人絶対にオヤジとかに体売ってるよ。そう考えるとキモよな。エロいのはいいけど、ガバガバすぎてあんま気持ちよくねぇの。オマエらも言えばヤらせてくれるかもよ」
何が楽しいのかげらげらと大声で笑いながら、未だに僕の肩を抱いたまま歩く国元君。部活動に勤しむ生徒が多いせいなのか、通学路だというのに他にひと気がなく、ただ電柱が背景として流れていく。
「うぇー、だったらその時俺らも連れてってくださいよ」
「ははははっ、たしかに千恵美先輩なら4Pでもヤらせてくれるかもね。一式もどうせならドウテー卒業しとく?ガバガバであんまりかもしれないけど、ドウテーの一式なら丁度いいかもしんねぇよ?」
「え、やっ、ぼ、ぼくは…」
唐突に自分に話が振られておどおどする、僕だって男だしそういうことに興味がないわけじゃない。意図しているわけではないのに勝手に考えしまって、かああと顔が熱くなっていく。バカげたことだと思っているのに、言葉に上手くできない。
「何想像してんだよ?マジでキモいなオマエ」
突然冷たくなった言葉に体がヒヤリとする、国元君は上機嫌だと思えば突然機嫌が急降下する。そのスイッチはどこにあるのか分からないので、どうすればいいの分からない。
「気分を悪くさせたオマエは、俺のいうこと聞くべきだよな?」
「え、あ…、そ…」
「き・く・べ・き・だよな?」
もごもごと口ごもっていると、更に強い口調で言われてこくりと頷く。にやりと国元君の唇が弧を描く。
「よっし、一式。そこに自販機がある。何でもいいから炭酸3本とジュース1本買って来い」
逆らったら痛い思いをするのは十二分に分かっていたので僕はこくこくと頷く。するとするりと肩から手を離されて背中をおされる。このまま自販機になんて行かないで走って帰ってしまいたい。そう思ったことは何度もあるけれど、結局さっきと同じ答えに行き着く。なんで僕ばかりこんな目に合わなきゃいけないんだ。惨めな気持ちになりながらも言われたとおりに炭酸3本、ジュース1本買って3人のところに戻る。
「よしよし、いい子だな。一式」
猫なで声で言われて鳥肌がたつ。夏とはいえ長袖を着ていてよかった。本来ならば3人のように軽装になっているはずなのだけれど、僕の腕には彼らにつかまれた痣が残っているので、腕を出して歩くことができない。暑いけれど、見られるよりはましだ。国元君の機嫌は戻ったみたいで再び肩を抱かれる。こんなことをしなくても逃げたりなんてしないのに。
3人に連れられてやって来た場所は飲食持込OKのカラオケ店。歌いたい気分と言っていたのは本当なのだろう。4人で一部屋を借りてぞろぞろと中へと入る。
「さて、一式もお前らも好きなの頼んでいいよー」
どかりと椅子に座ってさっそく曲を入力しながら国元が言う、なんでも頼んでいいって…結局それは僕が全部出す羽目になるんじゃないか。僕の視線は下に向く、国元君らに連れ出される時には僕がすべてお金をもっている。本当はいやだ、自分のもっている貯金を切り崩してきているが、何時なくなってもおかしくない。でもなんだかんだで彼らは決して無茶な要求はしてこない、明日までに10万もって来いとか。そういう要求。ありがたいけれど、もういっそ10万をあげるから絡んでこないで欲しい。けどそんなことを言ったら金ばかり要求されそうで怖くていえない。
ひとり縮こまっていると田場君が立ち上がってあれこれと注文している、彼は体が大きな分、食欲があってやたらと食べる。僕の知らない曲が流れ出して国元君が歌い出す。それにあわせて毛羽君が合いの手を入れていく、僕といえばただ縮こまっているだけだ。こんこんとノックされて大音量の音楽がかかるなか店員さんが入って来て、テーブルの上に料理を並べていく。どれもカラオケ店でよくあるものばかりだが、こんなに大量にいらない。店員さんは彼らを見て、僕を見て、なにやら納得したように出て行った。いじめられているかもしれないという気持ちがあるのならどうして助けてくれないのだろう。
国元君は何曲か歌って、次に毛羽君にマイクを渡し僕の隣にどかりと座る。マイクを渡された毛羽君も意気揚々と歌い出した、上手ではない、下手でもない。田場君はそんなふたりに見向きもせずに、これでもかというほどに、がつがつとから揚げをむさぼっている。
「一式、お前も何か歌う?」
僕は首を横に振るう。
「ははははっ、まーお前って下手そうだしなぁ。だったら何か食えよ?」
「や…ぼくは、」
食欲などない、今日は殴られたりしないからそれでもういい。十分だ。もう置き物のように、空気のように扱って欲しい。
「へぇ…だったら、せめて飲めよ」
「え、な、にを?」
飲む、飲む、飲むとはいったいなんだ?注文した中には食べ物ばかりで飲み物は含まれていなかった。と僕が鞄の中に入れておいた炭酸を、とんとテーブルの上においた。炭酸飲料は苦手だ。てっきり3人が飲むものだと思っていたのに。僕は首を横に振るう。
「つっきありわりーなぁ?一式ぃ?カラオケ来たのに歌わない、だからといってメシも食おうとしない、だったらこれぐらい付き合えよ?」
プシュと音がしてペットボトルの蓋が開けられ、僕の目の前まで持ってこられる。
「…ぼ、く……炭酸は……苦手で、……、」
大人しく飲むべきだってことは分かってるけれど、炭酸を飲むと気持ち悪くなってしまうから飲みたくない。とたんに国元君の顔つきが変わる、そんな中でも田場君ががつがつとポテトを食べているし、毛羽君はポップな歌を唄っていた。ひっと悲鳴をあげたのも一瞬すぐに彼の平手が飛んできた。
「―っ、あ、」
がたがたと怯え始める僕の手首をぐっと握って体重をかけられる、そのままソファに押し倒される形になる。鳩尾に膝をおかれてうまく息ができない。
「俺が飲めって言うんだから、大人しく飲めよ」
そのまま口元に流し込まれる、ごぼごぼという音を立てて口の中に溢れてくるしゅわしゅわとはじける炭酸。飲み込みたくなくてそのまま口元からだばだばとあふれ出す。国元君は傾けていた空き缶を床に放り投げると、口の中に入っているままの僕の口を片手でおさえた、外に出すことも出来なくて飲み込むしかない。
「―っ」
ごくりと喉がなったのを確認して、国元君の手が離れる。息が苦しくてぜぃぜぃと息を吐く。
「あーあー半分以上捨ててんじゃねぇか。もったいねぇ。まだ2本あるしさ、気合いれて飲めよ?」
ぶんぶんと首を横に振るう。
「ね…がい、国元君…。僕…もう、のめな」
ぼろぼろと流れる涙、それほど摂取していないにもかかわらず、頭がぐわんぐわんする。首を振るうたびにぱさぱさと音がして髪の毛が揺れる。と、その前髪をぱらりと祓われる、あ。見られる。僕はとっさに両目を瞑った。とたんに飛んでくる平手。
「いっ、たい」
「勝手に寝るんじゃねぇよ。ひっひ。何度みても気持ちわりーなぁ、お前の目」
見られてる、僕の目。見られてる。自分の目が嫌いだ、このせいで何度も同じ目にあってきた。気持ち悪いと何度も言われた。
「ほら、まだ?残ってるだろ」
ぐっと口を結ぶも、国元君の指がその中へと割って入ってくる。気持ち悪い。彼はこんなことをしていて気持ち悪くないのだろうか、咬んだらまた殴られるかもしれない、飲みたくない、殴られたくない、痛いのはいやだ。涙がぼろぼろと溢れるのもそのままに、僕はゆっくりと口を開いた。
「いい子だなぁ?一式」
もう一本の炭酸をぷしゅっと開けて、僕の口に入り込んできた。
「きりーつ」
「礼」
「ありがとうございました」
放課後のホームルーム挨拶。毎日の儀式のなかで僕は口のなかでもごもご言いながらお辞儀をした。授業が終わると、一気にがやがやした声であふれ各々がそれぞれの行動へと移っていく、ある人は部活動へ向かい、ある人はバイトへ向かい、ある人は荷物をまとめて自宅へ帰り、ある人は友達同士で遊びに行く。そんななかで僕はひとりこそこそと逃げるようにして教室の出口へ向かう。
見つからないうちに早く教室から出てしまいたい。
できるだけ体を小さく小さく丸める、あまりせかせかと早足になっても気づかれてしまうので、流れにそって、早すぎず、ゆっくりすぎず。心臓が妙に煩くて外に聞こえてしまうのではないかとはらはらする。目の下どころか顎近くにまでまで伸びた前髪と、さらに俯くことで顔を隠しながら教室の外へと向かう、気持ちが焦る。早く、早く、早く。
「一式!!なに勝手に帰ろうとしてんだよ。今日は俺らと遊ぶ日だろ?」
後ろから大きな声がかかって、わかりやすく僕の肩が震えた。なんでだよ、見逃してくれてもいいじゃないか。足を止めて恐る恐る振り返ると、にこやかに笑うひとりの姿。茶色く染めた髪、耳にはピアス、着崩した制服、わかりやすい不良。僕とは全く正反対の人。
この国元君が僕に話しかける理由なんて、会話を聞いたら十中八九誰だって分かるだろうに声をかけてくる人なんてない。後ろから似たような人達がぞろぞろついてくる、僕に声をかけたのはリーダー格である国元君、彼の右腕ともいえるひょろりと背の高く髪色をピンクに染めている毛羽君、大きな図体をした田場君は鼻にピアスをつけている。
「あの…ぼ、ぼくは…よ、ようじ、が、あって…その」
なんとか逃げ出せないかと、視線を彷徨わせながらぼそぼそと言葉を紡ぐ。
「いーからいーから、行こうぜ!!今日は歌いたい気分なんだよ!!」
気安く肩を組まれて身長差のある僕の体がよろける。何か言い訳を考えているうちに、そのまま引きずられるようにして学園の外に連れ出される、靴に履き替えるふりをして履かずに逃げ出してしまいたいが、毛羽君と田場君が見張るようにして僕を見ているし、逃げ出したところで鈍足な僕が彼らを振り切れるはずがない。もうすでに泣きそうになりながらも3人に連れ出される。
「でさー聞いてよ?千恵美先輩ってまじヤバいぜ?俺が好きって言っただけでヤらせてくれたの!しっかも自分から上に乗ってきてエロいのなんの。あの人絶対にオヤジとかに体売ってるよ。そう考えるとキモよな。エロいのはいいけど、ガバガバすぎてあんま気持ちよくねぇの。オマエらも言えばヤらせてくれるかもよ」
何が楽しいのかげらげらと大声で笑いながら、未だに僕の肩を抱いたまま歩く国元君。部活動に勤しむ生徒が多いせいなのか、通学路だというのに他にひと気がなく、ただ電柱が背景として流れていく。
「うぇー、だったらその時俺らも連れてってくださいよ」
「ははははっ、たしかに千恵美先輩なら4Pでもヤらせてくれるかもね。一式もどうせならドウテー卒業しとく?ガバガバであんまりかもしれないけど、ドウテーの一式なら丁度いいかもしんねぇよ?」
「え、やっ、ぼ、ぼくは…」
唐突に自分に話が振られておどおどする、僕だって男だしそういうことに興味がないわけじゃない。意図しているわけではないのに勝手に考えしまって、かああと顔が熱くなっていく。バカげたことだと思っているのに、言葉に上手くできない。
「何想像してんだよ?マジでキモいなオマエ」
突然冷たくなった言葉に体がヒヤリとする、国元君は上機嫌だと思えば突然機嫌が急降下する。そのスイッチはどこにあるのか分からないので、どうすればいいの分からない。
「気分を悪くさせたオマエは、俺のいうこと聞くべきだよな?」
「え、あ…、そ…」
「き・く・べ・き・だよな?」
もごもごと口ごもっていると、更に強い口調で言われてこくりと頷く。にやりと国元君の唇が弧を描く。
「よっし、一式。そこに自販機がある。何でもいいから炭酸3本とジュース1本買って来い」
逆らったら痛い思いをするのは十二分に分かっていたので僕はこくこくと頷く。するとするりと肩から手を離されて背中をおされる。このまま自販機になんて行かないで走って帰ってしまいたい。そう思ったことは何度もあるけれど、結局さっきと同じ答えに行き着く。なんで僕ばかりこんな目に合わなきゃいけないんだ。惨めな気持ちになりながらも言われたとおりに炭酸3本、ジュース1本買って3人のところに戻る。
「よしよし、いい子だな。一式」
猫なで声で言われて鳥肌がたつ。夏とはいえ長袖を着ていてよかった。本来ならば3人のように軽装になっているはずなのだけれど、僕の腕には彼らにつかまれた痣が残っているので、腕を出して歩くことができない。暑いけれど、見られるよりはましだ。国元君の機嫌は戻ったみたいで再び肩を抱かれる。こんなことをしなくても逃げたりなんてしないのに。
3人に連れられてやって来た場所は飲食持込OKのカラオケ店。歌いたい気分と言っていたのは本当なのだろう。4人で一部屋を借りてぞろぞろと中へと入る。
「さて、一式もお前らも好きなの頼んでいいよー」
どかりと椅子に座ってさっそく曲を入力しながら国元が言う、なんでも頼んでいいって…結局それは僕が全部出す羽目になるんじゃないか。僕の視線は下に向く、国元君らに連れ出される時には僕がすべてお金をもっている。本当はいやだ、自分のもっている貯金を切り崩してきているが、何時なくなってもおかしくない。でもなんだかんだで彼らは決して無茶な要求はしてこない、明日までに10万もって来いとか。そういう要求。ありがたいけれど、もういっそ10万をあげるから絡んでこないで欲しい。けどそんなことを言ったら金ばかり要求されそうで怖くていえない。
ひとり縮こまっていると田場君が立ち上がってあれこれと注文している、彼は体が大きな分、食欲があってやたらと食べる。僕の知らない曲が流れ出して国元君が歌い出す。それにあわせて毛羽君が合いの手を入れていく、僕といえばただ縮こまっているだけだ。こんこんとノックされて大音量の音楽がかかるなか店員さんが入って来て、テーブルの上に料理を並べていく。どれもカラオケ店でよくあるものばかりだが、こんなに大量にいらない。店員さんは彼らを見て、僕を見て、なにやら納得したように出て行った。いじめられているかもしれないという気持ちがあるのならどうして助けてくれないのだろう。
国元君は何曲か歌って、次に毛羽君にマイクを渡し僕の隣にどかりと座る。マイクを渡された毛羽君も意気揚々と歌い出した、上手ではない、下手でもない。田場君はそんなふたりに見向きもせずに、これでもかというほどに、がつがつとから揚げをむさぼっている。
「一式、お前も何か歌う?」
僕は首を横に振るう。
「ははははっ、まーお前って下手そうだしなぁ。だったら何か食えよ?」
「や…ぼくは、」
食欲などない、今日は殴られたりしないからそれでもういい。十分だ。もう置き物のように、空気のように扱って欲しい。
「へぇ…だったら、せめて飲めよ」
「え、な、にを?」
飲む、飲む、飲むとはいったいなんだ?注文した中には食べ物ばかりで飲み物は含まれていなかった。と僕が鞄の中に入れておいた炭酸を、とんとテーブルの上においた。炭酸飲料は苦手だ。てっきり3人が飲むものだと思っていたのに。僕は首を横に振るう。
「つっきありわりーなぁ?一式ぃ?カラオケ来たのに歌わない、だからといってメシも食おうとしない、だったらこれぐらい付き合えよ?」
プシュと音がしてペットボトルの蓋が開けられ、僕の目の前まで持ってこられる。
「…ぼ、く……炭酸は……苦手で、……、」
大人しく飲むべきだってことは分かってるけれど、炭酸を飲むと気持ち悪くなってしまうから飲みたくない。とたんに国元君の顔つきが変わる、そんな中でも田場君ががつがつとポテトを食べているし、毛羽君はポップな歌を唄っていた。ひっと悲鳴をあげたのも一瞬すぐに彼の平手が飛んできた。
「―っ、あ、」
がたがたと怯え始める僕の手首をぐっと握って体重をかけられる、そのままソファに押し倒される形になる。鳩尾に膝をおかれてうまく息ができない。
「俺が飲めって言うんだから、大人しく飲めよ」
そのまま口元に流し込まれる、ごぼごぼという音を立てて口の中に溢れてくるしゅわしゅわとはじける炭酸。飲み込みたくなくてそのまま口元からだばだばとあふれ出す。国元君は傾けていた空き缶を床に放り投げると、口の中に入っているままの僕の口を片手でおさえた、外に出すことも出来なくて飲み込むしかない。
「―っ」
ごくりと喉がなったのを確認して、国元君の手が離れる。息が苦しくてぜぃぜぃと息を吐く。
「あーあー半分以上捨ててんじゃねぇか。もったいねぇ。まだ2本あるしさ、気合いれて飲めよ?」
ぶんぶんと首を横に振るう。
「ね…がい、国元君…。僕…もう、のめな」
ぼろぼろと流れる涙、それほど摂取していないにもかかわらず、頭がぐわんぐわんする。首を振るうたびにぱさぱさと音がして髪の毛が揺れる。と、その前髪をぱらりと祓われる、あ。見られる。僕はとっさに両目を瞑った。とたんに飛んでくる平手。
「いっ、たい」
「勝手に寝るんじゃねぇよ。ひっひ。何度みても気持ちわりーなぁ、お前の目」
見られてる、僕の目。見られてる。自分の目が嫌いだ、このせいで何度も同じ目にあってきた。気持ち悪いと何度も言われた。
「ほら、まだ?残ってるだろ」
ぐっと口を結ぶも、国元君の指がその中へと割って入ってくる。気持ち悪い。彼はこんなことをしていて気持ち悪くないのだろうか、咬んだらまた殴られるかもしれない、飲みたくない、殴られたくない、痛いのはいやだ。涙がぼろぼろと溢れるのもそのままに、僕はゆっくりと口を開いた。
「いい子だなぁ?一式」
もう一本の炭酸をぷしゅっと開けて、僕の口に入り込んできた。
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