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「レイへ仕事だ。原川幸生殺しを命じたやつを、捕まえさせてやる」
あの日から数日後、四ノ宮楓は涼しい顔をして、澪の前に現れてそう言った。
「その大元の犯人と料亭で飯食ってた分際で、よく言うぜ」
首筋に残った痕をがりがりかいて、レイは与えられたパソコンのモニターを眺めた。
写っている顔は、前にも調べた男だ。
枝野雄太郎。
原川幸生と四ノ宮の所有するビルで、マージンを受け取っていた男である。
その金はさらに尼川修造へと流れていただろうが、この事件を指示していたのは枝野雄太郎だ。
尼川修造が関わっているかどうかは、四ノ宮はわからないと言う。
談合相手だから庇ってんじゃないの?とか思うのだが、実際何の証拠もないのは事実だ。
「尼川修造と料亭?随分と人のことを調べているな」
「尼川修造調べてたら、あんたがいたのー」
細かいことは言うまい。
結局あの談合らしき会談の内容の裏付けもできていない。
カノに別の仕事をいくつも渡されたこともあって、結局調べず仕舞いだ。
四ノ宮に捕まったせいで、カノはあの部屋で行うことを逐一確認している。
調べる時は別の場所で行わなければならず、自分にとってそれは難しいことだった。
カメラのある場所でネットは使いたくない。もしものことを考えると、それが一番避けるべきことだからだ。
にも関わらず、今自分はこんなところにいる。
四ノ宮の持つホテルの一室で、椅子の上に体育座りをして、レイは設置されたパソコンでキーボードを叩いた。
格好はいつものレイのもの。
澪の携帯の番号は勝手に知られているので、連絡は電話で。
いつも通り夜中にベランダから抜け出して壁を越えると、ロッカーに常時置いてある服を取り出して、トイレで着替えた。
浅羽澪のカツラや服を再びロッカーに戻し、四ノ宮と約束した場所で待ち合わせをした。
浅羽澪の格好でレイの仕事はしないと断言し、四ノ宮はそれを受け入れたわけである。
リミットは朝の二時まで。
いつもならば、レイにあてがわれた部屋から出て、浅羽澪の部屋へと着替えてから戻る。
そのつもりなのだが。
「部屋は好きに使え。ケータリングも構わん。好きに注文しろ」
「こんな時間に物食べたりしないよ。好きに使うほどいないけど、俺」
「お子ちゃまが帰る時間は、シンデレラより長いようだな。お前の気にしている親の帰宅は今日はない。存分にやれ」
それをどう調べているのかは聞くまい。
親の帰宅は確かに気にしているが、気にすることは他にもある。
それを四ノ宮に言うことはできなかった。
二時になったら抜け出すだけか。そう考えつつ、与えられた資料を確認する。
この話に乗ったことを、カノやオキに知られたら大目玉だ。
ルール違反であり、今後自分の行為に協力を得られなくなるかもしれない。
大体、枝野雄太郎をはめられたとしても、四ノ宮にどんな利益が入るのか、こちらではわからなかった。それを調べながらできるだろうか。
四ノ宮はこのホテル、場所を提供してきている。
ここで失敗したとして非をみるのは四ノ宮だ。それを担保に自分が調べを行うわけだが。
どうせ簡単に揉み潰せるんだろ、と思うと、自分だけが貧乏くじを引くことになりそうだった。
だが、原川幸生を殺した犯人を捕まえたいと言う気持ちを、捨て去ることはできない。
それを四ノ宮は見抜いている。
関わるたび、嫌な男だと思わずにはいられない。
枝野雄太郎は、ごろつきを使って原川幸生を殺した可能性がある。
まず間違いなく、この男が指示したであろうわけだが、その徹底的証拠がなかった。
それを四ノ宮は調べ終えていたのだ。
ただし、その証拠が四ノ宮の元にはない。
それが嘘か本当か、事実はわからなかった。
ただ自分がわかるのは、原川幸生殺しを命じた枝野雄太郎を捕らえる機会をもらえたことである。
そう、もらえただ。
これで四ノ宮から一手、借りを作ることになった。
別に原川幸生が誰から殺されようがどうでもいいことだ。しかしやり返すはずの相手を失ってしまった手前、犯人を見つけることになった。
途中までの真実を知り犯人を捕らえたいと思う心を、四ノ宮は感じ取ったのか、枝野雄太郎を捕らえるために協力を得たいと言う。
正体もバレたわけで、四ノ宮のビルのセキュリティを突破したことを今更否定する気はないが、やはり四ノ宮の手の平で転がされることになった気がして、気分が悪いのは仕方がないだろう。
与えられた資料、主に原川幸生の入金履歴や銀行リスト、詐欺を行なった者たちと原川幸生の関連性がプリントされているものを渡されて、レイは眉根を寄せた。
ほとんど調べられているのに、原川幸生と枝野雄太郎の関わりを示すものが手元にない。
それを得たいわけだが。
枝野雄太郎をはめた場合、四ノ宮が得るものの方が気になって仕方ない。
「さっさとやらないのか?」
「気が散るし。後ろにいんのやめてくんない?」
「そんな殊勝な神経なのか?」
うるさいわ。
心の中で罵ってモニターに集中する。
原川幸生は慎重な性格だったらしい。
タブレットに暗号を、SDカードにはデータを残し、別々に保管していた時点でそれは想像つくが、それ以上に警戒心が強いようだ。
原川幸生の部屋から盗まれたパソコンは全てスクラップされ、データを抜き取ることは不可能だったようだが、原川幸生はとあるサーバーをレンタルし、そこに全ての情報を保険として保存していた。
レンタルサーバーなど調べればすぐに気付かれるわけだが、このサーバーの料金支払いは疎遠となっている親の物であり、その両親はサーバの存在を知らなかった。
銀行に親の口座を勝手に作り、それを使用していたわけだ。
だが、わざわざその両親の住む、田舎にある信用金庫の支店で口座を作っている。
こんなところまで調べる四ノ宮の部下もどうなんだ、と思いつつ、こいつはやはり敵にしたくないなと同時に思った。
何でも白日の下にさらされそうだ。
レンタルサーバーはいくつかのトラップが仕掛けられ、それを開くための技術が必要だった。
失敗すればそのサーバーに何か起きるか、こちらに何か起きるかわからない。
「できそうか」
「黙ってて」
四ノ宮の言葉をぞんざいに切り捨てて、レイはレンタルサーバーにアクセスした。
原川幸生がレンタルしたサーバーに入れば、通常通りパスワードを入力せよと提示が入る。
そのパスワードは不明だ。
無理に入り込み気付かれればどうなるか。まずはそこを調べることにする。
これは自分の領分だった。楽しいゲームに邪魔はされたくない。
持ってきたイヤホンを耳にやって外界を遮断し、そこへ入り込む。
慎重にけれど素早く、追跡を受ける前に小さな隙間をすり抜ける。
システムに入ればすぐに気付かれる。トレースされてこちらが攻撃を受けるだろう。それでも入り込めばシステムを失う。
データを消去される前にウィルスを撒き散らすと言う、捻くれたトラップが満載に仕掛けられている。
原川幸生は、警戒心とプライドだけは人並み以上に強い。
だからこそ想像できることもあった。
この程度で終わらすはずがない。
しつこく巡らされたトラップを避けても、次が迫ってくる。
深淵に飲み込まれるようだ。道があるようで全てが幻覚だ。
けれど甘い。自分には道が見えている。
「開いたよ」
「…早いな」
四ノ宮は感嘆してみせた。表情は変わらないがそこそこ驚いたようである。
それもどうでもいいと、レイはデータを見せてやった。
「枝野雄太郎の情報は音声で残してある。自分に何かあったらとか考えて保存してるわけじゃないね。こういうの集めるの趣味なんじゃない?音声データがやたらあるし。探せばあんたとのもあるかもね」
カテゴリーはわけられて、几帳面にラベル付きだ。
わかりやすく整理され、このサーバーが誰にも突破されないと過信しているようだった。
中のデータに何かを仕掛けていることはなさそうである。
だからこそか、これは閲覧専用だ。
閲覧できても複製できず移動できない。上書き保存と削除のみが可能だ。
それは伝えず、何を保存してあるのか軽く確認する。
莫大な量だ。
一人につきいくつものデータを保存してあるところみれば、この男も粘着質なのがわかった。
レイのデータもある。カメラの映像だ。これはさっさと削除する。
人の弱味を探すのが趣味な男なのだろうか。
四ノ宮の物もすぐに見つかったが、これはあとで見ることにしよう。
「証拠はあるか?」
「そうだね…。音声データと、取引の際の名簿の他に、…隠しカメラで録画する趣味があるようだから」
これは四ノ宮にとっても不利になるかもしれない。
場所が四ノ宮所有の、あの高級クラブである。
原川幸生と枝野雄太郎が会う場所がそこしかないのならば、それは当然である。だが、四ノ宮がこれを出したがるわけがなかった。
それに気になるのは、この映像を見る限り、相手がカメラ目線な時が度々ある。
「原川幸生は、眼鏡に録画機能をつけるのが好きみたいだな。話している間を録画してる。保険に撮ってるわけじゃないな、これ。他の人間にも隠しカメラで録画しているものばかり保存されているみたいだから、完全に趣味だろうね。そういうのが好きなんだ、この人」
一人でこれを見直しているのだろうか。ある種の性的嗜好かもしれない。
まるで自分以外の物を記録することが重要であるように、何もかもを集めている。
「日記を書くみたいなものだな。日付が繋がってるから、出来事を記録するみたいに保存してあるんだ」
「いい趣味だな」
呆れているのか、四ノ宮は少しだけ眉を上げた。
意外に嫌悪しているようだ。
お前にそんな心があるのかと、突っ込みたくなる。
音声データも似たような意味で録音しているようだった。日々の出来事をSNSに上げるようなものだろう。
これは孤独の表れではないだろうか。
これを保存するたびに自分が出来上がっていく、日々の記録。
カレンダーに登録された情報は、日付順にも名前順にもカテゴリー順にも変えられた。
人を脅す要素で保存していても、カレンダーに記録する必要はない。保存した日の情報は見られるのだから。
長い間これは行われている。始めたのは社会に出る前からのようだ。
「それで、録画以外に証拠となるものはあるか?」
やはりクラブの背景は必要ないと言ってくる。さすがに自分のビルの情報は出さないつもりだ。
しかし問題はそこではない。これをどうやって取り出すかである。
「ちょっと待って、もう少し調べる」
システムは複製と移動を伴わせていない。
それはこれがバックアップ用だからだ。パソコンであれば可能だっただろう。
だが、やはり元々脅す要素として保存しているわけではなさそうだった。そう言った類のものも勿論あるわけだが。
さてどうするか。
あの日から数日後、四ノ宮楓は涼しい顔をして、澪の前に現れてそう言った。
「その大元の犯人と料亭で飯食ってた分際で、よく言うぜ」
首筋に残った痕をがりがりかいて、レイは与えられたパソコンのモニターを眺めた。
写っている顔は、前にも調べた男だ。
枝野雄太郎。
原川幸生と四ノ宮の所有するビルで、マージンを受け取っていた男である。
その金はさらに尼川修造へと流れていただろうが、この事件を指示していたのは枝野雄太郎だ。
尼川修造が関わっているかどうかは、四ノ宮はわからないと言う。
談合相手だから庇ってんじゃないの?とか思うのだが、実際何の証拠もないのは事実だ。
「尼川修造と料亭?随分と人のことを調べているな」
「尼川修造調べてたら、あんたがいたのー」
細かいことは言うまい。
結局あの談合らしき会談の内容の裏付けもできていない。
カノに別の仕事をいくつも渡されたこともあって、結局調べず仕舞いだ。
四ノ宮に捕まったせいで、カノはあの部屋で行うことを逐一確認している。
調べる時は別の場所で行わなければならず、自分にとってそれは難しいことだった。
カメラのある場所でネットは使いたくない。もしものことを考えると、それが一番避けるべきことだからだ。
にも関わらず、今自分はこんなところにいる。
四ノ宮の持つホテルの一室で、椅子の上に体育座りをして、レイは設置されたパソコンでキーボードを叩いた。
格好はいつものレイのもの。
澪の携帯の番号は勝手に知られているので、連絡は電話で。
いつも通り夜中にベランダから抜け出して壁を越えると、ロッカーに常時置いてある服を取り出して、トイレで着替えた。
浅羽澪のカツラや服を再びロッカーに戻し、四ノ宮と約束した場所で待ち合わせをした。
浅羽澪の格好でレイの仕事はしないと断言し、四ノ宮はそれを受け入れたわけである。
リミットは朝の二時まで。
いつもならば、レイにあてがわれた部屋から出て、浅羽澪の部屋へと着替えてから戻る。
そのつもりなのだが。
「部屋は好きに使え。ケータリングも構わん。好きに注文しろ」
「こんな時間に物食べたりしないよ。好きに使うほどいないけど、俺」
「お子ちゃまが帰る時間は、シンデレラより長いようだな。お前の気にしている親の帰宅は今日はない。存分にやれ」
それをどう調べているのかは聞くまい。
親の帰宅は確かに気にしているが、気にすることは他にもある。
それを四ノ宮に言うことはできなかった。
二時になったら抜け出すだけか。そう考えつつ、与えられた資料を確認する。
この話に乗ったことを、カノやオキに知られたら大目玉だ。
ルール違反であり、今後自分の行為に協力を得られなくなるかもしれない。
大体、枝野雄太郎をはめられたとしても、四ノ宮にどんな利益が入るのか、こちらではわからなかった。それを調べながらできるだろうか。
四ノ宮はこのホテル、場所を提供してきている。
ここで失敗したとして非をみるのは四ノ宮だ。それを担保に自分が調べを行うわけだが。
どうせ簡単に揉み潰せるんだろ、と思うと、自分だけが貧乏くじを引くことになりそうだった。
だが、原川幸生を殺した犯人を捕まえたいと言う気持ちを、捨て去ることはできない。
それを四ノ宮は見抜いている。
関わるたび、嫌な男だと思わずにはいられない。
枝野雄太郎は、ごろつきを使って原川幸生を殺した可能性がある。
まず間違いなく、この男が指示したであろうわけだが、その徹底的証拠がなかった。
それを四ノ宮は調べ終えていたのだ。
ただし、その証拠が四ノ宮の元にはない。
それが嘘か本当か、事実はわからなかった。
ただ自分がわかるのは、原川幸生殺しを命じた枝野雄太郎を捕らえる機会をもらえたことである。
そう、もらえただ。
これで四ノ宮から一手、借りを作ることになった。
別に原川幸生が誰から殺されようがどうでもいいことだ。しかしやり返すはずの相手を失ってしまった手前、犯人を見つけることになった。
途中までの真実を知り犯人を捕らえたいと思う心を、四ノ宮は感じ取ったのか、枝野雄太郎を捕らえるために協力を得たいと言う。
正体もバレたわけで、四ノ宮のビルのセキュリティを突破したことを今更否定する気はないが、やはり四ノ宮の手の平で転がされることになった気がして、気分が悪いのは仕方がないだろう。
与えられた資料、主に原川幸生の入金履歴や銀行リスト、詐欺を行なった者たちと原川幸生の関連性がプリントされているものを渡されて、レイは眉根を寄せた。
ほとんど調べられているのに、原川幸生と枝野雄太郎の関わりを示すものが手元にない。
それを得たいわけだが。
枝野雄太郎をはめた場合、四ノ宮が得るものの方が気になって仕方ない。
「さっさとやらないのか?」
「気が散るし。後ろにいんのやめてくんない?」
「そんな殊勝な神経なのか?」
うるさいわ。
心の中で罵ってモニターに集中する。
原川幸生は慎重な性格だったらしい。
タブレットに暗号を、SDカードにはデータを残し、別々に保管していた時点でそれは想像つくが、それ以上に警戒心が強いようだ。
原川幸生の部屋から盗まれたパソコンは全てスクラップされ、データを抜き取ることは不可能だったようだが、原川幸生はとあるサーバーをレンタルし、そこに全ての情報を保険として保存していた。
レンタルサーバーなど調べればすぐに気付かれるわけだが、このサーバーの料金支払いは疎遠となっている親の物であり、その両親はサーバの存在を知らなかった。
銀行に親の口座を勝手に作り、それを使用していたわけだ。
だが、わざわざその両親の住む、田舎にある信用金庫の支店で口座を作っている。
こんなところまで調べる四ノ宮の部下もどうなんだ、と思いつつ、こいつはやはり敵にしたくないなと同時に思った。
何でも白日の下にさらされそうだ。
レンタルサーバーはいくつかのトラップが仕掛けられ、それを開くための技術が必要だった。
失敗すればそのサーバーに何か起きるか、こちらに何か起きるかわからない。
「できそうか」
「黙ってて」
四ノ宮の言葉をぞんざいに切り捨てて、レイはレンタルサーバーにアクセスした。
原川幸生がレンタルしたサーバーに入れば、通常通りパスワードを入力せよと提示が入る。
そのパスワードは不明だ。
無理に入り込み気付かれればどうなるか。まずはそこを調べることにする。
これは自分の領分だった。楽しいゲームに邪魔はされたくない。
持ってきたイヤホンを耳にやって外界を遮断し、そこへ入り込む。
慎重にけれど素早く、追跡を受ける前に小さな隙間をすり抜ける。
システムに入ればすぐに気付かれる。トレースされてこちらが攻撃を受けるだろう。それでも入り込めばシステムを失う。
データを消去される前にウィルスを撒き散らすと言う、捻くれたトラップが満載に仕掛けられている。
原川幸生は、警戒心とプライドだけは人並み以上に強い。
だからこそ想像できることもあった。
この程度で終わらすはずがない。
しつこく巡らされたトラップを避けても、次が迫ってくる。
深淵に飲み込まれるようだ。道があるようで全てが幻覚だ。
けれど甘い。自分には道が見えている。
「開いたよ」
「…早いな」
四ノ宮は感嘆してみせた。表情は変わらないがそこそこ驚いたようである。
それもどうでもいいと、レイはデータを見せてやった。
「枝野雄太郎の情報は音声で残してある。自分に何かあったらとか考えて保存してるわけじゃないね。こういうの集めるの趣味なんじゃない?音声データがやたらあるし。探せばあんたとのもあるかもね」
カテゴリーはわけられて、几帳面にラベル付きだ。
わかりやすく整理され、このサーバーが誰にも突破されないと過信しているようだった。
中のデータに何かを仕掛けていることはなさそうである。
だからこそか、これは閲覧専用だ。
閲覧できても複製できず移動できない。上書き保存と削除のみが可能だ。
それは伝えず、何を保存してあるのか軽く確認する。
莫大な量だ。
一人につきいくつものデータを保存してあるところみれば、この男も粘着質なのがわかった。
レイのデータもある。カメラの映像だ。これはさっさと削除する。
人の弱味を探すのが趣味な男なのだろうか。
四ノ宮の物もすぐに見つかったが、これはあとで見ることにしよう。
「証拠はあるか?」
「そうだね…。音声データと、取引の際の名簿の他に、…隠しカメラで録画する趣味があるようだから」
これは四ノ宮にとっても不利になるかもしれない。
場所が四ノ宮所有の、あの高級クラブである。
原川幸生と枝野雄太郎が会う場所がそこしかないのならば、それは当然である。だが、四ノ宮がこれを出したがるわけがなかった。
それに気になるのは、この映像を見る限り、相手がカメラ目線な時が度々ある。
「原川幸生は、眼鏡に録画機能をつけるのが好きみたいだな。話している間を録画してる。保険に撮ってるわけじゃないな、これ。他の人間にも隠しカメラで録画しているものばかり保存されているみたいだから、完全に趣味だろうね。そういうのが好きなんだ、この人」
一人でこれを見直しているのだろうか。ある種の性的嗜好かもしれない。
まるで自分以外の物を記録することが重要であるように、何もかもを集めている。
「日記を書くみたいなものだな。日付が繋がってるから、出来事を記録するみたいに保存してあるんだ」
「いい趣味だな」
呆れているのか、四ノ宮は少しだけ眉を上げた。
意外に嫌悪しているようだ。
お前にそんな心があるのかと、突っ込みたくなる。
音声データも似たような意味で録音しているようだった。日々の出来事をSNSに上げるようなものだろう。
これは孤独の表れではないだろうか。
これを保存するたびに自分が出来上がっていく、日々の記録。
カレンダーに登録された情報は、日付順にも名前順にもカテゴリー順にも変えられた。
人を脅す要素で保存していても、カレンダーに記録する必要はない。保存した日の情報は見られるのだから。
長い間これは行われている。始めたのは社会に出る前からのようだ。
「それで、録画以外に証拠となるものはあるか?」
やはりクラブの背景は必要ないと言ってくる。さすがに自分のビルの情報は出さないつもりだ。
しかし問題はそこではない。これをどうやって取り出すかである。
「ちょっと待って、もう少し調べる」
システムは複製と移動を伴わせていない。
それはこれがバックアップ用だからだ。パソコンであれば可能だっただろう。
だが、やはり元々脅す要素として保存しているわけではなさそうだった。そう言った類のものも勿論あるわけだが。
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