悪役令嬢の私が姫に転生した件  ――それはいいのですが、なぜ魔王城に幽閉から始まるのですか?

しばたろう

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08 仕組まれた邂逅

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 その日、魔王城に、緊張が走った。

「またしても、勇者が近づいてきております。
 現在、カレディアの街の付近――」

 玉座の間に響く、伝令の声。
 私は、その地名を聞いた瞬間、思わず眉をひそめた。

「カレディア……。
 王都から、もうそこまで?」

 距離を考えれば、早すぎる。
 前回、こちらが“親切にも”スタート地点まで強制送還してあげたはずなのに。

「前より、ペースが上がっていないか?」

 隣で腕を組むヴァルディスが、低く言う。

「ええ。
 おそらく……前回の件で、よほど国王にお灸を据えられたのでしょうね」

 脳裏に浮かぶのは、私の父――国王が、
 玉座の前で勇者を正座させ、延々と説教している光景。

「……ふむ。
 ならば、こちらも何か手を打っておいた方が良さそうだな?」

 ヴァルディスの問いに、場の視線が集まる。

「私が、何か策を――」

 真っ先に手を挙げたのは、参謀セリスだった。
 忠義に厚く、行動も早い。実に優秀な参謀である。

 だが――

「いいえ。
 “策”なら、すでにございます」

 私は、即答した。

「はやっ」

 セリスが、素で絶句する。

「ほう……?」

 ヴァルディスの口元が、わずかに吊り上がった。

「おもしろい。
 我が姫エリシアよ。そなたの策とやら、聞かせてもらおう」

 ……やはり。
 こういうのは得意だ。いや、大好きだ。
 生前、
 私が“悪役令嬢”と呼ばれていた所以は、きっと、こういうところなのだろう。

「はい。
 まず、今回も――セリス卿に、ご協力いただきたいと思います」

 私は、にこやかに微笑み、セリスへと視線を向けた。

「――っ」

 セリスの顔が、みるみる引きつる。

 嫌な予感がしたのだろう。
 彼女は反射的に両手で身体を覆い、一歩、後ずさった。

 ……ええ、セリス卿。
 その予感、残念ながら――

「敵中、です」

 私は、心の中でそう告げながら、静かに言葉を続けた。



 ――俺は、勇者クラウス。

 祖国アウレリアの期待と重圧を、その身に背負う男だ。

 今、俺は魔王城へと向かっている。
 目的は、ただ一つ。

 魔王に囚われた、第三王女――
 エリシア様を、必ず救い出すこと。

 前回、俺は奴らの姑息な罠にかかった。
 油断し、慢心し、結果として――屈辱的にも、元の地点へと送り返された。

 だが、もう二度と同じ過ちは繰り返さない。

 俺は昼夜を問わず走り続けてきた。
 休息は最低限、立ち止まることもほとんどなかった。

 そして――
 もうすぐ、カレディアの街に着く。

 空を見上げれば、太陽はすでに傾き始めている。
 日が落ちる前に、街へ入らなければ。

「……先を急ごう」

 そう呟いた、そのときだった。

「きゃあっ!」

 女性の悲鳴。

 近い――すぐそこだ。

「なにごとか!」

 俺は反射的に声を上げ、音のした方へと駆け出した。

 路地の先。
 そこにいたのは、ひとりの神官の女性と――
 いかにも賊といった風体の男たち、数名。

 女性は、賊の一人に腕をつかまれていた。

「はなしてください……!
 はなしてください……!」

 泣きながら、必死に抵抗している。

「威勢のいい女だな」
「へへ……さあ、こっちへ来い」

 賊たちは下卑た笑みを浮かべ、じりじりと距離を詰める。

 ――許せるはずがない。

「やめろ!」

 俺は咄嗟に剣を抜き、賊たちの前に立ちはだかった。

「なんだ、邪魔するな!」

 男たちが刃を構え、歯向かってくる。

 だが――

 数合、剣を交えただけで、勝敗は明らかだった。
 一太刀、地面を裂いた。賊の顔色が変わった

「……くそっ、こいつ、強いぞ!」
「かなわねえ、逃げろ!」

 賊たちは叫びながら、散り散りに逃げ去っていった。

 静寂が戻る。

 地面に崩れ落ちていた神官の女性が、ゆっくりと顔を上げた。

「……助けていただき、ありがとうございます」

 涙に濡れた瞳で、そう言って俺を見る。

 夕暮れの光が、彼女のその美しい横顔をやさしく照らしていた。
 乱れた髪、震える肩、それでも必死に礼を述べる、その姿。

 ……

 …………

 ――好きだ。
 


 俺は身分を明かした。

「まあ……勇者様だなんて。
 お礼をさせてください」

 セリスと名乗った神官の女性は、そう言って微笑んだ。

 カレディアの街の食堂で、
 俺とセリスは向かい合い、食事を共にしている。

「神の導きに従い、一人旅をしているのです。
 突然、男たちに絡まれてしまって……」

「セリス殿のような美しい方なら、そういうこともあるでしょう」

「まあ、勇者様はお上手ですね」

 くすりと笑う。
 笑顔も、かわいい。

 食事が終わるころ。

「勇者様は、これからどちらへ?」

「まっすぐ、魔王城を目指している」

「まあ、奇遇。私と方向が同じです」

 一拍置いて、上目遣いで。

「もし……勇者様がよろしければ、
 途中まで、旅をご一緒させていただけませんか?」

「いいですとも!」

 気づけば、俺は、かぶせ気味に答えていた。
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