悪役令嬢の私が姫に転生した件  ――それはいいのですが、なぜ魔王城に幽閉から始まるのですか?

しばたろう

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09 勇者の恋

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 その夜、俺とセリスは同じ宿に泊まった。
 ――もちろん、部屋は別々だ。俺はそんな無粋な男ではない。

 翌朝、ともに街を後にする。
 朝日が、並び歩くセリスの横顔を照らし、きらきらと輝いて見えた。

 彼女が一緒では、今までのように駆けるわけにはいかない。
 歩調を合わせ、たわいもない話を交わす。

「ええ、クラウス。そんな罠に引っかかってしまったの?
 私がいれば、見破ってあげられたのに」

 軽口を叩くようにもなった。



 夜。
 近くに街がなく、森で野宿することになる。

 火を焚き、セリスがスープを作ってくれた。

「はい、どうぞ。熱いから気をつけてね」

「ありがとう。……ふーふー。うん、うまい」

「そう? お口に合ってよかった」

 うふっと笑う。

 ……これは、まるで恋人か、夫婦のようではなかろうか。
 なかろうか!!
 
 毛布にくるまり、俺の肩にもたれかかるセリス。
 やがて、静かな寝息を立て始める。

 焚き火の光が、その横顔を照らす。

 こんな旅がずっと続けばいいのに――
 そんなことを、ふと思った。



 翌日、隣の村に到着した。
 ちょうど、祭りが開かれている。

「ちょっと、見て回らない?」

 はしゃぐセリス。
 まあ、いいだろう。

 アクセサリーの露店で、セリスが立ち止まる。
 青い水晶の首飾りが、どうやら気に入ったらしい。

「旦那。彼女さんに、プレゼントどうかね?」

「か、彼女!?」

 慌てて否定しかけた俺に、
 セリスは首飾りを胸元に当て、にこりと笑う。

「……似合うかな?」

「買います」

 即答だった。

 そのとき、花火が打ち上がった。

「きれい……」

「ねえ、あっちから、よく見えそう。行ってみましょう」

 手を引かれ、足を速める。

 ――俺は、いま、セリスと手をつないでいる。
 手を……つないでいる、だと!?

 小高い丘の上。
 人影はない。花火が、よく見える。

 手をつないだまま、空を見上げる。

 心臓の鼓動が、やけにうるさい。

 俺は、この気持ちを伝えたい。

「セリス。俺は――」

 その瞬間だった。

 セリスの手が、俺の手から引きはがされる。

 見れば――

 武装した大男が、
 セリスを抱え、そこに立っていた。
 男の頭には角。
 魔族!

「はなして! クラウス、助けて!」

 咄嗟に剣を構える。

 俺のセリスを返せ!

 魔族の男が、嗤う。

「この娘が、ただの神官だと思っていたか。
 この娘は、我が預かる。
 取り戻したければ――“最果ての塔”まで来るがよい」

「クラウス――!」

 その叫びと同時に、まばゆい光。

 気づけば、大男もろとも、セリスの姿は消えていた。

「……転移魔法か!」

 地面に落ちていたのは、
 先ほど買ってやった、水晶の首飾り。

 俺はそれを拾い上げ、強く握りしめる。
 掌の中で、青が冷たく光った。
 
 それだけが――
 彼女が、確かにここにいた証のようだった。

「待っていろ、セリス。
 すぐに助けに行く!!」

 そう叫び、俺は駆けだした。
 


 魔王城。

「最果ての塔は遠い。
 半年はかかるだろう。しかも、魔王城とは正反対の地だ」

 玉座に深く腰掛けたヴァルディスが、満足そうに腕を組む。

「これで、だいぶ勇者の足を遅らせることができる。
 今回の策も、実に見事であったな。エリシアよ」

 その声には、隠しきれない喜色が滲んでいた。

「ありがとうございます」

 私は軽く一礼し、口元に笑みを浮かべる。

「やはり、私の読み通りでした。
 勇者は――むっつりなうえに、ちょろいです」

「はっはっは!」

 ヴァルディスは大きく笑った。

「否定できぬな。
 正義感が強く、恋に不慣れ。扱いやすいこと、この上ない」

 そして、視線を横に向ける。

「そして、セリス!
 よくぞ勇者を策にはめてくれた。
 お前の功績は、まことに大きいぞ!」

「は、はい……ありがとうございます、魔王様……」

 そう答えたセリスは、頭を下げながらも、どこか歯切れが悪かった。
 称賛されているはずなのに、表情が晴れない。

「……どうした、セリス?」

 怪訝に思ったヴァルディスが、問いかける。

「いえ……その……」

 セリスは指先をもじもじと絡めながら、視線を泳がせた。

「あの勇者……
 思っていたほど、悪いやつではなかったな、と……」

 一瞬、玉座の間に沈黙が落ちる。

「と、いいますか……
 すこし、良心が痛むと申しますか……」

 消え入りそうな声だった。

 それを聞いて、私は思わず、まじまじとセリスを見つめる。

(……あら)

 魔族であり、参謀であり、冷静沈着。
 そういう存在だと思っていたのに。

(魔族なのに、人間の私より人間らしい……
 いえ、それどころか――)

 私は、内心で小さく頷いた。

(意外と、乙女なのでは?)

 私は、口元の笑みを深める。

(ふふ……これは、少し作戦の方向性を変えたほうが良いかも。)
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