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09 勇者の恋
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その夜、俺とセリスは同じ宿に泊まった。
――もちろん、部屋は別々だ。俺はそんな無粋な男ではない。
翌朝、ともに街を後にする。
朝日が、並び歩くセリスの横顔を照らし、きらきらと輝いて見えた。
彼女が一緒では、今までのように駆けるわけにはいかない。
歩調を合わせ、たわいもない話を交わす。
「ええ、クラウス。そんな罠に引っかかってしまったの?
私がいれば、見破ってあげられたのに」
軽口を叩くようにもなった。
◇
夜。
近くに街がなく、森で野宿することになる。
火を焚き、セリスがスープを作ってくれた。
「はい、どうぞ。熱いから気をつけてね」
「ありがとう。……ふーふー。うん、うまい」
「そう? お口に合ってよかった」
うふっと笑う。
……これは、まるで恋人か、夫婦のようではなかろうか。
なかろうか!!
毛布にくるまり、俺の肩にもたれかかるセリス。
やがて、静かな寝息を立て始める。
焚き火の光が、その横顔を照らす。
こんな旅がずっと続けばいいのに――
そんなことを、ふと思った。
◇
翌日、隣の村に到着した。
ちょうど、祭りが開かれている。
「ちょっと、見て回らない?」
はしゃぐセリス。
まあ、いいだろう。
アクセサリーの露店で、セリスが立ち止まる。
青い水晶の首飾りが、どうやら気に入ったらしい。
「旦那。彼女さんに、プレゼントどうかね?」
「か、彼女!?」
慌てて否定しかけた俺に、
セリスは首飾りを胸元に当て、にこりと笑う。
「……似合うかな?」
「買います」
即答だった。
そのとき、花火が打ち上がった。
「きれい……」
「ねえ、あっちから、よく見えそう。行ってみましょう」
手を引かれ、足を速める。
――俺は、いま、セリスと手をつないでいる。
手を……つないでいる、だと!?
小高い丘の上。
人影はない。花火が、よく見える。
手をつないだまま、空を見上げる。
心臓の鼓動が、やけにうるさい。
俺は、この気持ちを伝えたい。
「セリス。俺は――」
その瞬間だった。
セリスの手が、俺の手から引きはがされる。
見れば――
武装した大男が、
セリスを抱え、そこに立っていた。
男の頭には角。
魔族!
「はなして! クラウス、助けて!」
咄嗟に剣を構える。
俺のセリスを返せ!
魔族の男が、嗤う。
「この娘が、ただの神官だと思っていたか。
この娘は、我が預かる。
取り戻したければ――“最果ての塔”まで来るがよい」
「クラウス――!」
その叫びと同時に、まばゆい光。
気づけば、大男もろとも、セリスの姿は消えていた。
「……転移魔法か!」
地面に落ちていたのは、
先ほど買ってやった、水晶の首飾り。
俺はそれを拾い上げ、強く握りしめる。
掌の中で、青が冷たく光った。
それだけが――
彼女が、確かにここにいた証のようだった。
「待っていろ、セリス。
すぐに助けに行く!!」
そう叫び、俺は駆けだした。
◇
魔王城。
「最果ての塔は遠い。
半年はかかるだろう。しかも、魔王城とは正反対の地だ」
玉座に深く腰掛けたヴァルディスが、満足そうに腕を組む。
「これで、だいぶ勇者の足を遅らせることができる。
今回の策も、実に見事であったな。エリシアよ」
その声には、隠しきれない喜色が滲んでいた。
「ありがとうございます」
私は軽く一礼し、口元に笑みを浮かべる。
「やはり、私の読み通りでした。
勇者は――むっつりなうえに、ちょろいです」
「はっはっは!」
ヴァルディスは大きく笑った。
「否定できぬな。
正義感が強く、恋に不慣れ。扱いやすいこと、この上ない」
そして、視線を横に向ける。
「そして、セリス!
よくぞ勇者を策にはめてくれた。
お前の功績は、まことに大きいぞ!」
「は、はい……ありがとうございます、魔王様……」
そう答えたセリスは、頭を下げながらも、どこか歯切れが悪かった。
称賛されているはずなのに、表情が晴れない。
「……どうした、セリス?」
怪訝に思ったヴァルディスが、問いかける。
「いえ……その……」
セリスは指先をもじもじと絡めながら、視線を泳がせた。
「あの勇者……
思っていたほど、悪いやつではなかったな、と……」
一瞬、玉座の間に沈黙が落ちる。
「と、いいますか……
すこし、良心が痛むと申しますか……」
消え入りそうな声だった。
それを聞いて、私は思わず、まじまじとセリスを見つめる。
(……あら)
魔族であり、参謀であり、冷静沈着。
そういう存在だと思っていたのに。
(魔族なのに、人間の私より人間らしい……
いえ、それどころか――)
私は、内心で小さく頷いた。
(意外と、乙女なのでは?)
私は、口元の笑みを深める。
(ふふ……これは、少し作戦の方向性を変えたほうが良いかも。)
――もちろん、部屋は別々だ。俺はそんな無粋な男ではない。
翌朝、ともに街を後にする。
朝日が、並び歩くセリスの横顔を照らし、きらきらと輝いて見えた。
彼女が一緒では、今までのように駆けるわけにはいかない。
歩調を合わせ、たわいもない話を交わす。
「ええ、クラウス。そんな罠に引っかかってしまったの?
私がいれば、見破ってあげられたのに」
軽口を叩くようにもなった。
◇
夜。
近くに街がなく、森で野宿することになる。
火を焚き、セリスがスープを作ってくれた。
「はい、どうぞ。熱いから気をつけてね」
「ありがとう。……ふーふー。うん、うまい」
「そう? お口に合ってよかった」
うふっと笑う。
……これは、まるで恋人か、夫婦のようではなかろうか。
なかろうか!!
毛布にくるまり、俺の肩にもたれかかるセリス。
やがて、静かな寝息を立て始める。
焚き火の光が、その横顔を照らす。
こんな旅がずっと続けばいいのに――
そんなことを、ふと思った。
◇
翌日、隣の村に到着した。
ちょうど、祭りが開かれている。
「ちょっと、見て回らない?」
はしゃぐセリス。
まあ、いいだろう。
アクセサリーの露店で、セリスが立ち止まる。
青い水晶の首飾りが、どうやら気に入ったらしい。
「旦那。彼女さんに、プレゼントどうかね?」
「か、彼女!?」
慌てて否定しかけた俺に、
セリスは首飾りを胸元に当て、にこりと笑う。
「……似合うかな?」
「買います」
即答だった。
そのとき、花火が打ち上がった。
「きれい……」
「ねえ、あっちから、よく見えそう。行ってみましょう」
手を引かれ、足を速める。
――俺は、いま、セリスと手をつないでいる。
手を……つないでいる、だと!?
小高い丘の上。
人影はない。花火が、よく見える。
手をつないだまま、空を見上げる。
心臓の鼓動が、やけにうるさい。
俺は、この気持ちを伝えたい。
「セリス。俺は――」
その瞬間だった。
セリスの手が、俺の手から引きはがされる。
見れば――
武装した大男が、
セリスを抱え、そこに立っていた。
男の頭には角。
魔族!
「はなして! クラウス、助けて!」
咄嗟に剣を構える。
俺のセリスを返せ!
魔族の男が、嗤う。
「この娘が、ただの神官だと思っていたか。
この娘は、我が預かる。
取り戻したければ――“最果ての塔”まで来るがよい」
「クラウス――!」
その叫びと同時に、まばゆい光。
気づけば、大男もろとも、セリスの姿は消えていた。
「……転移魔法か!」
地面に落ちていたのは、
先ほど買ってやった、水晶の首飾り。
俺はそれを拾い上げ、強く握りしめる。
掌の中で、青が冷たく光った。
それだけが――
彼女が、確かにここにいた証のようだった。
「待っていろ、セリス。
すぐに助けに行く!!」
そう叫び、俺は駆けだした。
◇
魔王城。
「最果ての塔は遠い。
半年はかかるだろう。しかも、魔王城とは正反対の地だ」
玉座に深く腰掛けたヴァルディスが、満足そうに腕を組む。
「これで、だいぶ勇者の足を遅らせることができる。
今回の策も、実に見事であったな。エリシアよ」
その声には、隠しきれない喜色が滲んでいた。
「ありがとうございます」
私は軽く一礼し、口元に笑みを浮かべる。
「やはり、私の読み通りでした。
勇者は――むっつりなうえに、ちょろいです」
「はっはっは!」
ヴァルディスは大きく笑った。
「否定できぬな。
正義感が強く、恋に不慣れ。扱いやすいこと、この上ない」
そして、視線を横に向ける。
「そして、セリス!
よくぞ勇者を策にはめてくれた。
お前の功績は、まことに大きいぞ!」
「は、はい……ありがとうございます、魔王様……」
そう答えたセリスは、頭を下げながらも、どこか歯切れが悪かった。
称賛されているはずなのに、表情が晴れない。
「……どうした、セリス?」
怪訝に思ったヴァルディスが、問いかける。
「いえ……その……」
セリスは指先をもじもじと絡めながら、視線を泳がせた。
「あの勇者……
思っていたほど、悪いやつではなかったな、と……」
一瞬、玉座の間に沈黙が落ちる。
「と、いいますか……
すこし、良心が痛むと申しますか……」
消え入りそうな声だった。
それを聞いて、私は思わず、まじまじとセリスを見つめる。
(……あら)
魔族であり、参謀であり、冷静沈着。
そういう存在だと思っていたのに。
(魔族なのに、人間の私より人間らしい……
いえ、それどころか――)
私は、内心で小さく頷いた。
(意外と、乙女なのでは?)
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(ふふ……これは、少し作戦の方向性を変えたほうが良いかも。)
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