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31_医療革命2
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ある日、
アウレリア国王は、密かに四人の腹心を呼び出した。
理由は、ただ一言。
「見せたいものがある」
それは、命令ではなく、要請だった。
呼ばれたのは――
宰相
アルベルト・フォン=ライゼン
財務卿
マルクス・ヴェルナー
王国軍総司令官
ローデリヒ・シュタインハルト
宮廷医長/王立学府総監
エドガー・ルーメン
いずれも、国王が絶対の信頼を置く人物たちである。
◇
一行は、平服に身を包み、
人目を避けるようにして王都ルクシオンの一角へ向かった。
案内されたのは、
貴族街からわずかに外れた、静かな通りに建つ一軒の屋敷。
外見は、いたって普通。
だが――
門をくぐった瞬間、
空気が、わずかに違うことに誰もが気づいた。
整然としている。
それは、貴族の屋敷とも、軍の施設とも違う静けさだった。
「……ここは?」
王国軍総司令官ローデリヒが、眉をひそめる。
「聞かぬ名だな」
それに応えたのは、
宮廷医長エドガーだった。
「ここは、最近設立された施設ですな」
「名を――『アウレリア医療院』と申します」
「医療院?」
「ええ。なんでも、治癒魔法に頼らず、病を治す場所だとか」
一同の視線が、国王に集まる。
国王は、静かにうなずいた。
「そのとおりだ」
「ここからは――」
「我が娘、エリシアに案内させよう」
◇
屋敷の中庭に進むと、
そこに、白衣に身を包んだ一人の少女が立っていた。
「アルベルト卿、マルクス卿、ローデリヒ卿、エドガー卿」
澄んだ声で名を呼ぶ。
「……おお、姫君」
エリシア・フォン・アウレリア。
魔王のもとから“救い出された”王女。
その記憶は、四人の脳裏にも新しい。
その彼女が、
このような場所で彼らを迎えている――
それ自体が、すでに異例だった。
「この施設について、ぜひ知っていただきたいのです」
「案内しながら、説明しますね」
◇
一行は、エリシアの先導で施設内を歩く。
まず、目に入ったのは――
整然と並ぶベッド。
そこには、貴族ではない民間人が横たわっていた。
農民、職人、行商人――
その間を、
白い衣を着た女性たちが、忙しなく行き来している。
「病気や怪我をしたとき、通常は治癒魔法で治療しますよね」
歩きながら、エリシアが語る。
「でも、それを受けられるのは、ごく一部の人だけです」
「治癒魔法を使えるのは、長い修行を積んだ僧侶や神官、魔法使いだけですから」
四人は黙って聞いている。
「それでは、多くの人を救えません」
「だから、ここは――治癒魔法を使わずに、病気を治す場所なのです」
施設は、驚くほど清潔だった。
床には埃一つなく、
空気も澱んでいない。
「病気を治すために大切なのは」
「清潔な場所、きれいな水、そして十分な食事です」
エリシアは、はっきりと言い切った。
「それだけを整えるだけで」
「この医療院では、すでに多くの命が救われています」
「……なるほど」
エドガー・ルーメンが、低く唸る。
「経験的に、そうではないかとは思っていましたが」
「ここまで徹底し、体系として実行しているとは……」
財務卿マルクスが、すぐに別の角度から口を開く。
「もしそれが事実なら」
「病気治療にかかる多額の費用が、大きく削減できるな」
◇
一行は、水場の前で足を止めた。
女性スタッフ――
エリシアが「看護師」と呼ぶ者たちが、
手を洗っている。
白い塊を手に取り、
こすり合わせると、白い泡が立つ。
「石鹸です」
「洗濯に使われるものなので、ご存じの方も多いでしょう」
「これで、手や体の汚れを落とします」
「それだけで、多くの病気を防げるのです」
誰も、すぐには言葉を発せなかった。
◇
巡回を終え、
一同は応接室へ通された。
「……実に、珍しいものを見せていただきました」
エドガーが、率直に言う。
「これが本当であれば」
「確かに、病で命を落とす民は、減るでしょう」
「すなわち」
宰相アルベルトが、短く結論を出す。
「国力の増強につながる」
そして、鋭く問いを投げた。
「だが――」
「この医療院に、我々を案内した理由は?」
その瞬間、
エリシアの瞳が、強く光った。
「はい」
「この施設を作ったのは」
「商人のヴァルスという人物です」
「……あの男か」
ローデリヒが低く呟く。
「ゼオグリフの英雄とも呼ばれていたな」
「眠りの森に道を通した男だ」
マルクスも続ける。
「学校も作っていたはずだ」
エドガーが頷く。
「その通りです」
エリシアは、まっすぐ四人を見据えた。
「彼は、アウレリアのために力を尽くしています」
「それが、自身と王国が共に発展する道だと、信じているのです」
「エリシア王女」
宰相が、慎重に言葉を選ぶ。
「功績は理解している」
「だが……その言い方」
「少々、含みがあるように聞こえる」
「つまり?」
◇
その先は――
国王が引き取った。
「実は、私は商人ヴァルスと」
「内密に、何度か会っている」
四人の視線が、鋭くなる。
「そこで確認した」
「彼は、敵ではない」
「共に歩める存在だと、私は判断している」
「……すなわち?」
宰相が、低く促す。
国王は、ゆっくりと四人を見渡した。
「ここに集まった者は」
「私の腹心だ」
「私利私欲なく、この国の行く末を案じている者たちだ」
だからこそ――
「皆にだけ、打ち明ける」
「冷静に、聞いてほしい」
そして。
「商人ヴァルスの正体は――」
一瞬の静寂。
「魔王ヴァルディス・レグナールだ」
「――!」
空気が、凍りついた。
――沈黙。
国王の言葉が、応接室の空気を完全に凍りつかせていた。
最初に動いたのは、
王国軍総司令官ローデリヒ・シュタインハルトだった。
彼は、椅子の肘掛けに置いていた手に、わずかに力を込める。
「……なるほど」
声は低く、抑えられている。
「それで、あの道、この物流、この施設か」
「魔王が裏にいるなら、説明はつく」
一拍。
「だが――」
「最悪の場合、我々は、王都の心臓部に“敵”を招き入れていることになる」
軍人らしい、即座のリスク評価。
だが、剣に手を伸ばすことはなかった。
「確認したいのは一つだけだ、陛下」
「――彼は、今この瞬間、我々に牙を剥くつもりはないのか?」
国王は、即答した。
「ない」
ローデリヒは、短く息を吐く。
「……了解した」
「ならば、今は“敵”ではない」
「少なくとも、刃を向ける理由はない」
それが、彼なりの受容だった。
次に、ゆっくりと眼鏡を外したのは、
財務卿マルクス・ヴェルナーだった。
彼は、しばし机の上を見つめてから、ぽつりと呟く。
「……魔王、か」
そして、顔を上げる。
「正直に言おう」
「驚きはしたが……恐怖はない」
三人の視線が集まる。
「むしろ、腑に落ちた」
「これほど巨大な事業を、短期間で、しかも破綻なく回す」
「人間の商人一人にできる芸当ではない」
淡々と、しかし確信を込めて。
「もし彼が魔王であるなら」
「我が国は、“史上最大の投資先”を得たことになる」
一瞬の沈黙。
「もちろん、管理と監視は必要だ」
「だが、拒絶する理由は――数字の上では、存在しない」
それが、財務卿の結論だった。
宮廷医長/王立学府総監エドガー・ルーメンは、
しばらく言葉を失っていた。
だが、次の瞬間。
彼の目が、研究者特有の光を帯びる。
「……魔王が」
「“医療”という概念を持ち込んだ、と?」
誰にともなく問いかけるように。
「治癒魔法に頼らず」
「清潔と水と食事で病を防ぐ」
「しかも、それを制度として……?」
小さく、震える息。
「これは……」
「戦争よりも、革命です」
はっきりと、断言した。
「もしこれが事実であれば」
「人の寿命が延び、人口が増え、学問が進み」
「世界の在り方そのものが変わる」
エドガーは、国王を見据える。
「陛下」
「この事実は、軽々しく扱ってはなりません」
「――これは、“人類史”の話です」
最後まで沈黙を守っていたのは、
宰相アルベルト・フォン=ライゼンだった。
彼は、全員の反応を見届けてから、ようやく口を開く。
「……魔王、か」
感情の揺れは、ほとんどない。
「陛下が、この事実を」
「この四人にのみ明かした理由は、理解しました」
そして、静かに言う。
「恐怖で剣を抜く者」
「利で飛びつく者」
「理念に酔う者」
――そのいずれでも、国は滅びる。
彼は、深く一礼した。
「私は、賛成でも反対でもありません」
「ただ一つ、提言を」
国王が頷く。
「この事実は」
「この場限りのものとすべきです」
はっきりと。
「墓まで持っていく覚悟がなければ」
「この事実を、扱う資格はない」
重い沈黙。
国王は、静かに言った。
「――その覚悟がある者だけを、ここに呼んだ」
四人は、同時にうなずいた。
「この件を、これ以上、公にするつもりはない」
それは、迷いのない断言だった。
だが、国王は一拍置き、続ける。
「ただし――」
空気が、張りつめる。
「もしも」
「どうしても、魔王の名を世に出さねばならぬ時が訪れたなら」
四人を、順に見渡して。
「その時は、王ではなく、この国のために――」
「その決断を、共に背負ってほしい」
誰も、すぐには口を開かなかった。
だが、次の瞬間。
四人は、静かに、しかし確かにうなずいた。
言葉はない。
それで、十分だった。
この日、
王と四人の腹心は、
剣でも、金でも、命令でもない――
覚悟による盟約を、交わしたのだった。
アウレリア国王は、密かに四人の腹心を呼び出した。
理由は、ただ一言。
「見せたいものがある」
それは、命令ではなく、要請だった。
呼ばれたのは――
宰相
アルベルト・フォン=ライゼン
財務卿
マルクス・ヴェルナー
王国軍総司令官
ローデリヒ・シュタインハルト
宮廷医長/王立学府総監
エドガー・ルーメン
いずれも、国王が絶対の信頼を置く人物たちである。
◇
一行は、平服に身を包み、
人目を避けるようにして王都ルクシオンの一角へ向かった。
案内されたのは、
貴族街からわずかに外れた、静かな通りに建つ一軒の屋敷。
外見は、いたって普通。
だが――
門をくぐった瞬間、
空気が、わずかに違うことに誰もが気づいた。
整然としている。
それは、貴族の屋敷とも、軍の施設とも違う静けさだった。
「……ここは?」
王国軍総司令官ローデリヒが、眉をひそめる。
「聞かぬ名だな」
それに応えたのは、
宮廷医長エドガーだった。
「ここは、最近設立された施設ですな」
「名を――『アウレリア医療院』と申します」
「医療院?」
「ええ。なんでも、治癒魔法に頼らず、病を治す場所だとか」
一同の視線が、国王に集まる。
国王は、静かにうなずいた。
「そのとおりだ」
「ここからは――」
「我が娘、エリシアに案内させよう」
◇
屋敷の中庭に進むと、
そこに、白衣に身を包んだ一人の少女が立っていた。
「アルベルト卿、マルクス卿、ローデリヒ卿、エドガー卿」
澄んだ声で名を呼ぶ。
「……おお、姫君」
エリシア・フォン・アウレリア。
魔王のもとから“救い出された”王女。
その記憶は、四人の脳裏にも新しい。
その彼女が、
このような場所で彼らを迎えている――
それ自体が、すでに異例だった。
「この施設について、ぜひ知っていただきたいのです」
「案内しながら、説明しますね」
◇
一行は、エリシアの先導で施設内を歩く。
まず、目に入ったのは――
整然と並ぶベッド。
そこには、貴族ではない民間人が横たわっていた。
農民、職人、行商人――
その間を、
白い衣を着た女性たちが、忙しなく行き来している。
「病気や怪我をしたとき、通常は治癒魔法で治療しますよね」
歩きながら、エリシアが語る。
「でも、それを受けられるのは、ごく一部の人だけです」
「治癒魔法を使えるのは、長い修行を積んだ僧侶や神官、魔法使いだけですから」
四人は黙って聞いている。
「それでは、多くの人を救えません」
「だから、ここは――治癒魔法を使わずに、病気を治す場所なのです」
施設は、驚くほど清潔だった。
床には埃一つなく、
空気も澱んでいない。
「病気を治すために大切なのは」
「清潔な場所、きれいな水、そして十分な食事です」
エリシアは、はっきりと言い切った。
「それだけを整えるだけで」
「この医療院では、すでに多くの命が救われています」
「……なるほど」
エドガー・ルーメンが、低く唸る。
「経験的に、そうではないかとは思っていましたが」
「ここまで徹底し、体系として実行しているとは……」
財務卿マルクスが、すぐに別の角度から口を開く。
「もしそれが事実なら」
「病気治療にかかる多額の費用が、大きく削減できるな」
◇
一行は、水場の前で足を止めた。
女性スタッフ――
エリシアが「看護師」と呼ぶ者たちが、
手を洗っている。
白い塊を手に取り、
こすり合わせると、白い泡が立つ。
「石鹸です」
「洗濯に使われるものなので、ご存じの方も多いでしょう」
「これで、手や体の汚れを落とします」
「それだけで、多くの病気を防げるのです」
誰も、すぐには言葉を発せなかった。
◇
巡回を終え、
一同は応接室へ通された。
「……実に、珍しいものを見せていただきました」
エドガーが、率直に言う。
「これが本当であれば」
「確かに、病で命を落とす民は、減るでしょう」
「すなわち」
宰相アルベルトが、短く結論を出す。
「国力の増強につながる」
そして、鋭く問いを投げた。
「だが――」
「この医療院に、我々を案内した理由は?」
その瞬間、
エリシアの瞳が、強く光った。
「はい」
「この施設を作ったのは」
「商人のヴァルスという人物です」
「……あの男か」
ローデリヒが低く呟く。
「ゼオグリフの英雄とも呼ばれていたな」
「眠りの森に道を通した男だ」
マルクスも続ける。
「学校も作っていたはずだ」
エドガーが頷く。
「その通りです」
エリシアは、まっすぐ四人を見据えた。
「彼は、アウレリアのために力を尽くしています」
「それが、自身と王国が共に発展する道だと、信じているのです」
「エリシア王女」
宰相が、慎重に言葉を選ぶ。
「功績は理解している」
「だが……その言い方」
「少々、含みがあるように聞こえる」
「つまり?」
◇
その先は――
国王が引き取った。
「実は、私は商人ヴァルスと」
「内密に、何度か会っている」
四人の視線が、鋭くなる。
「そこで確認した」
「彼は、敵ではない」
「共に歩める存在だと、私は判断している」
「……すなわち?」
宰相が、低く促す。
国王は、ゆっくりと四人を見渡した。
「ここに集まった者は」
「私の腹心だ」
「私利私欲なく、この国の行く末を案じている者たちだ」
だからこそ――
「皆にだけ、打ち明ける」
「冷静に、聞いてほしい」
そして。
「商人ヴァルスの正体は――」
一瞬の静寂。
「魔王ヴァルディス・レグナールだ」
「――!」
空気が、凍りついた。
――沈黙。
国王の言葉が、応接室の空気を完全に凍りつかせていた。
最初に動いたのは、
王国軍総司令官ローデリヒ・シュタインハルトだった。
彼は、椅子の肘掛けに置いていた手に、わずかに力を込める。
「……なるほど」
声は低く、抑えられている。
「それで、あの道、この物流、この施設か」
「魔王が裏にいるなら、説明はつく」
一拍。
「だが――」
「最悪の場合、我々は、王都の心臓部に“敵”を招き入れていることになる」
軍人らしい、即座のリスク評価。
だが、剣に手を伸ばすことはなかった。
「確認したいのは一つだけだ、陛下」
「――彼は、今この瞬間、我々に牙を剥くつもりはないのか?」
国王は、即答した。
「ない」
ローデリヒは、短く息を吐く。
「……了解した」
「ならば、今は“敵”ではない」
「少なくとも、刃を向ける理由はない」
それが、彼なりの受容だった。
次に、ゆっくりと眼鏡を外したのは、
財務卿マルクス・ヴェルナーだった。
彼は、しばし机の上を見つめてから、ぽつりと呟く。
「……魔王、か」
そして、顔を上げる。
「正直に言おう」
「驚きはしたが……恐怖はない」
三人の視線が集まる。
「むしろ、腑に落ちた」
「これほど巨大な事業を、短期間で、しかも破綻なく回す」
「人間の商人一人にできる芸当ではない」
淡々と、しかし確信を込めて。
「もし彼が魔王であるなら」
「我が国は、“史上最大の投資先”を得たことになる」
一瞬の沈黙。
「もちろん、管理と監視は必要だ」
「だが、拒絶する理由は――数字の上では、存在しない」
それが、財務卿の結論だった。
宮廷医長/王立学府総監エドガー・ルーメンは、
しばらく言葉を失っていた。
だが、次の瞬間。
彼の目が、研究者特有の光を帯びる。
「……魔王が」
「“医療”という概念を持ち込んだ、と?」
誰にともなく問いかけるように。
「治癒魔法に頼らず」
「清潔と水と食事で病を防ぐ」
「しかも、それを制度として……?」
小さく、震える息。
「これは……」
「戦争よりも、革命です」
はっきりと、断言した。
「もしこれが事実であれば」
「人の寿命が延び、人口が増え、学問が進み」
「世界の在り方そのものが変わる」
エドガーは、国王を見据える。
「陛下」
「この事実は、軽々しく扱ってはなりません」
「――これは、“人類史”の話です」
最後まで沈黙を守っていたのは、
宰相アルベルト・フォン=ライゼンだった。
彼は、全員の反応を見届けてから、ようやく口を開く。
「……魔王、か」
感情の揺れは、ほとんどない。
「陛下が、この事実を」
「この四人にのみ明かした理由は、理解しました」
そして、静かに言う。
「恐怖で剣を抜く者」
「利で飛びつく者」
「理念に酔う者」
――そのいずれでも、国は滅びる。
彼は、深く一礼した。
「私は、賛成でも反対でもありません」
「ただ一つ、提言を」
国王が頷く。
「この事実は」
「この場限りのものとすべきです」
はっきりと。
「墓まで持っていく覚悟がなければ」
「この事実を、扱う資格はない」
重い沈黙。
国王は、静かに言った。
「――その覚悟がある者だけを、ここに呼んだ」
四人は、同時にうなずいた。
「この件を、これ以上、公にするつもりはない」
それは、迷いのない断言だった。
だが、国王は一拍置き、続ける。
「ただし――」
空気が、張りつめる。
「もしも」
「どうしても、魔王の名を世に出さねばならぬ時が訪れたなら」
四人を、順に見渡して。
「その時は、王ではなく、この国のために――」
「その決断を、共に背負ってほしい」
誰も、すぐには口を開かなかった。
だが、次の瞬間。
四人は、静かに、しかし確かにうなずいた。
言葉はない。
それで、十分だった。
この日、
王と四人の腹心は、
剣でも、金でも、命令でもない――
覚悟による盟約を、交わしたのだった。
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