悪役令嬢の私が姫に転生した件  ――それはいいのですが、なぜ魔王城に幽閉から始まるのですか?

しばたろう

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32_医療革命3

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 アウレリア医療院が開院して、しばらくが経った。

 最初の慌ただしさは落ち着き、
 患者の受け入れも、看護の流れも、
 ようやく「日常」と呼べるものになりつつあった。

 ……もっとも。

 成り行きで、とは言いつつ、
 私とセリス、そしてカエデは、
 相変わらず医療院に通い、働き続けていた。

 やめる理由が、なかったのだ。

 忙しい。
 体力も使う。
 決して楽ではない。

 けれど――
 回復して帰っていく患者の背中を見るたび、
 胸の奥が、静かに満たされていくのも事実だった。

(……これは、やりがい、というものね)



 特に、セリスの適応力は目を見張るものがあった。

 看護の手際。
 スタッフへの指示。
 当番の調整や、物資の管理。

 気がつけば、
 看護師たちの間で、こんな呼び名が定着していた。

「セリス看護師長」

 ――誰が言い出したのかは分からない。

 だが、
 誰も異を唱えなかった。

 本当に、
 器用というか、参謀根性がたくましいというか、
 魔王の側近は伊達ではない、と改めて思わされた。
 
  ……それにしても。

 ふと、別のことが気になった。

(セリスって、
 クラウスのこと、完全に放置してない?)

 最近、医療院に顔を出すのは、
 ほとんど私とカエデとセリスばかりだ。
 肝心の勇者様の姿は、あまり見かけない。

 一人、さみしがってはいないのだろうか。

 そう思って、素直に尋ねてみた。

「ねえ、セリス。
 クラウスのことだけど……」

 すると、彼女は何でもないことのように答えた。

「クラウスですか?」
「ええ。最近は、グラドと馬が合うみたいで」
「二人で稽古しているか」
「森に狩りに出かけるか」
「どちらかですね」

 にこり、と涼しい笑顔。

「とても、楽しそうですよ?」

 ……まあ。

 本人が楽しそうなら、いいのだが。



 ある日。

 アウレリア商業学院の生徒たちが、
 団体で医療院を訪れた。

 引率は――
 もちろん、レオンである。

「社会見学も、重要な学習ですから」

 もっともらしい理由を述べてはいたが。

(……本当に、それだけかしら?)

 ちらり、と横を見る。

 白衣姿のカエデに気づいた瞬間の、
 あの――

 でれっ、とした顔。

(説得力、ゼロなんですけど)

「そ、そんなことはありません!」

 本人は即座に否定していたが、
 視線は正直だった。

 公私混同。
 職権乱用。
 疑惑は、深まるばかりである。



 そんな日常の中で。

 アウレリア医療院は、
 思いがけない訪問者を迎えることになった。

 宮廷医長/王立学府総監。
 エドガー・ルーメン。

 数名の部下を伴い、
 正式な訪問として、医療院を訪れたのだ。

 応対に出たのは、私だった。

「エドガー卿。
 本日は、どういったご用件で?」

 彼は、軽く一礼すると、
 真剣な表情で口を開いた。

「エリシア王女。
 実は――この医療院に感銘を受けましてな」

 そこから語られたのは、
 あの見学以降、彼が考え続けていた構想だった。

「基本は、この医療院の理念のまま」
「清潔、水、食事、静養」

「そこに――」
「最低限の治癒魔法を、必要な場面でだけ加える」
「あるいは、薬草学を組み合わせ、症状に応じた処置を行う」

 彼の声には、
 抑えきれない知的興奮がにじんでいた。

「そうすれば」
「より効率的に、より安全に」
「患者の回復を早められる可能性がある」

 一呼吸置いて。

「そこで本日は」
「治癒魔法を扱える神官」
「薬学に精通した魔法使いを連れてまいりました」

 そして、真っ直ぐこちらを見る。

「彼らを、この医療院に迎え入れ」
「検証と研究を、共に進めることはできませんか?」
「――よりよい医療の発展のために」

 ……なるほど。

 あの一度の見学で、
 ここまで考えを進めてきたとは。

 医学への探究心。
 そして、国を憂う責任感。

 父が彼を重用する理由が、よく分かる。

 私は、迷わず答えた。

「エドガー卿」
「そのご見識に、心から感服いたします」

「ぜひ」
「一緒に、やりましょう」



 こうして。

 アウレリア医療院は、
 単なる静養の場から一歩進み――

 治癒魔法、薬学、看護を組み合わせた、
 総合的な医療施設へと、
 静かに、生まれ変わり始めた。

 それは、
 誰かが声高に宣言した革命ではない。

 けれど確かに、
 この国の「医療」という概念が、
 次の段階へ進んだ瞬間だった。

 私は、その始まりの場に、
 立ち会っているのだと――
 胸の奥で、静かに実感していた。
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