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32_医療革命3
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アウレリア医療院が開院して、しばらくが経った。
最初の慌ただしさは落ち着き、
患者の受け入れも、看護の流れも、
ようやく「日常」と呼べるものになりつつあった。
……もっとも。
成り行きで、とは言いつつ、
私とセリス、そしてカエデは、
相変わらず医療院に通い、働き続けていた。
やめる理由が、なかったのだ。
忙しい。
体力も使う。
決して楽ではない。
けれど――
回復して帰っていく患者の背中を見るたび、
胸の奥が、静かに満たされていくのも事実だった。
(……これは、やりがい、というものね)
◇
特に、セリスの適応力は目を見張るものがあった。
看護の手際。
スタッフへの指示。
当番の調整や、物資の管理。
気がつけば、
看護師たちの間で、こんな呼び名が定着していた。
「セリス看護師長」
――誰が言い出したのかは分からない。
だが、
誰も異を唱えなかった。
本当に、
器用というか、参謀根性がたくましいというか、
魔王の側近は伊達ではない、と改めて思わされた。
……それにしても。
ふと、別のことが気になった。
(セリスって、
クラウスのこと、完全に放置してない?)
最近、医療院に顔を出すのは、
ほとんど私とカエデとセリスばかりだ。
肝心の勇者様の姿は、あまり見かけない。
一人、さみしがってはいないのだろうか。
そう思って、素直に尋ねてみた。
「ねえ、セリス。
クラウスのことだけど……」
すると、彼女は何でもないことのように答えた。
「クラウスですか?」
「ええ。最近は、グラドと馬が合うみたいで」
「二人で稽古しているか」
「森に狩りに出かけるか」
「どちらかですね」
にこり、と涼しい笑顔。
「とても、楽しそうですよ?」
……まあ。
本人が楽しそうなら、いいのだが。
◇
ある日。
アウレリア商業学院の生徒たちが、
団体で医療院を訪れた。
引率は――
もちろん、レオンである。
「社会見学も、重要な学習ですから」
もっともらしい理由を述べてはいたが。
(……本当に、それだけかしら?)
ちらり、と横を見る。
白衣姿のカエデに気づいた瞬間の、
あの――
でれっ、とした顔。
(説得力、ゼロなんですけど)
「そ、そんなことはありません!」
本人は即座に否定していたが、
視線は正直だった。
公私混同。
職権乱用。
疑惑は、深まるばかりである。
◇
そんな日常の中で。
アウレリア医療院は、
思いがけない訪問者を迎えることになった。
宮廷医長/王立学府総監。
エドガー・ルーメン。
数名の部下を伴い、
正式な訪問として、医療院を訪れたのだ。
応対に出たのは、私だった。
「エドガー卿。
本日は、どういったご用件で?」
彼は、軽く一礼すると、
真剣な表情で口を開いた。
「エリシア王女。
実は――この医療院に感銘を受けましてな」
そこから語られたのは、
あの見学以降、彼が考え続けていた構想だった。
「基本は、この医療院の理念のまま」
「清潔、水、食事、静養」
「そこに――」
「最低限の治癒魔法を、必要な場面でだけ加える」
「あるいは、薬草学を組み合わせ、症状に応じた処置を行う」
彼の声には、
抑えきれない知的興奮がにじんでいた。
「そうすれば」
「より効率的に、より安全に」
「患者の回復を早められる可能性がある」
一呼吸置いて。
「そこで本日は」
「治癒魔法を扱える神官」
「薬学に精通した魔法使いを連れてまいりました」
そして、真っ直ぐこちらを見る。
「彼らを、この医療院に迎え入れ」
「検証と研究を、共に進めることはできませんか?」
「――よりよい医療の発展のために」
……なるほど。
あの一度の見学で、
ここまで考えを進めてきたとは。
医学への探究心。
そして、国を憂う責任感。
父が彼を重用する理由が、よく分かる。
私は、迷わず答えた。
「エドガー卿」
「そのご見識に、心から感服いたします」
「ぜひ」
「一緒に、やりましょう」
◇
こうして。
アウレリア医療院は、
単なる静養の場から一歩進み――
治癒魔法、薬学、看護を組み合わせた、
総合的な医療施設へと、
静かに、生まれ変わり始めた。
それは、
誰かが声高に宣言した革命ではない。
けれど確かに、
この国の「医療」という概念が、
次の段階へ進んだ瞬間だった。
私は、その始まりの場に、
立ち会っているのだと――
胸の奥で、静かに実感していた。
最初の慌ただしさは落ち着き、
患者の受け入れも、看護の流れも、
ようやく「日常」と呼べるものになりつつあった。
……もっとも。
成り行きで、とは言いつつ、
私とセリス、そしてカエデは、
相変わらず医療院に通い、働き続けていた。
やめる理由が、なかったのだ。
忙しい。
体力も使う。
決して楽ではない。
けれど――
回復して帰っていく患者の背中を見るたび、
胸の奥が、静かに満たされていくのも事実だった。
(……これは、やりがい、というものね)
◇
特に、セリスの適応力は目を見張るものがあった。
看護の手際。
スタッフへの指示。
当番の調整や、物資の管理。
気がつけば、
看護師たちの間で、こんな呼び名が定着していた。
「セリス看護師長」
――誰が言い出したのかは分からない。
だが、
誰も異を唱えなかった。
本当に、
器用というか、参謀根性がたくましいというか、
魔王の側近は伊達ではない、と改めて思わされた。
……それにしても。
ふと、別のことが気になった。
(セリスって、
クラウスのこと、完全に放置してない?)
最近、医療院に顔を出すのは、
ほとんど私とカエデとセリスばかりだ。
肝心の勇者様の姿は、あまり見かけない。
一人、さみしがってはいないのだろうか。
そう思って、素直に尋ねてみた。
「ねえ、セリス。
クラウスのことだけど……」
すると、彼女は何でもないことのように答えた。
「クラウスですか?」
「ええ。最近は、グラドと馬が合うみたいで」
「二人で稽古しているか」
「森に狩りに出かけるか」
「どちらかですね」
にこり、と涼しい笑顔。
「とても、楽しそうですよ?」
……まあ。
本人が楽しそうなら、いいのだが。
◇
ある日。
アウレリア商業学院の生徒たちが、
団体で医療院を訪れた。
引率は――
もちろん、レオンである。
「社会見学も、重要な学習ですから」
もっともらしい理由を述べてはいたが。
(……本当に、それだけかしら?)
ちらり、と横を見る。
白衣姿のカエデに気づいた瞬間の、
あの――
でれっ、とした顔。
(説得力、ゼロなんですけど)
「そ、そんなことはありません!」
本人は即座に否定していたが、
視線は正直だった。
公私混同。
職権乱用。
疑惑は、深まるばかりである。
◇
そんな日常の中で。
アウレリア医療院は、
思いがけない訪問者を迎えることになった。
宮廷医長/王立学府総監。
エドガー・ルーメン。
数名の部下を伴い、
正式な訪問として、医療院を訪れたのだ。
応対に出たのは、私だった。
「エドガー卿。
本日は、どういったご用件で?」
彼は、軽く一礼すると、
真剣な表情で口を開いた。
「エリシア王女。
実は――この医療院に感銘を受けましてな」
そこから語られたのは、
あの見学以降、彼が考え続けていた構想だった。
「基本は、この医療院の理念のまま」
「清潔、水、食事、静養」
「そこに――」
「最低限の治癒魔法を、必要な場面でだけ加える」
「あるいは、薬草学を組み合わせ、症状に応じた処置を行う」
彼の声には、
抑えきれない知的興奮がにじんでいた。
「そうすれば」
「より効率的に、より安全に」
「患者の回復を早められる可能性がある」
一呼吸置いて。
「そこで本日は」
「治癒魔法を扱える神官」
「薬学に精通した魔法使いを連れてまいりました」
そして、真っ直ぐこちらを見る。
「彼らを、この医療院に迎え入れ」
「検証と研究を、共に進めることはできませんか?」
「――よりよい医療の発展のために」
……なるほど。
あの一度の見学で、
ここまで考えを進めてきたとは。
医学への探究心。
そして、国を憂う責任感。
父が彼を重用する理由が、よく分かる。
私は、迷わず答えた。
「エドガー卿」
「そのご見識に、心から感服いたします」
「ぜひ」
「一緒に、やりましょう」
◇
こうして。
アウレリア医療院は、
単なる静養の場から一歩進み――
治癒魔法、薬学、看護を組み合わせた、
総合的な医療施設へと、
静かに、生まれ変わり始めた。
それは、
誰かが声高に宣言した革命ではない。
けれど確かに、
この国の「医療」という概念が、
次の段階へ進んだ瞬間だった。
私は、その始まりの場に、
立ち会っているのだと――
胸の奥で、静かに実感していた。
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