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5巻

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   第三章 贈りものの習慣に気付かされました。


 サイラス魔術具店から引き揚げてきたリサたちは、カフェのテーブル席で一息ついていた。

「びっくりした~! まさかあのガントさんが倒れるなんて!」

 炎天下の中、医師を呼びに行ったアランが、汗を拭きつつ呟いた。

「でも、大事おおごとにならなくて本当に良かったわね」

 リサたちから事情を聞いたオリヴィアが、ほっとした様子で微笑む。留守番をしていたオリヴィアは、直接現場を見ることが出来なかった分、かなり心配していたようだ。

「それにしてもリサさん、よく対処法を知ってましたね」

 ヘレナが感心した表情でリサに言う。

「ああ、私が元いた世界はここよりもっと暑かったって話したでしょ? ガントさんと同じようになる人が毎年必ずいたから、応急処置の知識があったんだ。ガントさんがかかったのは、たぶん熱中症か日射病だと思う。基本的には体に熱がこもって、水分が不足するとなりやすいの」

 リサがそう言うと、ヘレナが納得したように頷いた。

「だから体を冷やしたり、水分を取らせたりしたんですね」
「でも、なんで水に砂糖と塩を溶かしたんですか?」

 ジークがリサに問う。

「暑い時に体の水分が不足するってことは、つまり汗として出ちゃうからなんだよね。汗って舐めるとしょっぱいでしょ? 汗には水分だけじゃなく、塩分も含まれてるの。だから塩を入れるんだよ。それに砂糖を入れると、水分や塩分が吸収されやすくなるんだって」
「なるほど」

 ジークだけでなく、他のメンバーも一様に首肯しゅこうした。

「食事や水分をしっかり取れば予防できるはずなんだけど、アンジェリカがガントさんは食欲がなくて朝ご飯も食べてないって言ってたから、それが原因じゃないかな?」

 医学に関しては素人しろうとだが、リサはガントの症状を自分なりに分析した。
 リサの話を聞いたヘレナは、何かに気付いたようにハッとする。

「つまり、誰でもガントさんみたいになり得るってことですよね!?」

 ヘレナの指摘に、他のメンバーも顔色を変え、リサに視線を向けた。

「そうだね。ガントさんのように健康で体力のある人でもなるんだから、体力のない子供やお年寄りはなおさら注意が必要だと思う。とにかくこの暑さが続く限りは無理せず、水分と塩分をこまめに補給することが大事なんじゃないかな」
「うちのヴェルノも少し食欲がないから、気を付けないと」

 オリヴィアが心配そうに呟いた。
 ヴェルノは、オリヴィアの七歳になる息子だ。救護院という国立の施設の中にある保育所に通っている。

「子供はよく汗をかくから、のどかわいてなくても頻繁ひんぱんに水分補給させておいた方がいいかもね」

 リサのアドバイスに、オリヴィアは真剣な表情で応える。

「ええ、救護院の先生にもお願いしておくわ」
「それがいいね」

 そこで、二人の話を聞いていたヘレナが口を開いた。

「あの、食欲のない時でも食べやすくて、その熱中症とかいうやつの予防になる食べ物ってないですかね? 私も最近食欲がないので心配です!」

 ヘレナは切実に訴えた。いつも元気がありあまっているガントが倒れている姿を見たせいだろう。その目には不安の色が浮かんでいる。

「うーん……」
「かき氷とかはどうですか? 体も冷えますし!」 

 アランがそう言ってリサの方をうかがった。
 しかし、これに答えたのはジークだった。

「確かに体は冷えるが、かき氷には塩分が含まれていないだろう? それに食べすぎると腹を壊すぞ」
「そっすよね~」

 ジークの言葉を聞いて、アランは少し肩を落とす。

「ゼリーはどうかしら? 夏場はクリーム系のケーキよりも人気があるし」

 オリヴィアの言葉にヘレナが賛同する。

柑橘かんきつ類のゼリーが特に人気ですよね。食欲がない時でも食べやすい気がします」

 すると、ジークも頷いた。

「それは一理あるな」

 メンバーが意見を交わすのを聞きながら、リサは考える。
 ――フルーツのゼリーかぁ。お中元の定番だねぇ……
 元の世界では、お盆に帰省すると実家の仏壇の前にお中元の箱が並んでいた。
 その中に必ずと言っていいほど、透明なプラスチックの容器に入ったフルーツのゼリーがあったものだ。
 そこでリサは、あることを思いついた。

「そっか! お中元!!」

 いきなり大声を出したリサを、メンバーは驚いた顔で見る。

「どうしたんだ? 急に……」

 職場ではいつも敬語で話しているジークが、それを忘れて普通に話しかけてきた。

「良さそうなものを思いついたの!」

 目を輝かせて言うリサに、一同がおお、と声を上げる。

「さっそく作ってみよう!」

 リサの声を合図に、カフェ・おむすびのメンバーは動き出した。


 まずリサがしたのは、いつも食材を仕入れているアシュリー商会へ連絡することだった。
 アシュリー商会は、フェリフォミア王国一の大商社である。
 代表のアレクシスがリサの養母・アナスタシアの兄であるため、リサはカフェ・おむすびの立ち上げ時から何かとお世話になっていた。

「暑い中、届けてもらってすみません」

 リサは、氷がたっぷり入ったアイスティーをテーブル席に置きながら言った。

「いえいえ、この暑さのせいで暇してましたから」

 そう言って微笑んだのは、アシュリー商会の職員で、カフェ・おむすびを担当しているシーゲルだ。
 外はかなり暑かったらしく、シーゲルはひたいに浮かんでいた汗をハンカチで拭くと、出されたアイスティーをぐいっとあおった。

「は~、生き返りました~」

 あっという間に空になったグラスを見て、リサはすぐさまアイスティーをそそぐ。
 それを一口だけ飲んでから、シーゲルは言った。

「とりあえず、商会にある豆は全種類持ってきました」
「ありがとうございます」
「今日はそれほど量がありませんので、もっと大量に必要であればまたご連絡ください」
「わかりました。その時はよろしくお願いしますね」

 リサはシーゲルにゆっくりとすずんでいくように勧めて、自身はとあるスイーツの試作のため厨房ちゅうぼうへ向かった。


「で、この大量の豆で何を作るんですか?」

 アランが数種類の豆を前にして、リサに問いかけた。

「作ろうと思っているのは、水ようかんっていうお菓子だよ」

 リサが答えると、同じく厨房にいたジークがぎょっとして目を見開いた。

「豆でお菓子を作るんですか!?」

 リサはキョトンとしてから、ああ、と納得する。
 フェリフォミア王国には、豆を使ったお菓子がない。そのため、豆と言えば食事系のメニューに使うものという考えが浸透しているのだ。
 それを考えれば、ジークが驚くのも無理はなかった。

「まだ豆を使うお菓子は作ったことがなかったもんね」

 リサはそう言いながら苦笑する。
 そもそも、この世界でお菓子というものを初めて作ったのはリサだ。これまで作ったのはほとんど洋菓子で、和菓子を作ったことはあまりない。
 リサ自身、洋菓子の方が作り慣れているためと、和菓子より洋菓子の方がこの世界になじみそうだと考えたためである。
 この世界に来てから、豆を使う和菓子はまだ一度も作ったことがないが、これを機に和菓子を広めることが出来るかもしれないとリサは考えた。

「豆を使うお菓子かぁ~、想像もつかないっすね~」

 アランが袋の中から豆を一粒つまみ上げ、しげしげと眺める。
 リサは小さく笑うと、胸の前でパンッと両手を打ち鳴らした。

「とにかく、作ってみよう!」

 そうしてリサ、ジーク、アランの三人は水ようかんの試作に取り掛かった。


「まずはどの豆が水ようかんに向いてるか、試してみないとね」

 シーゲルが持って来たのは、色も大きさもバラバラな数種類の豆だ。
 元の世界では水ようかんは小豆あずきで作るが、こちらの世界には小豆がない。だから似た豆を探すことから始めなければならなかった。
 三人で手分けして、いたんでいる豆やゴミを取り除き、残った豆を綺麗に洗う。
 そして鍋に入れ、豆がたっぷりとかるくらいの水をそそいで火にかけた。

「どのくらいでるんですか?」

 アランの問いに、リサは少し考えてから答える。

「ある程度柔らかくなるまでかな? 粒の大きさがそれぞれ違うから、こまめに様子を見ながらね」
「了解っす!」

 アランが元気よく返事をした。
 強火でぐつぐつと茹でれば、鍋の中で豆がおどる。
 時折、お玉で豆をすくって茹で加減を確認しながらの作業だ。
 豆が充分に水気を吸い、ふっくらしてきたら、一度ザルに上げて水気を切る。
 そして豆だけを鍋に戻し、新たな水を加えて再び火にかけるのだ。
 この作業を、もう一度繰り返す必要がある。

「何で水を換えるんですか?」

 リサの作業を見ていたジークが疑問を口にした。

「最初の水には豆の渋みが溶け出すから、手間だけど一度捨てた方がおいしくなるんだって」
「なるほど」

 ジークは納得した様子で頷いた。
 水を二度取り換えた鍋は、沸騰ふっとうしたらすぐ弱火にする。ここからはでるというより、炊いていくといったイメージだ。
 浮かんでくる灰汁あくを取りつつ、鍋の水分が少なくなりすぎないように気を配りながら煮続ける。
 すると、アランの前にある鍋に変化が現れたようだ。

「あれ? お湯の色が変わってきました」

 彼はコトコトと煮える鍋を覗いたまま、リサに報告する。

「それは順調に茹で上がってる証拠だよ。もうすぐ豆に芯が残らないくらい柔らかくなるはずだから、様子見ててね」
「はい!」

 アランは鍋から目を離さず、声だけでリサに返事をした。

「リサさん、これからの工程はどういった感じなんですか?」

 ジークも自分の担当している鍋を見ながら、リサに話しかけた。

「柔らかくなるまで煮えたら、それぞれの豆を半分に分けて、『つぶあん』と『こしあん』っていう二種類の餡子あんこを作るの」
「『つぶあん』と『こしあん』……?」

 初めて聞く言葉に、アランが首を傾げる。ジークも不思議そうな表情を浮かべていた。
 そんな二人の顔を見て、リサはクスリと笑う。

「茹でた豆に砂糖を加えてペースト状にしたものを、『餡子』って言うんだ。『つぶあん』と『こしあん』は餡子の種類だよ。『つぶあん』は皮が残っているもので、『こしあん』は皮を取り除いて口当たりをよくしたものなの」

 リサの説明を聞いてなんとなく想像できたのか、二人はふむふむと頷いた。

「水ようかんには、その両方を使うんですか?」

 ジークの問いを受け、リサは首を横に振る。

「水ようかんに使うのは、こしあんの方。だけど途中までの工程は一緒だから、ついでにつぶあんも作っちゃおうと思って」
「つぶあんの方は、何か使うあてがあるんですか?」

 アランが疑問を口にする。

「餡子は色々と使えるんだよ! パンにのせてもいいし、パイの中に入れてもタルトにしてもおいしいの! あと今の季節なら、かき氷のトッピングにもぴったりだね!!」

 夏場ならなんと言っても、冷たい氷の上にみぞれシロップと餡子をかけた金時きんときかき氷だ。
 アイスクリームにフルーツと一緒に盛り付けて、クリームあんみつのようにしてもおいしいだろう。
 和菓子のイメージが強い餡子あんこだが、洋菓子に使ってもとてもおいしい。
 こんがり焼き色がついたトーストにバターとたっぷりの餡子をのせた、小倉トースト。ふっくらとしたパンの中に、どっしりと餡子が詰まったあんぱん……
 リサが次から次へと頭に浮かぶメニューを口にすると、他の二人は「おおー」と感心するような声を上げた。


 そんな雑談をしながらも、三人は作業の手を止めない。
 豆は着々と柔らかくなっていき、やがて小粒なものは火から下ろせるまでになった。
 三人は豆をザルに上げ、煮汁もボウルにとっておく。
 そしてザルに移した豆を半量ずつに分けた。

「ここから、餡作りの重要な工程に入るよ」

 リサが言うと、ジークとアランは彼女のところに集まった。
 まずはつぶあん作りだ。
 で上がった豆を鍋に入れ、その豆がひたひたにかるくらいの煮汁をそそぐ。
 煮汁の底には溶け出した餡が溜まっているので、しっかりと撹拌かくはんしてから加えるのがポイントだ。
 そこに砂糖とほんの少量の塩を加えて、火にかける。
 そして砂糖と塩がしっかりと溶けるまで、木べらで混ぜていく。この時、木べらを鍋の内側にこすりつけて豆を潰すのだ。
 ある程度水分が飛ぶまで煮詰めなければならないので、焦げないようにかき混ぜていてほしいとジークにお願いし、リサはこしあん作りに移った。
 こしあんという名の通り、豆を裏ごししていく。目の細かいザルに豆を少量ずつのせ、すりこ木で潰していくのだ。
 すると豆の皮から中身が押し出され、ザルの下にあるボウルの中に溜まっていった。
 丹念に裏ごししたら、ボウルの中身を清潔な布巾ふきんに移し、絞って水気を切る。
 そして布巾の中身を鍋にあけ、そこに砂糖と塩を加えて火にかけた。

「あとはどちらも水分が飛んで、粘り気とつやが出てきたら完成かな。ただ、時間が経つほど焦げやすくなるから最後まで注意してね」

 リサがこしあんの鍋をかき混ぜる横で、ジークはつぶあんの鍋をかき混ぜ、アランはまだ煮えていない豆の鍋の様子を見ている。
 そのように手分けして進め、やがて餡子あんこ作りを終えた。
 出来上がった数種類の餡子の中で、水ようかんに使えそうなものは四種類。
 薄黄色の豆から出来た、濃い黄色の餡子。
 グリンピースのような豆から出来た、薄緑色の餡子。
 白い豆から出来た、白色の餡子。
 そして紫色がかった豆から出来た、ピンク色の餡子だ。
 他にも三種類ほどの豆を試したが、皮が厚すぎてうまく裏ごしできなかったり、時間をかけて煮ても柔らかくならなかったりしたので、餡子には不向きだろうと判断した。
 水ようかんを作る前に、まずは出来上がった餡子を試食することにした。
 そのまま食べてもいいが、リサは餡子をのせて食べてもらおうと、トーストしたパンを用意する。
 そして今朝と同じように、カフェのメンバー全員が店のテーブル席に集まった。

「これが餡子っていうものですかぁ~」

 ヘレナがうつわに盛られた餡子をしげしげと眺める。

「これはクリームの仲間なのかしら?」

 オリヴィアも興味深げに眺めていた。

「何かに塗ったりかけたりして食べることが多いから、オリヴィアの言うようにクリームと似てるかもね」

 リサは頷きながら言う。そしてメンバーに試食を促した。

「それじゃあ、食べてみて」

 それぞれトーストにのせた餡子を口に運んでいく。

「おお、口当たりが面白いっすね! こしあんはモンブランに使うクリームに似てる気がします」
「確かにそうだな」

 アランの感想に、ジークが同調する。

「ある意味モンブランのクリームも、餡子あんこの一種と言えるかもね。こしてペースト状にするのも同じだし」

 リサは二人の意見に補足した。

「つぶあんの方は、独特の食感があって面白いですね」
「そうね。この食感があるのとないので、味もだいぶ違うように感じるわ」

 ヘレナとオリヴィアは、つぶあんとこしあんの食べ比べをしている。
 一方、リサは豆の種類による味の違いを確かめていた。
 黄色い餡子は、濃厚で甘みが強い。薄緑色の餡子はさっぱりとしていて、ずんだに近い味だ。
 白い餡子は、あっさりとした味わい。そして、ピンク色の餡子は小豆あずきで作った餡子に味が最も近く、リサにとって一番なじみ深いものだった。
 リサが豆の味を比べているのを見て、他のメンバーも食べ比べを始める。
 毎回試食の際は張り切って参加している精霊のバジルも、リサの分を少し分けてもらって食べていた。

「豆をお菓子に使うって聞いた時、どんなものか想像できませんでした。けど、これは使い道が多そうですね!」

 アランが嬉しそうに言う。
 豆で作るお菓子と聞いて、彼とジークが驚いた顔をしていたのを思い出し、リサは笑みを浮かべる。

「餡子に向かない豆も多かったけど、こうして使えそうなものが見つかってほっとしたよ。これで水ようかんも出来そうだね」
「水ようかんを作るには、まだまだ手間がかかるんですか?」

 餡作りにも、かなりの時間がかかった。
 そのせいか、ジークが不安げな表情でリサの顔をうかがった。

「そんなにかからないよ。ゼリーの作り方とほとんど一緒だから。今日仕込んでおけば、明日には試食できると思う」

 リサがそう言うと、メンバーは顔を明るくした。
 そこには新しいスイーツが食べられるという期待感がにじんでいる。

「明日が楽しみです~♪」

 お菓子には目がないバジルも、ウキウキとご機嫌だ。
 やがて餡子の試食を終え、メンバーは再び作業に戻った。


「さっきも言った通り、あとの作業はそれほど大変じゃないからパパッとやってしまおう!」

 厨房ちゅうぼうに戻ったリサたち三人は、本題の水ようかん作りに入った。
 本来ならば水ようかんは寒天で作るのだが、リサはこちらの世界で同じような食材にまだ出会えていない。
 寒天はテングサなどの海藻から出来ているので、似た性質を持つ海藻がどこかにあるかもしれない。だが、見た目ではわからないため、探すのが難しかった。
 そこで、今回はゼリー作りに使っているグリッツというもので水ようかんを作ることにした。
 グリッツは木の実の果汁であり、ゼラチンとよく似た性質を持っているのだ。
 リサは鍋に水とグリッツを入れ、火にかけた。
 グリッツが溶けたら、そこに砂糖と塩を加える。
 本当ならば砂糖のみ加えるのだが、水ようかんを作る目的の一つは熱中症予防であるため、少量の塩を加えることにした。
 それに、少量の塩は甘みを引き立ててくれる。
 砂糖と塩が完全に溶けたら、こしあんを加えて混ぜていく。こしあんは少しずつ加えて濃さを調節し、とろみのある液状にする。
 最後に、その液をプリン作りに使っているカップ型の容器に流し入れ、冷蔵庫に入れた。
 冷やすと徐々に固まるので、明日には食べられるだろう。

餡子あんこさえ作っておけば、簡単に作れますね」

 冷蔵庫の扉を閉めながら、ジークが言った。

「うん。餡子は冷凍保存も出来るから、休業日に作っておけばいいしね」

 そう答えたリサには、もう一つやらなければならないことがあった。
 それはガントへの差し入れ作りだ。
 すでに日が傾きかけている。午前中に倒れたガントは、順調に回復していれば夕食は食べられるはずである。
 また、ガントの看病をしているアンジェリカも食事を作る時間などないだろうから、彼女の分も用意しようと考えていた。
 ジークとアランに明日の準備を任せ、リサは差し入れ作りに専念することにした。
 作ろうと思っているのは、うどんである。
 暑くても食べられるよう、野菜をたっぷり入れたサラダうどんにするつもりだ。
 まずはうどんの麺を作る。
 小麦粉に、塩を溶かした水を加えて混ぜていく。ある程度生地がまとまったら、打ちをした台に移してねるのだ。
 べたつきがなくなり、生地につやが出てきたら、耳たぶくらいの柔らかさになるように調節していく。
 硬さを調整し終えたら、生地を丸めてボウルに入れ、濡れ布巾ぶきんを被せて十五分ほど休ませる。
 その間に、つゆと具材を作っておく。
 つゆは醤油、砂糖、香味油こうみあぶら、それに柑橘かんきつ類の果汁を合わせて作る。
 分離しないようによく混ぜたら、塩で味を調節する。
 それが終われば、次はトッピングの具材作りだ。
 鶏胸肉をで、水で締めてから、手でいていく。
 ミズサイという大根によく似た野菜はおろし金ですりおろし、軽く水気を切った。
 ミズウリというキュウリに似た野菜は千切りにする。
 マローというトマトに似た野菜は大き目のさいの目切りにし、ハーブは適度な大きさに千切っておく。
 さらに、スィズという梅に似た果実の塩漬けを取り出す。そして種を抜き、包丁でペースト状になるまで叩いておいた。
 その頃になると、寝かせておいたうどんの生地も良い頃合いになっていた。
 打ちをした台に生地を置き、めん棒で薄く伸ばしていく。
 四角になるように伸ばしたら、折りたたんで細く切っていく。切り終わった生地はほぐして、打ち粉をまぶしておいた。
 鍋にたっぷりと沸かしたお湯に、うどんの麺をほぐしながら入れ、固まらないようさっとかき混ぜる。
 麺が浮いてくるまで茹でたら、硬さを確認してザルに上げた。
 冷水につけて粗熱あらねつを取り、ぬめりを優しく洗い流していく。
 麺がしっかり締まったら、水気を切って終了だ。
 深さのあるお皿にうどんを盛り付け、その上にミズウリ、マロー、ハーブを散らしていく。中央にはすりおろしたミズサイと、ペースト状にしたスィズをのせた。
 たれは食前にかけられるよう小鉢に移し、うどんのお皿と共にトレーに載せる。
 リサはジークとアランに一声かけてから、トレーを持って厨房ちゅうぼうを出た。


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