あなたの隣にいるために

める

文字の大きさ
10 / 11

9、君の笑顔のためにできること

しおりを挟む
 それから、どれくらい経っていたのだろうか。
 歩悠先輩に抱きしめられたまま泣いてしまって本当に申し訳なさすぎる。
 別れるときくらいいい恋人でいたかったのに。

「落ち着いた…かな?」

 もう、恥ずかしくて顔も上げられないまま質問に頷いて返す。

「あのね、茉衣。少しだけ俺の話を聞いていてほしいんだけどいい?」
「話、ですか?…………分かりました」

 たっぷり悩んでしまった私にいら立つこともせず私の返事にいつもみたいな優しい声で「ありがとう」と言ってくれた。
 話を聞くのが怖いけど、向き合ってくれようとする歩悠先輩から目をそらすのはもうやめようと思った。

「俺は君が何にでも頑張っているところが好きだったんだよ。嘘をつかないような裏表のないとこも。いつだって楽
しそうに笑ってるのに、たまにすごく頼りになるような笑顔を見せてくれるとこも好き。……なのに、忘れてた。そういうの全部。自分の想いが届くかどうかばっかり気にしてて、君が先輩だからって変な気を使って告白に頷くような子じゃないってこととか、最近笑ってるところ見てないなとか。気づいてあげられてなかった。ごめん、茉衣。それと、おれはまだ君が好き」
「……え?…え?…え?」

 深々と頭を下げられているだけでもびっくりするのに、なぜだかめちゃくちゃ褒められているような気がする。
 それに、好きだと言われた。
 告白の時以外にも、恋人になってから何度か言われた言葉だったけど今とても得罰に聞こえる。
 真剣な瞳から目が離せない。
 もう、何番目とかは思えなかった。

「茉衣の気持ちが知りたい。今度はもっとちゃんと聞くから」
「私は……私は好きです。ちゃんと先輩のことが好きで付き合いました。最初はいつも誰よりも働いている先輩の力
になりたいって思ってただけだったのにいつからかすごく好きになってて。でも、勝手に歩悠先輩は羽美先輩のことが好きなんだと思ってたんです。本当にただの勘違いで私こそ先輩の告白まっすぐに受けられてなくて、ごめんなさい。本当は告白されたときに好きな人は?って聞けばよかったのに……。」

 自分の好きな気持ちを疑われることのつらさに気が付いたからもう疑おうとは思えなかった。
 私の謝罪にも先輩は大きく目を見開いた。
 どうやら私たちは随分と勘違いを重ねていたみたいだ。

「俺は茉衣の笑顔が好きだ。俺のせいでそれがなくなるなんて耐えられない。だから、別れようと決めた。だけど、その、茉衣さえ良ければなんだけど、もう一度やり直してくれませんか?」

 不安そうな顔をさせて少しだけ上ずった声を出す先輩は初めて見る。
 大事なことを全部先輩に言わせてしまっていることに申し訳なさを感じながらも、初めて見る表情を好きだと思えた。
 あの日、告白された時も初めて見る先輩だったのを思い出す。
 好きだ。
 会うたびに、話をするたびに、新しいこの人を見るたびに好きだと再確認させられているみたいに思う。

「わっ私のほうこそ、よろしくお願いします!」
 感極まりすぎて出だしで噛んでしまった。
 でも、先輩はうれしそうに目を細めて「ありがとう」と笑ってくれる。
 はじめは先輩の隣なんて望んでなかった。
 先輩が飽きたらそれでいいって本気で思っていたはずなのに。
 気が付いたら、好きすぎて先輩の気持ちも自分の気持ちも忘れて、先輩の隣にいることに、一番でいることにこんなにも執着していた。

「茉衣、今日は寮まで送るよ」

 差し出された手に目を見開く。
 これは、もしかして……?

「ありがとうございます。……その、繋いでもいいってことですか?」
 そっと差し出された手に自分の手を重ねてみる。
 ちゃんと、言葉を添えて。
 思ってるだけじゃダメだってわかったから。
 どうやら正解だったみたいで、小さく「うん」という言葉が返ってきた。




        Fin
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

私の旦那様はつまらない男

おきょう
恋愛
私の旦那様であるロバート伯爵は、無口で無愛想な仕事バカ。 家庭を返り見ず仕事に精を出すのみのつまらない男である。 それでも私は伯爵家の妻として今日も面倒な社交の場に出なければならないのだ。 伯爵家の名を落とさないために。あぁ面倒くさい。 ※他サイトで投稿したものの改稿版になります。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

処理中です...