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9、君の笑顔のためにできること
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それから、どれくらい経っていたのだろうか。
歩悠先輩に抱きしめられたまま泣いてしまって本当に申し訳なさすぎる。
別れるときくらいいい恋人でいたかったのに。
「落ち着いた…かな?」
もう、恥ずかしくて顔も上げられないまま質問に頷いて返す。
「あのね、茉衣。少しだけ俺の話を聞いていてほしいんだけどいい?」
「話、ですか?…………分かりました」
たっぷり悩んでしまった私にいら立つこともせず私の返事にいつもみたいな優しい声で「ありがとう」と言ってくれた。
話を聞くのが怖いけど、向き合ってくれようとする歩悠先輩から目をそらすのはもうやめようと思った。
「俺は君が何にでも頑張っているところが好きだったんだよ。嘘をつかないような裏表のないとこも。いつだって楽
しそうに笑ってるのに、たまにすごく頼りになるような笑顔を見せてくれるとこも好き。……なのに、忘れてた。そういうの全部。自分の想いが届くかどうかばっかり気にしてて、君が先輩だからって変な気を使って告白に頷くような子じゃないってこととか、最近笑ってるところ見てないなとか。気づいてあげられてなかった。ごめん、茉衣。それと、おれはまだ君が好き」
「……え?…え?…え?」
深々と頭を下げられているだけでもびっくりするのに、なぜだかめちゃくちゃ褒められているような気がする。
それに、好きだと言われた。
告白の時以外にも、恋人になってから何度か言われた言葉だったけど今とても得罰に聞こえる。
真剣な瞳から目が離せない。
もう、何番目とかは思えなかった。
「茉衣の気持ちが知りたい。今度はもっとちゃんと聞くから」
「私は……私は好きです。ちゃんと先輩のことが好きで付き合いました。最初はいつも誰よりも働いている先輩の力
になりたいって思ってただけだったのにいつからかすごく好きになってて。でも、勝手に歩悠先輩は羽美先輩のことが好きなんだと思ってたんです。本当にただの勘違いで私こそ先輩の告白まっすぐに受けられてなくて、ごめんなさい。本当は告白されたときに好きな人は?って聞けばよかったのに……。」
自分の好きな気持ちを疑われることのつらさに気が付いたからもう疑おうとは思えなかった。
私の謝罪にも先輩は大きく目を見開いた。
どうやら私たちは随分と勘違いを重ねていたみたいだ。
「俺は茉衣の笑顔が好きだ。俺のせいでそれがなくなるなんて耐えられない。だから、別れようと決めた。だけど、その、茉衣さえ良ければなんだけど、もう一度やり直してくれませんか?」
不安そうな顔をさせて少しだけ上ずった声を出す先輩は初めて見る。
大事なことを全部先輩に言わせてしまっていることに申し訳なさを感じながらも、初めて見る表情を好きだと思えた。
あの日、告白された時も初めて見る先輩だったのを思い出す。
好きだ。
会うたびに、話をするたびに、新しいこの人を見るたびに好きだと再確認させられているみたいに思う。
「わっ私のほうこそ、よろしくお願いします!」
感極まりすぎて出だしで噛んでしまった。
でも、先輩はうれしそうに目を細めて「ありがとう」と笑ってくれる。
はじめは先輩の隣なんて望んでなかった。
先輩が飽きたらそれでいいって本気で思っていたはずなのに。
気が付いたら、好きすぎて先輩の気持ちも自分の気持ちも忘れて、先輩の隣にいることに、一番でいることにこんなにも執着していた。
「茉衣、今日は寮まで送るよ」
差し出された手に目を見開く。
これは、もしかして……?
「ありがとうございます。……その、繋いでもいいってことですか?」
そっと差し出された手に自分の手を重ねてみる。
ちゃんと、言葉を添えて。
思ってるだけじゃダメだってわかったから。
どうやら正解だったみたいで、小さく「うん」という言葉が返ってきた。
Fin
歩悠先輩に抱きしめられたまま泣いてしまって本当に申し訳なさすぎる。
別れるときくらいいい恋人でいたかったのに。
「落ち着いた…かな?」
もう、恥ずかしくて顔も上げられないまま質問に頷いて返す。
「あのね、茉衣。少しだけ俺の話を聞いていてほしいんだけどいい?」
「話、ですか?…………分かりました」
たっぷり悩んでしまった私にいら立つこともせず私の返事にいつもみたいな優しい声で「ありがとう」と言ってくれた。
話を聞くのが怖いけど、向き合ってくれようとする歩悠先輩から目をそらすのはもうやめようと思った。
「俺は君が何にでも頑張っているところが好きだったんだよ。嘘をつかないような裏表のないとこも。いつだって楽
しそうに笑ってるのに、たまにすごく頼りになるような笑顔を見せてくれるとこも好き。……なのに、忘れてた。そういうの全部。自分の想いが届くかどうかばっかり気にしてて、君が先輩だからって変な気を使って告白に頷くような子じゃないってこととか、最近笑ってるところ見てないなとか。気づいてあげられてなかった。ごめん、茉衣。それと、おれはまだ君が好き」
「……え?…え?…え?」
深々と頭を下げられているだけでもびっくりするのに、なぜだかめちゃくちゃ褒められているような気がする。
それに、好きだと言われた。
告白の時以外にも、恋人になってから何度か言われた言葉だったけど今とても得罰に聞こえる。
真剣な瞳から目が離せない。
もう、何番目とかは思えなかった。
「茉衣の気持ちが知りたい。今度はもっとちゃんと聞くから」
「私は……私は好きです。ちゃんと先輩のことが好きで付き合いました。最初はいつも誰よりも働いている先輩の力
になりたいって思ってただけだったのにいつからかすごく好きになってて。でも、勝手に歩悠先輩は羽美先輩のことが好きなんだと思ってたんです。本当にただの勘違いで私こそ先輩の告白まっすぐに受けられてなくて、ごめんなさい。本当は告白されたときに好きな人は?って聞けばよかったのに……。」
自分の好きな気持ちを疑われることのつらさに気が付いたからもう疑おうとは思えなかった。
私の謝罪にも先輩は大きく目を見開いた。
どうやら私たちは随分と勘違いを重ねていたみたいだ。
「俺は茉衣の笑顔が好きだ。俺のせいでそれがなくなるなんて耐えられない。だから、別れようと決めた。だけど、その、茉衣さえ良ければなんだけど、もう一度やり直してくれませんか?」
不安そうな顔をさせて少しだけ上ずった声を出す先輩は初めて見る。
大事なことを全部先輩に言わせてしまっていることに申し訳なさを感じながらも、初めて見る表情を好きだと思えた。
あの日、告白された時も初めて見る先輩だったのを思い出す。
好きだ。
会うたびに、話をするたびに、新しいこの人を見るたびに好きだと再確認させられているみたいに思う。
「わっ私のほうこそ、よろしくお願いします!」
感極まりすぎて出だしで噛んでしまった。
でも、先輩はうれしそうに目を細めて「ありがとう」と笑ってくれる。
はじめは先輩の隣なんて望んでなかった。
先輩が飽きたらそれでいいって本気で思っていたはずなのに。
気が付いたら、好きすぎて先輩の気持ちも自分の気持ちも忘れて、先輩の隣にいることに、一番でいることにこんなにも執着していた。
「茉衣、今日は寮まで送るよ」
差し出された手に目を見開く。
これは、もしかして……?
「ありがとうございます。……その、繋いでもいいってことですか?」
そっと差し出された手に自分の手を重ねてみる。
ちゃんと、言葉を添えて。
思ってるだけじゃダメだってわかったから。
どうやら正解だったみたいで、小さく「うん」という言葉が返ってきた。
Fin
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