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12.仲間が誘拐されました
01.クリスとサティが誘拐されました。(その1)
しおりを挟む榊のところに国王からの使者だと名乗る者が現れた。
国王の使者と名乗る者は、唐突に言い放った。
「王命でる。頭を垂れて聞くが良い。」
「あんた、誰?」
「国王の勅使である。国王の代理である。頭を垂れよ。」
「なぜ、あんたの命令を聞かにゃならんのだ。」
「国王の勅使であと言ったであろう。聞こえぬのか。」
「こういう時はさあ、日光の土産物屋で売っている"葵の御門の入った印籠"でも出して"頭が高い"くらい言ってよ。ちっともおもしろくないよ。」
「お前は、何を言っているのだ。」
「あんたこそ、俺に何を聞いて欲しいんだ。」
国王の使者は、半分頭に来たが、半分悲しくなった。
目の前にる冒険者は"バカ"なのではないかと。
今まで国政に関わり、他国へ使者として何度も赴き生死をかけた駆け引きを行ってきた自分が、こんな"バカ"を相手にしなければならないのかと馬鹿らしくなってしまったのだ。
「はーあ、まあよい。"バーラ"の城塞都市を守った冒険者よ。お主に国王が直々に勅命を下された。」
「感謝して拝命するように。」
国王の使者は、やる気を無くしたが使命があるのでそれなりの対応で勅令を読み上げた。
「つまりあれか、王命だから無料で"バーラ"の城塞都市を守れと言っているのか。」
国王の使者とか言っていたが、王命と言えば誰でも従うと思っているのか。
あまりのバカな命令に呆れてしまい、つい口悪く言い返してしまった。
「お前は"バカ"か。子供に店番を頼んだら少しでも"お駄賃"は出すぞ。」
「それを大人に向かって"金はやらねえ。ただで働け"ってか。」
「王命だかなんだか知らねえが、こちとら江戸っ子でい。"けつ洗って"出なおしてきな。」
「おい、塩持ってこい。」
俺は、国王の使者に塩を撒いて家から追い出した。
「国王の使者に対してこんな無礼な態度を取ってただで済むと思うなよ。」
榊が取った横着武人な態度に我慢ができなかった国王の使者は、捨て台詞を言い放った。
では、こちらも売り言葉に買い言葉だ。
「よかろう。魔族軍23万を葬った戦力に勝てると言うならいつでも挑んでくれて構わん。」
「なんならあんたが国王に変わって直々に俺の相手をしてくれ。それが手っ取り早くていいな。」
足を一歩前へ踏み出した途端、国王の使者は血相を変えて俺の家を後にした。
「主様。よろしいのですか。あのような物の言い方では、面倒事を好き好んで招き入れているようなものです。」
クリスは、面倒事にあえて首を突っ込もうとしている榊に一応の注意を促した。
「そうです。面倒事を招き入れたんです。"わざと"。」
「おそらく、今夜あたり我が家に賊が押し入り、うちのチームの誰かを誘拐するだろう。」
「そして俺が進んで"バーラ"なり"王都"なりへ行くように仕向けるだろうね。」
クリスは、いつもの冷めた表情だが、どこか子供の様な笑みが混じっていた。
「主様は、分かってやっているんですね。」
「そう。俺ならそうする。言うことを聞かない相手を脅すにはそれが一番だから。」
「でもね、今回は、あえてそれに乗っかるよ。俺のチームの誰かが誘拐されたら一緒に誘拐されて欲しいんだ。クリス様。」
クリスの顔をじっと見つめる。クリスの両手を握りしめる。クリスを抱きしめる。
クリスの唇に俺の唇を重ねあわせる。
まだダメか。
ええい、最後の手段だ。
クリスの胸を弄り、クリスの秘部へ手を伸ばしたところで、俺の手を止めにかかった。
「分かりました。主様からの頼まれごとです。お断りしません。」
「つまり黙って誘拐された振りをする。ただし、相手が手を出してきたら殺っても構わないとうことでよろしいですね。」
クリスは、榊の言わんとしていることを反芻した。
クリスは物分かりがよくて助かる。
そう、あえて敵の策に乗り、そのまま敵を撃つことにしたのだ。
今回の敵は"国王"。
バーラの城塞都市の防衛戦といい、国内の内乱寸前の状態といい、無策のダメ国王に嫌気が差したので、少し憂さ晴らしを交えて王国を引っ掻き回してやるのが目的だ。
この前、中間派のリーガル伯爵を助けてた時に、"悪だくみ"についてリーガル伯爵を朝まで語り合ったのだ。
もう火が付いてしまったのだ。
"先手"は国王だ。
だが闘いは必ず"先手"が有利とは限らない。
見ていろ国王。がんばれ国王。俺の好敵手になってくれ国王。直ぐに倒れたら許さないぞ国王。
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