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純粋どくだみ茶

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15.決裂した話合の先に

03.平和の代償。(その2)

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我々、反国王派は、平原の中央で"現国王派"に囲まれたのだ。

「ははは。まさか、反国王派の中でも国王嫌いで有名なベンデ伯が寝返るなど。」

プラドミント子爵は、この状況をいまだに楽観視していた。

「考えてみよ。魔族軍によって王都の王族も国王派の諸侯もこの世ものではないのだぞ。」

「国王嫌いのベンデ伯が、国王亡き後、反国王派にいる必要がなくなったのだ。」

「ベンデ伯は、この戦いに勝てば大臣の席が約束されているのであろう。」

マルタゴン伯爵は、その答えが導き出されるまで、かなりの時間を要してしまった。
なぜ、その簡単な答えが直ぐに出せなかったのか。
なぜ、平原の入り口に少数でも軍勢を残して退路を確保しなかったのか。
全てが遅かった。
全てが失敗に終わった。
このままでは、平原の両側から攻め込まれて終わる。

ならば、数で劣る3万の軍勢へ総攻撃を行い、王都まで雪崩込むしかあるまい。
反国王派の総司令官であるマルタゴン伯爵は、そう判断した。
反国王派の全軍に総攻撃の命令を下した。
総勢5万の軍勢が進軍を開始した。



「ベンデ伯殿、これでよろしかったのですか。マルタゴン伯とご一緒に国王の座を奪うのが悲願だと思っておりましたが。」

ベンデ伯爵と共に、現国王派に寝返ったファリダ子爵が何度目かの同じ確認を行った。

「ああ。これでよいのだ。王国内で最強と言われる騎士隊を配下に従えても、あの"バーラ"の城塞都市を魔族軍から守った冒険者達からしてみれば、わしの騎士隊など子供の遊びだ。わしは、勝てぬ戦などしない主義だ。」

「マルタゴン伯は、状況を見誤ったのだ。それが分からぬとは。」

ベンデ伯爵は、平原の中央で現国王派の軍勢へ向けて進軍するマルタゴン伯爵らを悲しげな顔で見送るだけだった。



「榊殿、敬なら伯爵のみを撃つこともできるのではないか。そうすれば、5万もの兵の命を塵に帰すことなく穏便に済ませることもできよう。」

俺の横でリーガル伯爵がこの闘いの意義を確認してきた。

「…できます。この場だけを収めるには、そちらの方が簡単です。」

「ただしです。この闘いは、サッラ平原の入り口に陣取っているベンデ伯爵らの5万の軍勢に向けたものです。」

「我々に剣を向けることがどれだけ無謀で危険な事なのか胸に刻み込ませるために5万の命を犠牲にするのです。」

「この闘いを見れば、我々に二度と剣を向けることはないでしょう。」

「それでこのセイランド王国は、戦争のない平和な国になります。」

俺はこの闘いで王国内に残る火種を一掃できると思っている。
どこかに小さな火種は残っても構わない。大火事にさえならなければいいのだ。

「榊殿、待ってくれぬか。マルタゴン伯をいまいちど説得に行く。」

オーレリアン伯爵様は、そう言うと馬を走らせ敵陣へと一人走り去った。


「オーレリアン伯とマルタゴン伯は、旧知の仲でな。このような闘いで死なせたくはないのだろう。」

リーガル伯爵様は、走り去るオーレリアン伯の背中を見て悲しげにつぶやいた。



「マルタゴン伯。わしじゃ、オーレリアン伯じゃ。いまいちど話合わんか。」

敵陣の手間でオーレリアン伯爵が、マルタゴン伯爵へ大声で最後の説得を試みた。

「今ならまだ闘いをやめることができる。今更、国を二分した闘いなど無意味じゃ。剣を鞘に納めてくれんか。」

敵陣から馬にまたがったマルタゴン伯爵がやってきて、オーレリアン伯爵の手間で止まった。

「久しいのオーレリアン伯。まさか我らが敵同士になると夢にも思わなかった。」

「わしは、この戦いに勝ってこの国を治めると決めたのだ。オーレリアン伯こそわが陣営に来てはくれぬか。そうなればベンデ伯もこちらに来るであろう。この戦いはそれで決着が付く。それで全て解決だ。」

「どこの馬の骨とも分からん冒険者を頼って国政を掌握するなど、敬の考える事の方が世には理解できぬ。」

マルタゴン伯爵の言う事はいちいち最もなのだ。オーレリアン伯爵もそれは分かっている。
だが、死んでは意味がないのだ。死んだ者は王にはなれないのだ。

「そうか、やはり無理か。ならば、最後にひとつだけ言わせてほしい。」

「あの世でまた酒を酌み交わそう。」

「ああ。どっちが先にあの世に行こうが必ず待っていようぞ。」

2頭の馬は、双方の陣営に向かって走りだした。二度と会うことない旧友の最後の別れだった。



平原を王都へ向け進軍する反国王派の軍勢5万。
銀色に輝く全身プレートに身を包んだ騎士が軍勢の前方で隊列を組む。
その後ろに大盾を持った部隊、長槍を持った部隊、さらにその後ろには弓部隊が続いた。

現国王派の軍勢の手前で反国王派の軍勢が静止した。
騎士隊の前へ弓隊が移動し隊列を組み始めた。
弓部隊が弓に矢をあてがい弦を引いた。

突然、空が曇りだした。
遠くの空の黒い雲の中で雷撃が光だした。
さっきまで晴れて雲ひとつない空だった。
やがて平原の上空にも黒い雲が覆い、黒い雲の中では雷撃が休みなく撃ち鳴らされていた。
やがて雨が降り始めた。
雨はどんどん強くなっていった。
雨が強くなればなるほど闘いに不利になる。

反国王派は、弓部隊を後方に移動させた。
この大雨では視界が悪すぎて騎士隊を前進させることも困難になった。
先ほどまで弓隊がいた位置に今度は盾隊と長槍隊を配置した。
攻撃をあきらめ雨が止むまでは防御に徹することにしたのだ。

雨で視界が悪い。
殆ど前が見えない。地面もぬかるみ歩くこともままならない。
さらに雨で体温が下がり、兵の体力が徐々に削られていった。
敵が前進してこないか注意深く雨で霞む草原の先を見つめる兵達。

兵士の目の前を一瞬、何かが通りすぎた。
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