誰にでもできる簡単なお仕事です。

純粋どくだみ茶

文字の大きさ
159 / 169
18.火龍の神殿

39.王様への贈り物。

しおりを挟む
エルネス王国の国境にレディの土魔法で巨大な城壁と要塞を築城した。
それを視察した国王が度肝を抜かれてしまった。

何もしないと怖くて夜も眠れないというので、王は、要塞の築城のお礼に何を贈るればよいかを大臣達に決めるように丸投げした。

本来、神殿への贈答品選びに大臣が集まって会議を開くなど、異例中の異例なのだが、相手の心を害すると国が亡ぶと言われて、大臣達は、国政を決める時以上に真剣になっていたのだ。なんとも滑稽な話だ。

「神殿に送ると言ってもな、いったい何を送ればよいのだ。」

「ベティ殿は、女性なのだから装飾品などはどうだ。貴族の女性達もあれは喜ぶぞ。」

「いやいや、ベティ殿は、冒険者をやっているくらいだから装飾品はいかがなものかと。しかもベティ殿は、魔族国の軍勢に立ち向かう程の手練れだ。そんな者が装飾品なそ喜ぶと思うか。」

「ちなみに、お主は、この国が魔族国と戦争になったらどうする。」

「逃げるに決まっておる。この国の兵士の数では、全く相手にならぬからな。」

「ん。話がそれたな、女性が好みそうな装飾品はなしだな。」

大臣達は、考えて込んでしまった。

ある大臣がふと顔を上げ、冒険者という話を思い出して話を切り出した。

「ベティ殿は、冒険者だったな。なら、武具などはどうだろう。」

「まっ、待たれよ。それはだめだ。諜報部で調べたところ、ベティ殿が所有している武具に槍があるらしいのだが、それは"覇者の槍"といって持ち主が念ずると、12本の槍が空を舞って敵に突き刺さる"神器"なのだそうだ。どこに敵がいようが、あらゆる方向から念じた槍が飛んできて敵に突き刺さるらしい。」

「なんと。わが国にあれば、他国の脅威など気にならなくなりますな。」

「しかし、"神器"とは、神から送られた武具の事だと記憶しているが。」

「ああ、ベティ殿は、その"神器"で火龍神殿と水神様の神殿に押し入った"龍殺しの一族"を葬ったそうだ。」

「諜報部の話では、もしその武具が市場に出回ったら金貨1万枚でも買う者はいるとの話だ。」

「金貨1万枚!だめだ!そんな武具に匹敵するような代物は用意できん。」

大臣達は、また考えて込んでしまった。

他の大臣が腕を組んで思案を繰り返している時だった、ある大臣が思い出したように言った。

「セイランド王国の晩餐会で見たあの花瓶はどうだろう。あれはかなりの名品と聞いたが。」

「おお。あれか、あの青白い淡い光りを放つ花瓶か、あれは良い物だ。」

「じゃが、あれは材料がないとかで作っていないとも聞いたぞ。」

「あれは、国王様も欲しがっていたと思ったが。」

「では、少し品は落ちるが同じ釜で焼かれたという花文様が描かれた花瓶を特注で注文してみてはどうだろうか。いささか値は張るが先ほどの話にあった青白い淡い光りを放つ花瓶よりかは安いぞ。」

「あれなら神殿の礼拝堂に飾っても文句の言われぬ品だ。」

「それで決まりだ。」

「我が国もいくらか財政が上向きになったと言ってもまだまだだしな。国の借金が返せるのはいつになるやら。」

「愚痴を言ってもはじまらん。では、神殿にはそれを送るということで決まりだな。」



その時、大臣達が会議を行っている会議場にある品が運ばれてきた。

「これなんですが、火龍神殿から王様への贈り物だと言って送られてきまして。」

城の侍従長が部下と巨大な箱をふたつ運んできた。
その巨大な箱を開けた途端、大臣達は慌てふためいた。

「こっ、これはあの青白い淡い光りを放つ花瓶ではないか。そっ、それも我らの身長よりも大きいとはどういうことだ。」

「まさかこれが2つもあるのか。」

侍従長が部下がもうひとつの木箱を開けると、同じ巨大な花瓶が出てきた。

「とっ、とにかく王を呼んでまいれ。早くじゃ。」



王様は、侍従長から話を聞くと慌てふためいて会議場へと走って来た。
会議室には、自分の身長よりも巨大な、あの青白い淡い光りを放つ花瓶が目の前にある光景を見て信じられずにいた。

「わしは、セイランド王国の晩餐会でこの花瓶を見せられてなんとしても欲しいと思ったのだ。じゃがもう作っておらんと言っておったし、その値を聞かされて、この国の財政では無理だと悟ったのだ。」

「それがなぜここにあるのだ。しかもセイランド王国の晩餐会にあった物よりも遥かに巨大ではないか。」

王は、巨大な花瓶に頬ずりをしながらこの花瓶の送り先を大臣達に問いただした。

「その花瓶の送り主は、火龍神殿となっております。」

「まてまて、セイランド王国が所有しておる物より巨大な花瓶がなぜ火龍神殿から贈られて来るのだ。」

王が花瓶の送り主を聞いてありえぬと言いだしたのだ。
そこにあの人が現れた。走ってきたらしく息を切らせながらの登場だった。

「申訳ありません。王様、大臣方。今しがた諜報部から最新情報が届きました。」

そう、神殿の広場で榊に情報を伝えていたあの人だ。

「会議で火龍神殿に何を贈るかをお決めになっていたと伺っていましたが、まさか花瓶とか壺を送ろうなんて決まってないですよね。」

「良く分かったな。まさにセイランド王国で焼かれた花文様をあしらった花瓶を特注することに決まったのだ。」

「いけません。それだけはいけません。」

「なぜだ。なぜあの花瓶がいけないのだ。あれは良い品物だぞ。」

息を切らせながら諜報部の人は、諜報部が調べ上げた情報を話始めた。

「あの花瓶の作者は、榊殿の冒険者チームのレディという女性です。しかもその女性があの国境の要塞を土魔法で築城された方なのです。」

「…」

大臣も王様もお互いの顔を見合うだけで何も言葉が出なかった。

「もし、我々が火龍神殿にあの花瓶を送ったら、花瓶の作者に花瓶を送ったことと同じになります。それだけはおやめ下さい。」

「まて、ということはだ。この目の前にある花瓶と同じ作者が、あの要塞を築城したのか。」

「そうです。」

「…」

大臣達は、もう放心状態となっていたが、ひとりの大臣がひとこえ発した。

「神の御業だ。」

「この巨大な花瓶も、あの城塞も神の御業だ。」

「皆、すまぬが会議は最初からやり直しだ。」

大臣達は皆、ぐったりしながら会議場の席へと戻っていった。

しかし、王様だけはご満悦だった。他国の晩餐会に自慢するかのように置いてあった品だ。ひと目でほれ込んだ品だ。見るだけで手に入らないと思って夢にまで見た花瓶が目の前にあるのだ。
王様は、会議場の入り口に置かれた巨大な花瓶にいつまでも頬ずりをして楽しんでいた。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...